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陽芹孝介

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第二部 エピローグ~球~

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  ……某所……


  赤塚はある所で目を覚ました。それはもちろん東應医大ではなく、別の場所だ。
  目覚めた赤塚に一人の男性が声をかけた。
 「目覚めたか……今回もなかなか、面白い物を見せてもらったよ…」
  赤塚は目覚のせいか、少し気だるそうに答えた。
 「楽しんで頂けて幸いです…」
  男性は言った。
 「しかし、あの月島葵という男は……君の揺さぶりに全く動じないな…」
  赤塚は笑って言った。
 「フフフ……自信があるのですよ…」
 「自信?」
 「ええ……そうです。自信です…」
  男性は腑に落ちない様子で言った。
 「自信……あの若さでか?」
  赤塚は言った。
 「若さは関係ありませんよ……。彼は自分の頭の良さと、腕っぷしに、そうとう自信があるのですよ。だから、決してブレない…」
  男性は言った。
 「君がそこまで言うほどか?」
 「彼の精神力には……敬服しますよ…」
  男性は話を変えた。
 「話は変わるが、一つ気になる事があってな」
  赤塚は言った。
 「あの、『マリア』とか言う女性の事ですか?」
 「やはり気づいていたか……」
 「ええ……記憶喪失になる事が、おかしいですから…」
 「そうだ、あの女は転送予定になかった人間だ」
  赤塚は指で眼鏡を上げた。
 「予定していた人間の横入りをして……システムトラブルを起こし、自身の記憶を失った…」
 「現状、その可能性が一番高い…」
  赤塚は笑った。
 「フフフ……我々を探る何処かの犬ですか…」
  笑っている赤塚とは対照的に、男性の表情は険しい。
 「笑っている場合ではないぞ…」
  赤塚は言った。
 「これは失礼……。ただ相手が誰であろうとも、我々はもう止まりませんよ…」

  「フフフ……この星を天に還す時がきました…」


  ……市街地…喫茶店……


  ある日の昼、葵はとある喫茶店にいた。いつものように好物のアイスカフェラテをすする。
 「うむ……やはり、ここのアイスカフェラテは美味しい…」
  葵が満足そうにアイスカフェラテをすすっていると、男性が一人、葵席に来た。
 「待たせたな…」
  声をかけてきたのは藤崎宗吾だった。
  葵は宗吾を見て言った。
 「こんにちは……警部殿…」
  宗吾は葵の向かい側に座った。
  席に着いた宗吾に気付いたウエイトレスは、注文を取りに来た。
 「いらっしゃいませ……ご注文をお伺い致します」
  礼儀正しい店員に、宗吾は言った。
 「ホットコーヒーを一つ…」
  注文を受けたウエイトレスは、お辞儀をして去っていった。
  葵は言った。
 「それで、どうしました?」
  宗吾は言った。
 「変死事件が発生した」
 「変死事件?」
  宗吾は続けた。
 「ああ……。5人の人間が急死した…」
  葵が言った。
 「警部殿が、事件と言うには……何か引っ掛かる事が?」
 「ただの突然死なら、事件にするのは難しいが……そうじゃないんだ」
  宗吾が話している最中に、頼んでいたホットコーヒーが来た。
 「お待たせしました、ホットコーヒーになります」
  宗吾はウエイトレスからホットコーヒーを受け取った。
  ウエイトレスは笑顔で言った。
 「ごゆっくりどうぞ」
  ウエイトレスが去ったのを、確認して宗吾は話を続けた。
 「どこまで話したかな?ええっと……あっ、そうそう……死因は急性心不全なんだが、おかしな事があってな…」
 「おかしな事?」
  宗吾は言った。
 「ああ……5人とも同じ死因で、同じ場所と時間に死んだんだ…」
  葵は髪をクルクルさせた。
 「確かに妙です……。薬物などは?」
 「5人とも検出されていない…」
  葵は聞いた。
 「もちろん、目立った外傷も……無いですよね…」
 「ああ…無い。妙だろ?」
 「妙ですが……興味深い…」
  宗吾は葵の興味津々な表情を見て、ニンマリして言った。
 「だろっ!そう言うと思ってさ……資料持ってきた…」
  宗吾は鞄から封筒を取りだし、それを葵に渡した。
  封筒を受けとり、葵は言った。
 「準備がよろしくて…」
  葵がそう言うと、宗吾は立ち上がった。
 「うんじゃあ、俺は行くわ…」
  葵が言った。
 「まだ来たばかりですよ?」
 「呼び出しといてなんだけど、捜査中に抜けて来たんだよ…」
  葵は言った。
 「それは早く戻った方が良いですね…」
 「そうするわ……。葵、このあと美夢と会うんだろ?」
 「ええ……買い物に付き合えと…」
  宗吾は苦笑いした。
 「いつも悪いな……。美夢に晩飯代渡してるから、何か食って帰れよ…」
 「いつもすみません…」
 「気にすんな…捜査協力してもらってるし……。それに……お前は弟みたいなもんだ。じゃ、美夢の事頼むわ…」
  そう言うと宗吾は伝票を持って行ってしまった。
  ここの代金も支払ってくれるようだ。
  宗吾の言うように、葵は幼い頃から宗吾に面倒を見てもらっていた。
  妹の美夢と幼馴染みの葵は、宗吾に気付いたとっては、弟のような感じなのだろう。
  葵は宗吾に奢ってもらったアイスカフェラテを、飲み干し立ち上がった。
 「僕も……行くか…」


