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11-6:真夜中のキス

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11-6:真夜中のキス

 一方その頃、イリに告白したトモヤもワクワクしていた。

勉強机に置いた、妹に頼み込んで貰って来てもらったイリの写真を見つめうっとりし、自室のタンスから必要な物を取り分け、
『負けないから!』
 と、拳を握り。キャリーバッグに勇気も詰め込んだ。

 ドアがノックされると、ミヨミが入って来て嬉しそうに作業してるトモヤに言った。
「ふっふっふ おにーちゃん。楽しそうだね~♪」
「おぅ! 兄は頑張るよ」
「あは。玉砕間違いなし…だけど、応援するよ~ん♪」 
「この思い貫くのみ!
 うじうじした昔の僕には戻らないと決めたんだよん♪

 でね、今日。ついに、ついに!

 告白しちゃった。 デヘヘ」

「えぇえええ。したの? びっくりだ~

 おにーちゃんスゴイよ!

 返事は? 返事は? へんじー」

「返事はぁ~~~…」

「早く早く!」

「っていうかさ、言い逃げしちゃった。 ダハ

 転んで膝、擦りむいただけかも ひゃは」

「え~~~ なんだぁ ダメよそれ~ どうするの?」

「ごめんなさいされる。

 振られてしまうに、決まってるじゃん…」

「えぇええ~ それじゃ、もうあきらめたの??」

「まさか!

 これからが勝負ですよぉ ふふふふ」

「さりげなく押す気だ?」

「そのとーり。

 振られても立ち上がるこの僕! 

 ライディンのように♪ その証拠にそこを見ろ」

 ミヨミがトモヤの指す方を見ると。プラモ専用棚から、彼が一番大事にしてた、あのロボの位置がポッカリ空いていた。

「無くなってる~ 私にも触らせてくれなかった。

 宝物のプレミアバージョン。

 プレゼントした!?」

「おぅ!」

「おぉ~ 妹としては、帰ってこないことを祈るよん♪」

「ありがとうよん」

「ほんっと演劇部入って良かったね~ 頼もしくなったなった」


「なぁミヨ。ラブラブモードの女子を、

 振り向かせる方法て無い? ある訳無いよなぁ~」

 トモヤは遠い目をした…。


「…わ、私はアサト君以外考えられないけど、

 もし他の誰かに目がくらむとすれば~すれば…」

「うんうん。で? で!」

「だめ! 考えられない~♪」

「あぅ」

 身を乗り出していたトモヤは床に両手をついて、がっかりした。

「ねね。良いこと教えてあげよっか♪」

「なになに? イリちゃん情報~?!」


「んふふ~♪ ちょっと違うけど。
 あのね、アサト君がネットの噂で知ったんだけど~
 ”恋人たちの部屋”って知ってる?」
「噂? 知らないなー」
「でね、その部屋の壁に好きな人の名前で相合傘書くと、
 必ず結ばれるんだって~♪
 なんと成功率100%! なんだって!
 でも、あたしたちはとっくに結ばれているから♪
 おにーちゃんが探すなら手伝おうかなーって

 アサト君も協力するって~」
「ひゃ、ひゃ、ひゃくパー!!!」 
 藁(わら)にもすがりたい思いのトモヤは、すぐに携帯からネット検索をかけ、
「ファイトー♪ 今度の日曜からラブラブ攻撃開始~♪」
 ミヨミはそんな兄に、心からエールを送った。



 四人がマンション前の道まで来ると、大きなトラックが止まっていて、荷物を運び込む運送屋たちに、ナナは座り込んで指図していた。
「ぶつけないよーに そーとそーっと 大事なベッド~」

「あーあの方が新しい住居人ですわ~
 先、部屋行ってて~  挨拶してこなきゃ。 はいこれ♪」
「ほーぃ」
 アヤンに鍵を渡したカナは、その女性のとこへかけよった。
「はじめましてー あたし、大家の風祭カナと申しますー」
 ナナはカナを見上げ、もっそり立ち上がった。
「はぃ? あぁー大家さん?
 かなり若いって聞いてたけど、
 ほんとに高校生なんだねー ヨ・ロ・シ・ク!」

「セクシーなおねーさんだにゃ~
 切れ長の目がかっこぃ~
 キャバ嬢?
 さーてこっちは、上行ってお茶の準備だにょ~
 イリちんもシャキッとして!」
「ほぇ~ぃ♪ ふぇーぃ♪ んふふふふ~♪」
 イリのお尻を叩いたが、こいつは当分このままだろうなと仕方なくアヤンは背中を押したが、ミサキは急に立ち止まり、
「むむ! ムムムムゥ~ ムァ~」
 眉にしわを寄せ目は細く、顎を押さえ唸ってるミサキにアヤンは言った。
「どーしたんだにょ~」
「どっかで会った事があるような。無いような…。
 ウンムムムムゥ~」
「知ってる人にゃの?!
 他人の空似ってことはー無いか。綺麗な人だもんね」
 イリとアヤンは先にエレベータに乗ったが、
「待って待って。あたしも乗る~」
 と、カナが走って来た。
ミサキはなかなか乗ろうとせず、視界からその女の人が消えるまで振り返り、振り返りチラチラ見ていたら、相手が小荷物を持ってかけて来た。
「あーこれこれ。お引越しのご挨拶代わりー。忘れるとこだった。
 はいどうぞ♪」
「いえいえ、こーいうのはお気持ちだけ頂戴しておきますわ~」
「まぁまぁ。そう言わないで、
 大した物じゃないしー なんなら皆で使って♪」
「じゃ遠慮なくいただいときまーっす」
 と、ミサキが勝手に受け取ってしまった。
「こら!」
 カナがミサキから、のし紙の付いたダンボールを取り返そうとすると、空の雲行きが怪しくなり、突然の冷たい風が、エレベーターホールにも吹きつけた。
ビュゴゴオオーーー ビューーー

