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第四話 海上攻防戦・前編
④
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……船内会議室……
爆弾騒ぎはトップシークレットで、船員もごく僅かな人間しか知らなかった。
その中にはギャラリールームで縁と桃子が見た人物……スーツ姿に眼鏡を掛けた、背の高い男性……高山というオーナーの友人……。
それにギャラリールームで絵を見ていた、制服姿の男性……神田。
神田はこの船の船長だ。
それと先程縁と桃子を呼びに来た木山は副船長だった。
そしてもう一人同じ制服姿の中年男性がいる。
制服の上からでもわかる程の筋肉質の体つきに憮然とした表情は、どこか取っ付きにくい。
彼は守川と言う男性で、この船の操縦士だ。
爆弾事件とオーナー殺人事件の事を知っているのはこの会議室にいる6人だけのようだ。
オーナーの友人の高山が言った。
「こんな子供と若い女に……何を期待するんだ……」
高山は縁と桃子を役不足と思ったのか、納得のいかない様子だった。
桃子が噛みついた。
「貴様……この私を知らないのか?私と縁はこれまで数々の事件を解決してきたのだぞっ!」
事件を解決してきたのは縁だったが、縁はあえて黙っていた。
高山は言った。
「知ってますよ!小笠原先生……しかし、貴女はたかが推理作家でしょ!」
桃子は高山を睨み付けた。
「貴様っ!私をバカにしてるのかっ!?」
船長の神田が二人の間に入る。
「二人もと落ち着いて下さい……警視庁の警視さんが、推薦する程です……とにかく今は協力しましょう……」
神田の仲裁に二人はとりあえず矛を収めた。
高山と違い神田は話がわかりそうだ。
縁は神田に聞いた。
「船長……現状を教えて下さい……」
神田は言った。
「はい……今朝、警視庁の方に犯行声明が届いたそうです……船に爆弾を仕掛けたと……」
桃子が言った。
「犯人の要望は?」
神田は言った。
「解放したければ……乗客船員75名×1億……つまり75億円を用意しろと……」
縁は言った。
「法外な額だな……犯行グループは紅い爪ってところか……」
高山は少し驚いて言った。
「よくわかったな……」
縁は言った。
「まず犯行が大掛かりなので、単独犯ではない……すなわち組織的犯行……。紅い爪という組織は身代金目的の犯行の場合、必ず1人当たり1億円を要求してくる……よって、このような大きな事件を起こし、なおかつ1人1億円を要求するのは……紅い爪くらいしかいない……」
神田は言った。
「驚きました……有村警視からの話と同じです。そうです……紅い爪の犯行だと警察は言っていました」
縁は神田に聞いた。
「船が停止しているのは……紅い爪の要求で?」
「はい……何故かそうしろと……」
「それに警察が従っているのは……やはり爆弾の形状がわからないからですか?」
「おっしゃる通りです……」
縁は呟いた。
「まずは爆弾探しからか……」
縁と船長のやり取りを聞いていた、副船長の木山は桃子に言った。
「何者なんです?あの少年は……」
桃子はニヤリとして言った。
「ふふん……凄いだろ?うちの縁は」
縁は神田に言った。
「因みに先程のぼや騒ぎはやはり発煙筒ですか?」
神田は目を見開いて驚いている。
高山も、木山も同様に驚いているが、操縦士の守川だけは憮然とした表情だ。
神田は言った。
「驚きました……何故発煙筒だと?」
「まずあの区間で自然発火は起こりません……それにスプリンクラーが稼働していませんでした」
縁のスプリンクラーの説明が始まった。
「スプリンクラーヘッドは、火災時の熱により容易に溶ける合金……ヒュージブルリンクや、火災の熱で破裂する揮発性の液体……。例えばエーテル、アルコール等を満たしたガラス球……グラスバルブで封じられている、閉鎖式スプリンクラーヘッドが用いられる……」
回りの人間は唖然として話を聞いている。
縁は言った。
「なので発煙筒の熱量程では作動がしにくい……先程確認しましたが、この船のスプリンクラーも、閉鎖式スプリンクラーヘッドを用いた物だった」
説明を聞き終えた神田は、高山に言った。
「高山様……新井場様と小笠原様に協力を請いましょう……拒む理由はないです」
