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第一話 いい加減男と不思議な女
④
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……アデル中央図書館……
アデル1番街……アデルの住民には、中央区と呼ばれているこの1番街は、他の23地区に囲まれた地区であり、中央区と呼ばれている。
政府の本拠地、中央塔がそびえ立っており、アデルの心臓とも言える。
世界の政は、全てこの中央塔で行われている。
1番街は中央塔を中心に、様々な施設があり、その内の一つがアデル中央図書館である。
エリスに危機が迫っている事も知らずに、ロックはこの図書館にいた。
綺麗に本が整理された棚から、ロックは歴史書を読み漁っていた。
「やっぱねぇなぁ……アレルガルドなんて……」
どうやらロックは、アレルガルドについて調べていたようだ。しかし、思うほどの情報は得られてないようだ。
「無駄足か……」
ロックは本を元に戻し、来た通路を戻った。
(クリスタルシティーで思うような情報がなかったから、アデルに来たんだな……。でもここでもないなら、各地を回って情報を集めるしかねぇ……)
そんな事を考えながら歩いていると、後ろから誰かが声を掛けてきた。
「先輩じゃないっすかぁ……」
ロックがその声に振り返ると、漆黒のスーツに身を包んだ、長身の男がそこにいた。
ロックはその男を見て、表情をしかめた。
「ジュノス……」
ジュノスと呼ばれるその男は、長髪に甘いマスクで、如何にもモテそうな男だ。
ジュノスは苦笑いした。
「はは……そんな嫌な顔しないでくだせぇよ……。ロック先輩」
ロックは言った。
「こんな所で何してんだ?」
「それはこっちのセリフでさぁ……何してんです?」
ロックは頭を掻いた。
「ただの調べもんだ……」
ジュノスはうすら笑みを浮かべた。
「ただの……ねぇ……」
「善良な一般市民が、図書館にいちゃあいけないのか?」
「善良なって……言えた口ですかい?」
「お前こそこんな場所で何してんだ?アデルの軍人が来るとこじゃねぇだろ?」
「先輩……それ、職業差別ですよ。俺は気分転換に読書に来ただけでさぁ……。したら、場違いな人間がいたんで……職質しようと思ったら、先輩だったんでさぁ」
ロックはジュノスに毒ついた。
「税金泥棒が……サボってんじゃねぇよ。暇なのか?」
ジュノスは頭を掻いた。
「暇……って言いたいところですが、蒼き暁の残党制圧や、不法錬金術師の取締やら、人不足で忙しいんですから」
「だったらさっさと仕事に戻れ」
「冷たいですね……。そうだ先輩、また一緒にやりましょうよ。戻ってきたらどうです?」
「ふざけんな……俺は軍にはもどらねぇよ。それよりお前、アレルガルドって知ってか?昔あった国みたいだけど……」
ジュノスは腕組みして少し考えた。
「う~ん……アレルガルド……知りやせんねぇ……」
ジュノスの反応を見て、ロックはジュノスに背を向けた。
「知らねぇんだったらいいよ……じゃあな……」
「先輩もう帰るんですか?」
「用は済んだからな……あっそうだ……」
ロックは顔だけジュノスに向けた。
「町のゴロツキ共を何とかしてくれ……治安維持隊も、お前らの管轄だろ?ヨロシク頼むぜ」
そう言うとロックは、再びジュノスに背を向けて去って言った。
ジュノスは呟いた。
「人不足だって、言ってんでしょうが……」
……Bar集い……
ロックが集いに戻った頃には、すかっり日が落ち、辺りは暗くなっていた。
店に入るとマスターはそわそわしていた。
ロックは怪訝な表情でマスターに言った。
「どうした?ばぁさん……落ち着きがねぇな」
「エリスがまだ戻って来てないんだよ」
ロックの表情は険しくなった。
