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第十一話 窟塚村のカリスマ教祖 後編
③
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……午前10時……
窟塚村に警察が到着し、鑑識員は金尾の部屋に、今野刑事は有村と食堂にいた。
今野は少し疲れた表情で有村に言った。
「縁君と小笠原さんと、この村に来て……また人が死んだんですか……」
今野の疲れた表情を見て、有村は苦笑いして言った。
「そんな顔をしないでよ……」
今野は困り果てた様子で言った。
「そんな顔にもなりますよ……。一般人の彼等を巻き込むのは……自分は感心できません」
「でも……その縁たちのおかげで、今野君は本庁に来れたんじゃないの?」
今野は複雑そうな表情で言った。
「た、確かに……縁君には世話になってますし、彼は確かに凄い。しかし事件に巻き込んで彼等を危険なめに遇わすのは……それに、自分は……有村警視の推薦のおかげで本庁に来れたんです」
有村はやれやれといった感じで、今野に言った。
「まぁ……今野君の言う事もごもっともだけど……今回も縁に協力してもらうよ。それに縁がこの状況を黙って見ているとも思えないからね」
今野は頭を抱えた。
「はぁ……」
有村は気を取り直して言った。
「それより話を戻そう……鑑識からは?」
今野は頭から手を離し、手帳を広げた。
「現場からは複数の指紋が出ました……1つは被害者の金尾……そして、金尾の仕事仲間の横瀬に、料理番の東と経理の風間……以上の4種類です」
有村は顎を撫でた。
「どれも不思議じゃないよね……」
そのとき縁と桃子が食堂に入ってきた。
有村と今野が話しているのを見て、二人はその席に向かった。
有村は二人に言った。
「二人とも……丁度良かった……」
桃子が言った。
「何が丁度良かったんだ?」
「事件の話をしていたんだよ」
縁と桃子は席に座り、縁は今野に声を掛けた。
「今野さん、正式に本庁勤務になったんだって?」
「う、うん……おかげさまでね……」
有村が言った。
「縁達に足を向けて眠れないってさ……」
桃子が言った。
「そりゃそうだろ……我々が解決した事件の手柄が、今野刑事の手柄になっているのだから」
今野は苦笑いして言った。
「小笠原さん……勘弁して下さいよ。警視も、話をそらさないで下さい……」
縁が言った。
「で、話しはどこまで?」
今野が慌てて話を戻した。
「現場から出た指紋の話さ……被害者の金尾と仕事仲間の横瀬……この村の東さんと風間さん……この4種類さ」
縁が言った。
「風間さんと東さんで、おそらく部屋の準備などやってるのだろうし……横瀬に関しては仕事仲間だからな……金尾の部屋で横瀬と仕事の話をしていても不思議じゃない」
桃子が言った。
「証拠にはならないか……」
有村が言った。
「それ以前に、事件当時はあの部屋は密室で、金尾しかいなかったからね」
縁が今野に言った。
「他は?遺留品とかは?」
「指紋の照合はすぐにできたけど……後の物は一度科捜研にもって帰らないと」
桃子が言った。
「細かい詳細はわからんか……」
有村が言った。
「で……縁と桃子ちゃんは?どうだった?」
縁は言った。
「いくつかあるけど……一番面白かったのは、桃子さんが村人にバカにされた事かな……」
桃子はムッとして言った。
「それは関係ないだろ!」
有村は笑いながら言った。
「はははっ!確かにそれは面白い……」
今野もつられて、笑っていたが……桃子に睨み付けられた。
「何故、君まで笑っている?今野刑事……」
今野は桃子の凄みに思わず怯んでしまった。
「いっ……いえっ!てか、何で俺だけ……」
縁は言った。
「まぁ……それは冗談として……村人の様子から、天菜はただの教祖じゃなさそうだ」
有村が言った。
