OVER-DRIVE

陽芹孝介

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第一話 いい加減男と不思議な女

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 ……アデル中央図書館……


  アデル1番街……アデルの住民には、中央区と呼ばれているこの1番街は、他の23地区に囲まれた地区であり、中央区と呼ばれている。
  政府の本拠地、中央塔がそびえ立っており、アデルの心臓とも言える。
  世界のまつりごとは、全てこの中央塔で行われている。
  1番街は中央塔を中心に、様々な施設があり、その内の一つがアデル中央図書館である。
  エリスに危機が迫っている事も知らずに、ロックはこの図書館にいた。
  綺麗に本が整理された棚から、ロックは歴史書を読み漁っていた。
 「やっぱねぇなぁ……アレルガルドなんて……」
  どうやらロックは、アレルガルドについて調べていたようだ。しかし、思うほどの情報は得られてないようだ。
 「無駄足か……」
  ロックは本を元に戻し、来た通路を戻った。
 (クリスタルシティーで思うような情報がなかったから、アデルに来たんだな……。でもここでもないなら、各地を回って情報を集めるしかねぇ……)
  そんな事を考えながら歩いていると、後ろから誰かが声を掛けてきた。
 「先輩じゃないっすかぁ……」
  ロックがその声に振り返ると、漆黒のスーツに身を包んだ、長身の男がそこにいた。
  ロックはその男を見て、表情をしかめた。
 「ジュノス……」
  ジュノスと呼ばれるその男は、長髪に甘いマスクで、如何にもモテそうな男だ。
  ジュノスは苦笑いした。
 「はは……そんな嫌な顔しないでくだせぇよ……。ロック先輩」
  ロックは言った。
 「こんな所で何してんだ?」
 「それはこっちのセリフでさぁ……何してんです?」
  ロックは頭を掻いた。
 「ただの調べもんだ……」
  ジュノスはうすら笑みを浮かべた。
 「ただの……ねぇ……」
 「善良な一般市民が、図書館にいちゃあいけないのか?」
 「善良なって……言えた口ですかい?」
 「お前こそこんな場所で何してんだ?アデルの軍人が来るとこじゃねぇだろ?」
 「先輩……それ、職業差別ですよ。俺は気分転換に読書に来ただけでさぁ……。したら、場違いな人間がいたんで……職質しようと思ったら、先輩だったんでさぁ」
  ロックはジュノスに毒ついた。
 「税金泥棒が……サボってんじゃねぇよ。暇なのか?」
  ジュノスは頭を掻いた。
 「暇……って言いたいところですが、蒼き暁の残党制圧や、不法錬金術師の取締やら、人不足で忙しいんですから」
 「だったらさっさと仕事に戻れ」
 「冷たいですね……。そうだ先輩、また一緒にやりましょうよ。戻ってきたらどうです?」
 「ふざけんな……俺は軍にはもどらねぇよ。それよりお前、アレルガルドって知ってか?昔あった国みたいだけど……」
  ジュノスは腕組みして少し考えた。
 「う~ん……アレルガルド……知りやせんねぇ……」
  ジュノスの反応を見て、ロックはジュノスに背を向けた。
 「知らねぇんだったらいいよ……じゃあな……」
 「先輩もう帰るんですか?」
 「用は済んだからな……あっそうだ……」
  ロックは顔だけジュノスに向けた。
 「町のゴロツキ共を何とかしてくれ……治安維持隊も、お前らの管轄だろ?ヨロシク頼むぜ」
  そう言うとロックは、再びジュノスに背を向けて去って言った。
  ジュノスは呟いた。
 「人不足だって、言ってんでしょうが……」


 ……Bar集い……

  ロックが集いに戻った頃には、すかっり日が落ち、辺りは暗くなっていた。
  店に入るとマスターはそわそわしていた。
  ロックは怪訝な表情でマスターに言った。
 「どうした?ばぁさん……落ち着きがねぇな」
 「エリスがまだ戻って来てないんだよ」
  ロックの表情は険しくなった。
  マスターは続けた。
 「買い物に出てったきり……何時間も……」
 「どっかで遊んでんじゃねぇの?」
  マスターは首を横に振った。
 「そんなわけないよっ……あの娘、財布忘れてんだから……」
 「どんだけ財布忘れんだ」
  ロックは頭を掻いた。
 「しゃあねぇ女だな……まぁ心当たりはあるけど……」
 「昨日の連中かい?」
 「多分な……。ばぁさん奴らの寝ぐらは?」
 「多分、13番街奥の雑居ビルだよ……」
  ロックはマスターに手を差し出した。
 「ばぁさん……アイツの財布よこせ。ちょっくら届けてくるわ」