マスターは続けた。
「買い物に出てったきり……何時間も……」
「どっかで遊んでんじゃねぇの?」
マスターは首を横に振った。
「そんなわけないよっ……あの娘、財布忘れてんだから……」
「どんだけ財布忘れんだ」
ロックは頭を掻いた。
「しゃあねぇ女だな……まぁ心当たりはあるけど……」
「昨日の連中かい?」
「多分な……。ばぁさん奴らの寝ぐらは?」
「多分、13番街奥の雑居ビルだよ……」
ロックはマスターに手を差し出した。
「ばぁさん……アイツの財布よこせ。ちょっくら届けてくるわ」
……¥キングアジト…趣味の悪い部屋……
エリスは¥キングの連中に捕らわれていた。
エリスは趣味の悪い金の椅子に座らされ、部下がエリスを見張っていた。
そのエリスの横にボスのドンが、これまた趣味の悪いソファーで、ふんぞり返っている。
エリスはドンを睨み付けた。
「何でわたしにこだわるの?しつこい男は嫌いよっ!」
ドンはニヤリとして言った。
「何でって?金になるからに決まってんだろ」
「わたしを何処かに売り飛ばす気?」
ドンは高笑いした。
「ははははっ!そんな勿体ない真似はしねぇ……。お前の『あの力』を、うまく利用すりゃあ……もっと金になる」
エリスは目を見開いた。
「どうして……それを?」
「部下がたまたま見てたんだよ……お前がこの町に来た時にな……。運が悪かったな……」
エリスは顔を下に伏せた。
ドンは続けた。
「それに俺の部下をやったふざけたヤローにも、礼をしなくちゃいけねぇ……。お前はヤローを誘き出すエサにもなるのさ」
エリスは再びドンを睨み付けた。
「アイツは関係ないっ!それにアイツは来ないよ……。昨日合ったばっかなのに……来るわけないじゃないっ!」
「庇おうたってそうはいかねぇぜ……。お前ら仲良く歩いて行ったそうだな……」
エリスはドンの勘違いに、再び下を向いた。
するとエリスが下を向いた時だった。
ドガシャーーンッ!!
大部屋入口の襖が吹っ飛び、それと一緒にドンの部下が転がり混んできた。
部下は鼻がへし折れて、白目を剥いている。
その光景に室内は騒然とした。ドンは唖然とし、エリスも驚いて目を見開いた。
「すいませぇん……財布をお届けに参りましたぁ……」
そう言って入ってきたのは、ロックだった。ロックは小指で耳をほじりながら、気の抜けた表情をしている。
ロックの登場に、スキンヘッドか反応した。昨日ロックにやられた者だ。
「テッ、テメェーはっ!」
するとドン言った。
「テメェーか?俺の部下が世話になったみてぇだな……。ここまでどうやって入ってきた?選りすぐりの部下が見張ってたはずだが?」
ロックは小指についた耳垢を、ふぅーと、飛ばした。
「選りすぐり?あれが?そりゃ悪い事したなぁ……皆、通路で寝てもらってるよ」
ドンは目を見開いた。
「やったのか?20人はいたはずだ……」
ロックはうすら笑みを浮かべた。
「悪い事は言わねぇ……人材代えたほうがいい……」
ドンはニヤリとした。
「言ってくれるじゃねぇか……。で?何しに来た?」
「いやぁ……そこの変な椅子に座ってる女に、店のツケを払ってもらおうとね……」
エリスはすかさず突っ込んだ。
「だから、何でわたしがアンタのツケを、払わなきゃならないのっ?」
エリスの様子にロックはニヤリとした。
「元気そうじゃねぇか……」
するとスキンヘッドがいきり立った。
「テメェーッ!にこやかに、クッチャベッてんじゃねぇぞっ!」
スキンヘッドがいきり立つと、部屋の奥からゾロゾロとガラの悪い連中が現れた。手にはお約束のように、ナイフや剣、鉄パイプなどを持っている。
するとロックは部屋に飾ってある、趣味の悪い金の掛け時計を見た。
「そろそろかな?」
するとその時だった……部屋の外で、ドォーーンと、轟音が響いた。そしてそれと同時に、部屋の明かりが消えた。