「ただの教祖じゃない?どういう事?」
「風間さんが言っていたけど……村人たちは、ここに来る前に何かしらの、心の病……つまり精神疾患を患っていたらしい」
今野が言った。
「それはこちらでも調べがついているよ」
縁は続けた。
「でも、今日会って話した村人たちには、そんな感じは微塵もなかった。皆清々しく生活をしている感じだった」
桃子が言った。
「天菜の力で傷が癒えていると?」
有村は言った。
「鬱病などの精神疾患は投薬でも治療をするが……天菜の存在が村人の最大の薬なのかもね」
縁は頷いた。
「ああ……。しかし、仮に村人の前から天菜が消えたとすれば?」
縁の言葉に皆は言葉を詰まらせた。
何故ならば天菜がいなくなるという事は、金尾を殺害した犯人であり、天菜を逮捕することによって、村人から心の支えを奪う可能性を示唆していたからだ。
有村は溜め息混じりに言った。
「ふぅ……少し厄介かもね」
今野が言った。
「しかし……だと言って見過ごすわけには……」
縁が言った。
「誰も見過ごすなんて言ってないよ。ただ、証拠がない以上、捜査は慎重にしないと……村人全員を敵に回すぜ」
縁の言葉に今野は少し身震いをした。
有村が言った。
「それにまだ犯人と決まったわけじゃないからね」
縁が言った。
「とにかく金尾の死因を特定しないと……まぁ、特定したところで、密室トリックを解かないと意味はないだろうけど」
今野は言った。
「自殺の可能性もあると思うけど……」
有村は言った。
「確かに……状況的には自殺と考えるのがベターだね」
縁は首を横に振った。
「まさか……それはないよ。だとしたら天菜は自殺を預言したのか?それに金尾は『金になるネタ』を探しに来たんだぜ……そんな金に執着する人間が自殺なんてするかよ。それにあの時の金尾の様子は、誰かと揉めている感じだったぜ」
桃子は少し怯えた表情で言った。
「ま、まさか……本当に呪いなんじゃ……」
縁は頭を抱えて言った。
「まだそんな事を言ってんのか?そんなもんはないよ」
縁の様子を見て、有村ハッとした表情で言った。
「縁……まさか……わかったのか?倒れた理由が……」
縁は言った。
「まぁね……ただ、金尾の死因を特定するまでは確証が持てない」
桃子が怪訝な表情で言った。
「本当に……トリックなのか?」
「なんだよ……俺を信じないのか?」
「そういうわけでは……」
桃子は釈然としないようだ。
縁は桃子に言った。
「俺に解けなかった謎が今まであったか?」
「ない……」
縁はニヤリとして言った。
「だったら信じろよ……俺が必ずこの村の秘密を暴いてやるよ」
「わ、わかった……」
縁の自信ありげな様子に、桃子は少し頬を赤らめた。それを見た有村は手を叩いて言った。
「はいはい、そこまでそこまで……続きは二人でやってねぇ」
有村の手を叩く音を聞いて、我に帰った縁は桃子を見た。しかし桃子は頬を赤らめて、ぼーっとしたままだ。
縁はバツが悪そうな表情で言った。
「で、これからだけど……」
今野が言った。
「自分はこれから本庁に戻り、鑑識結果を待たないと……」
有村が言った。
「そうだな……遺体解剖もしなければ」
縁が今野に言った。
「次はいつこの村に?」
「明日の朝だね……」
「じゃあさ、持ってきて欲しいものがあるんだけど」
「なんだい?」
縁は今野にメモを借りて、必要な物を書いた。それを見た今野は不思議そうに、縁に言った。
「縁君……何に使うんだい?」
縁はニコニコしながら言った。
「後のお楽しみ……」
今野は有村を見ると、有村は頷いた。
「縁の言う通りにしてやって」
ここで事件の話し合いはいったん終了し、今野は鑑識達と窟塚村を後する事にした。
今野は有村に一礼をして、食堂を出て行った。
有村は縁に言った。
「今野君に何を頼んだの?」
縁は言った。
「村を調べてる時に、気になる場所を見つけた」
