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旅立ち編
第62話 卒業試験。
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俺達は魔物達に見送られ下山することにする。
目指すはミスーサにからウルストへと繋がる街道だ。
これからの計画について話している途中、俺達は開けた場所に出る。
イブキは何かに気づいたようでしゃがみ込み、その地に触れる。
「ここ……何か変ね。大きな岩が高熱で溶けたような……。それに……」
彼女はその奥にある大小様々な岩が積み上げられた岩山を見つめる。
「何かが崩れたような跡がある。……ここには何があったの?」
俺は岩山を見つめる。ここは……たしか。
「ここには山があり、そこには洞窟があった……。そしてその奥には……遺跡があった」
2年前のあの場所だった。
「遺跡?……もしかしてティアドラ様と勇者が戦ったって言っていた遺跡、なの?」
イブキには先刻ティアドラの出会いから最期までを話していた。
どうやらその話を覚えていたようだ。
「あぁ……ティアドラが負けた場所……そして……」
俺が無力を実感した場所。
今の俺は……あの頃の勇者よりは強くなっているのかな。
俺達はしばらくの間、遺跡があったはずの岩山を眺める。
「そろそろ行こうか」
なんだか神妙な空気になってしまった。
俺は先へと促すと、彼女も首を縦に動かし、歩みを進めようとする。
その瞬間。
「な、なんなのこれ!?」
イブキが焦ったように声を張り上げる。
空から4本の柱のようなものが落ちてくる。
その柱は俺達を中心に四方に広がっていく。間隔は大体50メートルといったところだろうか。
その後柱は俺達を囲い込むかのように互いに光を伸ばし、結び付いていく。
まるで格闘技で使用されるリングの様に。
「どういうことなの……?」
彼女は何が起こったのか分からないようだ。……勿論俺もだけど。
ふらふらと光のリングに歩みをよりそれが何なのか確かめようとする。
「不用意に触っちゃ……!」
少し遅かったようだ。彼女は光に触れる。
「熱ッ!!」
暑さに思わず手を引っ込める。
どうやらこの光は強力な結界のようだ。
彼女をリングから引き離し、回復薬を飲ませる。
「あ、ありがとう……」
このぐらいのやけどであれば薬さえ飲んでおけば問題ないだろう。
「さて……何が来る?」
ただ光の結界を生み出したわけではないだろう。
この結界を創り出した者の意図……それはきっと俺達を逃がさないため。
イブキは恐怖を感じているのか少々顔が青ざめている。
だが、俺はどういう訳か恐怖を感じることはなかった。
一体何故?
その答えはすぐに分かった。
突然足元に巨大な魔方陣が出現し、強い光を放ち始める。
俺達は慌ててその魔方陣から離れ、その様子を見つめる。
すると魔方陣から光の靄のようなものが上り、そして固まることで何かの形状を形成していく。
やがて光が収まるとその正体が何なのか判明する。
「銀色の……竜?」
イブキがそう呟いた。
俺達の目の前に居たのは鈍い銀色の光を放つ巨大な竜であった。
「まさか……ティアドラ様!?」
彼女は喜色のこもった声を上げる。
竜王ティアドラは銀色の竜、そう聞いていたのだろう。
だが俺は知っている。ティアドラがどのような竜であったか。
「違う。あれはティアドラじゃない」
俺はそう断言する。
目の前に居るのはティアドラではない。
彼女の放つ光はもっと美しく、威厳を放っていた。
彼女には巨大な翼があった。
そして彼女の目は……紫色の宝石のような輝きを放っていた。
……じゃあ目の前に居るのは?
「じゃあ……あの竜は何だっていうの?」
イブキが問いかける。
「あの竜が何か?……だって?」
俺はそう言いながら曲刀を抜く。
気が付けば俺は笑みを浮かべていた。
「あれは……きっと『卒業試験』だ」
だよな、ティアドラ。
俺は師匠の名を口ずさむ。
これはきっとティアドラが旅立つ俺に最後に残してくれた試練。
あれから2年が経った。
ティアドラが自身に追いつき、追い越すことが出来ると言っていた2年だ。
ここでその実力を試してみろ、と……言っているような気がした。
「手出しは無用だ。俺一人でやる」
イブキは恐怖の表情を浮かべながらも金棒を抜き、戦闘態勢に入ろうとしていた。
「あ、貴方何を言っているの!?ティアドラ様程の力はないかもしれないけど、竜の魔物と言えば有力な魔族でも苦戦すると……」
彼女の言葉を手で制する。
「大丈夫。……これは俺の戦いだから」
彼女は口を開きかけたが、思わず竜の方を見る。
竜が大きな口を開けたのだ。
「マズイ!ブレスが来る!!」
竜の必殺技ともいえる灼熱のブレス。
このブレスはこの空間に存在するありとあらゆるものを瞬く間に焼き尽くす。
あの時ティアドラも使用していた。
イブキは俺の足が竦んでいると勘違いしたのだろうか、俺に駆け寄る。
「早く逃げるわよ!……って何をしているの!?」
俺は水平に曲刀を構えている。
左手は曲刀の腹部分に触れていた。
来るのは灼熱。ならば対策は分かりきっている。
「来い!……『耐火』!!」