轟音と部屋の暗闇で、当然ながら全員は騒然となり、パニックした。
「何だっ?なんの音だっ!?」「真っ暗だっ」「何も見えねぇっ!」
すると疑問の叫びが、やがて悲鳴に代わった。
「ぐわっ!」「ギャーッ!」「うわっ!」「ぐえっ!」など、それは様々だ。
当然ながら、ボスのドンも混乱した。
「何が起こってやがるっ!?明かりは?明かりはまだかっ!?」
しばらくすると悲鳴は収まり、ビルの予備電源が起動して、部屋に明かりが戻った。
明かりが戻った部屋の光景に、ドンは目を見開いた。
部屋に20人程いた部下の半分が、その場で倒れていたのだ。
部屋の入口付近にロックはいて、なんとエリスもロックの隣にいたのだ。エリスを見張っていた部下も倒れている。
ロックはニヤリとした。
「安心しろ……殺してねぇよ……」
ドンは目を見開いたままだ。
(この暗闇でやったのか?……しかも武器を持っている利き腕だけ狙いやがった)
倒れている部下達は、皆利き腕を押さえて倒れている。
ドンはロックに言った。
「テメェ……何者だ?」
ロックはニヤリとした。
「ただの便利屋だよ……」
ロックのふざけた態度に、ドンの表情は怒りに満ちた。
「好き勝手にやりやがって……やっちまえっ!」
ドンの号令に残りの部下……10名程が、ロックに襲いかかった。
「女……後ろに下がってろ……」
ロックがエリスにそう言うと、エリスはムッとした表情で言った。
「エリスだって、言ってんでしょっ!」
ロックは腰の刀を手に持って、鞘に納めたまま、最初に襲ってきた部下の利き腕に一撃入れ、さらに素早く顔面に二撃目を入れた。
部下は勢いよく後方に一回転し、うつ伏せで倒れた。
それからは瞬く間だった。ロックは鞘に納めた刀で、次々と部下達を凪ぎ払った。
その人外的なスピードと断ち捌きは、エリスの目を奪った。
もちろんドンもその光景に目を奪われている。
(尋常じゃねぇ強さ……それにあの青白い髪……まさか……)
そうこうしてる間に、ロックは全ての部下を倒した。
ロックは鞘に納めた刀をドンに向けた。
「後はお前だけだぜ……まだやるか?」
ドンは巨大なマサカリを担いで、立ち上がった。
「当たり前だっ!この俺の組織を、無茶苦茶にしやがって……ぶっ殺してやるっ!」
立ち上がったドンの体の大きさは、ロックの2倍程ある。
ロックは刀を鞘から抜いた。刀は刃こぼれが一切なく、美しい光を放っていた。
ドンは勢いよく、ロックにマサカリを振り下ろした。
「死にやがれーーっ!統一戦争の亡霊がぁーーーっ!」
ロックはそれに真っ向から向かい、刀で一閃した。
ロックとドンは互いに交差し、場所が入れ替わった。
すると、ドンのマカサリは折れ……ドンもその場で倒れた。
倒れたドンにロックは言った。
「体がデカけりゃ……いいってもんじゃねぇよ……」
「バケ……化物がぁ……ガフッ……」
ドンはここで気を失った。
ドンが気を失ったのを確認すると、ロックはエリスを見た。
エリスはまっすぐロックを見据えている。どうやら怪我は無さそうだ。
「どうやら何にもされてねぇようだな……」
ロックがそう言うと、エリスは頷いた。
「うん……」
「帰ぇるぞ……」
ロックが刀を鞘に同時に戻すと、エリスは何かに気付いたようで、ロックの側に来た。
「ロック……怪我してる……」
エリスの言うように、ロックの右腕は少し切れており、そこから血が少し垂れている。
ロックはそれを見て舌打ちをした。
「チッ……暗闇で連中の獲物をはじいた時に、少し切ったか……。どうってこたぁねぇよ」
するとエリスは、黙ってロックの傷口を、手で覆った。
ロックは思わずエリスに言った。
「お前何をっ……!?……」
ロックは突然の事に目を見開いた。
(傷が……塞がっていく!?)
