上 下
28 / 60
3章 魔法&剣術指導

27.兄貴でいたいんだ…

しおりを挟む
 ユーリがアスタルト邸に迎えられてから一ヶ月が経とうとしていた。
 しかし未だにユーリの心は晴れなかった…。
 両親というこの世でもっとも大事な存在を失った彼は、与えられた自身の部屋のベッドに倒れこみ、自分の境遇に失望し、ついには感情まで失いかけていた。

(父さん、母さん…俺こんなのもう耐えられない…父さん達を殺した養父あいつと同じ家で過ごすなんて…)

 未だにアスタルト家を新たな家族として受け入れる事はもはらユーリにとっては不可能に近かった。
 そしてその悲しい姿をサイガとサティ、そしてサティに抱っこされていたリタが見ていた。

「おにーさま、あのひとはどうしたんですか?」
「サティ…今はそお~っとしてあげよう…ユーリは心に深い傷を持っているから…」
「ふかいきず?」

 当時2歳であったサティにはサイガの言っている事はさっぱりであった。

 そんなサイガとサティと正反対に、リタは…

「ばあ~!」
「あ!こらリタ、」

 リタはまるでユーリと遊びたがっているかのように、彼を呼びかけその拍子に部屋の扉が開いた…。

 扉の開閉音に気が付いたのか、ユーリは正気に戻った。

「なんだよお前ら…何か用か?」
「ご、ごめんそんなつもりじゃ…」
「う~!う~!」
「な、何だよ!!」

 赤ん坊であるリタは、その無邪気さをユーリに見せていた。
 まさに、「遊ぼ~!」と言っているかのようだった。

「もしかして、リタはユーリと遊びたいんじゃない?」
「はあ、ふざけんじゃねえよ!言っとくけどな!俺はお前の兄貴じゃねえ!遊ばねえからな!」

 ユーリはリタにきつい言葉を放った。
 しかし、そのきつい言葉によりリタは今にも泣きだしそうな表情になった。

「わ、わわわ!おい!泣くな!」
「リタを泣かせないでください!!」

 サティは怒りを見せた。
 妹を泣かされた事が相当逆鱗となったらしい。
 らちが明かなくなりユーリは仕方なくリタの遊び相手となる。

 最初は人形遊びをして、次はおもちゃで遊び、絵本も読んであげた。

「そして、王子様とお姫様は2人仲良く暮らしたのでした…めでたしめでたし…」
「きゃ~!」

 リタは楽しかったからか、ものすごい嬉しそうな笑みを浮かべた。

 その笑顔を見たユーリも少しだが、心がほっこりしたのだった。

 それを見たサイガとサティは彼に言った。

「楽しいだろ?リタといると」
「え?」
「この子といると、私達も自然と明るい気分になってしまうのです!」
「・・・」
「きゃ!」

 リタの笑顔にユーリは完全に癒されたのだった。

 もう戻ってこない両親の事をいつまでも引きずっていた自分が情けなく感じた。
 いくら泣いても両親は帰ってこない、改めてそう思ってユーリは心に決めた。

 そう思ったユーリはある場所へ向かった。

 それは、ガイアの所だった。

「どうした?ユーリ?」
「あの、壺…壊してごめんなさい…」
「?…どうしたいきなり?」
「俺が間違ってました…もう俺には父さん母さんはいない…でも、"今"の父さん母さんならいる」
「・・・!?」
「もう泣かない、今の家族を大事にしたいから…」

 反省の色をガイアに見せて壺の件を謝罪したユーリ。
 その態度にガイアも心を許し・・・

「いいんだユーリ、反省しているならお父さんも本望だ…もう二度とやるなよ」
「はい…」

 一件落着!
 まさにそうだった。

 新たな家族とのわだかまりが消えたユーリ、そのきっかけを作ったのは…リタであった。

 そう思ったユーリは、心からリタに感謝したのだった。


 ーー時は戻って現在。
 ティオに過去の話をしていたユーリ。

「こうして俺は、この家の人間として改めて迎えられたんだ」
「そうなんですか…」
「今でも思うんだ…この家にリタが居なかったら、俺は俺じゃなくなってたんじゃないかって…」
「…僕も、拾ってくれたのがお姉ちゃんだったから、一緒に居たいって思った…だから…」

 互いにリタに対する想いを打ち明けた2人であった。

「だがな、リタは知らないんだ…俺が本当の兄貴じゃねえって…」
「え?」
「俺から父さんに頼んだんだ…『リタが物心ついても俺が養子だって事は黙っててほしい』って」
「どうして、ですか?」
「あいつだって、この家が好きなんだ…だから俺が本当の兄貴じゃねえって知ったらショックを受けると思う…俺はこれからも、"兄貴"でいたいんだ…だから、悪いけどティオ、お前も黙ってくれねえか?」

 ユーリの真剣な思いによるお願い事を伝えられたティオ。

 だが、ティオの決心は決まっていた。

「分かりました、今の話はお姉ちゃんには内緒にします」
「頼んだぜ!」

 こうして2人は約束をした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

逆チートで死にたくないので、英雄をプロデュース~他人(ひと)を頼って生き残れ!~

茶虎ねこ
ファンタジー
「そこそこ」で生きてきた「ぼく」の自我は、事故死直前にしぶとく身体を脱出、そのまま異世界に誕生したばかりの赤ん坊に入りこんだ(らしい)。 ☆☆☆その赤ん坊は英雄となるべき存在だった。転生によってその赤ん坊に「中途半端」という特性を付け、英雄の資質を台無しにした「ぼく」は、転生チートどころか、本当はあるはずのチート的能力を失った。いわば「逆チート」状態で二度目の人生をはじめることになる。しかも、それでも英雄として召喚されてしまう可能性があるとか……。 ☆☆☆正義とか人助けどころじゃない。救うのは世界より自分だ、「ぼく」ことアンリは、英雄になったはいいが力不足であえなく死亡、という結末を回避するためだけに全力でがんばることにする。 ☆☆☆自分の力だけではどうにもならないので、アテにするのは他人の力。他に英雄を仕立てて、なんとか逃げ切りたい。個人的な目的に協力を募るのは、どこか壊れた人間限定。クズオンリーの仲間だけで、英雄召喚が必要な世界情勢を回避できるのか? ☆☆☆キーワードは「きみ、英雄になりませんか?」 「なろう」でも掲載させていただいています。

私のスローライフはどこに消えた??  神様に異世界に勝手に連れて来られてたけど途中攫われてからがめんどくさっ!

