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20-1:大魔女のキス

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20-8

「どこのお部屋も開いてにゃいよー お化けがまたくるぅかもー!」
「おかしいなー おかしいなぁー どこも閉まってるなんて~ 僕がっくりだぁ~」
 二人はあの部屋の前に立っていた。
「アイちゃんもう帰るぅ~」
「あ! アイちゃーん おいてかないでよぉー 違ったマボロチちゃん! ふたりの愛はどうしゅるのさー」
 階段近くまで走ったアイちゃん。
静かにヌーッと上がって来てきた何者かに瞬間ビビッたが、階段を浮くように来る。その姿に釘付けになってしまった。
『デブにゃんこのお化けだったんだぁ~♪』
 アイちゃんの目にはしっかりその様子が、顔が猫で、体が人間の何かに見えてしまっていたのだ。猫人間は大あくびをし、ふにゃふにゃと笑っているように見え。電動ポーターが止まった…。

 ポンッとマドが降り、ばーさんが腰を叩きながら降りた。
「猫よ… お前はでかくなりすぎてもうわしの膝では手が負えん… いきなり乗って来るのはおよしッ! ハァハァ ふぅ~」
 マドは喉を鳴らしさっきまでもがいていた、ばーさんの足にじゃれついた。
「わぁーー♪ 変身を解いたにょ~? 猫の魔法使いだぁ♪」
 アイちゃんが寄って来て、マドレーヌとばーさんを交互に見て聞いた。
「どっちが本体?」
ニャーー
 それは自分だよ。と、言わんばかりにマドが鳴いた。
「え? っわわわ お化けのばーちゃんだぁー にげろー」
 プキュプキュっと靴を激しく鳴らすマコトちゃんは、アイちゃんを置いて! 階段へ走り出そうとした。
「コラッー!」
「ぎゃー おろしぇー 僕になにかあったらパパが! ボコボコにしにくるぞぉー」
 ばーさんはマコトを捕まえ抱きかかえた。
「あははははは。お前じゃなくてパパが、かぃ? 階段を走ろうとするな! メッ! お尻ペンペンじゃー」
「にゃんこおばけしゃんは魔法使いでしゅか?」
 アイちゃんの目はキラキラ輝いていた。
「そうとも言うな~」
「悪い魔法使い?」
「うんにゃー 良い魔法使いじゃー 今はなー あっはっはっは」
「アイちゃん。僕にかまわずにげちぇーー」
「おぃおぃ 暴れるな。お前たち相合傘書きにきたんじゃろ? ちゃんと”恋人たちの部屋”開けてあげるからマコトだったかの? 降ろしても暴れないと約束するかー?」
 ばーさんは、マコトのお尻に手を上げる振りをした。
「ギョェー! ほんとー? 開けてくれるのぉ~♪ 言うこと聞くからおろちてー」
「恋人たちのお部屋ってなーに? ママもちゃんと教えてくれなかったよぉー」
「まぁー おまえさんら相手になら、魔法の部屋ってとこかのぉ」
「えぇー マッホゥのお部屋だったんだー アイちゃんも行く~♪ イキターィ」
 マコトちゃんを降ろしたばーさんは、二人と手を繋ぎ部屋へ向かい。そして、とつとつと話し始めた。
「あのな。昔なー おまえたちと同じくらいの子に相合傘書かせたばっかりに、
 えらく責められたことがあってのぉ…
 今からテストじゃー 合格したら書かせてやろう。ええかの?」
 ウェストポーチから、チェーン付きの鍵をジャラーっと伸ばしドアを開けると、マドレーヌが一番先に部屋へ入っていった。