エリスが傷口に手を当てただけで、ロックの傷口は何事もなかったかのように、傷がなくなった。
初めての体験にロックはただ驚いた。
(この力……これって……)
……Bar集い……
「この町に来た時……傷付いた猫を……治したの」
「それを連中に見られたって……訳か……」
エリスの言葉にロックが相槌を打つと、しばらく店内は沈黙した。因みに店は臨時休業だ。
しばらくするとマスターが口を開いた。
「信じられない話だねぇ……手を当てただけで傷を治すなんて……」
ロックは頭を掻いた。
「確かに……でも体験しちまった……。で、お前が探してるものと……その力が関係あるのか?」
「わからない……」
エリスは先程から下を向いている。余程疲れていたのだろう。
「エリス……今日はもう休みな……」
マスターの言葉にエリスは黙って頷き、店を後にし、2階に上がっていった。
するとロックが言った。
「大変だったろうな……」
するとマスターも言った。
「だろうねぇ……女独り、それにあの力……決して楽な旅じゃなかったろうに……」
「どうしたもんかな……」
そう言ってロックが立ち上がると、マスターはロックにメモを渡した。
ロックがそれを指で挟むと、マスターが言った。
「持っときな……」
ロックは鼻で笑った。
「へッ……お節介なばぁさんだ」
アデル1番街……アデルの住民には、中央区と呼ばれているこの1番街は、他の23地区に囲まれた地区であり、中央区と呼ばれている。
政府の本拠地、中央塔がそびえ立っており、アデルの心臓とも言える。
世界の政は、全てこの中央塔で行われている。
1番街は中央塔を中心に、様々な施設があり、その内の一つがアデル中央図書館である。
エリスに危機が迫っている事も知らずに、ロックはこの図書館にいた。
綺麗に本が整理された棚から、ロックは歴史書を読み漁っていた。
「やっぱねぇなぁ……アレルガルドなんて……」
どうやらロックは、アレルガルドについて調べていたようだ。しかし、思うほどの情報は得られてないようだ。
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そんな事を考えながら歩いていると、後ろから誰かが声を掛けてきた。
「先輩じゃないっすかぁ……」
ロックがその声に振り返ると、漆黒のスーツに身を包んだ、長身の男がそこにいた。
ロックはその男を見て、表情をしかめた。
「ジュノス……」
ジュノスと呼ばれるその男は、長髪に甘いマスクで、如何にもモテそうな男だ。
ジュノスは苦笑いした。
「はは……そんな嫌な顔しないでくだせぇよ……。ロック先輩」
ロックは言った。
「こんな所で何してんだ?」
「それはこっちのセリフでさぁ……何してんです?」
ロックは頭を掻いた。
「ただの調べもんだ……」
ジュノスはうすら笑みを浮かべた。
「ただの……ねぇ……」
「善良な一般市民が、図書館にいちゃあいけないのか?」
「善良なって……言えた口ですかい?」
「お前こそこんな場所で何してんだ?アデルの軍人が来るとこじゃねぇだろ?」
「先輩……それ、職業差別ですよ。俺は気分転換に読書に来ただけでさぁ……。したら、場違いな人間がいたんで……職質しようと思ったら、先輩だったんでさぁ」
ロックはジュノスに毒ついた。
「税金泥棒が……サボってんじゃねぇよ。暇なのか?」
ジュノスは頭を掻いた。
「暇……って言いたいところですが、蒼き暁の残党制圧や、不法錬金術師の取締やら、人不足で忙しいんですから」
「だったらさっさと仕事に戻れ」
「冷たいですね……。そうだ先輩、また一緒にやりましょうよ。戻ってきたらどうです?」
「ふざけんな……俺は軍にはもどらねぇよ。それよりお前、アレルガルドって知ってか?昔あった国みたいだけど……」
ジュノスは腕組みして少し考えた。
「う~ん……アレルガルド……知りやせんねぇ……」
ジュノスの反応を見て、ロックはジュノスに背を向けた。
「知らねぇんだったらいいよ……じゃあな……」
「先輩もう帰るんですか?」
「用は済んだからな……あっそうだ……」
ロックは顔だけジュノスに向けた。
「町のゴロツキ共を何とかしてくれ……治安維持隊も、お前らの管轄だろ?ヨロシク頼むぜ」
そう言うとロックは、再びジュノスに背を向けて去って言った。
ジュノスは呟いた。
「人不足だって、言ってんでしょうが……」
……Bar集い……
ロックが集いに戻った頃には、すかっり日が落ち、辺りは暗くなっていた。
店に入るとマスターはそわそわしていた。
ロックは怪訝な表情でマスターに言った。