  ……¥キングアジト…趣味の悪い部屋……

  エリスは¥キングの連中に捕らわれていた。
  エリスは趣味の悪い金の椅子に座らされ、部下がエリスを見張っていた。
  そのエリスの横にボスのドンが、これまた趣味の悪いソファーで、ふんぞり返っている。
  エリスはドンを睨み付けた。
 「何でわたしにこだわるの?しつこい男は嫌いよっ!」
  ドンはニヤリとして言った。
 「何でって?金になるからに決まってんだろ」
 「わたしを何処かに売り飛ばす気?」
  ドンは高笑いした。
 「ははははっ!そんな勿体ない真似はしねぇ……。お前の『あの力』を、うまく利用すりゃあ……もっと金になる」
  エリスは目を見開いた。
 「どうして……それを?」  
 「部下がたまたま見てたんだよ……お前がこの町に来た時にな……。運が悪かったな……」
  エリスは顔を下に伏せた。
  ドンは続けた。
 「それに俺の部下をやったふざけたヤローにも、礼をしなくちゃいけねぇ……。お前はヤローを誘き出すエサにもなるのさ」
  エリスは再びドンを睨み付けた。
 「アイツは関係ないっ!それにアイツは来ないよ……。昨日合ったばっかなのに……来るわけないじゃないっ!」
 「庇おうたってそうはいかねぇぜ……。お前ら仲良く歩いて行ったそうだな……」
  エリスはドンの勘違いに、再び下を向いた。
  するとエリスが下を向いた時だった。

  ドガシャーーンッ!!

