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288話、これが一般的な反応

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 種族初の試みに、極度の緊張をし出したウィザレナとレナの間に入り。二人の背中に手を回し、少しでも心を落ち着かせている中。
 百m手前から私達とエルフの存在を目視し、口をあんぐりとさせていた衛兵さんの前まで着き、一旦立ち止まった。

「おはようございます、衛兵さん。お勤めご苦労様です」

「お、おはよう、ございます……。あ、あの、アカシックさん? 貴方の両隣に居る方々は、もしや……?」

 衛兵さんも、かなり緊張していそうだ。その証拠に、震えた声は上ずっていて、流し目で二人を交互に何度も見返している。

「ここで悪目立ちするのは、色々アレですので控えますが。衛兵さんの、ご察しの通りです」

「や、やはり……。初めてお目に掛かり、ました……」

 エルフ族が目の前に居るという事実を伝えると、衛兵さんの剥き出しになっていた目が、飛び出す勢いで更に剥き出しになった。
 この腰を抜かしてもおかしくない反応が、一般的な人のものなのかな? 私とサニーが、エルフの里跡地でウィザレナを発見した時。特に驚きはしなかったけど、逆にそれがおかしいと?

「そこの人間。どうやら、アカシック殿と交友関係にあるようだな。ならば、名ぐらい名乗ってやる。ウィザレナだ」

「レナです」

「え? ……あれ?」

 私の両隣から、若干の殺意と威圧感を含んだ自己紹介が聞こえてきたので、二人の姿を確認してみれば。
 堂々と腕を組み、狩人と化した天色の切れ目で衛兵を見下しているウィザレナ。華奢な手を胸元に添え、妖々しい雰囲気で名乗っているレナが見えた。
 二人共、さっきまで全身が震えるほど緊張していたというのに。私達以外の人間と対峙して、負の感情の方が勝ってきたのだろうか?

「……あ、ああっ! ご紹介頂きまして、誠に感謝申し上げます。そして、醜態を晒してしまい、大変申し訳ございません。世界的に見てもエルフ族の来訪は、前例が無いものでして……。我が目を疑い、酷く緊張してしまいました」

 初めて来たエルフの機嫌を損ねまいと、相当下手に出た衛兵さんが、ハキハキと理由を述べながら機敏に頭を下げた。
 やはり、シルフの情報は正しかったんだな。その情報を、改めて突き付けられたせいか。二人の口が、再びピクピクと強張り出している。……たぶん二人して、見栄を張ってやせ我慢しているな?

「それで衛兵さんよ。希少な種族が優遇される法律ってのが、この国にあると耳にしたんだけど。その受付ってのは、どこですればいいんだ?」

 衛兵さんが頭を上げたタイミングで、ベルラザさんが声を張った質問を投げ掛けた。

「おおっ、よくご存じで。そちらにつきましては、私が全ての権限を受け持っていますので、私の方から説明致します」

「ああ、そうなのか。なら頼むぜ」

「分かりました。では、その前になのですが。アカシックさん。周りに居る方々は、全員お連れの方で?」

 いつも見る振る舞い方まで戻った衛兵さんが、私の周りに居る人達を見渡していく。まあ、この大人数だ。確認されてもおかしくはない。

「そうです。私含めて二十人居ます」

「はあ、二十人。ヴェルインさんと、同行している姿を一度伺っておりましたが。ノームさんともお知り合いだったのですね」

「……は、はい。実は、そうなんです」

 私とヴェルインが一緒にタートへ来たのは、まだアルビスと和解したばかりの頃で、その一回だけだったはず。なのに衛兵さんは、回数と組み合わせまで鮮明に覚えているなんて。
 あと、ノーム? お前、衛兵さんに実名で自己紹介をして大丈夫なのか? そろそろ、偽名を貫き通してきたシルフとウンディーネが、黙ってはいないと思うぞ?

「ここの警備兵は、すげえぞお。どいつに酒場の在処を聞いても、必ず美味い酒がある店を教えてくれるんだあ」

「お褒めに預かり光栄です。他にも困ったことがありましたら、気兼ねなくお尋ね下さい。ただ、ノームさん。たまに声が大きいと苦情が入っておりますので、声量を少々低くして頂けると助かります」

「おっと、そいつはすまねえ。気を付けるぜえ」

 店側から苦情があったことを伝えられ、素直に謝る大精霊の構図よ。他のみんなは、今のやり取りをどう思っているんだろう?
 というか、ノームが酒を嗜んでいるのは、主に四階層だよな? その苦情が、ここまで伝わってきていると。
 情報伝達に優れているというか、徹底されているというか。大国の主要な出入口を任された人物だからこそ、なんてことはなさそうな細かな情報まで取り込み、しっかり覚えているのかもしれない。
 ……待てよ? 現在、シルフとウンディーネは、この街に長期間滞在しているという設定だ。そこら辺を、サニーが衛兵さんに突っ込むと、ややこしい事態になりそうな気がする。ここは、さっさと話を進めた方がいいな。

「それで、衛兵さん。説明の方は、どこでしてくれるんですか?」

「おっと、すみません! 説明は、私の背後にある控室で致します。ですが、お連れの皆様にも周知してもらいたいので、誠に申し訳ありませんが、お時間の方を少々取らせて頂きます」

 なるほど。だから、私の同行者についても確認してきたのか。しかし、ベルラザさんも自身の正体を明かして、『希少・絶滅危惧種族守護法』を適用してもらうつもりでいたからな。
 人目の付かない場所に案内されるのは、むしろこちらとて好都合だ。それに、衛兵さんが不死鳥フェニックスの姿を見て、どんな反応を示すのかちょっと気になりつつある。

「どうやら我々は、これから城壁内に入るみたいだぞ」

「みたいだね、すごく楽しみ!」

「私も私もっ! 初めて入るから、記念に絵を描いてみたいなぁ」

 今の露骨に張った声は、アルビス、プネラ、サニーの三人。きっと、従妹という設定を確立させようと、衛兵さんの前で演じているのだろう。

「あの~、アカシックさん? アルビスさんが抱えた子、アカシックさんと似ていますが、もしかしてアルビスさんのお子さんですか?」

 やはり気になったらしく。近くに居る私に、衛兵さんがこっそり問い掛けてきた。よし、食い付いてくれた。なら、私が直接言ってしまおう。

「いえ。あの子はアルビスの従妹で、名前はプネラと言います」

「あっ、従妹さんでしたか。すみません、何度もお間違えして。プネラさん、良い名前ですね」

「ええ、ですね」

 これで、アルビスとプネラの従妹という設定は、固まっただろうけども。この衛兵さん。私とアルビスが初めて同行した日にも、アルビスを旦那だと言っていたし。もしかしてが、見事全部外れている。

「それでは、控室の方へ案内致しますので、中へどうぞご入り下さい」

 そう自ら話の軌道修正をさせた衛兵さんが、背後にあった木製の扉を開け、そのまま横に立ち。『どうぞ』と言わんばかりに、薄暗い空間へ手をかざしてきた。

「それじゃあ二人共、中に入ろう」

「……止むを得ずか。アカシック殿、私達から片時も離れないでくれ」

「絶対ですからね?」

「ああ、分かってる」

 あの二人が、私の目を見ながら念を押してきている。やはり強がっていても、不安を隠し切れていない。安心しろ、二人共。何があろうとも、決して離れず守ってやるからな。
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