20-9

 一方ここは某テレビ局の小さな会議室。
変態カメラマン1号こと、ヤッスーの姉。ドSタレントのメグミが、緊急会議に呼ばれマネージャーと話しこんでいた。
「びっくりしたわよー 原因不明なんだってねー」
「そうだなー」
「お葬式出たほうがいい?」
「訃報は耐え難いけども… こっちはライバルだった訳で、出た方が良いね。そーいうのは。シックなの着ていけよ」
 メグミがデビューから、ずっと付いてる敏腕マネージャー兼、事務所社長の白谷が言った。
「マスコミから変な質問きそうでやだなぁ…」
「でも。これで確実に仕事増えるな」
 白谷は訃報記事の載っているスポーツ新聞を見ながら、縁の無い眼鏡を押し上げた。
「コメント不可能…」
 彼女は、なんとなく蒼い顔をしていた…。

 数分後、テレビ製作の偉い人たちや、関係者がゾロゾロやって来た。
「あ! おはようございます」
 メグミは慌てて立ち上がった。
「いやー びっくりしちゃったねー 知ってるよね? 訃報 おはようございますー」
 入ってくるなり、てっぺん禿のディレクター。斉藤が言った。
「えぇ あたしたちも今話してたとこです」
「おはよう。おはよぅ~ 今日もよろしくお願いしますよぉー 訃報はともかく、あの噂いろいろ調べたよー そしたらぁ なんと、あの占い師って結構どころか、かなり凄いっぽぃよ 世界的に活躍してる人だった」
 バラエティー番組の名プロデューサー。伊香保が言った。
「そ、そーなんですか♪」
「で、メグミさまん♪ あなたをメインの番組にするって決定したから~ で、言ってた男子高校生の了承はもらえてるんだよね? その子メインに使いたいし」
「あーありがとうございます。はぃ! モチロンです。でも、その子がほんとに私に恋してるらしくてー その辺がちょと番組的には出来すぎかなーって思っちゃったり」
「そうそう、これ読んでね」
 斉藤がテーブルに置いていた企画書をメグミと、マネージャーに滑らせた。
「番組の趣旨として、あなた争奪で、勝ったらご褒美ってことにしたから。他にも高校生男子募って色々バトルさせよーかと思っててね~ 大丈夫だいじょぶー Mっぽい子いっぱい集めるし」
 伊香保が言った。

 二時間もかかった長い会議に疲れたメグミは、どうしようかと考えた挙句。別の局に向かう、運転してる白田とふたりっきりの車内でボソッと呟いた。
「あのね。私。前乗りしちゃった~」
「ん? どこだろ。なんか仕事入ってたっけ?」
 マネージャーは思わず、助手席に置いた分厚いスケジュール手帳を取ろうとした。
「相合傘… 占い師のとこ」
「あぁ。こないだ、収録待ちが伸びた時。出てくるって言ってた時か? それで、どうだった?」
「あなたの運勢は上り調子です。そのまま、素直に歩いていけば良いみたいなこと言われたよ」
「ありきたりだなぁー そんな程度なの? 実は。でも、偉いさんたち言ってたよな。とんでもない凄い占い師だって」
「うん。でね。男… 男の子に注意しろって言われちゃって…」
「そりゃまさに、お前の知り合いの高校生のことかぁー はたまた、もっと小さい子とか」
「でね、恋人たちの部屋教えてもらって行って来たよ。ほら、これ」
 メグミは携帯にゴッチャリ付けたアクセの中から、それを探しちらつかせた。


20-10

「レジュメにもあるとーり。青少年屋外奉仕活動クラブの年に一度の春本公演は。三月下旬。十五-十六日の二日間と決定しました。さー皆さん追い込みです。それぞれにこの強化合宿で咤激励しつつ乗り切りましょう。では、これから配役の正式を発表となります~ ホホッ♪」
『なにやら嬉しくて仕方なさそうな、水虫先生の顔を見たのは初めてだなー』
 っと、イリは思っていた。

