106 / 115
天に吠える狼少女
第五章 天に吠える狼少女・6
しおりを挟む
ガアアァッ!
動くものに反応してその巨腕が振るわれた。まだ視力は機能しているのか、それとも他の感覚器官か。いずれにせよそれが何かを認識することはできていまい。
「セヤッ!」
一閃。レイの超人的な技量によって凄まじい切れ味となった長剣が肉塊の右の肘から先を一撃で切断した。切り離された肘から先がボトリと地に落ちて血溜まりを作る。あまりテヴォの身体を傷つけたくはなかったが、仕方ない。
だが――
「――やはり、無駄か」
レイが呟くより早く、その右腕がボコボコと泡立ち肉膨れする。そうして肉を突き破って骨が生え、それを肉が覆い、瞬く間に腕が元に戻ってしまった。多少形が歪なのは元の形を忘れかけているからなのか。
この肉塊は治癒魔法が肉体を再生し過ぎているが故の姿。過剰なまでの回復力は腕を斬り落とした程度すぐに再生させてしまう。部位を落すことに意味はない。効果があるとすれば頭だ。治癒魔法の核にして肉体の運動を司る脳を破壊すればさしもの肉塊も再生せずに崩壊する。だが崩壊させないために今レイ達は尽力しているのだ。
「クソ親父!目ぇ覚ましやがれッ!」
ディナが躍りかかり、技術も何もない正面からの突撃でその拳を肉塊の胸ぐらに叩き込んだ。自分の親に対してとは思えないような、練魔行で硬化された鉄の拳。肋が粉砕する感触が素手を通して伝わってくる。が、すぐにそれを押し返す怖気を誘う肉の感触を感じて飛び退く。
グルアッ!
飛び退いたディナを追撃せんと歪な右腕が振るわれた。無造作なその一撃もその膂力を持ってすれば必殺の一撃である。
即座に硬化した両腕を交差させてブロック、突き抜けるような重い衝撃に再びディナの身体が吹っ飛ぶ。
「ッ!?」
その吹っ飛んだ先を予想し、ディナは青ざめた。そこには間合いをとって機会を窺っていたユウがいる。
(やべッ――)
激突する未来に戦慄したディナと、反応すらできずにいたユウの間に黒い影が割り込んだ。
「よっと!」
引き絞られた細身の身体を黒い体毛に覆われた体躯が受け止める。テヴォと比べれば一回り小さいが、それでも十分にガタイのいい狼人族の一人が飛び込んできたのだ。ディナもよく見知った集落の男衆の一人。
「なんだかよく分からねぇが、その嬢ちゃんに触ってもらえば族長は助かるかもしれねぇんだな?」
気づけば他の男衆達も前へと歩み出ていた。皆一様に暴れ狂う肉塊と化した族長を痛ましく思い、そしてまるで動けなかった自分達の不甲斐なさに憤るように拳を握りしめていた。
「ああなっちまったやつは、自分の力量も分からねぇ弱いやつだ。だがよ、ああなっちまうってわかって、てめぇの娘のために上位魔族を殴り飛ばした族長が弱いもんかよ。俺達の族長は強い。族長は俺達の誇りだ!失ってたまるかってんだ!」
応ッ!!
一人の言葉に残りの狼人族達が声を合わせた。
「ここは俺らに任せてくれや!いくぞォッ!!」
動くものに反応してその巨腕が振るわれた。まだ視力は機能しているのか、それとも他の感覚器官か。いずれにせよそれが何かを認識することはできていまい。
「セヤッ!」
一閃。レイの超人的な技量によって凄まじい切れ味となった長剣が肉塊の右の肘から先を一撃で切断した。切り離された肘から先がボトリと地に落ちて血溜まりを作る。あまりテヴォの身体を傷つけたくはなかったが、仕方ない。
だが――
「――やはり、無駄か」
レイが呟くより早く、その右腕がボコボコと泡立ち肉膨れする。そうして肉を突き破って骨が生え、それを肉が覆い、瞬く間に腕が元に戻ってしまった。多少形が歪なのは元の形を忘れかけているからなのか。
この肉塊は治癒魔法が肉体を再生し過ぎているが故の姿。過剰なまでの回復力は腕を斬り落とした程度すぐに再生させてしまう。部位を落すことに意味はない。効果があるとすれば頭だ。治癒魔法の核にして肉体の運動を司る脳を破壊すればさしもの肉塊も再生せずに崩壊する。だが崩壊させないために今レイ達は尽力しているのだ。
「クソ親父!目ぇ覚ましやがれッ!」
ディナが躍りかかり、技術も何もない正面からの突撃でその拳を肉塊の胸ぐらに叩き込んだ。自分の親に対してとは思えないような、練魔行で硬化された鉄の拳。肋が粉砕する感触が素手を通して伝わってくる。が、すぐにそれを押し返す怖気を誘う肉の感触を感じて飛び退く。
グルアッ!
飛び退いたディナを追撃せんと歪な右腕が振るわれた。無造作なその一撃もその膂力を持ってすれば必殺の一撃である。
即座に硬化した両腕を交差させてブロック、突き抜けるような重い衝撃に再びディナの身体が吹っ飛ぶ。
「ッ!?」
その吹っ飛んだ先を予想し、ディナは青ざめた。そこには間合いをとって機会を窺っていたユウがいる。
(やべッ――)
激突する未来に戦慄したディナと、反応すらできずにいたユウの間に黒い影が割り込んだ。
「よっと!」
引き絞られた細身の身体を黒い体毛に覆われた体躯が受け止める。テヴォと比べれば一回り小さいが、それでも十分にガタイのいい狼人族の一人が飛び込んできたのだ。ディナもよく見知った集落の男衆の一人。
「なんだかよく分からねぇが、その嬢ちゃんに触ってもらえば族長は助かるかもしれねぇんだな?」
気づけば他の男衆達も前へと歩み出ていた。皆一様に暴れ狂う肉塊と化した族長を痛ましく思い、そしてまるで動けなかった自分達の不甲斐なさに憤るように拳を握りしめていた。
「ああなっちまったやつは、自分の力量も分からねぇ弱いやつだ。だがよ、ああなっちまうってわかって、てめぇの娘のために上位魔族を殴り飛ばした族長が弱いもんかよ。俺達の族長は強い。族長は俺達の誇りだ!失ってたまるかってんだ!」
応ッ!!