縁は有村に立入禁止区域の事を話した。
有村は少し感慨深い表情で言った。
「確かにそれは怪しいね……」
縁は言った。
「その答えは、横瀬が知ってると思うぜ……」
縁の唐突な言葉に有村は目を丸くした。
「何だって?横瀬が知ってるだって?」
「多分ね……だとしたら辻褄が合ってくる」
桃子が言った。
「さっぱりわからん」
どうやら桃子の表情は元に戻ったようだ。頬の赤みも引いている。
縁が言った。
「てなわけで、横瀬の部屋に行こうぜ」
3人は横瀬の部屋に向かうことにした。
食道を出て横瀬の部屋に到着すると、有村が部屋をノックすると、疲れはてた表情の横瀬がドアの隙間から顔を出した。
「チッ……また、あんたらか……」
横瀬は軽く舌打ちをし、3人に悪態ついた。
有村は核心的に横瀬に言った。
「貴方が持っているこの村の情報を教えてもらいたい」
てっきり「過去の罪」の事を聞かれると思った横瀬は、思わず目を丸くした。
有村は言った。
「理由があってこの村のに来たのでしょう?その理由を伺いたい」
横瀬はあからさまに嫌そうな表情で言った。
「刑事さん……それは言えないって言ったでしょ……」
すると、縁が横瀬に言った。
「あんた……どうなっても知らないぜ」
縁の言葉に横瀬は嫌悪感を示した。
「また……このガキ……」
嫌悪感を示した横瀬だったが、以前ほどの勢いはなかった。よほど疲れているのだろうか、覇気がなかった。
縁は続けた。
「この村で何かとんでもない事が行われている……。あんたはその正体を知っているのだろ?」
縁の言葉に横瀬は目を丸くして言った。
「お前……ただのガキじゃないな」
縁は黙ってニヤリとして横瀬を見た。
縁の態度に横瀬は、全て見透かされた感じになり、気分が少し悪くなった。
有村は言った。
「あなたを守るためでもあるんだ」
すると、横瀬は少し考え、そして口を開いた。
「わかった……話す……」
その言葉に縁と有村は安心した表情になったが、すぐに横瀬は水をさした。
「でも……今は言えない……」
有村は怪訝な表情で言った。
「どういう事ですか?」
横瀬は渋い表情で言った。
「少し整理する時間が欲しい……そうだな、今晩……また部屋に来てくれ」
有村は少し考えて、横瀬に答えた。
「わかった。じゃあ今晩また来ます」
こうして3人は横瀬の部屋をいったん離れた。
廊下をしばらく歩くと、桃子が言った。
「よかったのか?シメ上げて喋らしたらよかったんじゃないのか?」
縁は苦笑いして言った。
「物騒な事を言うなよ。せっかく話す気になったんだぜ?変に問い詰めてまたゴネられたら面倒だよ」
有村は少し笑って言った。
「はは、確かに……まぁ、話す気になってくれたみたいだから、よしとしよう」
縁は呟いた。
「でも整理したいって……どういう意味だ?」
……午後8時…食堂……
特に進展のないまま時間だけが過ぎていき、気付けば夜になり3人は夕食をとることにした。
この村にやって来て2回目となる夕食は、肉料理を中心とした洋食で、とても美味しかった。
牛肉のステーキに、サラダにスープ、自家製のパンなど、どれも美味しくて縁は満足していた。
全ての料理を平らげた縁は、背筋を伸ばしながら、有村に言った。
「なぁ有村さん」
「なんだい?」
「横瀬の部屋には何時に行くんだ?」
「そうだな……夕飯食べてからでいいんじゃない」
すると縁は有村と桃子の、料理の残量を見て立ち上がった。
桃子が縁に言った。
「どうした?何処かへ行くのか?」
「まだ食べんのに時間が掛かるだろ?ちょっと外の空気吸ってくる」
そう言うと縁は食堂を出て、そのまま宿舎を出て行った。
宿舎を出ると、縁はすぐに村の中央に誰かがいることに気付いた。天菜だった。
天菜は纏っている装飾品は、月の光を浴びて美しく輝き、神々しくも思えた。
縁は引き寄せられるように、天菜のいる場所まで歩いた。