「どうした?ばぁさん……落ち着きがねぇな」
「エリスがまだ戻って来てないんだよ」
ロックの表情は険しくなった。
マスターは続けた。
「買い物に出てったきり……何時間も……」
「どっかで遊んでんじゃねぇの?」
マスターは首を横に振った。
「そんなわけないよっ……あの娘、財布忘れてんだから……」
「どんだけ財布忘れんだ」
ロックは頭を掻いた。
「しゃあねぇ女だな……まぁ心当たりはあるけど……」
「昨日の連中かい?」
「多分な……。ばぁさん奴らの寝ぐらは?」
「多分、13番街奥の雑居ビルだよ……」
ロックはマスターに手を差し出した。
「ばぁさん……アイツの財布よこせ。ちょっくら届けてくるわ」
……¥キングアジト…趣味の悪い部屋……
エリスは¥キングの連中に捕らわれていた。
エリスは趣味の悪い金の椅子に座らされ、部下がエリスを見張っていた。
そのエリスの横にボスのドンが、これまた趣味の悪いソファーで、ふんぞり返っている。
エリスはドンを睨み付けた。
「何でわたしにこだわるの?しつこい男は嫌いよっ!」
ドンはニヤリとして言った。
「何でって?金になるからに決まってんだろ」
「わたしを何処かに売り飛ばす気?」
ドンは高笑いした。
「ははははっ!そんな勿体ない真似はしねぇ……。お前の『あの力』を、うまく利用すりゃあ……もっと金になる」
エリスは目を見開いた。
「どうして……それを?」
「部下がたまたま見てたんだよ……お前がこの町に来た時にな……。運が悪かったな……」
エリスは顔を下に伏せた。
ドンは続けた。
「それに俺の部下をやったふざけたヤローにも、礼をしなくちゃいけねぇ……。お前はヤローを誘き出すエサにもなるのさ」
エリスは再びドンを睨み付けた。
「アイツは関係ないっ!それにアイツは来ないよ……。昨日合ったばっかなのに……来るわけないじゃないっ!」
「庇おうたってそうはいかねぇぜ……。お前ら仲良く歩いて行ったそうだな……」
エリスはドンの勘違いに、再び下を向いた。
するとエリスが下を向いた時だった。
ドガシャーーンッ!!
大部屋入口の襖が吹っ飛び、それと一緒にドンの部下が転がり混んできた。
部下は鼻がへし折れて、白目を剥いている。
その光景に室内は騒然とした。ドンは唖然とし、エリスも驚いて目を見開いた。
「すいませぇん……財布をお届けに参りましたぁ……」
そう言って入ってきたのは、ロックだった。ロックは小指で耳をほじりながら、気の抜けた表情をしている。
ロックの登場に、スキンヘッドか反応した。昨日ロックにやられた者だ。
「テッ、テメェーはっ!」
するとドン言った。
「テメェーか?俺の部下が世話になったみてぇだな……。ここまでどうやって入ってきた?選りすぐりの部下が見張ってたはずだが?」
ロックは小指についた耳垢を、ふぅーと、飛ばした。
「選りすぐり?あれが?そりゃ悪い事したなぁ……皆、通路で寝てもらってるよ」
ドンは目を見開いた。
「やったのか?20人はいたはずだ……」
ロックはうすら笑みを浮かべた。
「悪い事は言わねぇ……人材代えたほうがいい……」
ドンはニヤリとした。
「言ってくれるじゃねぇか……。で?何しに来た?」
「いやぁ……そこの変な椅子に座ってる女に、店のツケを払ってもらおうとね……」
エリスはすかさず突っ込んだ。
「だから、何でわたしがアンタのツケを、払わなきゃならないのっ?」
エリスの様子にロックはニヤリとした。
「元気そうじゃねぇか……」
するとスキンヘッドがいきり立った。
「テメェーッ!にこやかに、クッチャベッてんじゃねぇぞっ!」
スキンヘッドがいきり立つと、部屋の奥からゾロゾロとガラの悪い連中が現れた。手にはお約束のように、ナイフや剣、鉄パイプなどを持っている。
するとロックは部屋に飾ってある、趣味の悪い金の掛け時計を見た。
「そろそろかな?」
するとその時だった……部屋の外で、ドォーーンと、轟音が響いた。そしてそれと同時に、部屋の明かりが消えた。
轟音と部屋の暗闇で、当然ながら全員は騒然となり、パニックした。
「何だっ?なんの音だっ!?」「真っ暗だっ」「何も見えねぇっ!」
すると疑問の叫びが、やがて悲鳴に代わった。
「ぐわっ!」「ギャーッ!」「うわっ!」「ぐえっ!」など、それは様々だ。
当然ながら、ボスのドンも混乱した。
「何が起こってやがるっ!?明かりは?明かりはまだかっ!?」
しばらくすると悲鳴は収まり、ビルの予備電源が起動して、部屋に明かりが戻った。
明かりが戻った部屋の光景に、ドンは目を見開いた。
部屋に20人程いた部下の半分が、その場で倒れていたのだ。