「わっ!」
「さ、さびぃー」
「さむっ!」
 四人は身を縮こまらせたが、冷たい風も春風のように感じるイリは、
『わ~綺麗な人♪ アタシと同じシャンプーの匂い』
 やっと新しい住人に気づき、うっとり見つめてしまったが、またラブラブモードに入ってしまった。

すると、
「あ。俺、ミサキって言います。
 んで、このちっちゃいのがアヤン。
 このボーッとしてるのがイリでーす。
 俺らもこのマンションで少しやっかいになるんだ~ よろしくね」
 突然ミサキが自己紹介をはじめた。
「ん? あ。うち、小僧院ナナ。
 イリちゃん。さては恋してるね?
 うちも、すぐそこにラブラブのカレチがいるんだーほらぁ~
 この人! この人! んでね、んでね。
 そろそろプロポーズされちゃうかも~ イェィ!」
 ナナはウキウキで、コートをガバッとめくり、もろ肌の肩から二の腕を突き出し四人に見せた。
そこに”タカオミ命”と、タトゥーが彫られていた!


「!!!!」
 三人は慌てて、
ミサキはイリの顔に張り手を喰らわせ、あっちを向かせ。
カナは自分の口と間違え、イリの口を塞ぎ、
アヤンは倒れてきたイリを支えようと、胸をギューーッとつかんだ!

『嵐! 嵐! 嵐だ~~!!!
 本当の嵐がくるぞぉ~ 警笛を鳴らせー
 いや、もう間に合わん!
 救命ボートの準備ー
 もうわたしらの手に負えないかもしれない超どきゅうの大嵐だ~
 酔って寝てる、ぃ、イリ船長はどうするでありますか~!
 船長は船と共に沈むってのが定め!
 わわわわ、高波だ~
 早くボートへ!!!
 さようなら船長…いつか骨を拾いに来ます!
 敬礼!』
 っと、三人は同じ妄想をし、イリに向かって涙を流しほんとに敬礼していた。


「わ~ぉ。君たちーそんなに感動してくれたの~?
 嬉しいなー 君らも良い恋しろよぉ~
 んふふふっふ♪
 困りごとあったらいつでも言いに来いな~
 バイビー♪」

 扉が閉まり、ナナの嵐が去ると三人はを我先にイリを気づかい、ミサキは貰った箱をが邪魔で床に落とした。 
「見た? 見てない? 見てないよね? イリーー!!」
 アヤンはイリの肩を揺すった。
「叩いてごめんよ~ 痛かったぁ~?
 びっくりして思わず叩いちゃったよぉ~
 あいつが、一番の厄介ごとだぁ~~小僧ナナ!!」
 ミサキは後ろ手に中指を立て、
「どこかで会ったんだ絶対! どこだ どこだ~
 小僧、小僧、小僧ぅ~変な名前なのに思い出せない~!」
バンッ!
 ミサキはイラつき、壁を叩いた。
「…出会いは別れ。
 …恋は定め。
 徒然なるままに降り注がれる運命の糸。
 恋は儚き夢物語?
 でも!
 でもーーー! イリちゃん!」
 カナは沸々と湧き上がる感情を抑えきれずに言った。
「うんむ!」
「許しぇない!!」
「あんな奴だったとわぁ~!」
「あの日ちゃんと彼に会ってお話していれば…
 こんなことには!! あの日に戻りましょう!」
「うん! 賛成~ 酷い! ひどすぎりゅ~!」
「プロポーズするだとぉ~
 タカオミめぇ~~~!!!
 まんまと処女の生き血を吸いおったなぁ~!!
 乙女を舐めんなよぉ~~!!」」
「どうしゅる!!」
「決まってますわ…」
「どうもこうもないわぁ!」
「一人は三人のため! 三人は四人のため!
 そして、イリのため!!!」