魔悠璃
ファンタジー
タイトル変更しました。 なんか旅のお供が増え・・・。 一人でゆっくりと若返った身体で楽しく暮らそうとしていたのに・・・。 どんどん違う方向へ行っている主人公ユキヤ。 R県R市のR大学病院の個室 ベットの年配の女性はたくさんの管に繋がれて酸素吸入もされている。 ピッピッとなるのは機械音とすすり泣く声 私:[苦しい・・・息が出来ない・・・] 息子A「おふくろ頑張れ・・・」 息子B「おばあちゃん・・・」 息子B嫁「おばあちゃん・・お義母さんっ・・・」 孫3人「いやだぁ~」「おばぁ☆☆☆彡っぐ・・・」「おばあちゃ~ん泣」 ピーーーーー 医師「午後14時23分ご臨終です。」 私:[これでやっと楽になれる・・・。] 私:桐原悠稀椰64歳の生涯が終わってゆっくりと永遠の眠りにつけるはず?だったのに・・・!! なぜか異世界の女神様に召喚されたのに、 なぜか攫われて・・・ 色々な面倒に巻き込まれたり、巻き込んだり 事の発端は・・・お前だ!駄女神めぇ~!!!! R15は保険です。

捨てられたお姫様

みるみる
ファンタジー
ナステカ王国に双子のお姫様が産まれたました。 ところが、悪い魔女が双子のお姫様のうちの一人に、「死ぬまで自分やまわりの人が不幸になる‥」という呪いをかけてしまったのです。 呪いのせいか、国に次々と災いが降りかかり、とうとう王妃様まで病に伏してしまいました。 王様と国の重鎮達は、呪われたお姫様を殺そうとしますが‥‥‥。 自分が実はお姫様なのだという事や、悪い魔女の呪いを受けている事を知らない、捨て子のリナと、 不器用で落ちこぼれながらも、正義感が強い魔法使いの男が、共に試練を乗り越えて成長していくお話です。

愛人をつくればと夫に言われたので。

まめまめ
恋愛
 "氷の宝石”と呼ばれる美しい侯爵家嫡男シルヴェスターに嫁いだメルヴィーナは3年間夫と寝室が別なことに悩んでいる。  初夜で彼女の背中の傷跡に触れた夫は、それ以降別室で寝ているのだ。  仮面夫婦として過ごす中、ついには夫の愛人が選んだ宝石を誕生日プレゼントに渡される始末。  傷つきながらも何とか気丈に振る舞う彼女に、シルヴェスターはとどめの一言を突き刺す。 「君も愛人をつくればいい。」  …ええ!もう分かりました!私だって愛人の一人や二人!  あなたのことなんてちっとも愛しておりません!  横暴で冷たい夫と結婚して以降散々な目に遭うメルヴィーナは素敵な愛人をゲットできるのか!?それとも…?なすれ違い恋愛小説です。

東京PMC’s

青空鰹
ファンタジー
唯一向いの家族である父親が失踪してしまった 大園 紫音 は天涯孤独の身になってしまい途方に明け暮れていた。 そんな彼の元に、父親の友人がやって来て 天野 と言う人の家を紹介してもらったのだが “PMCとして一緒に活動しなければ住まわせない”と言うので、彼は“僕にはもう行く宛がない” 天野と言う人の条件を了承して訓練所に行き、PMCライセンス を取得した一人の少年の物語。

薄幸召喚士令嬢もふもふの霊獣の未来予知で破滅フラグをへし折ります

盛平
ファンタジー
 レティシアは薄幸な少女だった。亡くなった母の再婚相手に辛く当たられ、使用人のように働かされていた。そんなレティシアにも幸せになれるかもしれないチャンスがおとずれた。亡くなった母の遺言で、十八歳になったら召喚の儀式をするようにといわれていたのだ。レティシアが召喚の儀式をすると、可愛いシマリスの霊獣があらわれた。これから幸せがおとずれると思っていた矢先、レティシアはハンサムな王子からプロポーズされた。だがこれは、レティシアの契約霊獣の力を手に入れるための結婚だった。レティシアは冷血王子の策略により、無惨に殺される運命にあった。レティシアは霊獣の力で、未来の夢を視ていたのだ。最悪の未来を変えるため、レティシアは剣を取り戦う道を選んだ。

騎士団寮のシングルマザー

古森きり
恋愛
夫と離婚し、実家へ帰る駅への道。 突然突っ込んできた車に死を覚悟した歩美。 しかし、目を覚ますとそこは森の中。 異世界に聖女として召喚された幼い娘、真美の為に、歩美の奮闘が今、始まる! ……と、意気込んだものの全く家事が出来ない歩美の明日はどっちだ!? ※ノベルアップ+様(読み直し改稿ナッシング先行公開)にも掲載しましたが、カクヨムさん(は改稿・完結済みです)、小説家になろうさん、アルファポリスさんは改稿したものを掲載しています。 ※割と鬱展開多いのでご注意ください。作者はあんまり鬱展開だと思ってませんけども。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

処理中です...