部屋の入口付近にロックはいて、なんとエリスもロックの隣にいたのだ。エリスを見張っていた部下も倒れている。
ロックはニヤリとした。
「安心しろ……殺してねぇよ……」
ドンは目を見開いたままだ。
(この暗闇でやったのか?……しかも武器を持っている利き腕だけ狙いやがった)
倒れている部下達は、皆利き腕を押さえて倒れている。
ドンはロックに言った。
「テメェ……何者だ?」
ロックはニヤリとした。
「ただの便利屋だよ……」
ロックのふざけた態度に、ドンの表情は怒りに満ちた。
「好き勝手にやりやがって……やっちまえっ!」
ドンの号令に残りの部下……10名程が、ロックに襲いかかった。
「女……後ろに下がってろ……」
ロックがエリスにそう言うと、エリスはムッとした表情で言った。
「エリスだって、言ってんでしょっ!」
ロックは腰の刀を手に持って、鞘に納めたまま、最初に襲ってきた部下の利き腕に一撃入れ、さらに素早く顔面に二撃目を入れた。
部下は勢いよく後方に一回転し、うつ伏せで倒れた。
それからは瞬く間だった。ロックは鞘に納めた刀で、次々と部下達を凪ぎ払った。
その人外的なスピードと断ち捌きは、エリスの目を奪った。
もちろんドンもその光景に目を奪われている。
(尋常じゃねぇ強さ……それにあの青白い髪……まさか……)
そうこうしてる間に、ロックは全ての部下を倒した。
ロックは鞘に納めた刀をドンに向けた。
「後はお前だけだぜ……まだやるか?」
ドンは巨大なマサカリを担いで、立ち上がった。
「当たり前だっ!この俺の組織を、無茶苦茶にしやがって……ぶっ殺してやるっ!」
立ち上がったドンの体の大きさは、ロックの2倍程ある。
ロックは刀を鞘から抜いた。刀は刃こぼれが一切なく、美しい光を放っていた。
ドンは勢いよく、ロックにマサカリを振り下ろした。
「死にやがれーーっ!統一戦争の亡霊がぁーーーっ!」
ロックはそれに真っ向から向かい、刀で一閃した。
ロックとドンは互いに交差し、場所が入れ替わった。
すると、ドンのマカサリは折れ……ドンもその場で倒れた。
倒れたドンにロックは言った。
「体がデカけりゃ……いいってもんじゃねぇよ……」
「バケ……化物がぁ……ガフッ……」
ドンはここで気を失った。
ドンが気を失ったのを確認すると、ロックはエリスを見た。
エリスはまっすぐロックを見据えている。どうやら怪我は無さそうだ。
「どうやら何にもされてねぇようだな……」
ロックがそう言うと、エリスは頷いた。
「うん……」
「帰ぇるぞ……」
ロックが刀を鞘に同時に戻すと、エリスは何かに気付いたようで、ロックの側に来た。
「ロック……怪我してる……」
エリスの言うように、ロックの右腕は少し切れており、そこから血が少し垂れている。
ロックはそれを見て舌打ちをした。
「チッ……暗闇で連中の獲物をはじいた時に、少し切ったか……。どうってこたぁねぇよ」
するとエリスは、黙ってロックの傷口を、手で覆った。
ロックは思わずエリスに言った。
「お前何をっ……!?……」
ロックは突然の事に目を見開いた。
(傷が……塞がっていく!?)
エリスが傷口に手を当てただけで、ロックの傷口は何事もなかったかのように、傷がなくなった。
初めての体験にロックはただ驚いた。
(この力……これって……)
……Bar集い……
「この町に来た時……傷付いた猫を……治したの」
「それを連中に見られたって……訳か……」
エリスの言葉にロックが相槌を打つと、しばらく店内は沈黙した。因みに店は臨時休業だ。
しばらくするとマスターが口を開いた。
「信じられない話だねぇ……手を当てただけで傷を治すなんて……」
ロックは頭を掻いた。
「確かに……でも体験しちまった……。で、お前が探してるものと……その力が関係あるのか?」
「わからない……」
エリスは先程から下を向いている。余程疲れていたのだろう。
「エリス……今日はもう休みな……」
マスターの言葉にエリスは黙って頷き、店を後にし、2階に上がっていった。
するとロックが言った。
「大変だったろうな……」
するとマスターも言った。
「だろうねぇ……女独り、それにあの力……決して楽な旅じゃなかったろうに……」
「どうしたもんかな……」
そう言ってロックが立ち上がると、マスターはロックにメモを渡した。
ロックがそれを指で挟むと、マスターが言った。
「持っときな……」
ロックは鼻で笑った。
「へッ……お節介なばぁさんだ」
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