 配役が次々と発表されていき、お芝居の内容は初めて部室に行った時のタイトルのまま『空と海の猫』で、日に二回それを二日で計4回やるらしかった。
トモヤはもちろん主役だったが、ダブルキャストと言う事で、他にも演じる役者がもう一名づつ抜擢され、
「イリちゃん! 僕頑張るよ~ 君のためにー」
 とか言い、台本を振るどこか誇らしげなトモヤ君だった。
「うん… がんばってー アタシのためじゃなくていいから…」
「キャーー がんばれがんばれ トモッヤーー フレーフレー♪」
 イリの声は、トモヤ親衛隊の黄色い声にかき消された…。

 配役は全て終わってしまい。部員たちのざわつく部屋をよそに、
「自分たちがやる重要な役は結局無くなってしまったのか?」と、ヒソヒソ話す四人の前に水虫が、ヌーッと顔を出した。
『わわっ』
 ミサキは背後から現れた先生に驚いた。
「えーっと。自分たちの役確認しましたー? ホッ」
「え? だって配役終わりましたでしょ?」
 カナは言ったが、
「ちゃんと見てませんねー? ほらほらめくって。めくって ここ! ホホッ♪」
 それぞれ持つ台本をめくると…、
「あぁー!」
 アヤンも、イリも、ミサキも、カナもそれぞれに、ボールペンで走り書きされた。急遽付け加えられたように思える、自分の名を見つけてしまった…。
|星の女神:風祭カナ
|セット・岩A:萩原アヤン
|セット・岩B:睦月アイリ
|セット・Big Tree:スクネミサキ
「誰も、セリフ一個もないですわー」
 カナが言うと、
「ち、ちなみに、お、俺。あっ あたしの~ 役って何か重要な役?」
 ミサキはちょっとだけドキドキして聞いた。
「いぇ。まんまその通り。セットのでかい木です。 ッホ」
「そ、そーですよね~ ハッハッハ(ま、まっ。まっさか。セットに顔出し穴とか開いてるんじゃ… このノリ… 幼稚園のお遊戯会レベルなのでは~ ウッヘー)」
 ミサキはちょっとだけガッカリしていた…。
「せ… せんせぃ。これって役なんでしゅか?」
「アタシは岩B。アタシは岩B。…ただの岩。あはははー でも、正直ちょっとホッとしたー」
「あなたたちのは、役と言うよりサポーターですねぇ ホホッ 基本一人芝居みたいな劇ですから、役者がセリフをド忘れした時に小声で教えて上げるという大事な役目なんですよ~♪」
「良かった~ いきなり演じろってなりゅよりはいいですにぇー」
「この、星の女神と言う、私の役はなんなのでしょう?」
「カナだけなんかちがぅよなぁー 差別だ。さべっちゅー!」
 ミサキは少しムッとしていた。
「風祭さんの役は、まんまそのままですです。たまーに、空から空へ飛んで行きますー フホッ」
「えぇー それって宙吊りとかですかー♪」
 お嬢様の目がキラキラ輝いた。
「観客をお芝居に引き込むための重要な役です。色々仕掛けがあるんですよ。ではそろそろ、草むしりターイム。頑張ってらっしゃい。ホホホッ」
 時計を見て水虫が言った。
「あ。はぁい」
「はーぃ」
「まいりましょう」
「はぃはぃ 行きますよー 高校生は草むしりが基本的に大好きだ~。出たくねぇーよー さみーよぉ 部屋でヌクヌクっと、マンガ読みてぇーよぉーん」

 ミサキは雪景色を見てブルッと震え仕方なしに外へ出て行った…。

 部員たちは精神鍛錬とチームシップをつけるという名目で、マンション周辺の清掃活動を毎朝やることも決まっていて、彼女たちが初めクラブの名で勘違いしたことも、あながち間違いでは無かったようだ。

20-11

 彼らの乗った電車は、時間調整のためホームに止まったままだった。

ヒュゴーーー ゴゴゴゴォー ピュ~
 だだっぴろい山々の見える閑散とした駅には、ただただ風が吹いていた…。
「うーむ… どこまでも付いて行くけどね。変な気起こさない方がいい… さぁーほんとの目的地へ向かってもらおうか?」
 一向に降りようとしない青年の肩を叩き、諭すように言うナナパパ…。
『あぅ~』
 タカオミは目的の駅で降りることができず、終点まで来てしまっていたのだった…。腰をつかまれたままの彼は、上りホーム側を目指しヨロヨロ歩き始めた…。



