天才・新井場縁の災難

陽芹孝介

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第七話 ピエロは笑う

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  縁の推理を聞き、明奈が犯人だと告げた桃子により、部屋の空気は一気に緊張感に包まれた。
  その緊張感のなか、章造が目を丸くして言った。
 「あ、明奈が……牧島を、殺したじゃと!?」
  章造が言葉を発したのを皮切りに、雄一も言った。
 「そ、そうですよっ!小笠原先生……明奈姉さんが犯人って……犯人はピエロでしょ?姉さんも黙ってないで何とか言って下さいよっ!」
  そう言いながら雄一が目線を明奈に移すと、明奈は下を向いて黙っていた。
  一方屋上では、推理に付いての疑問を、ピエロが縁に投げ掛けた。
 「ひとつわからない事がある……俺は部屋に盗聴機を仕掛け……部屋の会話を聞いていたが……いつ犯人に気づいた?君の口ぶりだと、ハンカチに気づく前から、西岡明奈が犯人だと思っていたようだが……」
  縁は言った。
 「ハンカチはあくまでも物的証拠……殺害された牧島さんの胸ポケットからハンカチが消えていた……おそらく殺害後に抜き取り、今も自身が持っているのだろう……。ただ、確かにお前の言う通り、ハンカチに気づく前から犯人の目星は付いていた」
  ピエロは興味津々といった感じだ。
  縁は続けた。
 「犯人は偽の予告状を、山王商事に送っている……広報にね」
  ピエロは言った。
 「だとしたら、広報部の大島が自作自演した可能性もあるぜ……」
  縁はピエロに言った。
 「確かにその可能性もあるが……広報にはもう一人いる……」
 「それが西岡明奈だと言うのか?……しかし彼女の肩書きは会長の娘ってことしか……」
 「俺は今朝、山王商事の広報に行ってきた……。その時の印象は、よく整理された職場だった……広報は主に企業PRやプロモーション等を請け負う部署だ……資料などが散乱し、散らかっていても、おかしくはない……」
  ピエロはピンときていないと、いった様子だ。
  縁は続けた。
 「それなのに、見事に整理され、キレイな職場だった。上司がよほどのきれい好きで、几帳面なのが伺える」
  ピエロが言った。
 「その上司が西岡明奈だと言うのか?」
  縁は頷いた。
 「彼女は牧島の襟元を、そのハンカチで拭いていた。きれい好きでないと、他人の襟元をハンカチで拭かないし、殺すための仕掛けなら、「プレゼント」と言ってハンカチを胸ポケットに差し込めばいいだけだ……」
  ピエロは言った。
 「しかしそれだけで犯人にするには……少し弱いぜ……」
  縁はニヤリとして言った。
 「もちろんそれだけじゃねぇ……。広報の大島は予告状を、中身を確認せずに上司に渡している」
  ピエロは言った。
 「なるほどね……。大島の上司は西岡明菜……それで犯人を絞った訳か……」
 「ああ……そして、ハンカチに気づいて、犯人を確定したんだ……」
  一方の桃子は、縁の推理の続きを皆に話した。
  すると章造が言った。
 「明奈が……明奈が殺人じゃと!?信じられん……明奈っ、違うと言ってくれっ!ハンカチなど持ってないんじゃろ?」
  章造は明奈をすがるような目で見た。
  すると明奈はようやく口を開いた。
 「もう……もういいの……お父様……」
  すると雄一が言った。
 「あ、明奈姉さん……」
  明奈は桃子を見つめて言った。
 「私が……牧島さんを…………殺したわ……」