天菜との距離はだんだんと近づいていき、その距離は僅かになった。
すると縁の存在に気付いたようだが、天菜は縁の方を振り向くことなく言った。
「月が美しいな……」
月に照らされた天菜は、装飾品のせいもあってか、神秘的にも感じる。
天菜は続けて言った。
「夜風に当たりに来たのか?少年……」
縁は天菜の後ろ姿から視線をそらす事ができない。すると天菜はそんな縁を察してか、縁の方を振り向いて言った。
「身構えるな……楽にしなさい」
縁はやっと口を開いた。
「どういうつもりで……あんな預言をした?」
天菜は縁の目を見つめて言った。
「私は……ただ、忠告しただけだ」
縁も天菜から目をそらさない。
「忠告だと……あんな死に方をしたのにか?」
天菜は黙って縁を見ている。
縁は言った。
「金尾は殺されたんだ」
天菜は言った。
「そうだ……あの男は『過去の罪』に殺された……」
縁は思わず声を強めた。
「違うっ!……確かに金尾は錯乱していたから、一見そう見えない事もない……」
天菜は布で口を覆っているので、目もと以外は隠れているが、表情を崩していないのはわかった。
縁は言った。
「実態の無いものが人を殺すなんて……ありえないんだよっ!」
すると、天菜は村の畑の方角を見た。
「少年……この村はどうだ?」
「話をそらすなっ!」
天菜は気にせず続けた。
「私はこの村を……誰よりも大事にしている……」
縁は怪訝な表情をした。
天菜は続けた。
「この村で採れる食物や、作られる物は……活力に満ちている」
縁は言った。
「ここの人達を見ていればわかるよ……」
天菜は縁の方を振り向き、そして目を見つめて言った。
「この村を壊す者は……誰であろうとも、決して許さない」
「何?………」
天菜のまっすぐな目に、縁は少し怯んだ。
天菜は言った。
「今晩……また『過去の罪』によって、苦しむ者の姿が見えた……」
縁は目を見開いた。
「な、何だと?」
「早く行け……」
「まさか……」
縁は宿舎に向かって走り出した。
走り去る縁の後ろ姿を見て、天菜は呟いた。
「少年……絶ち切れるか?この村の罪を……」
縁は勢いよく食堂の扉を開けて、中を確認した。
息を切らしながら、誰が食堂にいるのかをじっくり確認する。桃子に有村……風間と東……皆は無事のようだ。だとすれば……。
息を切らした縁を見て、桃子は言った。
「ど、どうした?縁……」
縁は声を荒げた。
「今すぐ……横瀬の部屋にっ!……天菜の預言が出たっ!」
その言葉に食堂の空気は凍りついた。縁の様子からして、その預言は横瀬の身に何かが起こることが、安易に連想できたからだ。 有村と桃子立ち上がり、すぐに準備をした。
有村は言った。
「風間さん、村の入口を閉鎖してっ!」
風間にそう言い残し、3人は食堂を出て横瀬の部屋に向かった。
横瀬の部屋は食堂と同じく1階なので、すぐに到着した。
有村は勢いよく扉を叩いた。
「横瀬さんっ!横瀬さんっ!」
ドンッドンッドンッと扉を叩く音が、廊下にこだまするが返事はない。
有村はもう一度扉を叩いた。
「横瀬さんっ!返事してくれっ!」
しかし横瀬からの応答はなく、扉を叩く音が虚しく廊下に響くだけだ。
有村は風間から回収した、マスターキーを鍵穴に入れた。
「開けるぞ……」
縁と桃子は黙って頷いた。
「僕が先に入って、部屋を確認する……」
有村はそう言うと、そっと扉を開ける。部屋の中は暗くてよくわからない。
有村が部屋に入ったのを確認して、縁と桃子はそっと、隙間から部屋の中を除いた。
暗くてよくわからなかったが、部屋の中央に何かがある。縁と桃子は瞬時に思った……おそらく……あれだろうと……。
有村が部屋の入口にある証明のスイッチを押すと、部屋が明るくなり、それは明らかになった。
それは……。 刃物で胸を貫かれ、大量の血を流した……横瀬だった。
縁の脳裏に天菜の言葉と姿がよぎった。