  大部屋入口の襖が吹っ飛び、それと一緒にドンの部下が転がり混んできた。
  部下は鼻がへし折れて、白目を剥いている。
  その光景に室内は騒然とした。ドンは唖然とし、エリスも驚いて目を見開いた。
 「すいませぇん……財布をお届けに参りましたぁ……」
  そう言って入ってきたのは、ロックだった。ロックは小指で耳をほじりながら、気の抜けた表情をしている。
  ロックの登場に、スキンヘッドか反応した。昨日ロックにやられた者だ。
 「テッ、テメェーはっ!」
  するとドン言った。
 「テメェーか?俺の部下が世話になったみてぇだな……。ここまでどうやって入ってきた?選りすぐりの部下が見張ってたはずだが?」
  ロックは小指についた耳垢を、ふぅーと、飛ばした。
 「選りすぐり?あれが?そりゃ悪い事したなぁ……皆、通路で寝てもらってるよ」
  ドンは目を見開いた。
 「やったのか?20人はいたはずだ……」
  ロックはうすら笑みを浮かべた。
 「悪い事は言わねぇ……人材代えたほうがいい……」
  ドンはニヤリとした。
 「言ってくれるじゃねぇか……。で?何しに来た?」
 「いやぁ……そこの変な椅子に座ってる女に、店のツケを払ってもらおうとね……」
  エリスはすかさず突っ込んだ。
 「だから、何でわたしがアンタのツケを、払わなきゃならないのっ?」
  エリスの様子にロックはニヤリとした。
 「元気そうじゃねぇか……」
  するとスキンヘッドがいきり立った。
 「テメェーッ!にこやかに、クッチャベッてんじゃねぇぞっ!」
  スキンヘッドがいきり立つと、部屋の奥からゾロゾロとガラの悪い連中が現れた。手にはお約束のように、ナイフや剣、鉄パイプなどを持っている。
  するとロックは部屋に飾ってある、趣味の悪い金の掛け時計を見た。
 「そろそろかな?」
  するとその時だった……部屋の外で、ドォーーンと、轟音が響いた。そしてそれと同時に、部屋の明かりが消えた。
  轟音と部屋の暗闇で、当然ながら全員は騒然となり、パニックした。
 「何だっ?なんの音だっ!?」「真っ暗だっ」「何も見えねぇっ!」 
  すると疑問の叫びが、やがて悲鳴に代わった。
 「ぐわっ!」「ギャーッ!」「うわっ!」「ぐえっ!」など、それは様々だ。
  当然ながら、ボスのドンも混乱した。
 「何が起こってやがるっ!?明かりは?明かりはまだかっ!?」
  しばらくすると悲鳴は収まり、ビルの予備電源が起動して、部屋に明かりが戻った。
  明かりが戻った部屋の光景に、ドンは目を見開いた。
  部屋に20人程いた部下の半分が、その場で倒れていたのだ。
  部屋の入口付近にロックはいて、なんとエリスもロックの隣にいたのだ。エリスを見張っていた部下も倒れている。
  ロックはニヤリとした。
 「安心しろ……殺してねぇよ……」
  ドンは目を見開いたままだ。
 (この暗闇でやったのか?……しかも武器を持っている利き腕だけ狙いやがった)
  倒れている部下達は、皆利き腕を押さえて倒れている。
  ドンはロックに言った。
 「テメェ……何者だ?」
  ロックはニヤリとした。
 「ただの便利屋だよ……」
  ロックのふざけた態度に、ドンの表情は怒りに満ちた。
 「好き勝手にやりやがって……やっちまえっ!」  
  ドンの号令に残りの部下……10名程が、ロックに襲いかかった。
 「女……後ろに下がってろ……」
  ロックがエリスにそう言うと、エリスはムッとした表情で言った。
 「エリスだって、言ってんでしょっ!」
  ロックは腰の刀を手に持って、鞘に納めたまま、最初に襲ってきた部下の利き腕に一撃入れ、さらに素早く顔面に二撃目を入れた。
  部下は勢いよく後方に一回転し、うつ伏せで倒れた。
  それからは瞬く間だった。ロックは鞘に納めた刀で、次々と部下達を凪ぎ払った。
 その人外的なスピードと断ち捌きは、エリスの目を奪った。
  もちろんドンもその光景に目を奪われている。
 (尋常じゃねぇ強さ……それにあの青白い髪……まさか……)
  そうこうしてる間に、ロックは全ての部下を倒した。
  ロックは鞘に納めた刀をドンに向けた。
 「後はお前だけだぜ……まだやるか?」
  ドンは巨大なマサカリを担いで、立ち上がった。
 「当たり前だっ!この俺の組織を、無茶苦茶にしやがって……ぶっ殺してやるっ!」
  立ち上がったドンの体の大きさは、ロックの2倍程ある。
  ロックは刀を鞘から抜いた。刀は刃こぼれが一切なく、美しい光を放っていた。
  ドンは勢いよく、ロックにマサカリを振り下ろした。
 「死にやがれーーっ!統一戦争の亡霊がぁーーーっ!」
  ロックはそれに真っ向から向かい、刀で一閃した。
  ロックとドンは互いに交差し、場所が入れ替わった。
  すると、ドンのマカサリは折れ……ドンもその場で倒れた。
  倒れたドンにロックは言った。
 「体がデカけりゃ……いいってもんじゃねぇよ……」
 「バケ……化物がぁ……ガフッ……」
  ドンはここで気を失った。
  ドンが気を失ったのを確認すると、ロックはエリスを見た。
  エリスはまっすぐロックを見据えている。どうやら怪我は無さそうだ。
 「どうやら何にもされてねぇようだな……」
  ロックがそう言うと、エリスは頷いた。
 「うん……」
 「帰ぇるぞ……」
  ロックが刀を鞘に同時に戻すと、エリスは何かに気付いたようで、ロックの側に来た。
 「ロック……怪我してる……」
  エリスの言うように、ロックの右腕は少し切れており、そこから血が少し垂れている。
  ロックはそれを見て舌打ちをした。
 「チッ……暗闇で連中の獲物をはじいた時に、少し切ったか……。どうってこたぁねぇよ」
  するとエリスは、黙ってロックの傷口を、手で覆った。
  ロックは思わずエリスに言った。
 「お前何をっ……!?……」
  ロックは突然の事に目を見開いた。
 (傷が……塞がっていく!?)
  エリスが傷口に手を当てただけで、ロックの傷口は何事もなかったかのように、傷がなくなった。
  初めての体験にロックはただ驚いた。
 (この力……これって……)


 ……Bar集い……

 「この町に来た時……傷付いた猫を……治したの」
 「それを連中に見られたって……訳か……」
  エリスの言葉にロックが相槌を打つと、しばらく店内は沈黙した。因みに店は臨時休業だ。
  しばらくするとマスターが口を開いた。
 「信じられない話だねぇ……手を当てただけで傷を治すなんて……」
  ロックは頭を掻いた。
 「確かに……でも体験しちまった……。で、お前が探してるものと……その力が関係あるのか?」
 「わからない……」
  エリスは先程から下を向いている。余程疲れていたのだろう。
 「エリス……今日はもう休みな……」
  マスターの言葉にエリスは黙って頷き、店を後にし、2階に上がっていった。
  するとロックが言った。
 「大変だったろうな……」
  するとマスターも言った。
 「だろうねぇ……女独り、それにあの力……決して楽な旅じゃなかったろうに……」
 「どうしたもんかな……」
  そう言ってロックが立ち上がると、マスターはロックにメモを渡した。
  ロックがそれを指で挟むと、マスターが言った。
 「持っときな……」
  ロックは鼻で笑った。
 「へッ……お節介なばぁさんだ」
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