高山は渋々といった感じで頷いた。
「わかりました……」
縁は言った。
「問題はオーナーを殺害した犯人の存在です……」
神田が言った。
「同一犯では?」
縁は言った。
「どちらにせよ大人しくしているとも思えない……。同一犯だとして、オーナーが殺害される理由は?因みに高山さんは、オーナーが殺害される直前まで一緒でしたが……」
高山は激昂した。
「君っ!私を疑ってるのかっ!?」
「そうは言ってません……」
高山は強い口調で言った。
「ギャラリールームを出た後は、オーナーと別れたよ……その後は知らないっ……ほんとだっ!」
すると会議室に電話連絡が入った。
船長は電話をハンズフリーにした。
「連絡が遅くなり、申し訳ないっ!警視庁の有村です」
有村からだった。
縁は言った。
「有村さんっ!おせぇよ……」
有村は言った。
「縁かい?……合流できたみたいだね……それで状況は?」
縁は言った。
「オーナーの堂上さんが……何者かに殺害された……」
「何だってっ!?」
有村の大声に会議室はノイズに襲われた。
有村は言った。
「いったいどうなってんの?」
縁は言った。
「色々起こりすぎて……少し混乱してる」
縁はこれまでの経緯を有村に説明した。
縁は有村に言った。
「とにかく爆弾を探しつつ、オーナー殺害の件も同時進行でやってくしかない……」
有村は言った。
「出来るのかい?……てか、やるしかないか……」
縁は言った。
「下手に動くなよ……なるべくリスクは取りたくない……下手すりゃドカンッだ」
有村は言った。
「縁……携帯の電波は?」
「安信しな、圏外じゃないよ……」
「では、マメに連絡をくれるかい?捜査本部もバタついていてさ……」
「わかった……爆弾を発見したらすぐに連絡する」
有村との連絡を終えて、縁は言った。
「乗客もたくさんいるので、なるべく混乱は避けたい……」
神田が言った。
「情報統制をしっかりしないと、いけませんね……」
縁は神田に聞いた。
「船長……発煙筒の煙が発生した時の対応は?D~F区間を閉鎖したのは聞いてますが……」
神田は言った。
「はい……機械室などのチェックのためにその区間を閉鎖し、乗客の皆様の行動はA~C区間に制限させてい頂きました。幸いレストランや客室は A~C区間ですので……支障はないかと…… 」
縁は言った。
「非常用のサイレンが鳴ったのが……確か、11時40分くらい……警察から連絡が入ったのは?」
神田は言った。
「発煙筒の騒ぎの前でしたので、11時30分頃だったと……」
縁は顔をしかめた。
「妙だ……」
桃子が言った。
「何が妙なんだ?」
縁は言った。
「発煙筒で煙を出す意味がわからない……」
神田は縁に言った。
「と……言いますと?」
「発煙筒をカモフラージュにし、その間に爆弾をセットしたならば……発煙筒の騒ぎを起こすのも納得できるけど……警察から連絡が入ったのは、その騒ぎの前……。だとすれば、爆弾はあらかじめセットされていた事になる……」
桃子が言った。
「確かに、発煙筒を使い……わざわざ騒ぎを起こす必要がないな……」
縁は言った。
「それに……ギャラリールームの前ってのも、気になる……」
高山が言った。
「ただのイタズラじゃないのか?」
縁は神田に言った。
「船長……念のために、この船の発煙筒が減っていないか、調べておいてもらえますか?」
「はい……わかりました……」
すると今まで憮然として黙っていた、守川が口を開いた。
「船長……そろそろ操縦室に戻りたいのですが……」
顔に似合って低い声質だった。
縁は言った。
「乗客には部屋に戻ってもらったほうがいいでしょう……殺人犯が潜んでいますから……」
神田は言った。
「その方がいいですね……なるべく混乱を避けるよう注意し、乗客の皆様にアナウンスします」
縁は言った。
「僕の携帯番号をメモにしておきました……。何かあれば連絡を……それと、出来れば船長の連絡先とこの会議室の連絡先を教えて下さい。僕と桃子さんはこれから船内を調べます……」
会議室に集まった者はそれぞれ連絡先を交換し、一時解散する事になった。
会議室を出た縁と桃子はギャラリールームに向かった。
桃子が縁に言った。
「機械室に行くんじゃないのか?」
「その前に少しギャラリールームを見ておきたい……」
「何故だ?」