「これが貰ったストラップー 案外可愛い~♪」
 キラキラしたビーズ編みの立体的な猫の手を、白田に見せながらモミモミした。
アニャー ブー ニャー
「鳴くのよー これ かーいぃでしょ♪ なんとなく、アイラブユーって聞こえない?」
 メグミはまたモミモミしようとした。
「…で、相合傘書いて来たんだよな? 会議で言わなかったってことは… 名前によって出せなかったってことかー! 誰書いたんだ~ 何かあると困るから、ちゃんと教えろ!」
「そ、それは…」
 自分の顔の前に人さし指を突き出し、上下にパタパタ揺らすメグミ。
指先は白田の後頭を指さし、信号待ちで車は止まった。
「…あなたの名前~」
「えっ!」
 振り向こうとした白田は顔をメグミの両手で唐突に挟まれ、強制的に前を向かされてしまった。
「あなたが好きなのぉー♪ 大好きなの~♪ そんな訳ないでしょ~♪ うっそぉよぉ~♪ 白田さんは私の~ ただの中年親父マネージャー♪ 兼。しゃっちょーさん。ギャッハッハッハのはーっ!」
 後部座席で笑い転げまわるメグミ。
「あぅー…」
「ごめん、ごめん。アハハハハ 私じゃないの。私じゃ… 一緒に行ったトモカがね。書いたの…」
 メグミは真っ白く見える街を眺めた。
「ふぅ~ そーいうことかぁ。妹分のあいつは誰好きだったんだ? そこまで言っておいて秘密にするなよ。恋愛沙汰お断り!」
 白田はバックミラー越しにメグミをチラチラ見ていた。
「…今、ニュースになってる最中のひとぉ。だょ」
「おぃおぃ~ あいつのこと好きだったのかょおー」
「…うん …だから、ちょっとビビッてんだよね…」
「相合傘の逆呪いで? あいつがあの世行ったってぇー? わーっはっはっは。そんなのある訳がない…。元々体弱かったって話しだ…。偶然だよ。偶然… そう思うことにしとこうか?」
「う。ぅん…」
「言っとくがその話は他言無用だぞ?」
「分かってますって」
『あっ! いかんトモカに口止めされてたんだった…。あっちゃ~ 後の祭りだぁー』
 信号が変わり車は発信した。


20-12

「あ! 忘れてました。これこれー ッホッホッホッホッホイ」
 外へ出ようとする四人に、水虫が自室でチェックしていたコピー用紙を四人に渡し、そのまま小走りに外へ出て行った…。
「ん?」
「あらまぁ~」
『こっ、これがっ悪寒の正体… ドーン!』
「ななななななななんじゃこりゃーーーー!」
 ミサキの頭にギューーーと、血がのぼり噴出し…た。
数枚づつで綴じられたコピー用紙。
|前説コント
|【女子高生ミニスカポリス・恋も捕まえろ♪】
|作・演出:不知火アキミ
という台本で、四人の本名のまま役名も書かれていた…。



