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第三部 プロローグ~世~
③
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……とある会議室……
葵と歩……九条の3人は、山村の運転で九条大臣が倒れたとある会議室に来ていた。
九条の会社からおよそ一時間ほど車を走らせたところで、そこそこの山奥にある、九条大臣の隠れ家的事務所の会議室だ。
九条本人もこのような場所に、父親が事務所を構えていた事は知らなかったようだ。
シンプルな正方形の部屋……中央に大きな丸テーブル、そして各席に付いている液晶モニター……。
葵は呟いた。
「会議室に……液晶モニター……。ますます奴の可能性が高まりましたね」
歩は葵に言った。
「やっぱこの液晶モニターだよね?」
「奴の犯行だとすれば……間違いないでしょう」
九条の話によると、九条大臣以外に4名がこの部屋にいた。
名前は全てわかっているようだが……細かい素性までは、まだわかっていないようだ。
葵は九条に言った。
「九条大臣と他の4人の関係性も気になります。そして、何故このような隠れ家的な事務所を構え……ここで何をしていたのか……」
九条は言った。
「僕もそれは気になってね……そこの液晶モニターが繋がっているサーバーを調べたんだけど……」
葵が言った。
「何も残っていなかったのでしょ?」
九条は頷いた。
「その通りさ……」
葵は言った。
「しかし今ので一つの可能性が生まれました。それはアマツカの犯行だと……」
歩と九条はギョッとした。
葵は続けた。
「これが偶然が重なった事故だとしても……サーバーに何も残っていないのは不可解です。つまり何者かが意図的にデータを抜き取ったと考えるべきです」
二人は黙って話を聞いている。
葵はさらに続けた。
「つまりこの犯行はアマツカの仕業で、あの時の僕たちのように、液晶モニターを使って九条大臣達を転送させ……その証拠になるサーバーのデータを抜き取った……」
歩は呟いた。
「筋は通るね……」
「これが事故でないのなら……確実にアマツカの仕業ですね」
葵がそう言い切ると、九条は険しい表情をした。
「くそっ!でもなんで父が……」
葵は九条に言った。
「九条さん……僕に少し時間を下さい」
九条は目を丸くして葵を見た。
「何をするつもりだい?」
「白峰百合に会います……」
葵の言ったその名に、九条と歩は目を見開いた。
歩は言った。
「あ……会えるのかい?」
「アマツカの名を出せば……」
九条が言った。
「しかし……彼女になにが?」
「それはわかりませんが……彼女は唯一アマツカの先手をいった人物です」
歩が言った。
「じゃあ……俺も一緒に……」
葵は首を横に振った。
「僕一人で行きます」
歩は激昂した。
「何言ってんだっ!?彼女の正体はまだわかってないんだぞっ!」
「一人じゃないと、彼女は会ってくれませんよ」
九条は歩の肩を叩いた。
「歩……葵君に任せよう……」
「正気か?九条っ!」
九条は葵に言った。
「葵君……ただし条件がある」
九条は葵に条件について話始めた。
……二日後……
葵はとある喫茶店へ来ていた。自宅から一時間程かかる、隣町の喫茶店まで私がんざ足を運んだ。
何故なら知人の目を避ける必要があったからだ。
葵はこれから会う人物との密会を、知人に目撃されたくなかったのだ。
時刻は午後2時……時間帯も人が少ない時間帯を選んだ。
人が少ないのも手伝って、店内は何処か寂しげな雰囲気だ。
するとその寂しげな店に一人の女性が入ってきた。
葵はその女性を確認するなり、表情が険しくなった。
白峰百合だった。百合は葵を確認すると、笑顔で会釈した。
百合はそのまま真っ直ぐ葵の座るテーブル席に来て、葵の正面に座った。
百合は白いシャツにタイトな黒のパンツ……そして葵を見つめるその瞳は、相変わらず虚ろな感じだった。
百合は店員にアイスコーヒーを注文し、しばらく葵を観察した。
まじまじと見つめる百合に対して、葵は真っ直ぐその目を見た。
すると観察の終えた百合が、第一声をあげた。
「貴方から連絡をくれるなんて……嬉しいわ……」
葵は微笑した。
