OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第二話 師匠と弟子

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  飛空挺に圧倒され、興奮が冷めぬまま、ロックはミドの造船所に行く事にした。
  ジンの研究所を出た玄関先に、エリスとジンは、ロックを見送りに来ていた。
 「ほんとにここで、待ってんのか?」
  ロックの問に、エリスは苦笑いした。
 「うん……だってまた、あの林を抜けるんでしょ?」
 「まぁ……それしか道がねぇからな……」
 「わたし……あの林、なんか嫌い……」
  ロックは呆れ気味に言った。
 「なにビビってんだ……」
  するとジンが言った。
 「まぁ……私は構わない……。それにその娘にも聞きたい事があるからな」
  エリスは目を丸くした。
 「聞きたい事?」
  ジンはロックに言った。
 「良いタイミングでお前たちがきれくれた……。ミドの事頼むぞ……」
  ロックは頭を掻いた。
 「まぁ、仕方ねぇか……。んじゃ、ちょっくら行ってくるわ……」
  そう言うとロックは、研究所を後にし、林の方へと向かった。
  ジンはエリスに言った。
 「少し聞きたい事がある……。今度は紅茶でも飲みながら話そうか……」
  二人は再び研究所に入っていった。
  エリスは最初に座っていた場所に再び座り、ジンの紅茶を待っていた。
  やがてジンは二人分の紅茶を手に持ち、席に着いた。
  ジンは言った。
 「君の旅の目的はなんだ?」
  聞かれると思っていたのか、エリスは特に動じることなく、これまでの経緯を説明した。
  自分の出身地クリスタルシティー、アレルガルド、ロックとの出逢い……しかし自分の力の事は、この場では伏せた。
  ジンはニヤリとした。
 「失われた国を探す旅か……中々興味深い……。ロックの飛ぶ切っ掛けは……やはり君だったか……」
  エリスはその事に関して、思い切って聞いてみた。
 「集いのマスターも言ってたけど……飛ぶ切っ掛けって何?」
  ジンは目を丸くした。
 「何だ……知らずにロックと行動していたのか?」
 「アイツが悪い奴じゃないのは、わかるけど……。会ったばかりのわたしと行動するなんて……わたしの方が聞きたいよ……」
  ジンは軽く笑った。
 「フッ……ロックの夢は『飛空挺で世界を廻ること』だ……。しかし奴はこの10年アデルを離れる事がなかった。それは何故か?……私も深くは知らないが、切っ掛けが無かったんだ」
  エリスは真剣な表情で聞いている。
  ジンは続けた。
 「そんな奴が、今こうして、君という『切っ掛け』を連れて現れた……。亡国を探して世界を飛び回る……面白いじゃないか……」
  ジンは嬉しそうな表情をした。
 「いいだろ……君達の旅に私も付き合おう。私も世界に出ねばならない」
  エリスは言った。
 「ジン博士も何か目的が?」
 「アデルによって世界はある程度安定し、それによりアデルの技術も発展したが……。世界は広い……まだ見ぬ技術や発見があると私は思う」
  ジンは拳を握りしめて、力強く言った。
 「私は世界の技術を網羅し、究極の科学者になる……。それが私の夢だ」
  エリスはジンの力説に唖然となったが、ジンの表情は真剣で、その目は夢に満ちた少年のようだった。


