小さな町の不思議・怖い話

みつか

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カミノミチ

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集落の中に人が2人並んでギリギリ通れる道がある。
その道は『神が通る道』と言われている。

集落の中のあちらこちらに、東西南北に伸びた小さな通り道が『神が通る道』として存在していた。
普通の道よりも近道になるのでその小さな道を抜け道に使う住民は多かった。
普通の道を使うと遠回りになるところ、小さな道を使うと数歩で友達の家にたどり着けるからだ。

そんな小さな道、特別でもなんでもなく『普通』に存在していて誰もが通る道。集落の中に縦横無尽にあるので、お年寄りに言われなければ気付かない程にただ狭く細い普通の道なのだ。
そんな、普通に存在する道でも『神の道』だな!と分かりやすい道がある。それは昼間でも薄暗く感がいい人なら通りたくない様な気分になるし、「ナニ」かがいる様なゾワゾワする道だ。


街灯もあまり無い昔の話。
集落の真ん中から少し北に進んだ所に、東から西に約30メートル程の1本道があり東西、真っ直ぐに進むと道を突き当たる。今度は南に行くと国道に繋がり、北へ行くと海に下る道がある。
集落の中を南北に繋がる道から枝分かれするように更に東西へという感じで、集落全体に格子状の道が広がっている。

その東西30メートルの1本道に「首のない赤い豚」が出ると言うのだ。
「首のない赤い豚」は人の股の間を潜って命を奪うという言い伝えがあった。

信じない若者達は、肝試し又は度胸試しとしてその道に夕暮れ、逢魔が時に集まり本当かどうかを冗談半分で確かめる為に集まっていた。

「おい、本当に出るのか?」

一人の若者が訪ねた。

「俺の兄ちゃんが見たって言ってたから間違いないって!」

1番年下の男の子が自慢げに話す。
その他に2人参加した。合計4人で肝試し、度胸試しに来ていた。
1番年下の男の子が、注意を促した。

「うちの兄ちゃんが見たって、凄い勢いで逃げたから大丈夫だったって言ってたけど……じいちゃんが助言してた。『今回は逃げ切れたけど逃げ足に自信がなくて、何かしらのトラブルにあった時は、逃げずに足を交差させて首無し豚を股の下から通り抜けできなくしたら命は助かる』って言ってた。走って逃げられる方が良いね!!もしもの場合は止まるの怖いけど……そっちの方が、度胸試しっぽくて凄くない?でも、逃げ切れない時は絶対にやってみて!」

1番年下の男の子は不安げながら、ワクワクしているようで楽しげに話した。

そんな話を急に聞かされて、半信半疑だった他の3人は段々と怖くなってきた。年上の兄と爺さまが話すって事は信憑性が高いからであった。

小さい道の約15メートル付近ちょうど真ん中で何処から現れるとも分からない「首のない赤い豚」4人はそれぞれ道の真ん中でぶつからないように少し離れた場所にそれぞれ立ち、キョロキョロと目を凝らして周りを見渡していた。

すると、急に人魂がゆらゆらと2、3個浮かび上がったと同時に薄ぼんやりした闇の中から「首のない赤い豚」が突然現れたのである。

それは『赤い』のではなく真っ赤な血に染まった首のない豚だった。
首が無いのに鳴き声が聴こえるので一斉に皆パニックに陥ってしまった。

「うわぁーーーーー!!」

それぞれに焦って西の方角に走り出すのだが、15メートルの距離が果てしなく遠く感じる。
恐怖の余り数歩走って足が引っかかり倒れしゃがみ込む者、一目散に逃げて西の行き止まり迄走り去る者。
若者と1番年下の男の子は『ぬかるみ』にハマった様な感覚に陥り、中々前に進めずにいた。

倒れた男のすぐ側迄「首のない赤い豚」は迫ってきている。
1番年下の男の子が振り返り、倒れ込んだ男に

「足を交差してー!!」

「うっうわぁーーー!!イヤだイヤだー!」
男は泣きながら叫び続けている。

男は自分の叫び声とパニックで聞き入れておらず、1番年下の男の子が叫ぶのも虚しく、足の間を大きな赤い豚はスルリと通り抜けてしまったのだった。
すると、男の顔からみるみる血の気が引き、体がガクガクと震えるとパタリと倒れ、命を奪われてしまったのだった。

(どうしよう……逃げ切れないよ、じいちゃん!兄ちゃん!)

とうとう、1番若い男の子は自分もああなるのではないかと思い恐怖のあまり走るのを止め泣き出してしまった。
若い男も1番若い男の子を気にかけて、逃げ切れないと判断し逃げずに側に駆け寄って来た。

「足を交差しよう!!一か八か!助かるかもしれない!!早く!!」

泣きながら1番若い男と若い男は走るのを止め2人ともその場で足を交差した。
すると「首のない赤い豚」は人魂と共に、2人を気にも留めず走り去った男が逃げた西の方向へいな鳴きながら走り去って行った。

2人は顔を見合わせた。
重苦しい空気は晴れ渡り、「ぬかるみ」のように感じていた道も嘘のようにいつもの硬い砂利混じりの道になっていた。
辺りはすっかり真っ暗になっていた。
ホッとした2人は泣きながら抱き合ってその場に座り込んだ。
騒ぎ声を聞いて、近所の叔父さんがやって来た。
懐中電灯に照らされた2人を見て驚いたが、すぐさま理解したようで

「命が無事で良かったな……コレに懲りたらもうするなよ!」

軽くお叱りを受け、各々家に送ってもらった。家に帰るとこっ酷く皆叱られたようだった。
命を取られた男は手厚く大人達で弔った。
犠牲者は1人にとどまった。
大人達は肝試し、度胸試しをきつく禁止し、予期せず出会ってしまった時の為に、集落内で「足を交差させる事」を皆に周知させた。
必ずしも助かる訳ではないので、遊び半分で夕刻に『カミノミチ』を通らない事。と、後の代まで言い伝えられている。


今では、この話を語る人も少なく街灯も増え夜も暗さに怯える事もなくなったのだが……

逢魔が時、出逢うのは「人」か『神』か『モノノ怪』か?


感が強い人は特に『カミノミチ』は通らない方が身のためである。

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