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本編

42 最終決戦

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急速に意識が浮上する。

ぼやけた目に、いつもの見慣れた天井が映った。

「!!」

バッと起き上がり辺りを見渡すと、みのり以外誰も居ない。

ブン

勝手にボードが開き、『メッセージが届きました』と画面一面に表示されている。

だが、今はそれどころでは無い。

テントの出口へ走り出ようとしたところで、「みのり様」とカミラが立ち塞がった。

「カミラさん!皆は?」

焦って声が上擦るが、目の前を塞ぐ彼女に問い掛ける。

「既に出発なさいました、みのり様はテントにてお待ち下さい」

予想を裏切らない答えが返ってきて余計に焦った。

「私も行きます!」

足を踏み出したいのにカミラは退いてくれない。

みのりよりも頭ひとつ高い位置にある顔を見据え、言い聞かせるように声を出す。

「カミラさん、そこを退いて下さい」

「みのり様はテントにてお待ち下さい、抵抗するようでしたら縛らせていただきます」

「…そんな事をしたら舌を噛みますよ?」

勿論番達が居るためそんな事をするつもりはないが、相手に少しでも考える余地を与えたい。

「番の契約は解除されております」

「え?」

予想外のカミラの言葉をみのりは直ぐには理解できなかった。

「みのり様が亡くなったとしても我が主には何も影響はございません」

カミラが冷たい声で言い放った。

しかしここずっと一緒にいたみのりには、あまり表情を変えない彼女が後ろめたそうな感情を滲ませているのが分かる。

気を失う前の話を思い出した。

『番の契約の『解除魔法』が出来たよ』

「そんな…」

理解した途端、体中の血が凍るような心地になる。

震える手でうなじを確かめるが、そこに有るはずの歯型の凹凸が無くなっている。

今まで何となく感じていた繋がりも、切れているのが分かってしまった。

「うそ…っ、」

急に訪れた脱力感に、体が傾くのをカミラが抱き留めた。

「ふ、ぅ、ひどい、」

泣くみのりを抱え上げ、ベッドに戻して彼女は出て行ってしまう。

「っ、ぅ」

一人残され、このまま脱力感に従って横になっていたいという思いが全身を満たすが、

(…だめ、そうするのは今じゃない)

とみのりは気力で奮い立ち、涙を拭った。

(時間が無い)

冷静に考えなければ、と先程のメッセージを思い出す。

このタイミングで来たのだから何か打開策が有るかも知れない。

タップして開いた。


『みのりちゃんへ

期間限定⭐︎『女神の贖罪』お助けサービス開始しました♪

みのりちゃんには度重なるご迷惑をお掛けしまして、誠に申し訳ございませんでした(。・人・`。))ゴメンネ
初めてが無理矢理とか、ましてや半日とか無かったよね……ほんと、無かった。

みのりちゃんの体どうなっちゃってるの?(汗)
大丈夫ですか~?(心配)
女神は流されスキルの高いみのりちゃんを尊敬してます~!

そして勝手ですが、女神は反省致しました。
ですので、物語が佳境に入りまして通常1つの所、3つの願い事を叶えたいと思います♪

願い事は何でも良いですよ~。

でも前世に戻りたいとかは無いと思いますが、無理です~。

◯◯が欲しい、とか、◯◯がしたい、とか念じてピロン♪と音が鳴ったら完了です。

それと、みのりちゃんに全て終わるまで眠っちゃう催眠魔法が掛かっていたので消しときました~。
女神はみのりちゃんを応援してます~♪

頑張ってね♪

女神より』


何かあったの?と疑問に思ったり、誰のせいだ!とかいうツッコミは今はしない。

「3つね、なら」

(転移魔法を使えるようにして!!)




