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第二章 『過去の試練』

第32話 〜共存都市〜

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「ねえ、ずっと気になっていたんだけど、ライムの着ているその黒いローブってなんなの?」

 街に向かっている途中、イヴが突然尋ねてきた。

「どういうことだ?」

「そのローブ、私の【真理眼】でも能力が分からないんだけど」

「ああ、そういうことか。それは多分、このローブが闇の女神テネブラから貰ったものだからだと思うぞ」

「そうなのね……え?ライムって闇の女神様と会ったことあるの?」

 イヴは立ち止まり、俺を見つめている。
 どうやら、嘘はつけないようだな。

「ああ。会ったことあるよ」

「いつ、どこで、会ったの?」

 イヴが食い気味でぐいぐいと顔を近づけて来る。
 少し距離を取ってから、俺は勇者パーティーに裏切られたことと、それから闇の女神に会ったことを説明した。

 イヴは終始黙って俺の話を聞いていたが、俺が説明し終わると、口を開いた。

「ライムも辛かったのね」

「まあな」

「ていうか、勇者パーティーの人たちって本当に最低ね。ただライムの力に嫉妬しただけじゃないの」

「ああ。だから、俺は勇者レオへの復讐を決意したんだ」

「……そうだったのね」

 イヴが下を向く。
 人の不幸を共感して悲しむことのできるやつなんだな。

「まあ、それは置いといて、そろそろ街につきそうだぞ」

 イヴと話しているうちに、目の前に大きな門が見えてきた。
 そこでは、亜人族と人族が順番に並んで列を作っている。
 なるほど、本当にここは亜人族と人族が共存している街なんだな。
 改めて実感させられた。

 そして、俺たちも他の人たちと同様に列に並ぶ。
 やがて、俺たちの番になり入場税を門番に支払った。
 門番は亜人族である狐の獣人だった。

 街の中に入ると、そこには驚くべき光景が広がっていた。
 亜人族が商品を人族に売っていたり、人族と亜人族が仲良く会話しながら、ご飯を食べている。
 それは、亜人族差別のある王都グランザムでは考えられない光景だった。

「どう?すごいでしょ?」

 イヴがニコニコとしながらこっちを見てくる。

「ああ。本当にすごいな……」

 目の前の光景に驚愕するあまり言葉が続かない。

「じゃあそろそろ遅い時間だし、宿屋に行きましょう」

 イヴはそんな俺の手を引いて、走り出した。



 ……30分後

 俺はイヴと二人で一つの部屋を借りることになった。
 理由は簡単だ。
 入場税のせいでお金がなくなったからだ。

 当然のことだが、禁忌の森に全ての持ち物を置いてきた俺はお金を持っていない。
 イヴも村にお金を置いてきたみたいで、少ししか持っていなかった。

 その結果が今の状況につながっている。
 そして、俺たちにはさらに新たな問題が巻き起こっていた。
 それは、ベッドをどっちが使うか問題である。
 もちろん、一つの部屋しか借りていないため、ベッドもひとつしかない。