「なんか引っ掛かる……ギャラリールームの前から発生した煙に……オーナーの殺害……」
「それがギャラリールームと関係していると?」
「わからない……とにかく見ておきたい」
……ギャラリールーム……
ギャラリールームに到着し、縁は部屋を一望した。
相変わらず神山泰山の作品が一際目立っていた。
それらを見て縁は呟いた。
「何かが……変だ」
桃子は言った。
「変?どこがだ?……先程来た時と変わらないが……」
縁は首を傾げてる。
「何か違和感が……くそっ、写真撮っておいたら良かったよ……」
縁はとりあえずギャラリールームを隅々まで、写真を撮った。
桃子が言った。
「取り越し苦労だったようだな……」
縁はしかめっ面で言った。
「チェッ、そんな言い方しなくても……」
桃子は言った。
「機械室に行くぞ……私は絵画にあまり興味がない」
桃子はそう言うとギャラリールームを出て行った。
縁は呟いた。
「絵の鑑賞に来たわけじゃないんだけど……」
縁も後を追うようにギャラリールームを出た。
縁から見て機械室に向かう桃子は、どこか焦っているようにも見えた。
桃子の後ろを歩く縁は桃子に言った。
「桃子さん……何を焦ってんだ?」
桃子は振り向かず言った。
「さっさとこの事件を片付けたいだけだ……」
「ふぅん……俺には手柄を焦っているように見えるけど……」
桃子は立ち止まったが、振り向かず言った。
「あの高山とか言う男……許せん」
縁は呆れて言った。
「そんな事だろうと思ったよ……」
桃子の後ろ姿は、先程の高山とのやり取りを思い出したのか……怒りに満ちていた。
「私と縁をバカにするとは……許せん……」
「それで高山さんを見返してやろうと、手柄を焦っている訳か……」
「悪いか?」
「別に……でも、焦るとろくな事ないぜ……。視野が狭くなり、重要なポイントを見落とす……」
桃子は縁に背を向けたまま、黙っていた。
縁は言った。
「まぁ……桃子さんの気持ちもわかるよ……。俺も桃子さんの事を悪く言われたら、頭にくるから……」
「縁……」
「だから、さっさと片付けて……バカンスを楽しもうぜ」
桃子は振り返り縁を見た。桃子の表情には怒りは無く、やる気に満ちていた。
「縁……お前と言うやつはっ!必ず私たちで事件を解決しよう……」
「単純なやつ……」
すると、縁の携帯に着信が入った。
有村からだ。
桃子は言った。
「何だ?警視殿か?」
「そうみたい……」
「まったく……私のやる気に水を指して……先に行くぞ」
そう言うと桃子は先に機械室に行ってしまった。
縁は桃子に言った。
「すぐに行くよ……気を付けろよ……」
縁の言葉に桃子は振り向かず、手を振った。
桃子を見送った縁は、有村からの電話に出た。
「もしもし……」
「縁かい?……どうだいそっちは?」
「進展無しだよ……爆弾は探してる最中だけど……そっちは?」
「とりあえず都内全域に厳戒態勢をひいたけど……相手からの連絡は無く……膠着状態」
「ところで、有村さん……少し頼み事が……」
「何だい?」
「殺されたオーナーとその友人の高山、それに船員の素性を知りたい……それと、神山泰山の事も……」
有村は少し驚いたように言った。
「泰山?あの画家の?……どうして?」
縁は言った。
「念のためにだよ……」
「まぁ……縁が言うなら調べさすけど……少し時間をくれよ」
「わかったら連絡をくれ……こっちに動きがあれば、俺からも連絡をする」
縁は電話を終えて、機械室に向かおうとしたが、ある事に気付いた。
「パンフレット桃子さんだ……機械室の場所がわからん……」
……F区間機械室……
一足先に機械室に到着した桃子は、困惑していた。
ボイラーや、その他重機が要り組んでおり、どこか不気味な感じだ。
「映画やドラマだと……このような場所でよく銃撃戦をしているな」
桃子はそう呟きながら、奥へと進む。
「爆弾を仕掛けるなら、被害が拡大しやすい機械室だと思ったんだが……」
桃子は爆弾を探しながらさらに奥へと進んで行く。
すると奥に扉を発見した。どうやら非常口のようだ。
「ここで終わりか……うん?」
桃子が引き返そうとした時、通路にある鉄の棚と壁の間に何が挟まっているのを見つけた。
桃子はそれを取りだし、包まれてる布を取った。
桃子はそれを見て、目を見開いた。
「これは?……そうか!だからあの時縁は……」
その時だった。
「うっ!!」