目の前が真っ赤に染まるその寸前。
俺の左手の指に嵌っている指輪から赤い光が放たれた。
目指すはミスーサにからウルストへと繋がる街道だ。
これからの計画について話している途中、俺達は開けた場所に出る。
イブキは何かに気づいたようでしゃがみ込み、その地に触れる。
「ここ……何か変ね。大きな岩が高熱で溶けたような……。それに……」
彼女はその奥にある大小様々な岩が積み上げられた岩山を見つめる。
「何かが崩れたような跡がある。……ここには何があったの?」
俺は岩山を見つめる。ここは……たしか。
「ここには山があり、そこには洞窟があった……。そしてその奥には……遺跡があった」
2年前のあの場所だった。
「遺跡?……もしかしてティアドラ様と勇者が戦ったって言っていた遺跡、なの?」
イブキには先刻ティアドラの出会いから最期までを話していた。
どうやらその話を覚えていたようだ。
「あぁ……ティアドラが負けた場所……そして……」
俺が無力を実感した場所。
今の俺は……あの頃の勇者よりは強くなっているのかな。
俺達はしばらくの間、遺跡があったはずの岩山を眺める。
「そろそろ行こうか」
なんだか神妙な空気になってしまった。
俺は先へと促すと、彼女も首を縦に動かし、歩みを進めようとする。
その瞬間。
「な、なんなのこれ!?」
イブキが焦ったように声を張り上げる。
空から4本の柱のようなものが落ちてくる。
その柱は俺達を中心に四方に広がっていく。間隔は大体50メートルといったところだろうか。
その後柱は俺達を囲い込むかのように互いに光を伸ばし、結び付いていく。
まるで格闘技で使用されるリングの様に。
「どういうことなの……?」
彼女は何が起こったのか分からないようだ。……勿論俺もだけど。
ふらふらと光のリングに歩みをよりそれが何なのか確かめようとする。
「不用意に触っちゃ……!」
少し遅かったようだ。彼女は光に触れる。
「熱ッ!!」
暑さに思わず手を引っ込める。
どうやらこの光は強力な結界のようだ。
彼女をリングから引き離し、回復薬を飲ませる。
「あ、ありがとう……」
このぐらいのやけどであれば薬さえ飲んでおけば問題ないだろう。
「さて……何が来る?」
ただ光の結界を生み出したわけではないだろう。
この結界を創り出した者の意図……それはきっと俺達を逃がさないため。
イブキは恐怖を感じているのか少々顔が青ざめている。
だが、俺はどういう訳か恐怖を感じることはなかった。
一体何故?
その答えはすぐに分かった。
突然足元に巨大な魔方陣が出現し、強い光を放ち始める。
俺達は慌ててその魔方陣から離れ、その様子を見つめる。
すると魔方陣から光の靄のようなものが上り、そして固まることで何かの形状を形成していく。
やがて光が収まるとその正体が何なのか判明する。
「銀色の……竜?」
イブキがそう呟いた。
俺達の目の前に居たのは鈍い銀色の光を放つ巨大な竜であった。
「まさか……ティアドラ様!?」
彼女は喜色のこもった声を上げる。
竜王ティアドラは銀色の竜、そう聞いていたのだろう。
だが俺は知っている。ティアドラがどのような竜であったか。
「違う。あれはティアドラじゃない」
俺はそう断言する。
目の前に居るのはティアドラではない。
彼女の放つ光はもっと美しく、威厳を放っていた。
彼女には巨大な翼があった。
そして彼女の目は……紫色の宝石のような輝きを放っていた。
……じゃあ目の前に居るのは?
「じゃあ……あの竜は何だっていうの?」
イブキが問いかける。
「あの竜が何か?……だって?」
俺はそう言いながら曲刀を抜く。
気が付けば俺は笑みを浮かべていた。
「あれは……きっと『卒業試験』だ」
だよな、ティアドラ。
俺は師匠の名を口ずさむ。
これはきっとティアドラが旅立つ俺に最後に残してくれた試練。
あれから2年が経った。
ティアドラが自身に追いつき、追い越すことが出来ると言っていた2年だ。
ここでその実力を試してみろ、と……言っているような気がした。
「手出しは無用だ。俺一人でやる」
イブキは恐怖の表情を浮かべながらも金棒を抜き、戦闘態勢に入ろうとしていた。
「あ、貴方何を言っているの!?ティアドラ様程の力はないかもしれないけど、竜の魔物と言えば有力な魔族でも苦戦すると……」
彼女の言葉を手で制する。
「大丈夫。……これは俺の戦いだから」
彼女は口を開きかけたが、思わず竜の方を見る。
竜が大きな口を開けたのだ。
「マズイ!ブレスが来る!!」
竜の必殺技ともいえる灼熱のブレス。
このブレスはこの空間に存在するありとあらゆるものを瞬く間に焼き尽くす。
あの時ティアドラも使用していた。
イブキは俺の足が竦んでいると勘違いしたのだろうか、俺に駆け寄る。
「早く逃げるわよ!……って何をしているの!?」
俺は水平に曲刀を構えている。
左手は曲刀の腹部分に触れていた。
来るのは灼熱。ならば対策は分かりきっている。
「来い!……『耐火』!!」
目の前が真っ赤に染まるその寸前。
俺の左手の指に嵌っている指輪から赤い光が放たれた。
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