「わかっていたのでしょ?僕が貴女を呼び出す事を……」
「何故?」
「それは、僕と歩さんが……九条さんと接触し……それを貴女は知っている」
今度は百合が微笑した。
「ハッキリと言うわね……」
「だからすんなりと、ここに来たのでしょ?」
二人の間にしばし沈黙が続いた。
すると店員が百合のアイスコーヒーを運んできた。
「アイスコーヒーをお持ちしました」
店員がアイスコーヒー置いて立ち去ると、百合はアイスコーヒーにガムシロップとミルクを入れて、一口飲んだ。
百合は葵の目を見た。
「確かにキミの言う通り……大抵の事は知っているわ」
葵は微笑した。
「監視ですか?」
「それもあるけど……貴方達を守るためでもあるわ」
葵は眉間にシワを寄せた。
「守る?やはり貴女は……」
百合は話を変えた。
「それで?用があって呼び出したのでしょ?」
「そうでしたね……。頼みたい事があります」
「頼みたい事?」
葵は険しい表情で言った。
「九条大臣の素性を調べて貰いたいのです」
百合は微笑した。
「何故……私に?」
「日本の警察には出来ないからです。貴女の正体が、僕の想像通りなら可能でしょ?」
「なるほど……。それで私に見返りは?」
葵は広角を上げた。
「貴女に僕が協力をする……」
百合の表情は一瞬ピクリとなった。
葵は続けた。
「アマツカを追うにあたって、僕が協力するのなら……これ以上にないメリットでしょう……。それはお互いにとっても悪い話ではありません」
百合はコーヒーをもう一口飲んで、立ち上がった。
「三日後……ここで会いましょう……」
百合はそう言うと、喫茶店を後にした。
百合はどうやら承諾してくれたようだ。
葵はアイスカフェラテを一口飲んで呟いた。
「これで動き出す……」
……翌日……
葵は近所の喫茶店にいた。いつものアイスカフェラテを飲みながら、これまでの事を整理していた。
九条の父親が非公開の会議室で倒れ……そこには他に四人の男性……。
現場の状況からアマツカに関わった可能性は高いが……確証はない。
その確証を持つために、謎の女性……白峰百合に九条大臣の調査を依頼したのだが……。
「葵……葵っ!……聞いてるのっ?」
葵を呼ぶ声に、我にかえってみると……幼馴染みの藤崎美夢が膨れっ面で、アイスティーを飲んでいた。
葵は思わず目を丸くした。
「すまない……何の話だった?」
美夢は呆れた様子で言った。
「だから……お兄ちゃんの話っ!さっきからボーッとして……アンタ、今日ちょっと変よ」
葵は気を取り直して言った。
「で?警部殿がどうしたって?」
美夢は再び膨れっ面をした。
「もういい……言わない。せっかく会ったのに……」
葵は申し訳なさそうに言った。
「すまない美夢……少し考え事をしていたんだ……」
「アンタが考え事をするのは、いつもの事だけど……やっぱ変よ」
今度は葵が呆れ顔になった。
「いつもの事なんだろ?変ってなんだよ……」
美夢は難しそうな表情をした。
「わかんない……。直感かなぁ?」
「僕が聞いてるんだ……」
美夢は苦笑いした。
「付き合い長いから……幼馴染みの直感ってやつかな?」
「だから聞くなよ……」
美夢は話を変えた。
「それよりさぁ……今日どうする?」
葵は腕組みをした。
「そうだなぁ……今日は美夢に付き合う約束だからなぁ……。買い物でも行くか?」
葵の提案に美夢は一瞬で笑顔になった。
「うんっ!行こっ行こっ!」
その後二人は街でショッピングを楽しんだ。
雑貨屋や洋服店……それははたから見れば、年頃の美男美女のカップルが普通にデートを楽しむようだった。
そんな年頃の二人は楽しんでいたが……気付けば辺りは暗くなっており、二人は適当な店で食事をする事にした。
二人が入ったのは、若い者が入りそうなオシャレなレストランで、若いカップル達で賑わっていた。
店員に案内され空いているテーブル席に着いた二人は、そのまま店員にオススメディナーセットを注文した。
ディナーを待ってるいる間、二人の話題は将来の話になった。
「葵……大学卒業したらどうするの?」
美夢の問いに、葵は少し首を傾げた。
「言われてみれば……あまり考えた事ないな……」
日々刺激を求め、日常の殆どを退屈に過ごす葵にとって、将来のビジョンなど小事にすぎなかった。
