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陽芹孝介

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第八章 太陽の下で

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  ……東應医大…… 


  葵は東應医大の屋上にいた。太陽の光を満喫している。
  あの球体の世界では、祭壇にゴッホの向日葵を飾った事により、見事に脱出できた。
  祭壇に飾られた向日葵は鏡を通じて、植物館に現れた。
  足りなかった物が戻った植物館は光に包まれ……やがて、植物館を中心に光が広がり、葵や他の皆もその光に包まれ、そこで意識が無くなった。
  次に目を覚ました時は、お約束通り病院のベットの上だった。
  葵が目を覚まし、一番最初に見たのは安堵した表情の美夢だった。
  美夢はどうやら付きっきりで、葵を看病していたらしい。
 「いい天気だ…」
  葵の言うように外はいい天気で、快晴だ。秋風が肌を少し冷やすが……悪い気分ではない。
  今日で目を覚まして2日目だが、2日連続で屋上にきている。
  退院するまで毎日のように、屋上に来るだろう……。それほどまでに、太陽が恋しかったのかもしれない。
  向日葵ではないが、やはり太陽の下はいいものだ。
  葵が太陽を満喫していると、歩も屋上にやって来た。
  葵を見付けた歩は声をかけた。
 「ここにいたんだ?」
  歩はそう言うと葵の隣に並んだ。
  葵は言った。
 「今日……目が覚めたようですね…」
  葵の言うように、歩は今朝目を覚ましたようだ。
  前回のように目を覚ますのに個人差があるようだ。
  歩は言った。
 「そうなんだよ……おかげで体が少し怠い…」
 「目が半開きですよ…」
 「仕方ないよ……目覚めたばっかだし……。それより、葵君……聞きたい事がるんだけど」
  葵は言った。
 「祥子さんの事ですか?」
  三木谷祥子……球体の世界で神になろうとした女性……。
   3人を殺害し、最後は赤塚こと……アマツカに殺された。
  彼女は現実世界で自殺し、球体の世界で生き返った……と、いう話だったが。
  歩は言った。
 「彼女……病室で眠ってたよ。生きていた…」
  歩の言うように祥子は生きていたのだ。
  葵は言った。
 「自殺未遂だそうです…」
  歩は葵を見て言った。
 「葵君……本当は知っていたのかい?彼女が生きていると…」
 「何故…そう思うのです?」
  歩は言った。
 「俺はあの時……教会の入口らへんで隠れて、一部始終見ていたんだけど…」
  歩は難しそうな表情をした。
 「君のあの時の対応……何て言うか、上手く言えないが……直感なんだけど……あんな簡単に人を見捨てるとは、俺には思えなかった…」
  葵は言った。
 「何を言っているのか……よくわかりませんが…」
  歩は頭を掻いた。
 「だから……うまく言えないって、言ったじゃんか…」
  葵は言った。
 「知っていました…。いや、知っていたと言うよりは、彼女が死んだ人間だと言う可能性が低かった…と、言っておきましょう…」
  歩が言った。
 「可能性?」
  葵は言った。
 「そうです……。アマツカの造る世界で人が生きるには……必ず必要な物があります…」
  歩は黙って聞いている。
  葵は続けた。
 「脳の記憶です……。あの世界での僕たちの体は、脳の記憶で構築されています」
  歩は言った。
 「なるほど……。死んでいたらあの世界でも存在しないか。だから、彼女が生きていると思ったんだな」
  葵が言った。
 「そう言う事です…」
  そして、しばらく二人の間に沈黙が訪れた。
  それは嫌な沈黙ではなくて、太陽と秋風を二人は黙って堪能しているので、訪れた沈黙だ。
  そして、少し強めの風が二人にあたり、葵は癖っけのある髪を、かき上げた。
  それを見て歩は言った。
 「すっかり……秋だね…」
 「ええ……秋です」
  歩は葵に言った。
 「なぁ、葵君…」
 「何です?」
 「アマツカの事なんだか…」
  葵は歩の目を見た。歩の目はどこか寂しげだった。
  葵は言った。
 「彼はテロリストですよ…」
  歩は屋上の柵に手をかけた。雲ひとつない空を見て言った。
 「わかってるよ……。でも……もしかしたら、俺はあいつみたいに、なっていたかもしれない…」
  葵は黙って聞いている。
  歩は続けた。
 「医者だった頃の夢を毎晩のようなにみてるんだ…」
  葵は聞いた。
 「どのような?」
  歩は苦笑いした。
 「おかしな夢さ……。大学病院で人を救っている自分と……戦場で人を救えなかった自分……。それが鏡越しのように向き合ってるんだ…」
  歩は振り返り柵に背中をあてた。
 「おかしな夢だろ?でも最後はいつも同じで、二人の俺が言うんだ…」
  「「お前は無力だ」と…」
  歩は肩を落としている。
  おそらく歩の夢はそうとうな悪夢なのだろう。
  歩は言った。
 「で、そこで目が覚めるんだ。俺は逃げたのかもしれない……。医療から……人から…」
  葵は言った。
 「あなたは……逃げてなどいませんよ。今も戦っている……カメラを通して」
  歩は言った。
 「だったらいいんだけどね。でも、だからじゃないが……アマツカの気持ちも少しはわかる気がするんだ…」
  葵は言った。
 「彼こそ逃げていると……僕は思いますけどね」
  歩は言った。
 「そうだな……アマツカは逃げてる。理想を求めて現実逃避だ…」
  葵は言った。
 「そうです……。そして、あれはあってはならないシステムです…」
  歩は言った。
 「あれを使って、世の中を清浄化するって言っていたけど…」
  葵はいつものように、髪をクルクルさせながら言った。
 「全人類をあの世界に…」
  歩は言った。
 「話がでかすぎるな…」
 「しかし、そうでもしないと……アマツカの言う理想の世界は実現しませんよ… 」
  歩はいまいちピンとこないようだ。
 「確かにそうかもしれないけど…」
  葵は言った。
 「各民族や宗教……価値観の近い者などを、分けて転送させれば、争いは無くなるかもしれません…」
 「争いの元をなくすのか…」
  葵は真剣な表情で言った。
 「しかし、僕は彼のやり方は認めません…。人は……人類は学ぶ事ができる…」
  葵は続けた。
 「彼の言う愚かな民衆は時として、力になり……国を、世界を動かすこともできます。歩さんのように活動する人たちもいますから…」
  歩は黙って聞いている。
  葵は力を込めて言った。
 「僕はそう信じています…」
  すると、葵の話が終わった頃に、美夢が屋上に呼びに来た。
 「葵ーっ!やっぱりここだったんだ……て、歩さんもいるっ!」
  歩は表情を柔らかくして言った。
 「よっ!美夢ちゃん…久し振りっ!」
  美夢は呆れて言った。
 「久し振りじゃないですよっ!二人とも病み上がりなんだから…」
  美夢の小言も心地よく感じさせるのは、現実世界を実感してるからかもしれない。
  少し冷たい秋風はやさしく3人を包むように吹いていた。
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