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280話、相性の壁

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 誰にも止めることが出来ない、破天荒なベルラザさんが全員をタートへ誘った後。解散はせず、みんな私の家の広場に集合しては、焚き火を囲い。
 丸一日動かさず疼いていた心身を満足させる為、いつもより多めの夜食を取りつつ、和気あいあいと談笑を繰り広げ始めた。
 いつの間にか姿を消したベルラザさん、アルビス、ウィザレナ、レナ以外のみんなが食べているのは、透明な油が滴る巨大な骨付き肉。
 私も一本だけ食べたのだが。味付けは塩、ピリッと刺激を伴う香辛料のみと、簡単に仕上げたのに対し。食べる口と手が止まらず、ペロリと平らげてしまった。

 さてと、ウィザレナの家に明かりが灯っているから、二人はたぶんあそこに居るな。二人が寝てしまう前に、早く謝っておかないと。











「ルシルさんは弓。ディーネさんは三叉槍。ノームさんが、とっても大きな『星砕き』っていう大戦鎚! それでイフリートさんは、フローガンズさんと一緒で、武闘家みたいに戦うんですね!」

「おお、そうだ。拳と脚だけありゃ充分よ。そこら辺に見える山なんざ、一発殴れば簡単に粉砕出来るぞ」

「山を殴って粉砕っ! なんだかすごそうっ!」

 『土の瞑想場』にて、水属性禁断の召喚魔法『ポセイドン』。土属性禁断の召喚魔法『大地の覇者』。風属性禁断の召喚魔法『風壊神』。そして、光属性禁断の召喚魔法『天照らす極楽鳥』。
 四属性の禁断魔法を実際に見て、目がすっかり肥えたかと思いきや。武器や魔法に頼らずとも、山を粉砕出来るといった話に、サニーの興奮度が一気に舞い上がっていく。

「鉱石ぐらいなら握り潰せるけどよお。拳一発で山をぶっ壊すのは、ちと厳しいなあ」

「俺は非力だから、素手だとどっちも無理だな。けど、魔法を使っていいなら一瞬で削り切れるぜ」

「魔法を使用していいのであれば、私も一帯の山脈を更地に出来ますよ」

「……なあ、ファート。世界って広いな」

「ですね。あまりにも広すぎて、話についていけないです」

 片や、筋力や魔法で山を消し飛ばすのが可能な大精霊達。片や、一般的な枠に収まり、現実味の無い話を呆けた顔で聞くヴェルインやファート。
 けど、二人も禁断魔法を目にしているので、別次元な内容ながらも冗談ではなく、実際に出来てしまうのだろうと悟っていそうだ。

「なら、ならっ! 誰が一番早く、山を壊せるんですか!?」

「そりゃあ、間違いなく俺様だ」
「決まってんだろお? 俺様が一番早えぇ」
「まっ、俺だろうな」
「この中でしたら、もちろん私でしょうね」

 清々しいまでに、意見の食い違いが発生するや否や。和やかだった空気が一変し、みんなして口元をピクッと強張らせた。
 ウンディーネは、まあ仕方ないとして。シルフまで話に乗っかってくるとは、珍しいな。なんだか、話の行く末をだんだん見守りたくなってきたぞ。
 各大精霊が放つ静かな威圧感が、焚き火をも黙り込ませた最中。この中で最も大人な対応が出来そうなシルフが、わざとらしい咳払いをした。

「よし、ならこうしようぜ! 後日『土の瞑想場』に行って、誰が一番山を早く消し飛ばせるか、サニーちゃんの前で勝負するってのはどうだ?」

「ほう? そいつは面白そうじゃあねえかあ」

「何をしてもいいってんなら、俺様は構わねえぜ」

「私も、良い案だと思います。サニーさん。私の本気、しかと見届けて下さいね」

「ディーネさんの本気! はいっ! ぜひお願いしますっ!」

 いの一番にサニーへ主張したディーネが、慈悲深く母性溢れた笑みを浮かべた。流石はシルフ。険悪な流れになる前に、話を穏便にすませて上手く纏め上げた。
 しかし、各大精霊の本気か。私もかつて、ウンディーネやノームと戦ったことがあるけれども。ウンディーネは実力の半分も出していなかっただろうし。
 ノームも、私がシルフと先に契約したことにより、私の風魔法が全て強化され、ノームに対し絶大な威力を発揮する束縛魔法と化した『ふわふわ』のせいで、迂闊に私に近寄れず。
 不得意な空中戦に持ち込まれ、召喚し続けていた『天翔ける極光鳥』に阻まれてしまい、自分の得意な戦法が出来なかったと大咆哮を上げていたっけ。

 イフリート様とシルフは、まだ一度も戦っていないので、実力は未知数。が、私とウィザレナ達を敗北寸前まで追い詰めたノームを、シルフは圧倒していた。
 となれば、シルフはノームより強いはず。が、山を一番早く消し飛ばす対決になると、また話は変わってくるだろう。
 どうしよう。私もだんだん気になってきたぞ。後日やるみたいだし、私もこっそり観戦してしまおうかな。

「あっ、そうだ! 四人の中だと、誰が一番強いんですか?」

「む……」

 争いが起きかねなかった空気を、ルシルが上手く収束させたのも束の間。好奇心旺盛なサニーが、新たな火種が生まれかねない質問を投げつけた。
 ……今の質問、ちょっと危険じゃないか? 先の流れからして、一斉に自分だと決め付け。なら、瞑想場で試してみようという流れになりかねないけれども……。
 けど、危惧していた私の予想とは裏腹に。四人はきょとんした顔を見合わせた後、難しい表情をしながら夜空を仰いだ。

「そうですね……。ちゃんと手合わせをしたことがないので、なんとも言えないですが。相性次第と言った所でしょうか?」

「だな。勝てる相手と、そうじゃない相手が如実に現れると思うぜ」

「それは間違いねえなあ。俺様だったら、ルシルに手も足も出ねえけど、ディーネだったら勝てそうだぜえ」

「そうですね。私もイフリートさんは完封出来ますが、ノームさんに勝てる見込みがありません」

「俺様とディーネは、相性が最悪だからな。逆にルシルだったら、問題ねえと思うぞ」

「へぇ~、そうなんですね!」

 なるほど。切っても切れない属性の相性によって、得意不得意な相手が戦う前から明確に決まってしまうのか。
 イフリート様は、ウンディーネに弱く。ウンディーネは、ノームに弱く。ノームは、シルフに弱く。シルフは、イフリート様に弱いといった具合かな?
 いや、待てよ? 戦う場所を、己の実力を十二分に発揮出来る各瞑想場にしたら、相性の壁を越えられたり出来ないだろう───。

「いや、そんなことを考えてる場合じゃない」

 考察が捗りそうな妙案や、湯水の如く湧いてきた好奇心を、首を左右に振って一蹴する私。そう。今はそんなことをしている場合じゃない。
 早くウィザレナの家に行き、二人に謝ってこないと。そう当初の目的を思い出した私は、音を立てずに立ち上がり、忍び足でウィザレナの家に向かって行った。
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