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犬の声
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武史は、猟犬数匹を連れて狩りに出かけた。
数人の仲間と、地元のいつもの山に登りイノシシ猟を楽しんでいた。
猟犬達の活躍もあり、今日はイノシシが2頭も捕れた。駆除の目的もあり、成果は上々だったのだが気がかりは一匹の猟犬が帰ってこない事だった。
早々に狩も終わったので、イノシシの解体を仲間に任せ、帰ってこない猟犬を探しに行こうと思っていた。事情を知っている仲間は活躍した犬達にお土産を持たせ、一緒に探しに行けないことを謝罪した。猟師仲間の暗黙の了解だった。
犬は、その主が探す。他の猟師は狩りの成果があれば先に捌く。その後は犬の鳴き声がする方向を教え合ったり、似たような犬が道路を歩いていないか等気に留める程度だった。
武史は他の猟犬を家に連れ帰り、今日の活躍を労っていた。
ゴツい手でわしわしと犬達の頭を撫で、イノシシの焼いた足を1本ずつ与えた。
嬉しそうに頬張る犬達を置いて立ち上がると、車に乗り込んだ。その時、車の助手席の窓をトントンと叩かれた。
(急ぐんだが……誰だろう?)
助手席の窓を見ると、ニコニコと笑う叔父がいた。
「何か用事ね?犬探しに行くから俺忙しいんだけど?」
と、武史はぶっきらぼうに答えた。
叔父は、怖気づかずに
「犬探しに山に行くだろ?手伝うよ!!人手があった方が良いだろ?」
と、提案してきた。
(役に立つのだろうか……)
と、思いながら人手が多い方が見つかるだろうと手を借りる事にした。
山の麓に着き、車を降りる。犬の首輪に着けた場所を知らせる無線機とロープ、犬を呼ぶ為のほら貝、水筒を持って山に入る。
叔父も山の獣道に多少は詳しい。
きっと興味本位で叔父は着いてきたに違いないと武史は思った。
叔父の目はキラキラして、楽しそうだったからだ。
犬の遠吠えが聴こえる。
二手には分かれずに、臆病者の叔父は武史の後ろをついて歩いて来る。
(やっぱり連れてくるべきじゃなかったかな?)
少し後悔していた。
「おいおい、武史!あの大きい樹の近く防空壕の跡地があるから、もしかしたら犬が落ちたんじゃないね?」
「……本当だ、穴の近くで鳴いてる……」
大きな穴だから、落ちたら犬は登れない。人でもやっと上がれるかどうかの大きな穴。
そっと覗くが、犬は居なかった。武史は安堵した。深い穴だから、落ちたら怪我をする。犬は大事なパートナーだ。
犬の声のする方へ、山の上へ叔父と歩き出した。
大きなヒキュル樹(ひげのあるガジュマルの樹)の近くで
「ワンワン、キュ~ン」
「あっちに居るかも!!」
叔父は勇み足で樹の近くに先に歩いて行く。
武史には分からなかった。正確には、樹の近くより上の方で聴こえた気がしていたからだった。
もしかしたら……と、樹の周りを一緒に探していたのだが叔父が
「ここから聴こえる!!」
と、樹の反対側から声を上げた。
ここにも、防空壕の跡や罠の形跡があり注意して歩く。大きな樹なので、なかなか叔父の居る所に辿り着けなかった。
チラッと見えたときには、叔父は
「う、うわぁーーーーー!!」
と、絶叫しながら走って山を降りて行った。
「お、おーい?」
呼びかけるのも無視して走り去る叔父の後ろ姿を見送った。
ガジュマルのヒゲを持ち上げて、覗いていたようにしていたが……犬は居なかったのか……チラリとガジュマルのヒゲの所を見る。動く気配は無い。
(叔父は大丈夫か?まぁ、大丈夫だろう。※ムン見たんだろうな……犬はここじゃないな。)
《※ケンムンの意》
ほら貝を取り出し、吹き鳴らす。
「プーップッ」
少し上の方で
「ウォーン、ワンワン!」
犬が答える。
樹に軽くお辞儀して、山の上に上がる。
(自分で帰って来てくれたら助かるんだが……甘えん坊のわんこめ……)
内心怒りながらズンズン歩く。叔父の事も少し気にかけなければならず、武史は疲れていた。
その頃叔父は、車までたどり着いていた。
鍵がかかっているので、車の横でしゃがみ込んで恐怖でカタカタ震えていた。
しばらくして、犬を連れて疲弊した武史が戻ってきた。
安心した叔父は早く車に乗ろうと急かす。
疲れて震える犬をトラックの後ろに乗せると、顔色の悪くなった叔父と帰路につく。
叔父に車の中で尋ねるも、無言でカタカタ震えるだけだった。思い出したくないようで
「聞くな……。」
と、睨まれてしまった。
(ケンムン見たんだろうな……どんな姿だったんだろうかな~?好奇心でついて来るから怖い目に遭うんだよな……それとも違うモノを見たか?)