 ばーさんが部屋へ入ると、部屋のすみに天井から伸びた金属のポールが立っていた。
「なんだねこれは?」
 恐る恐る部屋に入ってきた子供たちは、
「わぁー 落書きの部屋だったのだー」
「そうねー なんか、全然こわくないね~ あたちも書きたいなー おばーちゃん テスト! テストーするといっぱい書けるのー?」
 と、ウメヨばーさんが触る謎のポールに近寄った。
「これなんでしゅか?」
 アイちゃんが聞いた。
「分からん、いつの間にこんなものを。おや?」
 ポールが刺さってるのは床下収納だったはずの所で、新しい扉も作られていた。
ガッチャッ
「こ、これは~♪」
 観音開きの扉を開けたウメヨは、下を覗き込み。そのままスルスル降りて行ってしまった。
シュルルルルルー
「あぁー いいなぁー 僕も~」
「あたちもー」
シュタッ! 
ポンッ ボテン
 次々に、階下の部屋に降り立つチビたち。
「アホなもん取り付けおって… 行くぞ! もっかぃじゃ~♪♪」
 ばーさんは、他人の部屋だということなどお構い無しだったが、キャンバスやら、油絵の具の匂いに気づき部屋を見渡した。
すると、どう見ても絵を本格的に描いてる誰かが住んでるとしか思えず、
「おぉー あいつ来たのか。そうか、そうか~ フフフ 頑張れよぉー」
 と、知ってる奴だと確信し、廊下に飛び出して行った。

ドドドドドー ドカドカドカ シッュルルルルー ドン!
キャー ワーワァー
「うっほほぉーぃ♪」

 リビングで幾度と無く繰り返される、子供とウメヨばーさんによる。屋内滑り棒遊びはとても騒がしかったが、傍らの寝室で寝てる深紫タカオミは、まだまだ熟睡していて、起きる気配は無かった。
『うーん うぅううーん ぐぐぁ~』
 だけど彼は、寝汗をかきうなされていた。
漆黒の壁がどんどん迫って来て身動きが取れない…
そんな悪夢を見ているようだった…。



アィニャーブニャー
 移動先のテレビ局に到着したメグミはずっと猫の手ストラップで遊んでいたが、
「猫の手を借りるって、つまり肉球で癒される~♪ って意味?」
 訳の分からないことを白田のスーツをツンツンして聞き、
「ゲゲゲェーーーーーー!!!!」
 いきなり滝のような汗を流した!
局の関係者専用受付でチェックを受けてる白田が、IDカードを貰いながら焦って振り向くと、周りに居た数名の人も何事かーっと一斉にメグミを見ていた。
「私が死ぬ~~~かもしれないじゃーーん!!!」
 メグミは焦りまくり白田の体にしがみついて揺すった。
『そんなことあり得ないだろうけどぉー
 えぇええええええ!
 今頃気づいたのかよーー!』
 白田は愕然とし。
ドSタレントのメグミさまん。
お頭の方も、ドスペシャル級のおバカだったことを再認識した!


20-13

 雪を掻き分け草毟りする部員たち。口々に、
「雪が隠してるんだから今はいいだろー」と不満を言っていたが、
「ブツブツ言わなーぃ!」
 ミミーが監視しながら、自分も清掃活動に励んでいた。
「雑草どこだよ! ゴミも見えねー ウリャー」
 案外真面目に仕事してるミサキが言った。
「うふふ~♪」
 イリは小石を探し押し込んだ。
「はぃ これでかんしぇ~」
 最後にアヤンが小枝を折って刺し込んだ。
「ほら見て見て~」
 アヤンは、カナに言った。
「かわいぃ~ どっかにちっちゃなバケツとか無いかしらん」
パチパチパチー