呆れた様子で美夢は言った。
「やっぱりねぇ……そうだと思った」
「では……美夢はどうなのだ?」
美夢は苦笑いした。
「私も……葵の事は言えないんだけど……」
葵も呆れた様子になった。
「似た者同士か……」
「お兄ちゃんみたく……警察にならないの?」
葵は首を横に振った。
「縦社会で自由がない……。警部殿も嘆いていたよ……思うような捜査が出来ない事など山程あるって……」
美夢らクスリと笑った。
「私にも言ってる……それがストレスなんだって……」
「しかし……美夢の言う通り……。僕達も現実を考えなくっちゃな……」
葵の言葉に美夢は、目を丸くした。
「どうしたの?珍しい……アンタがそんな事言うなんて……」
「多意はない……僕達が生きるのは現実だろ?」
「確かに……そうだけど……」
葵が辺りを見てみると、現実を生きる若者が、恋人と過ごしている。
「皆からすれば……平穏な現実が一番理想なのかもな……」
意味深な葵の言葉に、美夢は難しい表情をした。
「ちょっと大袈裟じゃない?」
「ケリを……つけないとな……」
「何か言った?」
「いや……それより楽しみだな……ここの食事……」
葵の呟きに美夢は反応したが、葵はそれを誤魔化した。
この世界を守るために、アマツカと戦う……。
そんな高尚な考えなど、葵は持ち合わせていない。
刺激を求めて日々を生きている葵も、相当なものだが……そんな葵にも譲れないモノはある。
それは人の命や人格を弄ぶ事はしないという事だ。
当たり前の事だが……それが出来ずに、犯罪に手を染めてしまう者も実際に存在する。
その最たる者がアマツカである……と、いうのが葵の認識だ。
アマツカが葵に拘る以上、対決は避けれない。アマツカが何故そこまで葵と歩に拘るのかは……はっきり言って謎であるが、これだけは直感でわかる。
アマツカは何かとてつもなく大きな事を、実行しようとしていると……。
久しぶりに美夢に会って、楽しい食事のはずだか……どうしても考えてしまう。
葵は向かいで食事をしている美夢を見てみた。美夢は美味しそうに食事をした。
葵は再び決意を固めた。今度こそ必ずケリをつけると……。再びこの光景を見るためにも。
しかし葵の決意を見計らったかのように、事態は急展開する事になる。
葵と歩……九条の3人は、山村の運転で九条大臣が倒れたとある会議室に来ていた。
九条の会社からおよそ一時間ほど車を走らせたところで、そこそこの山奥にある、九条大臣の隠れ家的事務所の会議室だ。
九条本人もこのような場所に、父親が事務所を構えていた事は知らなかったようだ。
シンプルな正方形の部屋……中央に大きな丸テーブル、そして各席に付いている液晶モニター……。
葵は呟いた。
「会議室に……液晶モニター……。ますます奴の可能性が高まりましたね」
歩は葵に言った。
「やっぱこの液晶モニターだよね?」
「奴の犯行だとすれば……間違いないでしょう」
九条の話によると、九条大臣以外に4名がこの部屋にいた。
名前は全てわかっているようだが……細かい素性までは、まだわかっていないようだ。
葵は九条に言った。
「九条大臣と他の4人の関係性も気になります。そして、何故このような隠れ家的な事務所を構え……ここで何をしていたのか……」
九条は言った。
「僕もそれは気になってね……そこの液晶モニターが繋がっているサーバーを調べたんだけど……」
葵が言った。
「何も残っていなかったのでしょ?」
九条は頷いた。
「その通りさ……」
葵は言った。
「しかし今ので一つの可能性が生まれました。それはアマツカの犯行だと……」
歩と九条はギョッとした。
葵は続けた。
「これが偶然が重なった事故だとしても……サーバーに何も残っていないのは不可解です。つまり何者かが意図的にデータを抜き取ったと考えるべきです」
二人は黙って話を聞いている。
葵はさらに続けた。
「つまりこの犯行はアマツカの仕業で、あの時の僕たちのように、液晶モニターを使って九条大臣達を転送させ……その証拠になるサーバーのデータを抜き取った……」
歩は呟いた。
「筋は通るね……」
「これが事故でないのなら……確実にアマツカの仕業ですね」
葵がそう言い切ると、九条は険しい表情をした。
「くそっ!でもなんで父が……」
