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陽芹孝介

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第三章 休息

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  パーティールームに戻ると皆は既に昼食を終えて、ティータイムを楽しんでいた。
  葵に気づいた美夢は駆け寄って来て、少し文句を言った。
 「あんたに協調性が無いのは、よぉ~く知ってるけど……昼食くらい、皆で食べなさいよ!有紀さんまで付き合わせて」
  葵は目をつむりそっぽを向いている。こんなやり取りはいつもの事だが……有紀は葵をフォローするように言った。
 「まぁそう言うな、美夢。彼はじっとしてられない性分なんだろ?それは美夢が一番理解してるんじゃないか?」
 「でも有紀さんまで……」
  有紀は申し訳なさそうな美夢の頭をポンと叩き、優しく言った。
 「私の事は気にするな……。私も葵と同じように、じっとしてられなくてな」
  有紀が美夢をあやしたところで、歩と九条が葵の所に寄ってきた。
  九条が言った。
 「どうだった?」
  葵は少しため息を付いて言った。
 「ふう……プールはもう使用して頂いて結構です。ただ、医務室に関しては有紀さんに同行してもらって下さい。まぁ、怪我の無いよう注意していたら、医務室を使用する必要はありませんが……」
  九条が皆に言った。
 「皆……プールはもう準備出来たようだよ!もう使用してくれて構わない」
  九条から許可が出たことによって、愛美が言った。
 「使っていいってっ!容子、順平……行くわよ!」
  そう言うと愛美は容子と順平を引き連れて、プールに向かう準備のため、パーティールームを出ようとした。
  出際に愛美は美夢に声をかけた。
 「美夢ちゃんも行こっ!よかったら『葵っち』もどう?」
  葵は目を丸くして言った。
 「葵っち?……」
  珍名を付けられて少し戸惑う葵を、気にせず愛美は言った。
 「せっかくのバカンス……楽しまなきゃ損よ!」
  美夢は諦め顔で言った。
 「愛美さん……ダメですこいつは……」
  葵は美夢に言った。
 「用がすんだら僕も行く……だから先に行ってくれ…」
 「あんた…どうしたの?」
  葵の意外な返事に美夢は驚いている。
  葵は言った。
 「女性三人に男性が順平君一人では忍びない……だから先に行ってくれ……。それとも僕がプールに行くのはダメなのか?」
 「ううん……ただ、珍しいなぁって……まぁいいや、じゃあ後でね!」
  出て行こうとする三人と美夢に葵は言った。
 「因みに今日から広場に、鉄製のボックスが設置してありますが……くれぐれも触らないように……」
  美夢が聞いた。
 「わかったけど……なにそれ?」
  有紀が言った。
 「ただの廃棄処理用のボックスだ。触るなと葵が言ったのは不衛生だからだ」
  四人は顔を見合わせて、美夢が言った。
 「わかりました。じゃあ葵、また後でねっ!」
  そう言うと美夢はご機嫌な様子で他の三人と出て行った。
  出て行った四人に続く用に堂島夫婦が出て行き、葵と有紀の昼食を残して、椿がテーブルの後片付けを始めた。
  葵が言った。
 「では……昼食をいただきましょうか……」
  葵は昼食のハンバーグを頬張りながら言った。
 「結論から言います、ここは島ではありません……」
  葵の一言に九条と、歩の二人はさほど驚かなかった。頭の片隅にあったのだろう……ここが島ではなく何か『異質な場所』の可能性があることを……。
  ただ、船長の山村は驚きを隠せない表情だ。いつもの穏やかな表情がなく緊張感がある表情をしている。
 「ど、どういう……事なんです?……つ、月島様……」
  山村の声は少し震えている。乗客を思う責任感からなのか、今後にたいしての不安感か……。
  有紀が言った。
 「島を囲っている水面の水は淡水だった……よってこの島は海上ではない」
  九条が言った。
 「湖にあるって事か?……」
  葵は口角を上げて、ニヤリとして首を横に振り言った。
 「その可能性は極めて低い……」
  歩が言った。
 「太陽の話しかい?」
  葵が答えた。