「ねえ、ライムがベッドを使いなさいよ」

「俺はいいよ。イヴが使え」

「私は昨日のベッドで十分堪能したわ。だから床で十分よ!」

「それなら、俺もだ」

 不毛な会話が続く。
 お互いに譲り合い、どちらも決して妥協しなかった。

「こうなったら仕方ないわ」

 イヴの言葉を聞いて嫌な予感がした。
 すぐさま、部屋を出て行こうとしたが肩を掴まれた。
 すごい力だ。まったく振りほどけない。

「一緒に寝ましょう」

「え?やだよ」

 即答する。

「どうして?」

「理由は特にないけど……」

「じゃあ、いいわね」

「いや、でもイヴはそれでいいのか?男と一緒に寝ることになるんだぞ?」

「ライムは私に何かするの?」

 イヴが挑戦的な目で俺を見る。
 こいつ、絶対面白がってやってるな。

「何もしないけど」

「じゃあ、いいじゃない」

 こんなふうなやり取りをした結果、俺はイヴに説得されて一緒に寝ることになった。

 俺が先にベッドに入り、イヴが後から入ってくる。

 ベッドが小さいため、肩と肩が密着する。
 すると突然、イヴが俺の手を握って口を開いた。
 心なしか手が震えているように感じる。

「私はね、怖かったのよ」

「……」

「唯一の生き甲斐だったリリアを失って、本当にもうダメかと思った」

「……」

「それでも、私は今こうして生きている。全部あなたのおかげよ」

「……」

「ありがとうライム。そしてこれからもよろしくね」

 最後に俺への感謝の言葉が部屋に響いた。




 翌日、朝ごはんを食べるためにこの街の冒険者ギルドに向かった。
 冒険者ギルドは依頼を受ける場所でもあるのだが、食事や宿泊などができる場所でもあるのだ。

 冒険者ギルドの食堂に入り、席に着くと、すぐに猫人族の店員がやってきた。

「ご注文はニャににされますか?」

「俺は、スムージーにするけどイヴはどうする?」

「私もライムと同じでいいわよ」

「分かった。じゃあ、このスムージを二つくれ」

「分かりましたニャ。それにしても、お兄さんは勇者パーティーの人に顔似ているニャね。もしかして勇者パーティーの人かニャ?」

「よく言われるけど、人違いだぞ」

「やっぱりそうですニャね。じゃあスムージーをもってくるにゃ」

 危なかった。
 やっぱり亜人族には俺の姿が見えるんだな。

「危なかったわね」

「ああ。もう少しで気づかれるところだった」

「はい!お待たせしましたニャー」

 すぐにさっきの店員がスムージーを持ってきた。
 それにしても早すぎないか?

「早かったわね。人違いのお詫びかしら?」

「そうかもな」


 ……

「なあ、姉ちゃん冒険者だろ?俺たちと一緒にパーティーを組まないか?」

 スムージーを飲み終わるタイミングを見計らっていたのか、3人の冒険者がイヴに話しかけた。

「私はすでにパーティーを組んでいるわよ」

「じゃあ、そんな奴と別れて俺らと組もうぜ」

「俺らなら、夜の相手もしてやるぜ」

「グヒヒ」

 一人の男が下卑た笑いを浮かべてイヴの手を掴もうとする。

 流石に俺もその様子を見ているわけにはいかず、思わず声をかけてしまった。

「おい何をしてるんだ?」

「ああん?誰だテメェ?」

「もしかしてお前が、この女のパーティー仲間か?」

「へっへっへ、ひょろひょろな兄ちゃんだな」

 なるほど、どうやらフードを被っていても、話しかけたら相手に認識されるらしい。
 ……これは気をつける必要があるな。

「そうよ。彼が私のパーティーの仲間よ」

「そうか、そうか」

 イヴが男達に言うと、頷きながら一人の男が俺に近づいてきた。
 そして、俺の耳元に小さな声で囁く。

「なあ、この女を一晩でいいから俺らに貸せよ。お前も分かるだろ?お前は1人で俺らは3人だ。勝てっこないだろ?」

 この男は色々勘違いをしているな。
 俺は1人でもお前らを殺すことができるし、そもそもイヴはお前達に負けるほど弱くない。
 どうしてこんなご都合主義な脳みそなんだろう。

 その時、目の前にいる男を除く2人の男が床に倒れた。
 目の前にいる男が音を聞いてすぐに振り返った。

「お前ら、どうしたんだ?」

「弱い男達ね。こんな実力でよく私に挑めると思ったわね」

 案の定、イヴが早々に2人の男を片付けたようだ。
 さて、じゃあ俺も少しだけ……

「このアマー」

 奇声をあげている男のこめかみに高速で衝撃を与えて、ノックアウトさせた。
 目の前に男が倒れる。
 それと同時に冒険者ギルド内に割れんばかりの拍手が鳴り響いた。

「よくやってくれた」

「ありがとう!」

「せいせいしたぜ!」

 周囲から、声をかけられる。
 どうやら、この男達はギルドでも相当嫌われていたみたいだ。
 それにしても、注目を集めすぎた。
 このままではマズイと思い、イヴの手を引いてギルドから出ようとした。

 するとその時、俺たちの背中に声がかかった。

「ねえ、あなたたち、ギルド長室にきてくれる?」

 振り向くと、そこには狐人族の女が笑って立っていた。

「俺たちですか?」

「ええ」

「なぜでしょう?」

 できるだけ短い言葉で丁寧に尋ねる。
 とりあえずここから早く出たかった。

「あら?これだけの騒ぎを起こしておいて、何もなく出ていけると思ったの?」

「正当防衛では?」

「その件も含めて、ギルド長室で話しましょう」

 周りの目があるため、断ることができない。
 イヴに目配せをする。
 イヴが頷くのを確認してから、返事をした。

「分かりました。ギルド長室はどこですか?」

「こっちよ。着いてきて」

 そうして、俺とイヴは意図せずギルド長室に行くことになった。
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