「わ・か・れ・さ・せ・よ・う!」

 三人は団結した!
アヤンがカナの部屋のドアを開けようとした時”あり得ない物”が、彼女たちをかすめた。

プッシュウウウ~~~~~ ポテッ…。

「?!」
「なんですの??」
「スカイフィッシュ?」

 それは、プシュルルル~~~ッっと、飛んで行ったかと思ったら、
ポテッ…っと落ちた。

プシュ~ルル~ン ポテッ…
飛んでくる方を見ると、イリが後から何かを飛ばしていた。
「イチゴ味~♪」

ブッシュウ~ルルルルル~ ポテッ…
「パイナポー♪」

ビロォーーン
 ミサキはそれを拾い引き伸ばした。
「コ、コンドームぢゃん!」
「どこからこれを?? イリちゃーんハレンチですわ~ イャ~ン♪」
 カナは頬を染めた。
「ひっこち祝いだこりぇ~ 良かったら皆で使ってって… あそこ。あそこ!」
 アヤンはエレベーターホールを指さした。

 ずーっとハートマークで、ぼんやりしてるイリは、ミサキが落とした箱を開けてしまっていて、ズルズル連なったコンドームの封を破いては、風船のように飛ばしていた。

そのコンドームは出荷前の商品のようで、どこまでも長く、エレベーターホール前にポンッと置かれた箱から、ずーっとイリのとこまで繋がっていた。

コンドーム風船の残骸が、道を記す童話のように点々と連なったのを見て、ミサキは思い出した!
「あ~~~ そうだ! 水風船爆弾オヤジ!
 あいつ。ナナってゴム屋の根性悪娘だ~~!」

----------------

 一方その頃ヤスヒロもワクワクしていた。が、二個目のお宝を貰えたヨシノブも、ブラジャー片手に東側の壁に貼り付き、平泳ぎするみたいによがっていた。


「あーもぅダメ!
 死にそう~! メグミさま~ん~
 んふんふんふ~ん♪
 ハァハァハァア~~~」

 その壁向こうはヤスヒロの姉。きっつい性格のSアイドル・タレントとして売り出し中の芸名”メグミさまん”の御部屋があった。
ヨッシーは愛して止まない、おねー様へ少しでも近づこうと”絶対破れない壁”を突き抜けたい一心で、今度はゴキブリのような動きで踊り、汗や涎や耳汁や鼻水を穴と言う穴から分泌液を撒き散らしていた…。

 プリンターは静かに音を立て、二人が撮った写真の全貌を現そうとしていた。
『死んでいいから…ていうか死ね~~!
 で、そのブラ先に身に付けたのは僕な… 気持ちよくてさ~ つい…』
 と、変態の友人に、変態を自覚してないヤスヒロは思い、プリントアウトされてくる物を今か今かと待ちわび、それはポイッと出てきた。


『おぉ。僕の女神様ーーー♪』
写真をうっとりと眺めていると、
「あ。そだ君! あの噂知ってる?」
 ニヤついてるヤスヒロは聞かれて、真顔に戻った。
「噂?」
「片思いが100%成立すると言う、すっごい場所

 ”恋人たちの部屋”ってのがあるって言う噂!」
「あぁーん?…ラブホ??
 ていうか、その手の霊感商法には引っかかりませんよ僕…」
「ダメだよ! 僕らは行かないとダメなんだよぉ!
 だって、よーく考えてみろ。
 僕らが学校でなんて言われてるか…」


「うぐぅ!」
 ヤスヒロは痛いとこを突かれ考え込んでしまった。


『オタクヒキコモリーズ

 変態コンビ

 ホモール&ホモーラ

 似てない双子
 馬鹿兄弟

 インキンタムシーズ
 死臭兄弟!

 向こう側の人たち

 若いのに加齢臭
 死んでしまえ団

 ゾンビーズ

 死霊の盆踊り(R)

 学校来ると死んでる団

 ブラックホールーブラザーズ(BHB)


 などなど…他、罵詈雑言多数…』
 ヤスヒロは、言われ続けたことを思い返し…最後のはちょっと好きかもと…体を震わせ吠えた!

「うぉ~~~! 今に見てろよぉ~!」


「だろう? 僕らに学校での未来は無いに等しい…だったら。
 100%なんて夢のまた夢だ~!」
「でも、言っておくが僕とヨッシーじゃ、

 目的が大いに違いすぎる~!」
 ヤスヒロは言ったが、
「そりゃね~
 でも、こう考えろよ!
 君にとって、最低姉と恋するあの方はぁ~

 さ~ どっちが大事?
 答えはいらないけど~ フフン♪」
 ヨッシーは腰に手を当て、ニヤニヤしながら左右に揺すった。

「”恋人たちの部屋”だったな!
 検索開始♪♪♪」
 ヤスヒロの顔がほころんだ!
「ウッシャーーーー 今夜は貫徹覚悟だ~♪♪♪」

 ヨッシーも燃えるオーラを出していた。


『友よありがとう♪
 君は最高の親友だ!
 今度上げるお宝は、先に履かないで上げよう♪』
 と、ヤスヒロは思った…。

 二人はパソコンに向かいキーボードを軽やかに操作していった。

そして、部屋のすみには何故か、旅行用の大きなトランクと、カメラ機材を入れるケースが置かれ、プリンターは次の写真を吐き出していて、
そして! そこにはなんと!


イリが大きく写っていた!
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