 「確かにその事も理由の一つですが……それだけではありませんよ」
  葵はまた口角を上げて言った。
 「まず海から湖に移動する事が不可能です」
 「しかし湖と海が繋がっている事も考えられるぞ…」
  葵に九条は食い下がる。その表情は「わかっているが、認めたくない」そういった表情だ。
  葵は首を横に振って言った。
 「僕たちは太平洋側から船で南東に向かいました、甲板に出た時の太陽の位置からでも……それは確認できました」
  歩が言った。
 「俺も甲板に出た時の感じたが……船は確かに南東、南南東に向かっていたよ」
 「じゃあいったいここは………なんなんだ?」
  九条は少しイライラした感じだ。
  葵が言った。
 「それはまだわかりません……しかし何かわかりそうな感じもします…」
  有紀が言った。
 「どういう事だ?」
 「ヒントは転送倉庫と、島のリセットです」
  皆はいまいちピンとこないようだ。
  葵は口角を上げて話しを続けた。
 「たとえば……そうですねぇ、この中でゲームに詳しい方は?」
  歩が言った。
 「俺、結構好きだぜ……アクションやRPGとか」
  葵が言った。
 「それです。例えば RPGのゲームをしていたとしましょう」
 「今はゲームの話しをしている時では!……」
  興奮ぎみの山村を有紀は腕を伸ばし、山村を制して「続けてくれ、葵」と言った。
  葵は話しを続けた。
 「たとえばゲーム内の道具屋で薬草を大量に買ったとしましょう……しかし売り切れる事がありますか?」
  九条が呆れ気味に言った。
 「まさか食糧庫がそれと同じだと?バカバカしい……」
  歩が言った。
 「九条……そうとも言い切れないぜ……何よりつじつま合ってくる…」
 「歩まで何を言っている……ここがゲームの中だって!?」
  非現実的な話に九条は興奮している。
  葵が言った。
 「あくまで仮説ですが…」
  有紀は九条に言った。
 「九条氏……今、目の前の事を見つめるのも大事だぞ」
  そう言うと有紀は、九条にプールの水の事や、広場のボックスについて話した。
  歩は言った。
 「葵君の仮説の可能性が高くなってきたな……」
  九条は勢いよく立ち上がって言った。
 「自分で確かめる!」
  そう言うと九条は出ていってしまった。
  有紀はやれやれと、いった感じで言った。
 「どうやら彼は激情家のようだな…」
  葵は言った。
 「自分の目で確かめるのは大事です……九条さんも冷静沈着になるために、自らが行ったのでしょう」
  説明を終えた葵は、昼食も終わり立ち上がって言った。
 「ご馳走さまでした、山村船長……とても美味しかったです」
  歩が言った。
 「九条の事は気にしないでくれ……責任感が強いせいであんな態度を、とってしまったんだと思うんだ……」
  葵は言った。
 「僕は気にしてませんよ……。では、美夢との約束があるので、僕はこれで……」
  そう言うと葵はパーティールームを出て行った。
  歩は有紀に言った。
 「大丈夫かなぁ?これから……」
  有紀は言った。
 「何がだ?それよりも、やはり葵は興味深い……噂以上の知能の高さだ。それに、この状況をあいつは楽しんでいる……」
  そんな葵を感心する有紀を見て、歩はため息をついて、肩を落とした。
 「そういう事を、言ってんじゃないんだけど……」
  歩の心中を察したかのように山村が歩に言った。
 「渡辺様……これから御一緒に食後の珈琲でもいかがですか?私も色々と、頭の中を整理したいので……」
  歩は山村に苦笑いで答えた。
 「ええ……お願いします……」
  有紀が山村に言った。
 「では、私もいただこうか……椿も呼んでやるといい……彼女も働きづめだろ?少し休憩するとしよう」
 「お前が横に居ると、逆に休まらないんだけど……」
  歩はぼそりと呟いた。
 「何か言ったか?」
  歩は慌てて答えた。
 「うんにゃ……なんにも……。それじゃ椿ちゃんも呼んで四人でお茶しましょ……」
  そうして四人は少し休憩する事にした。
  ………それぞれが考えた………。
  隔離されている事を……。
  葵の仮説を……。
  そもそも帰る事ができるのか?と……。
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