桃子の首筋に電流が走り、体はビクリとなり……桃子はその場で気を失った。
爆弾騒ぎはトップシークレットで、船員もごく僅かな人間しか知らなかった。
その中にはギャラリールームで縁と桃子が見た人物……スーツ姿に眼鏡を掛けた、背の高い男性……高山というオーナーの友人……。
それにギャラリールームで絵を見ていた、制服姿の男性……神田。
神田はこの船の船長だ。
それと先程縁と桃子を呼びに来た木山は副船長だった。
そしてもう一人同じ制服姿の中年男性がいる。
制服の上からでもわかる程の筋肉質の体つきに憮然とした表情は、どこか取っ付きにくい。
彼は守川と言う男性で、この船の操縦士だ。
爆弾事件とオーナー殺人事件の事を知っているのはこの会議室にいる6人だけのようだ。
オーナーの友人の高山が言った。
「こんな子供と若い女に……何を期待するんだ……」
高山は縁と桃子を役不足と思ったのか、納得のいかない様子だった。
桃子が噛みついた。
「貴様……この私を知らないのか?私と縁はこれまで数々の事件を解決してきたのだぞっ!」
事件を解決してきたのは縁だったが、縁はあえて黙っていた。
高山は言った。
「知ってますよ!小笠原先生……しかし、貴女はたかが推理作家でしょ!」
桃子は高山を睨み付けた。
「貴様っ!私をバカにしてるのかっ!?」
船長の神田が二人の間に入る。
「二人もと落ち着いて下さい……警視庁の警視さんが、推薦する程です……とにかく今は協力しましょう……」
神田の仲裁に二人はとりあえず矛を収めた。
高山と違い神田は話がわかりそうだ。
縁は神田に聞いた。
「船長……現状を教えて下さい……」
神田は言った。
「はい……今朝、警視庁の方に犯行声明が届いたそうです……船に爆弾を仕掛けたと……」
桃子が言った。
「犯人の要望は?」
神田は言った。
「解放したければ……乗客船員75名×1億……つまり75億円を用意しろと……」
縁は言った。
「法外な額だな……犯行グループは紅い爪ってところか……」
高山は少し驚いて言った。
「よくわかったな……」
縁は言った。
「まず犯行が大掛かりなので、単独犯ではない……すなわち組織的犯行……。紅い爪という組織は身代金目的の犯行の場合、必ず1人当たり1億円を要求してくる……よって、このような大きな事件を起こし、なおかつ1人1億円を要求するのは……紅い爪くらいしかいない……」
神田は言った。
「驚きました……有村警視からの話と同じです。そうです……紅い爪の犯行だと警察は言っていました」
縁は神田に聞いた。
「船が停止しているのは……紅い爪の要求で?」
「はい……何故かそうしろと……」
「それに警察が従っているのは……やはり爆弾の形状がわからないからですか?」
「おっしゃる通りです……」
縁は呟いた。
「まずは爆弾探しからか……」
縁と船長のやり取りを聞いていた、副船長の木山は桃子に言った。
「何者なんです?あの少年は……」
桃子はニヤリとして言った。
「ふふん……凄いだろ?うちの縁は」
縁は神田に言った。
「因みに先程のぼや騒ぎはやはり発煙筒ですか?」
神田は目を見開いて驚いている。
高山も、木山も同様に驚いているが、操縦士の守川だけは憮然とした表情だ。
神田は言った。
「驚きました……何故発煙筒だと?」
「まずあの区間で自然発火は起こりません……それにスプリンクラーが稼働していませんでした」
縁のスプリンクラーの説明が始まった。
「スプリンクラーヘッドは、火災時の熱により容易に溶ける合金……ヒュージブルリンクや、火災の熱で破裂する揮発性の液体……。例えばエーテル、アルコール等を満たしたガラス球……グラスバルブで封じられている、閉鎖式スプリンクラーヘッドが用いられる……」
回りの人間は唖然として話を聞いている。
縁は言った。
「なので発煙筒の熱量程では作動がしにくい……先程確認しましたが、この船のスプリンクラーも、閉鎖式スプリンクラーヘッドを用いた物だった」
説明を聞き終えた神田は、高山に言った。
「高山様……新井場様と小笠原様に協力を請いましょう……拒む理由はないです」
高山は渋々といった感じで頷いた。
「わかりました……」
縁は言った。
「問題はオーナーを殺害した犯人の存在です……」
神田が言った。
「同一犯では?」
縁は言った。