  桃子は言った。
 「認めるのだな?」
  桃子にそう言われると、明奈はスカートの内側から、ハンカチとレースの手袋を出した。手袋とハンカチには血が付いていた。
  それを見た章造と雄一は項垂れた。
  桃子は小声で呟いた。
 「縁……こっちは終わったぞ……」
  イヤホンから桃子の声を聞いた縁は、ピエロに言った。
 「西岡明奈が罪を認めたよ……」
  ピエロが言った。
 「そのようだな……で、いいのか?殺人犯を放っておいて……」
  縁は言った。
 「俺が信頼している女性ひとに任せてある。それよりも……」
 「それよりも?」
  縁は目を見開いき、不敵な微笑みした。
 「最初から俺の興味は、殺人犯よりお前に向いちまってんだ……」
  縁の様子を見て、ピエロはニヤリとした。
 「恐いねぇ……」
  縁は言った。
 「後はお前の喜劇の種を証すだけだ……」
  ピエロは縁に突きつけられた、麻酔銃を見て言った。
 「あぶない野郎だな……目がイッちまってるぜ」
  縁は気にせず言った。
 「お前はまず……警備員として、このビルの防犯に、数日前から加わった……。下調べも予てな……。そして犯行当日に連絡ミスを誘発し、人員を減らし、屋上の警備を手薄にし、脱出ルートを確保した」
  ピエロは口角を上げて聞いている。
  縁は続けた。
 「屋上の警備をかって出たお前は、犯行時間の数分前に、『マリーの泪』が保管されている部屋の入口の警備員と「木村警部の指示」とでも言って、屋上の警備と入れ替わった」
  縁は口角を上げた。
 「そして犯行時間になり、ビルが停電したのを見計らって、部屋に侵入し『マリーの泪』を奪い、非常階段から屋上に逃走した」
  するとピエロが言った。
 「肝心な種が残ってるぜ……俺があのショウケースをどうやって解除したのか……あれは指紋認証システムだ……。あのジイさん以外の人間が開けるのは不可能だぜ」
  縁は不敵な微笑みを浮かべた。
 「言っただろ?「数日前からお前はこのビルに入ってる」と……」
  するとピエロの口元が、確かに少しだが、ピクッと反応した。
  縁は言った。
 「つまりお前は……『マリーの泪』より先に盗んだんだ……『章造氏の指紋を』……」
  縁は突きつけている、麻酔銃を握る手に、力を込めた。
 「お前は章造氏の指紋を採取し、特殊な手袋を造り……あのショウケースを解除したんだ」
  ピエロはニヤニヤしながら、下を向いている。
  縁は言った。
 「ゲームオーバーだぜ……」
  すると非常口から、木村率いる捜査員達が、大勢現れた。
  木村は声を荒げた。
 「観念しろっ!ピエロっ!」
  ピエロは木村に言った。
 「遅かったな……木村の旦那。でも、今回はいい助っ人連れてきたな……」
  ピエロの余裕な態度を不信に思った縁は、ピエロに言った。
 「状況を理解してんのか?この引き金を引いたら、お前はめでたく逮捕だぜ……」
  ピエロはニヤニヤしたままだ。
  縁は麻酔銃を強調した。
 「俺が引き金を引かないと思ってんのか?」
  ピエロは言った。
 「そんな事は思ってねぇよ……ただ、見事に種を証した少年に、面白いものを見せてあげようと、思ってねっ……」
 「何っ!?面白いもの?」
  警戒している縁をよそに、ピエロは軽く咳払いをし、そして口を開いた。
 「縁……私を撃つのか?」
  縁はその声を聞いて、さすがに動揺した。ピエロの発するその声は……桃子のものだった。
  縁は思わず怯み、ピエロはその一瞬を逃さずニヤリとした。
  次の瞬間、ピエロは地面に何かを投げつけた。それはパーンッという激しい音を発すると同時に、辺りを煙に包んだ。
