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第2章     学舎と友

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「マリア様、終わりましたよ」


メアリーがそう言って姿見にかかっていた布を取る




少し紺色に近い青色に襟元はしっかりと立ち
フロントにダブルのボタンが5つ並び
ウエストのボディラインはキュッと締まりつつ
スカートは黒のレースがいくつか重なりふわりと
膝下までかかるデザイン
左肩にもレースが着いていた
そしてベルナールとサエルシアの両公爵家にしか
身につける事を許されていない金色のリボンが
首元に大きく存在感を表していた。



「わぁ凄い綺麗な制服!ねぇメアリー」

「はい、マリア様」


くるくると姿見の前で回り、嬉しそうにするマリア



「今日から毎日これを着てカレッジに行くのね」

今にも飛び跳ねそうなくらい何度も見る







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「マリア!綺麗だ!お兄様によく見せて!」



今にも飛びつきそうなアレンを父のロイドが
腕を前に出し、止める



「せっかくメアリーが整えたのをお前が崩すな。」



アレンもロイドには逆らえず
しゅんと大人しくする



「マリア、よく似合ってるよ」
「素敵なレディよ」


父と母に褒められて嬉しいマリア


「これはベルナールの人間だけがつけられる
 紋章のバッヂだよ」


そう言ってマリアの左胸辺りに付けた



「これは失くさずに大切にするんだ」


父も母も。兄のアレンも付けている




「じゃあマリア、俺と一緒に行こうか」



アレンが片手を差し出した


「はい、お兄様」



その手に応える様に重ねた








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カレッジの門前に次々と貴族の御子息や御令嬢が
乗った車が列をなしていた

その横を通り抜けて行くマリア達が乗った車



「お兄様?こちらで降りられないんですか?」

「ん?あぁ俺たちが降りるのは
 門前じゃなく校舎の前だよ、ほら」


ほら、と指をさす方を見ると人集りができていた


「目立つな、あいつ」


あいつ?とマリアが首を傾げた


「マリア、俺の後に続いて降りておいで」



車が停まると運転手が扉を開け
アレンが颯爽と降りた瞬間
女性の甲高い声が大きく響いた



アレンに続いて降りようと段差に片足を出した時
目の前に手が伸びてきた


その手の先にレオンがいた






「マリア、どうぞ」


優しい顔をしたレオンが出迎えてくれた



「レオン様‥」



マリアは差し出された手を取り車から降りた




「おい、レオン目立つの嫌いなんじゃなかったか?」


「今日は特別だ」



ふーん、と顔がにやけているアレンを横目に
マリアに目線を戻した



「マリア、おはよう」

「おはようございます、レオン様」



マリアは目の前にいるレオンに見惚れてしまう


王室で見る正装とは違い
デザインはマリアの着ている制服に似て
襟元が立ち、暗めの赤色のブレザーに
白いシャツに黒のダブルボタンが付いたベスト
黒のズボンに黒のロングブーツ
ネクタイも黒色だけどその上に王族の証である
紋章が入ったネックレスの様な物が付いていた


そのような物を付けているのは多分このカレッジで
レオンだけ。アレンには公爵家である金色のタイだけ



「マリア、教室まで案内するよ」

「はい、お願いします」


手を握り、校舎の中に入って行く2人の後ろを
アレンがついていった

アレンは微かに視線を感じ後ろを見た



「(あーぁ、レオンの奴、普段しない事するから‥)」






マリアの手を引き、他愛もない会話を笑顔でする
レオンを見つめていたのは

ベルナール公爵家と並ぶ
サエルシア公爵家の長女でマリアより2つ上で
レオンとアレンの同級生ローズ・サエルシアが
真顔で見ていたのに気づいたアレンだった




「(女の嫉妬は怖いな。マリアに何もないといいけど)」




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「マリア、今日は初日だから午前中だけで
 僕もアレンも終わる、一緒に帰ろう」


「はい、玄関前でお待ちしてたらいいですか?」


「教室にいて。迎えに来るよ」


「マリア~今日の朝、父上に止められたから
 朝の挨拶してない。今、していい?」


「え、」


戸惑うマリアを見たレオンはアレンの腕を引き


「やめろ、マリアが困ってるから。」

「レオン離せよ、兄妹のスキンシップに
 口出さないで貰えますか~?」

「マリア、じゃあまたね!ほら、アレン行くぞ」


アレンを引っ張り教室から離れて行くレオン







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約束通り、教室まで迎えに来てくれた
レオンとアレンと一緒に王室の車に乗り
公爵邸に着いた



公爵邸の玄関先でレオンに


「また夜に公爵邸に来るよ
 公爵からディナーに呼んでもらったから」

「はい、お待ちしております」


いつもの様にマリアの手にキスをして、マリアの耳に


「君に渡したい物があるんだ」


と囁かれた



「はい‥」


それだけ返事をするのが精一杯のマリアだった



車内で手を降り、去って行くレオンに小さく
手をふり返したマリアは



「(渡したい物ってなんだろ‥?)」




とぼんやりと考えていた








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