怯える叔父は、猟師仲間の笑い話の種にされるな。と呆れながら思い武史はため息をついたのだった。
その後、叔父は絶対に「付いて行く!」とも「ナニ」を見たとも口が裂けても言わなかった。
……ガジュマルの樹のヒゲの下で見たものは本当にケンムンだったのだろうか?それとも……
数人の仲間と、地元のいつもの山に登りイノシシ猟を楽しんでいた。
猟犬達の活躍もあり、今日はイノシシが2頭も捕れた。駆除の目的もあり、成果は上々だったのだが気がかりは一匹の猟犬が帰ってこない事だった。
早々に狩も終わったので、イノシシの解体を仲間に任せ、帰ってこない猟犬を探しに行こうと思っていた。事情を知っている仲間は活躍した犬達にお土産を持たせ、一緒に探しに行けないことを謝罪した。猟師仲間の暗黙の了解だった。
犬は、その主が探す。他の猟師は狩りの成果があれば先に捌く。その後は犬の鳴き声がする方向を教え合ったり、似たような犬が道路を歩いていないか等気に留める程度だった。
武史は他の猟犬を家に連れ帰り、今日の活躍を労っていた。
ゴツい手でわしわしと犬達の頭を撫で、イノシシの焼いた足を1本ずつ与えた。
嬉しそうに頬張る犬達を置いて立ち上がると、車に乗り込んだ。その時、車の助手席の窓をトントンと叩かれた。
(急ぐんだが……誰だろう?)
助手席の窓を見ると、ニコニコと笑う叔父がいた。
「何か用事ね?犬探しに行くから俺忙しいんだけど?」
と、武史はぶっきらぼうに答えた。
叔父は、怖気づかずに
「犬探しに山に行くだろ?手伝うよ!!人手があった方が良いだろ?」
と、提案してきた。
(役に立つのだろうか……)
と、思いながら人手が多い方が見つかるだろうと手を借りる事にした。
山の麓に着き、車を降りる。犬の首輪に着けた場所を知らせる無線機とロープ、犬を呼ぶ為のほら貝、水筒を持って山に入る。
叔父も山の獣道に多少は詳しい。
きっと興味本位で叔父は着いてきたに違いないと武史は思った。
叔父の目はキラキラして、楽しそうだったからだ。
犬の遠吠えが聴こえる。
二手には分かれずに、臆病者の叔父は武史の後ろをついて歩いて来る。
(やっぱり連れてくるべきじゃなかったかな?)
少し後悔していた。
「おいおい、武史!あの大きい樹の近く防空壕の跡地があるから、もしかしたら犬が落ちたんじゃないね?」
「……本当だ、穴の近くで鳴いてる……」
大きな穴だから、落ちたら犬は登れない。人でもやっと上がれるかどうかの大きな穴。
そっと覗くが、犬は居なかった。武史は安堵した。深い穴だから、落ちたら怪我をする。犬は大事なパートナーだ。
犬の声のする方へ、山の上へ叔父と歩き出した。
大きなヒキュル樹(ひげのあるガジュマルの樹)の近くで
「ワンワン、キュ~ン」
「あっちに居るかも!!」
叔父は勇み足で樹の近くに先に歩いて行く。
武史には分からなかった。正確には、樹の近くより上の方で聴こえた気がしていたからだった。
もしかしたら……と、樹の周りを一緒に探していたのだが叔父が
「ここから聴こえる!!」
と、樹の反対側から声を上げた。
ここにも、防空壕の跡や罠の形跡があり注意して歩く。大きな樹なので、なかなか叔父の居る所に辿り着けなかった。
チラッと見えたときには、叔父は
「う、うわぁーーーーー!!」
と、絶叫しながら走って山を降りて行った。
「お、おーい?」
呼びかけるのも無視して走り去る叔父の後ろ姿を見送った。
ガジュマルのヒゲを持ち上げて、覗いていたようにしていたが……犬は居なかったのか……チラリとガジュマルのヒゲの所を見る。動く気配は無い。
(叔父は大丈夫か?まぁ、大丈夫だろう。※ムン見たんだろうな……犬はここじゃないな。)
《※ケンムンの意》
ほら貝を取り出し、吹き鳴らす。
「プーップッ」
少し上の方で
「ウォーン、ワンワン!」
犬が答える。
樹に軽くお辞儀して、山の上に上がる。
(自分で帰って来てくれたら助かるんだが……甘えん坊のわんこめ……)
内心怒りながらズンズン歩く。叔父の事も少し気にかけなければならず、武史は疲れていた。
その頃叔父は、車までたどり着いていた。
鍵がかかっているので、車の横でしゃがみ込んで恐怖でカタカタ震えていた。
しばらくして、犬を連れて疲弊した武史が戻ってきた。
安心した叔父は早く車に乗ろうと急かす。
疲れて震える犬をトラックの後ろに乗せると、顔色の悪くなった叔父と帰路につく。
叔父に車の中で尋ねるも、無言でカタカタ震えるだけだった。思い出したくないようで
「聞くな……。」
と、睨まれてしまった。
(ケンムン見たんだろうな……どんな姿だったんだろうかな~?好奇心でついて来るから怖い目に遭うんだよな……それとも違うモノを見たか?)
怯える叔父は、猟師仲間の笑い話の種にされるな。と呆れながら思い武史はため息をついたのだった。
その後、叔父は絶対に「付いて行く!」とも「ナニ」を見たとも口が裂けても言わなかった。
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