  煙は瞬く間に、屋上全体に拡がった。
  木村の声が屋上に響き渡る。
 「えっ、煙幕だっ!」
  屋上はパニックに陥る。
  すると煙幕のなかから、縁に向かって声がした。
 「なかなか楽しかったぜ……」
  その声はピエロだった。
  ピエロは続けた。
 「今回は引き分けって事にしておいてやる……」
  縁は煙幕に向かって言った。
 「何をっ!?……」
  すると煙幕の中から、縁に向かってなにかが飛んできた。
  縁がそれをキャッチすると、ピエロは言った。
 「そいつは返すぜ……本物じゃねぇからな……」
 「何っ!?」
 「じゃあな、天才少年っ……機会があったら、また遊ぼうぜ……」
 「待てっ!ピエロっ!」
  縁は煙幕に向かって叫んだが……返事は返ってこなかった。
  やがて煙幕は晴て、屋上は元に戻ったが、ピエロはすでにおらず、縁と木村率いる捜査員が、屋上に取り残される格好になった。
  縁はピエロから受け取った物を、確認した。それは、『マリーの泪』だった。
  縁は苦笑いをした。
 「あの野郎……」
  縁の様子を元に木村がやって来た。
 「新井場君っ……無事か?『マリーの泪』は?」
  縁は『マリーの泪』を手でブラつかせた。
 「逃げられたよ……」
  木村は縁から『マリーの泪』を受け取った。
 「しかし……お手柄だ……『マリーの泪』は無事だからな」
  縁は呟いた。
 「引き分けか……言ってくれるぜ、あの野郎……」
  その後到着した、有村率いる捜査一課に明奈は連行された。
  明奈はマスコミが待つ表口を堂々と歩き、パトカーに乗り込んだ。マスコミが放つカメラのフラッシュに、臆することなく……。
  そして章造や雄一が見守るなか、明奈を乗せたパトカーは、警視庁に向かって走って行った。
  血の繋がった肉親がパトカーに乗せられて、目の前から去っていく心境を、縁や桃子、椿が知るすべはなかったが、章造と雄一の憔悴した表情を見れば、心中を察する事くらいはできた。
  1階のエントランスから、ガラスの窓越しにその様子を伺い、3人は少し沈黙したが、桃子が口を開いた。
 「ピエロは……どういう奴だった?」
  縁は苦笑いをした。
 「ふざけた野郎だったよ……」
  椿が言った。
 「なんか……色々起こりすぎて、整理できてないんだけど……」
  桃子が言った。
 「しかし『マリーの泪』が偽物とは、どういう意味だ?」
  縁は言った。
 「さぁな……高価な宝石には代わりないけど、『マリーの泪』ではなかったって、事じゃないのか……」
  椿が言った。
 「意味がわからないんだけど……」
  すると男性の声がした。
 「それは今後警察が、調べる事だよ……」
  声の主は有村だった。
  有村はニコニコしながら言った。
 「またまたお手柄だねぇ……お二人さん」
  桃子は誇らしげに、有村に言った。
 「私の名推理を、警視殿にも聞かせたかったぞ」
  有村は言った。
 「それは残念……聞きたかったなぁ、桃子ちゃんの推理を……」
  縁は呆れ気味に言った。
 「よく言うよ……」
  有村は縁に言った。
 「お手柄だったね……どうだった?ピエロは……」
 「掴み所のないふざけた野郎って、感じだな……」
 「表にはマスコミが、わんさかいるよ……明日からヒーローだね」
  縁は笑って言った。
 「ははっ……それは桃子さんに任せるよ……」
  こうして短くて長い夜は終わった。縁とピエロの対決は、引き分けという形になったが、縁は「奴にはまたどこかで会う」と思えて仕方がなかった。