「過去の罪に苦しむ姿……」という言葉と、月に照らされた神々しい天菜の姿が……。
窟塚村に警察が到着し、鑑識員は金尾の部屋に、今野刑事は有村と食堂にいた。
今野は少し疲れた表情で有村に言った。
「縁君と小笠原さんと、この村に来て……また人が死んだんですか……」
今野の疲れた表情を見て、有村は苦笑いして言った。
「そんな顔をしないでよ……」
今野は困り果てた様子で言った。
「そんな顔にもなりますよ……。一般人の彼等を巻き込むのは……自分は感心できません」
「でも……その縁たちのおかげで、今野君は本庁に来れたんじゃないの?」
今野は複雑そうな表情で言った。
「た、確かに……縁君には世話になってますし、彼は確かに凄い。しかし事件に巻き込んで彼等を危険なめに遇わすのは……それに、自分は……有村警視の推薦のおかげで本庁に来れたんです」
有村はやれやれといった感じで、今野に言った。
「まぁ……今野君の言う事もごもっともだけど……今回も縁に協力してもらうよ。それに縁がこの状況を黙って見ているとも思えないからね」
今野は頭を抱えた。
「はぁ……」
有村は気を取り直して言った。
「それより話を戻そう……鑑識からは?」
今野は頭から手を離し、手帳を広げた。
「現場からは複数の指紋が出ました……1つは被害者の金尾……そして、金尾の仕事仲間の横瀬に、料理番の東と経理の風間……以上の4種類です」
有村は顎を撫でた。
「どれも不思議じゃないよね……」
そのとき縁と桃子が食堂に入ってきた。
有村と今野が話しているのを見て、二人はその席に向かった。
有村は二人に言った。
「二人とも……丁度良かった……」
桃子が言った。
「何が丁度良かったんだ?」
「事件の話をしていたんだよ」
縁と桃子は席に座り、縁は今野に声を掛けた。
「今野さん、正式に本庁勤務になったんだって?」
「う、うん……おかげさまでね……」
有村が言った。
「縁達に足を向けて眠れないってさ……」
桃子が言った。
「そりゃそうだろ……我々が解決した事件の手柄が、今野刑事の手柄になっているのだから」
今野は苦笑いして言った。
「小笠原さん……勘弁して下さいよ。警視も、話をそらさないで下さい……」
縁が言った。
「で、話しはどこまで?」
今野が慌てて話を戻した。
「現場から出た指紋の話さ……被害者の金尾と仕事仲間の横瀬……この村の東さんと風間さん……この4種類さ」
縁が言った。
「風間さんと東さんで、おそらく部屋の準備などやってるのだろうし……横瀬に関しては仕事仲間だからな……金尾の部屋で横瀬と仕事の話をしていても不思議じゃない」
桃子が言った。
「証拠にはならないか……」
有村が言った。
「それ以前に、事件当時はあの部屋は密室で、金尾しかいなかったからね」
縁が今野に言った。
「他は?遺留品とかは?」
「指紋の照合はすぐにできたけど……後の物は一度科捜研にもって帰らないと」
桃子が言った。
「細かい詳細はわからんか……」
有村が言った。
「で……縁と桃子ちゃんは?どうだった?」
縁は言った。
「いくつかあるけど……一番面白かったのは、桃子さんが村人にバカにされた事かな……」
桃子はムッとして言った。
「それは関係ないだろ!」
有村は笑いながら言った。
「はははっ!確かにそれは面白い……」
今野もつられて、笑っていたが……桃子に睨み付けられた。
「何故、君まで笑っている?今野刑事……」
今野は桃子の凄みに思わず怯んでしまった。
「いっ……いえっ!てか、何で俺だけ……」
縁は言った。
「まぁ……それは冗談として……村人の様子から、天菜はただの教祖じゃなさそうだ」
有村が言った。
「ただの教祖じゃない?どういう事?」
「風間さんが言っていたけど……村人たちは、ここに来る前に何かしらの、心の病……つまり精神疾患を患っていたらしい」
今野が言った。