  ……ミドの造船所……

  ロックはジンの研究所を後にし、真っ直ぐミドの造船所に来た。
  ただ……やって来たのいいが、ミドは留守で造船所には誰もいなかった。
 「いねぇのか?……仕方ねぇ、少し待つか……」
  造船所は戸締まりがされてなかったので、ロックは中で待つことにした。
 「戸締まりもしねぇで、不用心だな。でもまぁ、すぐに帰ってくるだろ……」
  ロックはそう呟きながら、造船所の中を再度見渡した。中央には造りかけの船が置いてある……先程見た船だ。
 「骨格からして……飛ぶか飛ばないかの違い以外は……あの飛空挺と同じだな……」
  ミドの造船所にある船は、ロックが先程ジンの研究所で見た飛空挺と、同じ形をしていた。
  ロックは船を眺めながら言った。
 「課題って何なんだろな?俺からすりゃあ、この船も立派に見えっけど……。技術屋にしかわかんねぇ違いがあんのか?」
  ロックは側にあった椅子に腰を掛けて、両腕を頭の後ろで組んで、楽な姿勢をした。
  すると、造船所の入口に誰かが現れた。ミドだろうか?……ロックは入口の方を見た。
 「ですから僕に言われても困ります……」
  どうやらミドのようだが……誰かと一緒のようだ。
 「私共も困っているのですよ……ですからジン博士の弟子である貴方に、頼んでいるのです」
  ロックは自分の存在がバレないように、こっそりと覗いてみた。
  すると入口にはミドと、タキシード姿でシルクハットを被った、細身の男がいた。
 「僕の説得に動くような師匠ではありませんよ。それに師匠はお断りをしたのでしょ?」
  ミドは困り果てた様子だったが、タキシードの男は、お構いなしに言った。
 「私も良い返事を貰えるまで、会社に帰れませんので……」
  男に引く様子はない……。するとロックが、二人に割って入った。
 「ちょっと待ちなよ……ミドが困ってんだろ」
  突然のロックの登場に、ミドも男も驚いた表情をした。
  男が言った。
 「何なんですか?貴方は?」
  ロックは小指で耳をほじりながら言った。
 「俺か?俺は……こいつの……まぁ客みたいなもんだ」
  男は怪訝な表情をした。
 「客?……貴方が?」
  男はロックの身なりを見て、船を買いに来た客という事に、疑惑をもっている。
  ロックは少しムッとした表情で言った。
 「んだテメェ……俺が船を買いに来ちゃあ、いけねぇのか?」
  ロックの表情に、男は慌てた様子で言った。
 「いえっ……滅相もない……」
  ロックは手でシッシッとやった。
 「なら今日は、帰った帰った……」
  ロックの態度に、男は少し表情を険しくしたが、すぐに笑顔になり、ミドに言った。
 「わかりました……今日のところは帰ります。でも、私は諦めませんから……」
  そう言うと男は、造船所を後にした。
  男が去ると、ミドはホッとした様子でロックに言った。
 「ありがとうございます……助かりました」
 「別に良いんだけどよぉ。オメェーも嫌な事は嫌だって、ハッキリ言えよ……」
  ミドは頭を掻き、申し訳なさそうな表情をした。
 「面目無いです……。で?何故ここに?師匠に会えましたか?」
 「ああ……オメェのおかげでジンには会えたよ……」
 「そうですか……。では何故ここに?」
 「ジンにオメェの課題を手伝ってやれって、言われたんだよ……」
  ミドはキョトンとした。
 「僕の課題を……アナタが?」
  ロックは頭を掻いた。
 「やっぱ、そういう反応だよなぁ……」
 「でもどうして、アナタが僕の課題を?」
  ロックはこれまでの経緯を、ミドに話した。
  ロックから経緯を聞いたミドは、目を見開いて、首を勢いよくブンブンと横に振った。
「僕が師匠に代わってなんてっ!とんでもないっ!」
  ロックは頭を掻いた。
 「とんでもなくても、やってもらわなきゃならねぇっての……」
 「無理ですよっ!僕みたいなのに、師匠の代わりなんてっ!」
  ミドは泣きそうな表情をしている。
  ロックは呆れた様子で言った。
 「こりゃ、一筋縄じゃいかねぇな……」


  ……ジンの研究所……

  エリスは飛空挺ドッグで、ジンの最終調整を手伝っていた。
  手伝っていたといっても、エリスに大した事は出来ず、殆ど見ているだけだった。
  ジンはコンピューターに向かって、何かの作業をしている。
  するとエリスが言った。
 「ねぇジン博士……ミドさんの課題って、何?」
  ジンはコンピューターに向いたまま言った。
 「ミドの技術力は、私ほどではないが……私の代わりをするには、充分過ぎる技術力を持っている……。すぐにでも代わりが出来る程の……」
  エリスは不思議そうな表情をした。
 「じゃあ……課題なんて無くてもいいじゃん……」
  コンピューターと向き合ったままのジンは、軽く笑った。
 「フッ……ところがそう簡単な話ではないのさ……。ミドには大切なものが足りない」
 「大切なもの?」
 「そうだ……。そしてそれがないと、この飛空挺は飛ばない……」
  エリスは驚いた表情をした。
 「それじゃあロックよりも、ジン博士が行った方がよかったんじゃあ?」
 「私が行ったら課題にならないだろ?自分で課題を理解するから、課題なんだぞ……」
  エリスは難しそうな表情をした。
 「そりゃそうだけど……」
  ジンはまたもや軽く笑った。
 「フッ……心配するな……。ロックなら上手くやってくれる……」
  エリスは苦笑いした。
 「だといいけど……」


  ……18番街のとある場所……

  ミドの造船所にいたタキシードの男が、通信機を使って誰かに連絡をとっている。
 「ジン博士は我々に協力しそうではありません……」
  しばらく誰かと通信機でやり取りをして、男は目を見開いた。
 「なるほど……協力しないのなら、消せと……」
  どうやら物騒な話をしているようだ。
 「ではそちらの精鋭を送ってください……。はい……では……」
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