choice

陽芹孝介

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第二部 プロローグ~球~

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  病院を出てしばらく歩いていると、歩が葵に言った。
 「葵君……晩飯でもどう?奢るよ」
 「そうですね……けっこういい時間ですね。お供します」
 「じゃあさっ!この先に俺が医大にいた頃、よく行ってた店があるんだ。そこでいい?」
 「僕はどこでも構いませんが……」
 「じゃあ決まりだね……」
  歩のおすすめの店への道中に、歩はしびれを切らすように言った。
 「さっきから……みょ~に視線を感じるんだけど……」
 「僕もです……心当たりはありますが……」
 「葵君のお客さんかい?」
 「ええ……おそらく……」
  葵は後ろを振り返って言った。
 「ばれてますよ。出てきて下さい……」
  葵の声に反応し、電柱の影から小柄な女性が現れた。
  葵は呆れて言った。
 「また、あなたですか?ご苦労なことです……」
  女性は気まずそうにしている。
  歩が言った。
 「誰だい?この娘?」
 「ただのストーカーです」
  葵のストーカーという言葉に、女性は激昂した。
 「違うっ!ストーカーじゃないっ!」
  歩が言った。
 「やかましいストーカーだなぁ……」
  女性は興奮ぎみに言った。
 「ストーカーではありませんっ!私は 東鷹大学!オカルト研究サークル、美人代表の……春野五月、21歳ですっ! 」
  歩は笑いながら言った。
 「はははっ!この娘自分で美人って、言っちゃったよ!あ~面白れ~!」
  五月はムッとして言った。
 「何がそんなに可笑しいんですかっ!?」
  葵は呆れて言った。
 「やれやれ……前にもこんな事があったような……」
  歩は笑をこらえて言った。
 「で、なんで……葵君を追ってんの?」
  五月は胸を張って言った。
 「『天変 月島のいる所、怪事件あり』です!」
 「そうなの?葵君」
 「ただの妄想癖でしょ……放っておきましょう」
 「そうだね……。行こっか」
  二人は五月を無視して先に進んで行った。
 「待てっ!私を無視するなっ!」
  五月は走って二人の後を追った。
  歩のおすすめの店に到着して、店員に座敷席に案内されたが……。
 「どうして君までいるのかなぁ?」
  五月はちゃっかり参加していた。
 「旅は道連れって言うじゃないですかっ!」
  葵は呆れて言った。
 「勝手についてきただけでしょ?それにしても……前にもこんな事がありましたね」
  歩も呆れて言った。
 「しょうがないか……君も食べて行きな。これも何かの縁だ……」
  五月は笑顔で言った。
 「さすがはお兄さん!月島葵と違い、話がわかる……」
  葵が言った。
 「少しは遠慮したらどうですか?この間の警部殿との事といい……困った人です」
  五月は目を尖らせて葵に言った。
 「払うわよっ!自分の分はっ!」
 「どうして、そう僕に敵意丸出し何ですか?何か恨みでもあるんですか?」
 「あんたが真実を語らないからでしょっ!」
  葵は表情を変えることなく言った。
 「真実も何も……あなたが知りたい事など何もありませんよ」
  歩は二人の間に入るように言った。
 「まぁまぁ……いいじゃない……。楽しく飲もうよ……注文は?」
 「そうですね……。久々の再会です……カルーアミルクを頂きます……あっ、彼女には……そうですね……濃いめのウーロンハイを……」
  五月が葵に噛みつくように言った。
 「なんであんたが、勝手に決めんのっ!?」
 「おや、先輩が後輩からのお酒を断ると?」
  葵の明らかな挑発に、五月は簡単に乗った。
 「いっ、いいわよっ!飲むわっ!」

  ……10分後……

 「ぐう~、ぐう~、ぐう…」

  寝ている五月を見て歩は言った。
 「寝ちゃったよ……」
 「前もこの手に掛かったのに……懲りない人です」
 「でもなかなか……いいキャラだよ」
 「付きまとわれる、僕の身になってください……」
 「俺だったら嬉しいけど……こんな可愛らしい娘……」
 「あまり茶化さないで下さい」
  少しむすっとした葵を見て、歩は話を変えた。
 「明日……山村さんに言って、九条の仕事部屋に入らしてもらおうと思ってるんだ。葵君は……って、来るに決まってるか…」
 「当たり前です……。しかし、歩さん……いつもに増して積極的ですね」
 「まぁね……。こう見えて責任感じてるんだよ」
 「あなたが悪いわけではない……医者なら誰もがとった行動です」
 歩は新めて葵に言った。
 「なぁ……葵君」
 「どうしました?」
 「どうしてアマツカを追うんだ?」
 「今更ですか?」
 「いや、もう島からは脱出出来たんだ……。無理に追わなくても……。それに君はまだ若い」
 「僕には記憶が残っています。どちらにせよ、何か仕掛けられますよ。僕に限らずですが……」
  歩はくいさがった。
 「けど……何も起きないかもしれない」
  葵は髪をクルクルさせながら言った。
 「アマツカが……何を目的にしているか気になる。では、いけませんか?」
 「俺の勘だけど、やつは危険だ」
 「それも今更ですね」
 「君も知ってるだろ?やつは、戦場やテロを目の当たりにしている。それを経緯に今の活動をしている」
 「まぁ……何かの思想的行動である事は、わかりますが……」
  歩は少し言葉を選ぶように言った。
 「君は頭がいい……。だが、やつもそうとう頭が切れる」
  葵は歩が言いたいことを察した。
 「僕が……アマツカに、似ていると?」
  歩は黙っている。
  葵は言った。
 「心配無用ですよ……。僕はアマツカを認めるつもりは毛頭ありません。アマツカは人の弱い部分に付け入り、それをコントロールし、操る……。順平君を操ったように……」
  小林順平……夏に知り合った人物で、島で殺人を犯した人物。
  順平は日常に自分の居場所がなく、自暴自棄になっていたところで、あの島に行き……そこで美夢と容子の優しさに触れ、居場所を見つけた。
  美夢と容子に認めてもらいたい気持ちをアマツカに利用された。順平も被害者だ。
  葵は言った。
 「それに、九条さんを救うのが先決で、アマツカは……ついでですよ」
 「そうか……だったらいいよ」
  歩はこの時、同族嫌悪というフレーズが浮かんだが……口にする事はなかった。
  二人をよそに五月は気持ち良さそうに、眠っている。
  五月はそのうち目が覚めるだろうが、九条はどうなるかわからない。
  葵と歩は九条を救う事を、選んだ。
  それがどんな結果になろうとも。


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