「どちらにせよ大人しくしているとも思えない……。同一犯だとして、オーナーが殺害される理由は?因みに高山さんは、オーナーが殺害される直前まで一緒でしたが……」
高山は激昂した。
「君っ!私を疑ってるのかっ!?」
「そうは言ってません……」
高山は強い口調で言った。
「ギャラリールームを出た後は、オーナーと別れたよ……その後は知らないっ……ほんとだっ!」
すると会議室に電話連絡が入った。
船長は電話をハンズフリーにした。
「連絡が遅くなり、申し訳ないっ!警視庁の有村です」
有村からだった。
縁は言った。
「有村さんっ!おせぇよ……」
有村は言った。
「縁かい?……合流できたみたいだね……それで状況は?」
縁は言った。
「オーナーの堂上さんが……何者かに殺害された……」
「何だってっ!?」
有村の大声に会議室はノイズに襲われた。
有村は言った。
「いったいどうなってんの?」
縁は言った。
「色々起こりすぎて……少し混乱してる」
縁はこれまでの経緯を有村に説明した。
縁は有村に言った。
「とにかく爆弾を探しつつ、オーナー殺害の件も同時進行でやってくしかない……」
有村は言った。
「出来るのかい?……てか、やるしかないか……」
縁は言った。
「下手に動くなよ……なるべくリスクは取りたくない……下手すりゃドカンッだ」
有村は言った。
「縁……携帯の電波は?」
「安信しな、圏外じゃないよ……」
「では、マメに連絡をくれるかい?捜査本部もバタついていてさ……」
「わかった……爆弾を発見したらすぐに連絡する」
有村との連絡を終えて、縁は言った。
「乗客もたくさんいるので、なるべく混乱は避けたい……」
神田が言った。
「情報統制をしっかりしないと、いけませんね……」
縁は神田に聞いた。
「船長……発煙筒の煙が発生した時の対応は?D~F区間を閉鎖したのは聞いてますが……」
神田は言った。
「はい……機械室などのチェックのためにその区間を閉鎖し、乗客の皆様の行動はA~C区間に制限させてい頂きました。幸いレストランや客室は A~C区間ですので……支障はないかと…… 」
縁は言った。
「非常用のサイレンが鳴ったのが……確か、11時40分くらい……警察から連絡が入ったのは?」
神田は言った。
「発煙筒の騒ぎの前でしたので、11時30分頃だったと……」
縁は顔をしかめた。
「妙だ……」
桃子が言った。
「何が妙なんだ?」
縁は言った。
「発煙筒で煙を出す意味がわからない……」
神田は縁に言った。
「と……言いますと?」
「発煙筒をカモフラージュにし、その間に爆弾をセットしたならば……発煙筒の騒ぎを起こすのも納得できるけど……警察から連絡が入ったのは、その騒ぎの前……。だとすれば、爆弾はあらかじめセットされていた事になる……」
桃子が言った。
「確かに、発煙筒を使い……わざわざ騒ぎを起こす必要がないな……」
縁は言った。
「それに……ギャラリールームの前ってのも、気になる……」
高山が言った。
「ただのイタズラじゃないのか?」
縁は神田に言った。
「船長……念のために、この船の発煙筒が減っていないか、調べておいてもらえますか?」
「はい……わかりました……」
すると今まで憮然として黙っていた、守川が口を開いた。
「船長……そろそろ操縦室に戻りたいのですが……」
顔に似合って低い声質だった。
縁は言った。
「乗客には部屋に戻ってもらったほうがいいでしょう……殺人犯が潜んでいますから……」
神田は言った。
「その方がいいですね……なるべく混乱を避けるよう注意し、乗客の皆様にアナウンスします」
縁は言った。
「僕の携帯番号をメモにしておきました……。何かあれば連絡を……それと、出来れば船長の連絡先とこの会議室の連絡先を教えて下さい。僕と桃子さんはこれから船内を調べます……」
会議室に集まった者はそれぞれ連絡先を交換し、一時解散する事になった。
会議室を出た縁と桃子はギャラリールームに向かった。
桃子が縁に言った。
「機械室に行くんじゃないのか?」
「その前に少しギャラリールームを見ておきたい……」
「何故だ?」
「なんか引っ掛かる……ギャラリールームの前から発生した煙に……オーナーの殺害……」
「それがギャラリールームと関係していると?」
「わからない……とにかく見ておきたい」
……ギャラリールーム……