   ……翌日放課後……


  ピエロとの対決を終え、一夜経った翌日、縁は通常通り学校に通った。
  今朝の朝刊に『小笠原桃子!!ピエロ撃退!!』と大々的に紙面を飾っていたので、学校の話題はそれでもちっきりだった。
  縁は放課後、担任の椿に応接室に呼ばれ、その扉の前にいる。
  縁は軽くノックをし、応接室の扉を開けた。中には縁の予想通り、ソファーに腰を掛けた木村警部が縁を待っていた。
  木村は縁に対して、軽く手を上げた。
 「よっ!新井場君……」
  木村の対面の席には、椿も座っていた。
  縁は椿の隣に腰を掛けた。
 「で、どうしたの?昨日の今日で忙しいだろ?」
 「君と小笠原先生には世話になったからな……現状わかってる事を教えに来たんだ」
 「『マリーの泪』が偽物だったって、話かい?」
 「それもあるが……西岡明奈の犯行動機も伝えに来た」
 「わざわざどうも……」
  木村はテーブルに置かれた、コーヒーを一口飲んで、話始めた。
 「『マリーの泪』の件だが……調べた結果、偽物だと判明した」
 「本物のサファイアには変わりないが……『マリーの泪』ではなかった……」
  木村は目を丸くして言った。
 「よくわかったな……」
 「あの宝石にはただの偽物とは、思えない輝きがあった……高価なサファイアに変わりないだろ」
  木村は頷いた。
 「ああ……確かに本物のサファイアだが、『マリーの泪』ではない。『マリーの泪』もサファイアだが、あれには特殊な技法が用いられている」
  縁は目を細めた。
 「特殊な技法?」
 「本物の『マリーの泪』は光に当てると、宝石の中に『マリーの刻印』が浮かび上がるらしい……」
 「それがあのサファイアにはなかったって、事か……」
  木村は頷いた。
 「そうだ……本物のサファイアに変わりなかったから、鑑定結果も本物だったんだ」
  縁はニヤリとした。
 「あのじいさんの悔しがってる顔が、目に浮かぶよ……」
  木村は続けた。
 「入手ルートは現在調査中だ。次に西岡明奈の件だが……」
 「恋人同士だった……」
  木村はまたもや目を丸くした。
 「よくわかったな……」
  縁は明奈と牧島のやり取りを思い出していた。ハンカチで牧島の襟元を丁寧に拭っている、明奈の姿を……。
 「あの様子を見たらわかるよ……椿先生が言っていた『大人の男女』って感じかな……」
  木村は頷いた。
 「新井場君の言う通り、あの二人は恋人同士だった……。しかし牧島は専務のポストと引き換えに、彼女を捨てたんだ……」
  縁は理解できない表情だ。
 「それだけで、人を殺すのか?仮にも恋人だったんだろ?しかも明菜は結婚してるだろ?名字が山王じゃないから……」
  すると椿が言った。
 「恋人だったから……本気で愛していたから……許せなかったのかも……」
  縁はしらけた表情を椿に向けた。
 「何恥ずかしい事を言ってんの?」
  椿はしらけた表情を縁に返した。
 「新井場君にはわからないわ……大人の男女恋愛は……」
  すると木村は軽く咳払いをした。
 「ゴホンッ……まぁ、『マリーの泪』は牧島が入手したようだからな……それで西岡明奈は今回の犯行を思い付いたのだろ……」
  縁は言った。
 「危うくピエロも殺人犯になるところだったからな……」
  木村は憮然とした表情で言った。
 「ピエロは……人は殺さん……」
  縁はニヤニヤしながら言った。
 「長い付き合いだけあって、よくわかってるねぇ……」
 「フンッ……大きなお世話だ……」
  縁は表情を変えて、木村に言った。
 「木村警部……あのピエロって奴は何なんだ?対峙していて感じたけど……ただの窃盗犯じゃない……奴の原動力はいったい……」
  木村は難しそうな表情をした。
 「俺もよくはわからん……しかし、以前奴が言っていたのは「美しい物は、あるべき所にあってこそ、美しい」と、言っていた事がある」
  縁は顎を指で摘まんだ。
 「あるべき所にあってこそ、美しい……。なるほど、だから返したのか……」
  椿が言った。
 「どういう事?」
 「『マリーの泪』は彫刻『マリー』のために創られたネックレスだ……仮にあれが本物だったら、『マリー』に返していたんじゃないかな……」
  木村は頷いた。
 「なるほど……。しかし『マリー』の存在は誰も知らないと言われているのだぞ……」
  縁は言った。
 「それは俺も聞いたことがある……。現在出回っている彫刻『マリー』はどれもレプリカで、本物は誰も知らないと……」
  椿は難しそうな表情をした。
 「なんか……複雑ね……」
  縁はニヤリとして言った。
 「まぁ……次は逃がさねぇ……絶対捕まえてやるよ」