 目の前の花壇に小さな雪だるまが完成していて、三人は小さく拍手した。
「ゴラー 真面目にやれぇー 何遊んでんだょ むしれ! 毟り取れ! 奴らを丸裸にしろぉー フフーンッ!」
 タオルでほっかむりし、労働に汗するミサキの姿。それはそれは美しく、
「ウリャー オリャーー コノヤロォーー こうだこうしてやる~ グェヘッヘ」
 雑草やゴミが無くなると、別の部員の居る所へ出向いて回り、猛烈な勢いで雪にまみれていった…。
「あの人って、嫌がってたわりに単純作業させるとハマルんだよにゃー。まさに燃える清掃マシーン!」
「そうですわねー あーでも、きっと自分の勘違いに怒ってはけ口見つけてらっしゃいますのよ。ゴミや雑草が先生に見えて。ォホォホ♪」
 カナが言った。
「…しかし。弱りましたなー とんでもないことになりました…」
 イリが呟いた。
「水虫って本名だけはかっこいいにょにねぇ… アキミー!でも、水虫。キャハ」 
「この台本。これ本公演前説って書いてありますわよねー…」
 三人は肩を寄せ合い、ペラペラの台本を見つめた。
「そうですにゃ」
「お芝居に前説で、しかも! コントとかってアリなんでしょうか?… わらわかしてお芝居にどー切り替える気なのしょうか?」
 カナが台本を叩きながら言った。
「そうですにゃ~ 頭痛いですにゃ」
「しかもさ、ここ見てよ… この赤丸で囲った”歌”って部分が超気になるよぉー あたしら、ほんとに大事な役を任されちゃったんだ…。とんでもないことやらされるんだ…。大事な大事な本公演なんだよぉ~ トホホホホホホッ」
 大量の汗を飛ばし、頭を抱えるイリだった。
「見て見て~ 子供雪だるまできたにょー」
 アヤンはさっきのより、こぶりなのを作っていた…。
「アヤーン! なんか。あんたさ。さっきから、他人事のよーに言ってない? 余裕かましてる?」
「あたち~は、所詮米炊きおんなぁ~ 決して表に立とうとは思いません。そっとあなたの後に寄り添い咲く花…。立てないよぉおおおん… そんな大それたステージ…」
「どーする気なのです?」
 カナが言った。
「お腹痛くなる予定…」
 また雪をコネまわし始めたアヤン…。
「演歌歌手かー! えぇー じゃーアタシも… ってダメよダメ! カナは頑張るよね? ね?」
 イリが言うと、
「がんばりますわよぉ~ だって。こんな経験。めったにできませんものぉ~♪ 歌って踊ってマハラジャ マハラジャ~♪」
 …お嬢様は、腰をフリフリ踊り、やる気満々のようだった。
「え? 歌! 歌うのカナ~? そ、それはぁーやめましょうよぉ…」
 イリは唯一話の通じるカナと歌だけは止めようよ~っと、今後の傾向と対策をあーでもない、こーでもないと話し合い、草むしりタイムが終わるとアヤンの雪だるまがいっぱい並んでいた…。

20-14


 三人はマンションへ戻りながら話した。
「さむいにょ~ ブルルッ ハァー でも。なるようにしかなりましぇーんよ。しかし、大家しゃんまで草むしりさせられるとは思わにゃかったでしょ」
「お。そー言えば今日面接日じゃなかったっけ。マンションの管理人面接ぅ」
 草むしり遠征から帰って来たミサキが、カナの肩に手をかけようとすると、彼女は眉にシワを寄せ逃げるように避けた…。
「おっ! そーだったにぇー」
「そうそう、そーなのよぉ。お昼過ぎたら面接開始なのです~。でも、なんか変なのです。まだどなたからも連絡がなくて、数名居たはずなのになぁ」
「ふーん 雪凄いから遅れてるんじゃ?」
 ミサキは軍手がドロドロなのを見て、衣服が凄まじく汚れてることに気づいた…。
「ところで。ミサキは今度の大役についてどう思ってる?」
 イリが真面目に聞いた。
「えーっと うーんと。草むしりしながら色々考えました。宇宙の秘密まで。短い時間でしたが、答えは簡単でした! 奴に勝つにはこれしかねー 見事大輪の花咲かして見せましょう! 毒食えば皿までじゃー フーーン!」
「おぉー しょれは、意気込みが凄いですにぇ~ で、宇宙の秘密まで分かっちゃったのれしゅか?」
 アヤンはマイクを持つように手を伸ばし、レポーターになっていた。
「それはなんでしたの?」
 カナも自分の口から手を離し、ミサキに向けた。
「そ、それは… 業に入れば業に従えですぅ~~!」
「…さっきと違う事言ってない? …でも、もしそれが宇宙の秘密なら、あんたも大人になったってことかー エラィ!」
 イリはミサキにハイタッチしようとしたが、汚れそうだったのでやめた…。
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