ギャラリールームに到着し、縁は部屋を一望した。
相変わらず神山泰山の作品が一際目立っていた。
それらを見て縁は呟いた。
「何かが……変だ」
桃子は言った。
「変?どこがだ?……先程来た時と変わらないが……」
縁は首を傾げてる。
「何か違和感が……くそっ、写真撮っておいたら良かったよ……」
縁はとりあえずギャラリールームを隅々まで、写真を撮った。
桃子が言った。
「取り越し苦労だったようだな……」
縁はしかめっ面で言った。
「チェッ、そんな言い方しなくても……」
桃子は言った。
「機械室に行くぞ……私は絵画にあまり興味がない」
桃子はそう言うとギャラリールームを出て行った。
縁は呟いた。
「絵の鑑賞に来たわけじゃないんだけど……」
縁も後を追うようにギャラリールームを出た。
縁から見て機械室に向かう桃子は、どこか焦っているようにも見えた。
桃子の後ろを歩く縁は桃子に言った。
「桃子さん……何を焦ってんだ?」
桃子は振り向かず言った。
「さっさとこの事件を片付けたいだけだ……」
「ふぅん……俺には手柄を焦っているように見えるけど……」
桃子は立ち止まったが、振り向かず言った。
「あの高山とか言う男……許せん」
縁は呆れて言った。
「そんな事だろうと思ったよ……」
桃子の後ろ姿は、先程の高山とのやり取りを思い出したのか……怒りに満ちていた。
「私と縁をバカにするとは……許せん……」
「それで高山さんを見返してやろうと、手柄を焦っている訳か……」
「悪いか?」
「別に……でも、焦るとろくな事ないぜ……。視野が狭くなり、重要なポイントを見落とす……」
桃子は縁に背を向けたまま、黙っていた。
縁は言った。
「まぁ……桃子さんの気持ちもわかるよ……。俺も桃子さんの事を悪く言われたら、頭にくるから……」
「縁……」
「だから、さっさと片付けて……バカンスを楽しもうぜ」
桃子は振り返り縁を見た。桃子の表情には怒りは無く、やる気に満ちていた。
「縁……お前と言うやつはっ!必ず私たちで事件を解決しよう……」
「単純なやつ……」
すると、縁の携帯に着信が入った。
有村からだ。
桃子は言った。
「何だ?警視殿か?」
「そうみたい……」
「まったく……私のやる気に水を指して……先に行くぞ」
そう言うと桃子は先に機械室に行ってしまった。
縁は桃子に言った。
「すぐに行くよ……気を付けろよ……」
縁の言葉に桃子は振り向かず、手を振った。
桃子を見送った縁は、有村からの電話に出た。
「もしもし……」
「縁かい?……どうだいそっちは?」
「進展無しだよ……爆弾は探してる最中だけど……そっちは?」
「とりあえず都内全域に厳戒態勢をひいたけど……相手からの連絡は無く……膠着状態」
「ところで、有村さん……少し頼み事が……」
「何だい?」
「殺されたオーナーとその友人の高山、それに船員の素性を知りたい……それと、神山泰山の事も……」
有村は少し驚いたように言った。
「泰山?あの画家の?……どうして?」
縁は言った。
「念のためにだよ……」
「まぁ……縁が言うなら調べさすけど……少し時間をくれよ」
「わかったら連絡をくれ……こっちに動きがあれば、俺からも連絡をする」
縁は電話を終えて、機械室に向かおうとしたが、ある事に気付いた。
「パンフレット桃子さんだ……機械室の場所がわからん……」
……F区間機械室……
一足先に機械室に到着した桃子は、困惑していた。
ボイラーや、その他重機が要り組んでおり、どこか不気味な感じだ。
「映画やドラマだと……このような場所でよく銃撃戦をしているな」
桃子はそう呟きながら、奥へと進む。
「爆弾を仕掛けるなら、被害が拡大しやすい機械室だと思ったんだが……」
桃子は爆弾を探しながらさらに奥へと進んで行く。
すると奥に扉を発見した。どうやら非常口のようだ。
「ここで終わりか……うん?」
桃子が引き返そうとした時、通路にある鉄の棚と壁の間に何が挟まっているのを見つけた。
桃子はそれを取りだし、包まれてる布を取った。
桃子はそれを見て、目を見開いた。
「これは?……そうか!だからあの時縁は……」
その時だった。
「うっ!!」
桃子の首筋に電流が走り、体はビクリとなり……桃子はその場で気を失った。
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