葵は九条に言った。
「九条さん……僕に少し時間を下さい」
九条は目を丸くして葵を見た。
「何をするつもりだい?」
「白峰百合に会います……」
葵の言ったその名に、九条と歩は目を見開いた。
歩は言った。
「あ……会えるのかい?」
「アマツカの名を出せば……」
九条が言った。
「しかし……彼女になにが?」
「それはわかりませんが……彼女は唯一アマツカの先手をいった人物です」
歩が言った。
「じゃあ……俺も一緒に……」
葵は首を横に振った。
「僕一人で行きます」
歩は激昂した。
「何言ってんだっ!?彼女の正体はまだわかってないんだぞっ!」
「一人じゃないと、彼女は会ってくれませんよ」
九条は歩の肩を叩いた。
「歩……葵君に任せよう……」
「正気か?九条っ!」
九条は葵に言った。
「葵君……ただし条件がある」
九条は葵に条件について話始めた。
……二日後……
葵はとある喫茶店へ来ていた。自宅から一時間程かかる、隣町の喫茶店まで私がんざ足を運んだ。
何故なら知人の目を避ける必要があったからだ。
葵はこれから会う人物との密会を、知人に目撃されたくなかったのだ。
時刻は午後2時……時間帯も人が少ない時間帯を選んだ。
人が少ないのも手伝って、店内は何処か寂しげな雰囲気だ。
するとその寂しげな店に一人の女性が入ってきた。
葵はその女性を確認するなり、表情が険しくなった。
白峰百合だった。百合は葵を確認すると、笑顔で会釈した。
百合はそのまま真っ直ぐ葵の座るテーブル席に来て、葵の正面に座った。
百合は白いシャツにタイトな黒のパンツ……そして葵を見つめるその瞳は、相変わらず虚ろな感じだった。
百合は店員にアイスコーヒーを注文し、しばらく葵を観察した。
まじまじと見つめる百合に対して、葵は真っ直ぐその目を見た。
すると観察の終えた百合が、第一声をあげた。
「貴方から連絡をくれるなんて……嬉しいわ……」
葵は微笑した。
「わかっていたのでしょ?僕が貴女を呼び出す事を……」
「何故?」
「それは、僕と歩さんが……九条さんと接触し……それを貴女は知っている」
今度は百合が微笑した。
「ハッキリと言うわね……」
「だからすんなりと、ここに来たのでしょ?」
二人の間にしばし沈黙が続いた。
すると店員が百合のアイスコーヒーを運んできた。
「アイスコーヒーをお持ちしました」
店員がアイスコーヒー置いて立ち去ると、百合はアイスコーヒーにガムシロップとミルクを入れて、一口飲んだ。
百合は葵の目を見た。
「確かにキミの言う通り……大抵の事は知っているわ」
葵は微笑した。
「監視ですか?」
「それもあるけど……貴方達を守るためでもあるわ」
葵は眉間にシワを寄せた。
「守る?やはり貴女は……」
百合は話を変えた。
「それで?用があって呼び出したのでしょ?」
「そうでしたね……。頼みたい事があります」
「頼みたい事?」
葵は険しい表情で言った。
「九条大臣の素性を調べて貰いたいのです」
百合は微笑した。
「何故……私に?」
「日本の警察には出来ないからです。貴女の正体が、僕の想像通りなら可能でしょ?」
「なるほど……。それで私に見返りは?」
葵は広角を上げた。
「貴女に僕が協力をする……」
百合の表情は一瞬ピクリとなった。
葵は続けた。
「アマツカを追うにあたって、僕が協力するのなら……これ以上にないメリットでしょう……。それはお互いにとっても悪い話ではありません」
百合はコーヒーをもう一口飲んで、立ち上がった。
「三日後……ここで会いましょう……」
百合はそう言うと、喫茶店を後にした。
百合はどうやら承諾してくれたようだ。
葵はアイスカフェラテを一口飲んで呟いた。
「これで動き出す……」
……翌日……
葵は近所の喫茶店にいた。いつものアイスカフェラテを飲みながら、これまでの事を整理していた。
九条の父親が非公開の会議室で倒れ……そこには他に四人の男性……。
現場の状況からアマツカに関わった可能性は高いが……確証はない。
その確証を持つために、謎の女性……白峰百合に九条大臣の調査を依頼したのだが……。
「葵……葵っ!……聞いてるのっ?」
葵を呼ぶ声に、我にかえってみると……幼馴染みの藤崎美夢が膨れっ面で、アイスティーを飲んでいた。
葵は思わず目を丸くした。