「それはこちらでも調べがついているよ」
縁は続けた。
「でも、今日会って話した村人たちには、そんな感じは微塵もなかった。皆清々しく生活をしている感じだった」
桃子が言った。
「天菜の力で傷が癒えていると?」
有村は言った。
「鬱病などの精神疾患は投薬でも治療をするが……天菜の存在が村人の最大の薬なのかもね」
縁は頷いた。
「ああ……。しかし、仮に村人の前から天菜が消えたとすれば?」
縁の言葉に皆は言葉を詰まらせた。
何故ならば天菜がいなくなるという事は、金尾を殺害した犯人であり、天菜を逮捕することによって、村人から心の支えを奪う可能性を示唆していたからだ。
有村は溜め息混じりに言った。
「ふぅ……少し厄介かもね」
今野が言った。
「しかし……だと言って見過ごすわけには……」
縁が言った。
「誰も見過ごすなんて言ってないよ。ただ、証拠がない以上、捜査は慎重にしないと……村人全員を敵に回すぜ」
縁の言葉に今野は少し身震いをした。
有村が言った。
「それにまだ犯人と決まったわけじゃないからね」
縁が言った。
「とにかく金尾の死因を特定しないと……まぁ、特定したところで、密室トリックを解かないと意味はないだろうけど」
今野は言った。
「自殺の可能性もあると思うけど……」
有村は言った。
「確かに……状況的には自殺と考えるのがベターだね」
縁は首を横に振った。
「まさか……それはないよ。だとしたら天菜は自殺を預言したのか?それに金尾は『金になるネタ』を探しに来たんだぜ……そんな金に執着する人間が自殺なんてするかよ。それにあの時の金尾の様子は、誰かと揉めている感じだったぜ」
桃子は少し怯えた表情で言った。
「ま、まさか……本当に呪いなんじゃ……」
縁は頭を抱えて言った。
「まだそんな事を言ってんのか?そんなもんはないよ」
縁の様子を見て、有村ハッとした表情で言った。
「縁……まさか……わかったのか?倒れた理由が……」
縁は言った。
「まぁね……ただ、金尾の死因を特定するまでは確証が持てない」
桃子が怪訝な表情で言った。
「本当に……トリックなのか?」
「なんだよ……俺を信じないのか?」
「そういうわけでは……」
桃子は釈然としないようだ。
縁は桃子に言った。
「俺に解けなかった謎が今まであったか?」
「ない……」
縁はニヤリとして言った。
「だったら信じろよ……俺が必ずこの村の秘密を暴いてやるよ」
「わ、わかった……」
縁の自信ありげな様子に、桃子は少し頬を赤らめた。それを見た有村は手を叩いて言った。
「はいはい、そこまでそこまで……続きは二人でやってねぇ」
有村の手を叩く音を聞いて、我に帰った縁は桃子を見た。しかし桃子は頬を赤らめて、ぼーっとしたままだ。
縁はバツが悪そうな表情で言った。
「で、これからだけど……」
今野が言った。
「自分はこれから本庁に戻り、鑑識結果を待たないと……」
有村が言った。
「そうだな……遺体解剖もしなければ」
縁が今野に言った。
「次はいつこの村に?」
「明日の朝だね……」
「じゃあさ、持ってきて欲しいものがあるんだけど」
「なんだい?」
縁は今野にメモを借りて、必要な物を書いた。それを見た今野は不思議そうに、縁に言った。
「縁君……何に使うんだい?」
縁はニコニコしながら言った。
「後のお楽しみ……」
今野は有村を見ると、有村は頷いた。
「縁の言う通りにしてやって」
ここで事件の話し合いはいったん終了し、今野は鑑識達と窟塚村を後する事にした。
今野は有村に一礼をして、食堂を出て行った。
有村は縁に言った。
「今野君に何を頼んだの?」
縁は言った。
「村を調べてる時に、気になる場所を見つけた」
縁は有村に立入禁止区域の事を話した。
有村は少し感慨深い表情で言った。
「確かにそれは怪しいね……」
縁は言った。
「その答えは、横瀬が知ってると思うぜ……」
縁の唐突な言葉に有村は目を丸くした。