ピロン♪





ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー






猿獣人国は突如現れた大量の魔物に襲われていた。

北の方角から黒い帯を引きながら近づいてきた物体は、王都のド真ん中上空に滞空し大量の瘴気を出し始めた。

世界中の瘴気を集めたのではないかと思う程の、視界を塞ぐ濃密な瘴気が王都を包み込む。

それが間を置かずに薄れ始めた頃。

グォォオオオオオ

「キャァァァアアーー!!」

王都は魔物の唸り声と悲鳴に満たされた。


魔王は六つの翼を羽ばたかせ、目を開く事なく眼下を眺めている。

血の涙の模様は生々しく、魔物に襲われている人々の姿に心を痛めているかのようだ。

目を開ければ悲しみに暮れた慈愛の瞳があるのではと錯覚してしまうが、先程大量の瘴気を出し今も上る悲鳴の元凶は彼女だ。


ヒュンッ


ガガガガガガァアアッ



魔王に急速に接近した影は、麗しい横っ面を叩き切りながら彼女を弾き飛ばした。

幾つもの歴史ある建物をぶち壊しながら飛んでいく魔王は、広場を抜けて分厚い城壁に叩きつけられて止まる。

【!?】

パラパラと体から落ちる瓦礫を翼を振って払いながら、攻撃を加えてきた物体を探す。

頬から肩を裂かれた傷はみちみちと元に戻っていくが、傷口が焼かれるように痛んで回復が遅い気がした。


ヒュンッ


ズバッ


【っ】


再びの攻撃を防ごうと腕を交差させるが、相手の攻撃は魔王の体を貫いていく。

その攻撃は止むことなく魔王に降り注ぎ、見る間に黒い肢体を無残な姿に変えてしまう。

【イ、タイ、ヤメテ、イタイ、イタイイタイイタイ】

イタイと繰り返す魔王の体から、暗い光が木漏れ日の様に溢れていく。

その光が一瞬煌き、胸の辺りに集結したかと思うと、

【ァァァアアアアアアアアアアアアアアア】

絶叫と共に爆発した闇が、衝撃の波を起こしてそこにある物全てを吹き飛ばした。

「「「っっ!!??」」」

先程の魔王と同じく、その衝撃波に飛ばされた影は三つ。

止まった先で体を地面に投げ出し項垂れている三人の魔物の前に魔王は降り立つ。

彼らに付けられた傷だらけの体は、完全に元に戻っていた。

自分に唯一対抗出来る存在を消してしまおうと、彼らに両手を向ける。

その掌に暗い光が集まる。

が、

【!?】

突然体が自分ではない物に感じ、光が霧散してしまう。

体に巻き付く無数の縄に、手足を広げた無防備な状態で固定された。

「キッツッ」

「っ、流石に魔王だな」

「……」

いつの間にか立ち上がった三匹の魔物。

【?】

そう魔物なのに、何故魔王に牙剥くのか。

ふ、と先程までの唸り声や悲鳴が聞こえない事に気付く。

まるで最初から魔物やそれらに襲われる人々など居なかったかのように、辺りは静か過ぎた。


「よし、効いてるね」

【??】

魔王は表情は変えないが困惑しているようだ。



少し前に遡る。

勇者聖女が討伐の前に動き出すのは分かっていた。

魔王を手懐け自らの欲のために使役しようとする姿は、映像として記録してある。

既に聖女の父と継母や悪事の関係者は、猿の王によって捕縛されていた。

証拠を押さえた後、魔王の形態が変わったのは予想外だが、その動きは予想通り。

世界は準備をしなかった訳ではない。

全世界に魔王討伐の際は都市からの避難を指示していた。

魔王が飛び去っていった直後、その方角と速度から彼女が向かっている事と到着時刻を猿の王には知らせていた。

恐らく一番に狙われるのは、魔王の憎しみを生み出した祖国だ。

以前の魔王は最初に王都を狙っていたし再び狙うかどうかは分からなかったが、世界中に張り巡らせた目は移動する魔王を捉え続け、その終着点はやはり猿獣人国である事を確認した。


計画通りに避難は恙無く済んでいる。

王都に木霊していたのは魔物の唸り声のみで、魔王が見ていた人々は幻覚で生み出された物だ。

さらに、魔物も龍の王や猿の王、またはその配下によって三人が戦っている間に駆逐されている。

魔王が雪穴で寝転げていた時にビオによる催眠魔法によって、現在の彼女は体の動きを止められていた。

その体を拘束しているのは、三人が聖水と魔力で編んだしめ縄だ。



「良かった♪じゃあ、死んで?」

ビオがそう言うと、拘束されている魔王の下の地面に巨大な魔法陣が浮かび上がる。

同時に、頭上にはみのりの聖水から創った巨大な剣が刃先を魔王に向けて天上から現れた。

【!!!】

シアンが跳び上がり巨大な剣の柄を魔王に向かって叩きつける。


ズガァァァアアアンンンッッ


【ギャァアアアアアアアアアアアアアアア】


魔王に落ちた剣は清浄な気と共に爆発し、その衝撃波で飛ばされそうになるのを足を地面に食い込ませて耐える。

風が止み、土煙が止む前に更なる攻撃を仕掛けて行く。

「ちっ、催眠解かれたみたいだ、早く!」

「分かってる!!」

リアンが双剣を握り駆ける。

その機動力を活かして、聖剣や攻撃魔法で魔王を追い詰める。

三人による追撃で立ち上がった土煙も晴れて視界が開けると、そこにはボロボロの魔王が居た。

爛れた皮膚、千切れた翼、抉れた肉体。

その傷口からは液状の闇が溢れていた。

拘束は焼き切れている。

満身創痍の魔王の姿がドロリと崩れた。

「やったか」

【ア、…ア、…ア、ア、】

「まだだ」

地面に広がる闇から、小さな塊が浮かび上がる。

それは、以前の球体をした魔王が小さくなった姿。

【ヤット…シネルノネ】

「可哀想だけど、そうなるね」

三人が聖剣を振り上げる。


「待って!!!」

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