「すまない……何の話だった?」
美夢は呆れた様子で言った。
「だから……お兄ちゃんの話っ!さっきからボーッとして……アンタ、今日ちょっと変よ」
葵は気を取り直して言った。
「で?警部殿がどうしたって?」
美夢は再び膨れっ面をした。
「もういい……言わない。せっかく会ったのに……」
葵は申し訳なさそうに言った。
「すまない美夢……少し考え事をしていたんだ……」
「アンタが考え事をするのは、いつもの事だけど……やっぱ変よ」
今度は葵が呆れ顔になった。
「いつもの事なんだろ?変ってなんだよ……」
美夢は難しそうな表情をした。
「わかんない……。直感かなぁ?」
「僕が聞いてるんだ……」
美夢は苦笑いした。
「付き合い長いから……幼馴染みの直感ってやつかな?」
「だから聞くなよ……」
美夢は話を変えた。
「それよりさぁ……今日どうする?」
葵は腕組みをした。
「そうだなぁ……今日は美夢に付き合う約束だからなぁ……。買い物でも行くか?」
葵の提案に美夢は一瞬で笑顔になった。
「うんっ!行こっ行こっ!」
その後二人は街でショッピングを楽しんだ。
雑貨屋や洋服店……それははたから見れば、年頃の美男美女のカップルが普通にデートを楽しむようだった。
そんな年頃の二人は楽しんでいたが……気付けば辺りは暗くなっており、二人は適当な店で食事をする事にした。
二人が入ったのは、若い者が入りそうなオシャレなレストランで、若いカップル達で賑わっていた。
店員に案内され空いているテーブル席に着いた二人は、そのまま店員にオススメディナーセットを注文した。
ディナーを待ってるいる間、二人の話題は将来の話になった。
「葵……大学卒業したらどうするの?」
美夢の問いに、葵は少し首を傾げた。
「言われてみれば……あまり考えた事ないな……」
日々刺激を求め、日常の殆どを退屈に過ごす葵にとって、将来のビジョンなど小事にすぎなかった。
呆れた様子で美夢は言った。
「やっぱりねぇ……そうだと思った」
「では……美夢はどうなのだ?」
美夢は苦笑いした。
「私も……葵の事は言えないんだけど……」
葵も呆れた様子になった。
「似た者同士か……」
「お兄ちゃんみたく……警察にならないの?」
葵は首を横に振った。
「縦社会で自由がない……。警部殿も嘆いていたよ……思うような捜査が出来ない事など山程あるって……」
美夢らクスリと笑った。
「私にも言ってる……それがストレスなんだって……」
「しかし……美夢の言う通り……。僕達も現実を考えなくっちゃな……」
葵の言葉に美夢は、目を丸くした。
「どうしたの?珍しい……アンタがそんな事言うなんて……」
「多意はない……僕達が生きるのは現実だろ?」
「確かに……そうだけど……」
葵が辺りを見てみると、現実を生きる若者が、恋人と過ごしている。
「皆からすれば……平穏な現実が一番理想なのかもな……」
意味深な葵の言葉に、美夢は難しい表情をした。
「ちょっと大袈裟じゃない?」
「ケリを……つけないとな……」
「何か言った?」
「いや……それより楽しみだな……ここの食事……」
葵の呟きに美夢は反応したが、葵はそれを誤魔化した。
この世界を守るために、アマツカと戦う……。
そんな高尚な考えなど、葵は持ち合わせていない。
刺激を求めて日々を生きている葵も、相当なものだが……そんな葵にも譲れないモノはある。
それは人の命や人格を弄ぶ事はしないという事だ。
当たり前の事だが……それが出来ずに、犯罪に手を染めてしまう者も実際に存在する。
その最たる者がアマツカである……と、いうのが葵の認識だ。
アマツカが葵に拘る以上、対決は避けれない。アマツカが何故そこまで葵と歩に拘るのかは……はっきり言って謎であるが、これだけは直感でわかる。
アマツカは何かとてつもなく大きな事を、実行しようとしていると……。
久しぶりに美夢に会って、楽しい食事のはずだか……どうしても考えてしまう。
葵は向かいで食事をしている美夢を見てみた。美夢は美味しそうに食事をした。
葵は再び決意を固めた。今度こそ必ずケリをつけると……。再びこの光景を見るためにも。
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