  ……喫茶店風の声……


  週末の土曜日、午前……縁は風の声で朝から入り浸っていた。
  巧から渡された昨日の朝刊に目を通して、溜め息をついた。
 「はぁ……桃子さん、派手に写ってるな……」
  昨日学校でも話題になった『小笠原桃子!!ピエロ撃退!!』の写真つきの記事だった。
  巧が言った。
 「写真の隅を見てみろよ……お前も写ってるぜ……後ろ姿だけど」
  巧が言うように、写真には凛とした桃子と、隅の方に後ろ姿が写っている縁がいた。
  縁は言った。
 「まぁ後ろ姿だから、誰にも気づかれねぇだろうけど……」
  巧はニヤニヤしながら言った。
 「しかしこの写真……先生、格好よく写っているじゃん……先生の喜んでる姿が目に浮かぶよ……」
  縁はげんなりした。
 「笑ってる場合じゃねぇよ……ますます調子にのっちまうぜ……」
 「でも縁が、先生に推理させたんだろ?」
 「少し後悔してる……」
  すると店に誰かがやって来た。言わずと知れた桃子だった。
  桃子はニコニコしながら縁の隣に座った。
 「いらっしゃい……先生……」
  巧がそう言うと、桃子は「アイスコーヒー」と言い、縁が持っていた朝刊を横から覗いた。
  桃子は言った。
 「写真写りは問題ないな……しかし気に入らない事がある……」
  縁は怪訝な表情で言った。
 「なんだよ?」
 「何故縁が後ろ姿なのだ?せっかくのツーショット写真のチャンスだったのにっ!」
  縁は呆れた様子で言った。
 「何を言ってんだ……」
 「そもそも何故マスコミから逃げたんだ?有名になるチャンスなのに……」
 「俺は目立ちたくないのっ!」
  桃子は理解しがたい表情で言った。
 「縁のように有能な人間が、世間に知れるのは当然だと思うがな……私のように……」
  縁は頭を抱えた。
 「はぁ~……」
  桃子は縁の肩を叩いた。
 「心配するな縁……今回の事で、私はさらに有名になったが、お前と別れるような事はしない……お前と私はずっと一緒だ」
  縁は目を細めて言った。
 「何を言ってんだ……別れるって……それにいつ恋人同士になった……」
 「こっ、恋人……縁、何を言ってるのだっ!ふふふ……恋人……」
  桃子は一人で舞い上がっている。
  縁は呆れて呟いた。
 「何なんだこの人は……」
  そんな二人の様子を見て、巧はゲラゲラ笑っている。
  学校が始まり、しばらく桃子に会わなかったが、結局最後はいつもの感じになる。
  縁はこの騒がしさに、どこかホッとした。


  ……某所……


  とある一室で、一人の男性が新聞を読んでいた。
  男性の読む記事は『小笠原桃子!!ピエロ撃退!!』の記事だった。
  しかし、男性の視線は、凛とした桃子ではなく、後ろ姿の縁に向いていた。
 「やっと見つけた……」
  そう言うと男性はニヤリとした。
 「謎と向き合うのを放棄し、出ていったテメェが……謎を解いてしまったために、俺の前に姿を現す……」
  男性は新聞を畳んで、部屋の窓際に立った。
 「会いたかったぜ……エニシ……」
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