「何だって?横瀬が知ってるだって?」
「多分ね……だとしたら辻褄が合ってくる」
桃子が言った。
「さっぱりわからん」
どうやら桃子の表情は元に戻ったようだ。頬の赤みも引いている。
縁が言った。
「てなわけで、横瀬の部屋に行こうぜ」
3人は横瀬の部屋に向かうことにした。
食道を出て横瀬の部屋に到着すると、有村が部屋をノックすると、疲れはてた表情の横瀬がドアの隙間から顔を出した。
「チッ……また、あんたらか……」
横瀬は軽く舌打ちをし、3人に悪態ついた。
有村は核心的に横瀬に言った。
「貴方が持っているこの村の情報を教えてもらいたい」
てっきり「過去の罪」の事を聞かれると思った横瀬は、思わず目を丸くした。
有村は言った。
「理由があってこの村のに来たのでしょう?その理由を伺いたい」
横瀬はあからさまに嫌そうな表情で言った。
「刑事さん……それは言えないって言ったでしょ……」
すると、縁が横瀬に言った。
「あんた……どうなっても知らないぜ」
縁の言葉に横瀬は嫌悪感を示した。
「また……このガキ……」
嫌悪感を示した横瀬だったが、以前ほどの勢いはなかった。よほど疲れているのだろうか、覇気がなかった。
縁は続けた。
「この村で何かとんでもない事が行われている……。あんたはその正体を知っているのだろ?」
縁の言葉に横瀬は目を丸くして言った。
「お前……ただのガキじゃないな」
縁は黙ってニヤリとして横瀬を見た。
縁の態度に横瀬は、全て見透かされた感じになり、気分が少し悪くなった。
有村は言った。
「あなたを守るためでもあるんだ」
すると、横瀬は少し考え、そして口を開いた。
「わかった……話す……」
その言葉に縁と有村は安心した表情になったが、すぐに横瀬は水をさした。
「でも……今は言えない……」
有村は怪訝な表情で言った。
「どういう事ですか?」
横瀬は渋い表情で言った。
「少し整理する時間が欲しい……そうだな、今晩……また部屋に来てくれ」
有村は少し考えて、横瀬に答えた。
「わかった。じゃあ今晩また来ます」
こうして3人は横瀬の部屋をいったん離れた。
廊下をしばらく歩くと、桃子が言った。
「よかったのか?シメ上げて喋らしたらよかったんじゃないのか?」
縁は苦笑いして言った。
「物騒な事を言うなよ。せっかく話す気になったんだぜ?変に問い詰めてまたゴネられたら面倒だよ」
有村は少し笑って言った。
「はは、確かに……まぁ、話す気になってくれたみたいだから、よしとしよう」
縁は呟いた。
「でも整理したいって……どういう意味だ?」
……午後8時…食堂……
特に進展のないまま時間だけが過ぎていき、気付けば夜になり3人は夕食をとることにした。
この村にやって来て2回目となる夕食は、肉料理を中心とした洋食で、とても美味しかった。
牛肉のステーキに、サラダにスープ、自家製のパンなど、どれも美味しくて縁は満足していた。
全ての料理を平らげた縁は、背筋を伸ばしながら、有村に言った。
「なぁ有村さん」
「なんだい?」
「横瀬の部屋には何時に行くんだ?」
「そうだな……夕飯食べてからでいいんじゃない」
すると縁は有村と桃子の、料理の残量を見て立ち上がった。
桃子が縁に言った。
「どうした?何処かへ行くのか?」
「まだ食べんのに時間が掛かるだろ?ちょっと外の空気吸ってくる」
そう言うと縁は食堂を出て、そのまま宿舎を出て行った。
宿舎を出ると、縁はすぐに村の中央に誰かがいることに気付いた。天菜だった。
天菜は纏っている装飾品は、月の光を浴びて美しく輝き、神々しくも思えた。
縁は引き寄せられるように、天菜のいる場所まで歩いた。
天菜との距離はだんだんと近づいていき、その距離は僅かになった。
すると縁の存在に気付いたようだが、天菜は縁の方を振り向くことなく言った。
「月が美しいな……」