一人の言葉に残りの狼人族達が声を合わせた。
「ここは俺らに任せてくれや!いくぞォッ!!」
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
愚かな父にサヨナラと《完結》
アーエル
ファンタジー
「フラン。お前の方が年上なのだから、妹のために我慢しなさい」
父の言葉は最後の一線を越えてしまった。
その言葉が、続く悲劇を招く結果となったけど・・・
悲劇の本当の始まりはもっと昔から。
言えることはただひとつ
私の幸せに貴方はいりません
✈他社にも同時公開
【完】あの、……どなたでしょうか?
桐生桜月姫
恋愛
「キャサリン・ルーラー
爵位を傘に取る卑しい女め、今この時を以て貴様との婚約を破棄する。」
見た目だけは、麗しの王太子殿下から出た言葉に、婚約破棄を突きつけられた美しい女性は………
「あの、……どなたのことでしょうか?」
まさかの意味不明発言!!
今ここに幕開ける、波瀾万丈の間違い婚約破棄ラブコメ!!
結末やいかに!!
*******************
執筆終了済みです。
悪役令嬢は永眠しました
詩海猫
ファンタジー
「お前のような女との婚約は破棄だっ、ロザリンダ・ラクシエル!だがお前のような女でも使い道はある、ジルデ公との縁談を調えてやった!感謝して公との間に沢山の子を産むがいい!」
長年の婚約者であった王太子のこの言葉に気を失った公爵令嬢・ロザリンダ。
だが、次に目覚めた時のロザリンダの魂は別人だった。
ロザリンダとして目覚めた木の葉サツキは、ロザリンダの意識がショックのあまり永遠の眠りについてしまったことを知り、「なぜロザリンダはこんなに努力してるのに周りはクズばっかりなの?まかせてロザリンダ!きっちりお返ししてあげるからね!」
*思いつきでプロットなしで書き始めましたが結末は決めています。暗い展開の話を書いているとメンタルにもろに影響して生活に支障が出ることに気付きました。定期的に強気主人公を暴れさせないと(?)書き続けるのは不可能なようなのでメンタル状態に合わせて書けるものから書いていくことにします、ご了承下さいm(_ _)m
婚約破棄の後始末 ~息子よ、貴様何をしてくれってんだ!
タヌキ汁
ファンタジー
国一番の権勢を誇る公爵家の令嬢と政略結婚が決められていた王子。だが政略結婚を嫌がり、自分の好き相手と結婚する為に取り巻き達と共に、公爵令嬢に冤罪をかけ婚約破棄をしてしまう、それが国を揺るがすことになるとも思わずに。
これは馬鹿なことをやらかした息子を持つ父親達の嘆きの物語である。
婚約破棄と領地追放?分かりました、わたしがいなくなった後はせいぜい頑張ってくださいな
カド
ファンタジー
生活の基本から領地経営まで、ほぼ全てを魔石の力に頼ってる世界
魔石の浄化には三日三晩の時間が必要で、この領地ではそれを全部貴族令嬢の主人公が一人でこなしていた
「で、そのわたしを婚約破棄で領地追放なんですね?
それじゃ出ていくから、せいぜいこれからは魔石も頑張って作ってくださいね!」
小さい頃から搾取され続けてきた主人公は 追放=自由と気付く
塔から出た途端、暴走する力に悩まされながらも、幼い時にもらった助言を元に中央の大教会へと向かう
一方で愛玩され続けてきた妹は、今まで通り好きなだけ魔石を使用していくが……
◇◇◇
親による虐待、明確なきょうだい間での差別の描写があります
(『嫌なら読むな』ではなく、『辛い気持ちになりそうな方は無理せず、もし読んで下さる場合はお気をつけて……!』の意味です)
◇◇◇
ようやく一区切りへの目処がついてきました
拙いお話ですがお付き合いいただければ幸いです
【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く
【完結】彼女以外、みんな思い出す。
❄️冬は つとめて
ファンタジー
R15をつける事にしました。
幼い頃からの婚約者、この国の第二王子に婚約破棄を告げられ。あらぬ冤罪を突きつけられたリフィル。この場所に誰も助けてくれるものはいない。
えっと、先日まで留学していたのに、どうやってその方を虐めるんですか?
水垣するめ
恋愛
公爵令嬢のローズ・ブライトはレイ・ブラウン王子と婚約していた。
婚約していた当初は仲が良かった。
しかし年月を重ねるに連れ、会う時間が少なくなり、パーティー会場でしか顔を合わさないようになった。
そして学園に上がると、レイはとある男爵令嬢に恋心を抱くようになった。
これまでレイのために厳しい王妃教育に耐えていたのに裏切られたローズはレイへの恋心も冷めた。
そして留学を決意する。
しかし帰ってきた瞬間、レイはローズに婚約破棄を叩きつけた。
「ローズ・ブライト! ナタリーを虐めた罪でお前との婚約を破棄する!」
えっと、先日まで留学していたのに、どうやってその方を虐めるんですか?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる