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第一章 裏切りと『力の試練』

第18話 〜宿敵〜

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 周囲に赤いオーラが噴き出し、サラと一体化する。
 それによって動体視力が向上し、狼王ボルト・アポカリプリスの攻撃を見切れるようになった。

 狼王ボルト・アポカリプスが目に見えるギリギリの速度で爪を振り下ろしてくる。
 それを紙一重で交わしてから反撃をした。

 ”多重詠唱マルチプル

「炎精霊魔法”炎槍”」

 空間に5本の炎の槍を生成し、それらを全て同時に狼王ボルト・アポカリプスへ放出する。
 しかし、それらは狼王ボルト・アポカリプリスにかすり傷一つ負わせることができなかった。
 
 炎の槍があいつの速さについていけてないんだな。

 狼王ボルト・アポカリプスは、周囲に白銀のオーラをどんどん貯めて、爆発的なエネルギーを蓄えている。

 本能的な感覚で分かる。
 次にくる攻撃は今の俺では防げないことを。
 かといって、諦めるわけにもいかない。

「顕現せよ!ミュータント」

『ライム……任せて……』

「闇精霊魔法”喰らう黒空間”」

 直後、俺が精霊魔法を使ったのと同じタイミングで狼王ボルト・アポカリプスが集めたエネルギーを稲妻に変換して俺に放った。

 しかし、それは俺には当たらず、俺の目の前で消滅した。
 ミューの”喰らう黒空間”はある一定の量だけ魔法を吸収することができる。
 それによって稲妻の魔法を吸収したのだ。
 だが、俺が狼王ボルト・アポカリプスの攻撃を防いだところで形勢は逆転しない。

 俺の攻撃は狼王ボルト・アポカリプスに当たらない。どうしたらいいんだ……

 今も狼王ボルト・アポカリプスは俺に稲妻を放ち続けている。
 このままだと、敵の魔力切れより先に俺の黒空間が破壊されてしまうだろう。

(サラ、”炎槍”より速い魔法はないのか?)

(奥義の”炎拳”は”炎槍”より速いけど、あれは一回しか使えないよ?)

(マジか……)

 多分、狼王ボルト・アポカリプスは”炎拳”一発では倒せない。
 俺がそのことに頭を抱えていると、ミューが声をかけてきた。

『ライム……あいつの動きを……止めたいの?』

「ああ。でも、そんなことできるのか?」

『……一応できるよ。……ライムも……私と契約したから……知ってるはず……』

 ”多重詠唱マルチプル

「もしかして……闇精霊魔法”底なしの闇”、炎精霊魔法”炎槍”」

 狼王ボルト・アポカリプスにデバフをかけ動きを鈍化させてから、そこへ無数の炎の槍を放つ。
 狼王ボルト・アポカリプスはデバフの影響で炎の槍を避けきれなかった。
 当たった炎の槍が爆発し、周囲を煙が包み込む。

 やがて煙が晴れると、そこにはダメージを負った様子の全くない狼王ボルト・アポカリプリスがいた。

 ……冗談だろ、あれでもダメなのか?

 そう思った次の瞬間、俺の目の前にある黒空間が稲妻に耐えきれなくなったのか砕け散った。

 直後、俺に稲妻の雨が降り注ぐ。
 いくつもの稲妻が俺の体を焼き貫いていった。

「……ッ!?」

『……ライム!』

(……ライムくん!)

 ミューとサラが俺を心配して声をあげる。

「ミュー大丈夫だよ」

(サラも、俺は大丈夫だから)

「炎精霊魔法”炎鳥の血フェニックスブラッド”」

 今は炎精霊魔法を使うだけで何とかなるぐらいの傷だが、この状態が続けば恐らく俺も長くは持たないだろう……

 必死に打開策を考える。
 今もなお、狼王ボルト・アポカリプスは白銀のオーラを蓄えている。
 次にあれが放たれたら流石の俺も耐えられないだろう。
 そこで俺は一つの奇策を思いついた。
 そして、心の中でサラに尋ねる。

(サラ一つ聞きたいんだけど、俺の固有スキル”借用レンタル”って一人の精霊だけにしか出来ないのかな?)

(分からない。けど、力が強大になりすぎて暴走したり、体が破裂する可能性はあるね)

(なるほどな)

(もしかしてライムくんやる気なの?)

(ああ)

(ダメだよ!危険すぎる)

(でも、今のままだったらおそらく俺は次の攻撃を受けきれずに死ぬ)

(……)

(サラ、俺は何もせずに死ぬぐらいなら、ベストを尽くして後悔なく死ぬ方がいいと思う)

(……もう!分かったよ!ボクもライムくんに賭けてあげる)

(ありがとう)

 サラとの会話を終え、俺はミューと向きあう。

「ミュー、今のままだったら、絶対にあいつに勝てない」

『うん……』

「だから、俺に力を貸してほしい」

 ミューに頭を下げる。

『うん……もちろんいいよ……私は……いつでもライムの味方……』

 ミューは俺の頬に手を当てて、俺の顔を上げさせてからにっこりと微笑んだ。
 優しく慈愛に満ちたミューの目と俺の目がばっちりと合う。
 その視線に導かれるように、ミューに顔を近づけ優しく唇を重ねた。
 そして心の中で唱えた。

(”借用レンタル”)
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