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12-2:嵐のキス

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12-2:嵐のキス


 手すりの細いスペースを、隣の窓伝いに猫の橋まで駆け抜け、木の手前から一気に飛び降りた!

ドスン!

「うわぁ~~ あぶなねぇー!
 おまえ、猫かぁー!!


 なんだいったい血相変えて? どったの?
 その目はなんだろう?」


「タカオミはアタシの彼です!」


 イリはナナを睨み、全身の力を振り絞った!


「あぁん?
 今、何つった? もっかい言え。


 聞き間違えなら、このまま帰してやるよ。
 ションベンくせぇ~ おじょうちゃん♪」

「タ! タカオミは。あ、アタシの彼ですっ!
 絶対! 絶対に! ハァハァ」


 体は震えていた。


「ん~~ 聞こえた聞こえた。
 ちゃーんと聞こえたぞぉ~ フフッ


 でもな よーく聞きな~うちな
 彼の子が、お腹にいるんだけどぉ~♪


 これだけ言えば諦め付くだろ?

 早く帰りな~
 じゃないと。この犬が、何すっかわかんないよぉ~」


ナナは餌を喰ってるきんつばの背を撫でると、餌を喰っていたダルメシアンは、イリを見て、
ガルルルっと、牙を剥いた!

『怖い! 怖い! 怖い!
 体ガクガクで動けない!』

「腰抜けちゃったかなぁ~ 無理も無いよ
 ”レディース【悪夢】”のナナちゃんと言えば、
 

 ご当地なら泣く子もだんまりだよ~ん?
 しゃーなぃ こんな慈悲深いうちで良かったなぁ~
 

 連れてってやるよ。
 天国に~ ギャハ~
 

 きんつば~!
 二度とここに来れないよう尻でも、


 腕でも、どっか喰いちぎってやんな!」

 きんつばが唸りながら頭を下げ、腰を上げた!


ガウルルルルル

「ここは! ご当地じゃないーー!
 そんな脅しなんか怖くなーぃ!!」


 イリは必死で声を張り上げた!

きんつばがイリに飛びかかった!

ドスン!


 音がした。ミサキが二階階から飛び降り犬の首輪を押さえ込んだ!


「イリにげろ! 走れ~!」

ワンワン! ガウルルルルー!


 必死でご主人様の命令を実行しようと、イリに向かおうとするきんつば!

「ダメー 体がうごかなぃー ミサキー!」


 イリは怖さのあまり腰を抜かしていた!

「犬を押さえてもうちがいるよー
 どすんの? 元気なおねーちゃん」


ガウ! ガウ! ガウルルルルー



「どうもこうもねぇー ここで会ったが100年目!
 いつかの汚いやり口忘れてませんぜ!


 小僧院柳ナナ!」

 犬を押さえたままミサキはタンかを切った。


「うん?!」

「ゴム製造会社! 

 水風船爆弾親父の娘だろ?

 苗字が変わってたんで気づかなかったぜ~!」

「うわっちゃー
 あん時、あの子供空手大会で会っていたのね~


 こりゃ気づきませんでって…

 そう、そのとーりママの姓だけど?


 それがどうした?


 でさ。今更うちに何用?

 そいつを助けに来た以上の


 悪意を感じるけどぉ? ぷぷ」

「イリは俺の大事な親友だ!

 卑劣な手段好きなのは


 今も昔もかわらねぇーなぁ?

 お前らが、俺らチームに負けたとき、

 何したか覚えてるようだな?」

「あぁ~あれは傑作だった。
 パパの会社の協賛空手大会だったのに。

 お前ら優勝してどーすんの?

 だから、腹立ち紛れにやったさパパも元ヤンキーだし~」

「俺らが優勝したって分かったとたん。
 おめでとーって、


 水入れて膨らませたコンドームを、天井から降らせるは、
 周りからぶつけるはで、


 子供だった俺らは見世物みたいに笑われて、
 どんなに悔しかったか!」

「洒落のつうじねーガキンチョだったってことだろ?
 うれし涙が隠れてよかったじゃん?


 じゃーそろそろ、どんくらい強くなったか、
 見せてもらおうか? 


 犬抱えてどこまでやれるか

 見ものだなぁ うふ~ん♪」

「イリーいいか良く聞け!
 腰抜かしてるならこれしかない! イケ~~!」


 ミサキは首輪から手を離した!

「えーーーー!」


「うそぉーーーーー!」


 イリとナナは同時に驚き、きんつばはイリ目がけ大きくジャンプした!

「うわぁぁぁぁぁああああ!」


 イリは恐怖のあまり、走り出せてしまった!


そう、ミサキは一か八かの賭け、イリにショック療法を仕掛けたのだ!

バウバウアウーーーン


「ギャァアアアア~~~」


 背中に飛びかかってきた犬は、イリにパニックを引き起こした!


「ばーか どこ見てる!」


 ナナは細長いカミソリを取り出し、


「死ねー!!」

 イリに気を取られたミサキに切りかかった。


ドスン! また、音がした。


「これでどうでしょう?

 あなたも何かしらの武道経験者なら、


 凶器は捨てなさい!」

 カナは部屋の壁に備え付けていたナギナタを手に飛び降り、その切っ先をナナの鼻面に突きつけて言った!

「ぅーー!」

 ナナは動けなくなった。

その瞬間!

右足を高く上げジャンプし、振り下ろした!


「ギャッ!」


 ナナはミサキにエンズイ蹴りを喰らい、一発で伸びてしまった…。

「ふぅ~ お前もう修練してねーだろ?

 手見たらすぐ分かった。 ギャハハハ バーカ バーカ」


 ミサキはナナの手から柄の付いたカミソリを取り上げ、グニャリ曲げると、雑木林に投げた。


そして、仰向けに倒れたナナの額に、


「これは子供のときのぶん!」


 と、デコピンも一発お見舞いした。

「カナー 助かったよぉ~」


 ミサキはカナに抱きついた。

「お見事! お友達思いの、あなたの言葉に感動してしまったわ~♪」

 カナはミサキの背中をさすった。


「二人ともかっちょぃー イェーィ!」

 窓からヒヤヒヤして見ていたアヤンは、手すりに足をかけフライパンを握り締めていた。





 夢中でイリは、タカオミの部屋を目指した!

鍵はかかっていなかった。

犬を背中に乗せたまま、

「タカ…!!」

 

 と、言いかけ、部屋の正面に何かを見つけ小さな歓声を上げた。

「わぁ♪」

 犬はイリの顔をペロペロ舐め、尻尾を振っていた。どうやら、ただ遊びたかっただけのようだった…。
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