月に照らされた天菜は、装飾品のせいもあってか、神秘的にも感じる。
天菜は続けて言った。
「夜風に当たりに来たのか?少年……」
縁は天菜の後ろ姿から視線をそらす事ができない。すると天菜はそんな縁を察してか、縁の方を振り向いて言った。
「身構えるな……楽にしなさい」
縁はやっと口を開いた。
「どういうつもりで……あんな預言をした?」
天菜は縁の目を見つめて言った。
「私は……ただ、忠告しただけだ」
縁も天菜から目をそらさない。
「忠告だと……あんな死に方をしたのにか?」
天菜は黙って縁を見ている。
縁は言った。
「金尾は殺されたんだ」
天菜は言った。
「そうだ……あの男は『過去の罪』に殺された……」
縁は思わず声を強めた。
「違うっ!……確かに金尾は錯乱していたから、一見そう見えない事もない……」
天菜は布で口を覆っているので、目もと以外は隠れているが、表情を崩していないのはわかった。
縁は言った。
「実態の無いものが人を殺すなんて……ありえないんだよっ!」
すると、天菜は村の畑の方角を見た。
「少年……この村はどうだ?」
「話をそらすなっ!」
天菜は気にせず続けた。
「私はこの村を……誰よりも大事にしている……」
縁は怪訝な表情をした。
天菜は続けた。
「この村で採れる食物や、作られる物は……活力に満ちている」
縁は言った。
「ここの人達を見ていればわかるよ……」
天菜は縁の方を振り向き、そして目を見つめて言った。
「この村を壊す者は……誰であろうとも、決して許さない」
「何?………」
天菜のまっすぐな目に、縁は少し怯んだ。
天菜は言った。
「今晩……また『過去の罪』によって、苦しむ者の姿が見えた……」
縁は目を見開いた。
「な、何だと?」
「早く行け……」
「まさか……」
縁は宿舎に向かって走り出した。
走り去る縁の後ろ姿を見て、天菜は呟いた。
「少年……絶ち切れるか?この村の罪を……」
縁は勢いよく食堂の扉を開けて、中を確認した。
息を切らしながら、誰が食堂にいるのかをじっくり確認する。桃子に有村……風間と東……皆は無事のようだ。だとすれば……。
息を切らした縁を見て、桃子は言った。
「ど、どうした?縁……」
縁は声を荒げた。
「今すぐ……横瀬の部屋にっ!……天菜の預言が出たっ!」
その言葉に食堂の空気は凍りついた。縁の様子からして、その預言は横瀬の身に何かが起こることが、安易に連想できたからだ。 有村と桃子立ち上がり、すぐに準備をした。
有村は言った。
「風間さん、村の入口を閉鎖してっ!」
風間にそう言い残し、3人は食堂を出て横瀬の部屋に向かった。
横瀬の部屋は食堂と同じく1階なので、すぐに到着した。
有村は勢いよく扉を叩いた。
「横瀬さんっ!横瀬さんっ!」
ドンッドンッドンッと扉を叩く音が、廊下にこだまするが返事はない。
有村はもう一度扉を叩いた。
「横瀬さんっ!返事してくれっ!」
しかし横瀬からの応答はなく、扉を叩く音が虚しく廊下に響くだけだ。
有村は風間から回収した、マスターキーを鍵穴に入れた。
「開けるぞ……」
縁と桃子は黙って頷いた。
「僕が先に入って、部屋を確認する……」
有村はそう言うと、そっと扉を開ける。部屋の中は暗くてよくわからない。
有村が部屋に入ったのを確認して、縁と桃子はそっと、隙間から部屋の中を除いた。
暗くてよくわからなかったが、部屋の中央に何かがある。縁と桃子は瞬時に思った……おそらく……あれだろうと……。
有村が部屋の入口にある証明のスイッチを押すと、部屋が明るくなり、それは明らかになった。
それは……。 刃物で胸を貫かれ、大量の血を流した……横瀬だった。
縁の脳裏に天菜の言葉と姿がよぎった。
「過去の罪に苦しむ姿……」という言葉と、月に照らされた神々しい天菜の姿が……。
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