  ……同日…夕方…… 


  買い物を終えた美夢はご機嫌だった。
 「いっぱい買っちゃったっ!葵も何か買ったらよかったのに…」
  葵の両手は美夢の買ったもので、塞がっていた。
  葵は言った。
 「僕は無駄遣いはしない…」
  美夢はむっとして言った。
 「無駄遣いじゃないよっ!みんなちゃんと着るのっ!」
 「だといいがな…」
  二人は人混みの多い市街地を歩いて行く。
  美夢が言った。
 「ねぇ……何食べに行く?」
  葵は少し考えた。
 「そうだなぁ……警部殿の奢りだからな…」
  美夢はニヤニヤしながら言った。
 「けっこう貰ってるから…贅沢しちゃう?」
 「お前なぁ……少しは遠慮しろ…」
  美夢は気にする事なく言った。
 「いいのっ!お兄ちゃん、けっこう溜め込んでるから…」
  そんな話をしながら向かった先は、いつもの居酒屋だった。
  居酒屋の入り口付近に付いた時だった……。葵の耳に女性の声が届いた。
 「やっと会えた…。月島君…」
  人混みの中から、確かに葵を呼ぶ声がした。
  葵は振り向いたが……誰もいない。
  美夢が言った。
 「どうしたの?葵…」
  葵は美夢に言った。
 「美夢……悪いけど、先に店に入っていてくれ。知り合いを見付けた…」
  美夢は不思議そうな表情をしたが、すぐに納得してくれた。
 「うん、わかった。でも、すぐ戻ってきてよ…」
 「ああ……わかった…」
  そう言うと葵は声のした方へ向かった。
 「女性の声だったな…あの声は確か…」
  まだそう遠くには行っていない。葵は人混みの中から声の主を探す。
  ただ、この人混みの中を探すには無理がある。
 「くそっ!人が多い…見つからないか…」
  葵が諦めかけた時、その人物はいた。
  人混みの流れを逆らうように、葵の方を向いて立っている。
  葵はその女性の方に向かった。
  葵は言った。
 「やっと会えましたね…」
  女性は言った。
 「そうね…」
  葵は言った。
 「マリアさんと言った方がいいですか?」
  その女性はマリアだった。
  マリアは言った。
 「ふふ……マリアはやめて。私は、白嶺しらみねゆり…」 
  葵は言った。
 「あなたは……何者です?」
  百合は言った。
 「いずれ……わかるわ…」
  そう言うと百合は人混みの中へと消えた。
  葵はそれを呆然と見つめていた。
  すぐに後を追うこともできたが……葵はそれを、しなかった。
  何故だかわからないが、追わなかった……いや、追えない空気を百合が出していたのかもしれない。
  葵は呟いた。
 「やれやれ……また、興味深い人が現れたようだ…」
  葵と百合……この二人の接触が、後々深い意味をもたらす事を、本人たちはまだ知るよしもなかった。
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