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93話-1、続・妖狐寮にお泊り
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剛雷の連打や、温泉街を焼き尽くさんと照らしていた光の正体が、天狐の楓に全て花火だと聞かされた満月の日から、三日後。
時刻は、夜の帳が出番だと意気込み、星が瞬く残紅を闇夜に塗り替え始めている、夕方の五時前。
妖狐寮に泊まる事もあり、既に妖狐の姿に変化している花梨、ゴーニャ、纏、茨木童子の酒天。
そして、一行の先頭を行く妖狐の雅は、楓が待つ妖狐寮を目指すべく、提灯の淡い光が灯り出した温泉街を歩いていた。
「妖狐になったのは『妖狐の日』以来っスけど、やっぱ尻尾が大きいっスねぇ」
歩くに連れ、夕闇が濃くなっていく大通りで、イマイチ妖狐の姿に慣れていない酒天が、己の体から生えた大きな狐の尻尾を横目で覗いたり。
頭に生えたピンと立つ狐の耳を触ったり、変化した際に消えた額の角が戻っていないか、何度も確認した。
「妖狐姿の酒天さんって、初めて見るから新鮮だなぁ」
最早、妖狐姿に箔がついてきた花梨が、酒天の珍しい姿を目に焼き付けようと、全身を隈無く見返していく。
「別の妖怪に変化する機会なんて、基本無いっスからね。わぁっ、尻尾がモフモフしてるっスぅ~」
「今度首輪を貸してあげるから猫又になって」
「あっ! 私も、猫又になった酒天を見てみたいわっ!」
この場で唯一、小柄な妖狐姿の纏が、大人の妖狐になったゴーニャに抱っこされながら、悪魔の囁きを言う。
「猫又っスかー……」
猫又と聞いて酒天が想像するは、花梨の太ももの上に寝っ転がり、撫でられながら甘えに甘える己の姿。
花梨に甘えられるのもいいが、甘える立場に回るのも悪くないと誘惑に負けた酒天は、表情がにんまりととろけ、「ああ~、いいかもしれないっスねぇ」と鼻の下を伸ばしていく。
「分かりました。今度お泊まりをした時にでも、猫又になってみるっス!」
「ええー、いいなー。ちょっと花梨ー、その時になったら私も呼んでよー?」
「当ったり前じゃん。またみんなで、夜更かししながら遊ぼうね」
「わーい、やったー。よーし、今度は色んなお菓子を持ってこっとー」
出会う度に次の予定が組み込まれ、お泊まりや遊ぶ約束をいくつも交わしていき、先々の日程が埋まっていく中。会話が絶えない一行は、残紅も消えて本格的な夜が訪れた事もあってか。
様々な光を放つ狐火が回遊する『妖狐神社』に到着し、多色の光が移った赤い鳥居をくぐり、まだ参拝客の活気に溢れる境内へ入っていく。
夜の帳が降りようとも、昼に勝るとも劣らない妖々しい灯りで照らされた境内は、妖怪の子供で大いに賑わっており。
十人十色の幼い歓声を浴びた花梨は、ふと何かを思い出したようで。「ねえ雅、雅!」と、周りの歓声に負けない声で呼び掛けた。
「何ー?」
「あのさー? 狐火を、また分けてくれない?」
「ああー、いいよー。そんじゃー、手の平を出してー」
「やったー!」
再び『キーちゃん』に会えると、境内で一番はしゃぎ出した花梨が、今か今かと両手を雅に差し出す。
その間に雅は、右手からオレンジ色の狐火を。左手からは、青みを帯びた狐火を交互に出現させ。
ちゃっかりと便乗したゴーニャ、纏。訳も分からず差し伸べた酒天の手の平に、指を滑らせながら各色の狐火を導いていった。
「おおっ! 手の平に、狐火が留まったっス! わあ~、温かいっスねぇ」
物珍しさが先行するも、ほんのりとした温かさに魅力された酒天が、ほっこりとした顔を狐火に近づけていく。
「んっふふ。久しぶりだねぇ、キーちゃん」
「花梨ってば、名前付けてたんだー。愛着湧きすぎじゃなーい?」
まるで数年振りの再会を分かち合うように、ニコニコ顔で寄り添っているも。雅の指摘に、花梨の顔が苦笑いにすり替わる。
「ほ、ほら、私は純粋な妖狐じゃないから出せないし。なんだか、妙に可愛く見えてきちゃうんだよね」
「だったら、純粋な妖狐になっちゃえばいいじゃーん。いつでも歓迎するよー」
「変化だけだったらまだしも。人間に戻れなくなるのは、流石にちょっと、ね?」
「むうー。やっぱそうなると、来世に期待するしかないかー」
ここぞとばかりに、花梨を純粋な妖狐にしようと勧めるも、生粋の人間である花梨のガードと意思は固く。
まだ諦められていない様子の雅は、口を尖らせながら両手を後頭部に回し、「ちぇーっ、いいと思うんだけどなー」と、緩くぶうたれた。
そこから狐火を引き連れる賑やかな一行は、夜闇を纏った本殿に差し掛かり、談笑を交えて右側の道に沿い進んで行く。
特に闇が濃い雑木林に着くも、一行には近づけまいと狐火が健気に払い、歩みを止めずに入っていった。
「そういえばさ、雅。妖狐寮の食事処には、どんな料理があるの?」
気になる質問を花梨が投げ掛けたと同時。早く何か食べたいと、花梨の腹から『くぅ』という子犬の鳴き声に似た音が追う。
「えっとねー、和食が中心かなー。中華や洋食は、ほとんどないよー」
「へえ~、和食料理かぁ。だとすれは、寿司、天ぷら、ウナギでしょ? あとは、うどんとか蕎麦だったかな?」
「他にも、肉じゃがとかすき焼き、しゃぶしゃぶや山菜料理とかねー」
「すき焼き! 食事処で出る肉じゃがとかすき焼きなんて、絶対美味しいに決まってるじゃん」
魅力的なラインナップの名に、花梨は出てきた料理を瞬く間に頭の中に浮かべ、「へっへへへっ……」とニヤけながら想像の料理をかき込んでいく。
「しゃぶしゃぶって聞くと『カタキラ』を思い出す」
「クロと一緒に行った、高級しゃぶしゃぶ専門店よねっ。あのお肉、本当においひ……」
どうやら、思い出している途中で意識が遠のいたらしく。ヨダレをダラッと垂らしたゴーニャも、花梨に続いて仰いだ顔がニヤけていった。
「『カタキラ』かー。私も近くを通ったがてらに、行った事があるよー」
「あっ、雅も行った事があるんだ」
「楓様達と一緒にねー。妖怪によって色んな席が設けられてるから、居心地が良かったよー」
「そうそう! 私達も天狗に変化したまま入店して、『翼席』っていう席に案内されてさ。独特な背もたれをしてたけど、妙に座りやすかったんだよね」
纏の口から出てきた店名に、雅が反応して共通の話題に花が咲き始めた最中。視線で会話を追っていた酒天が、「『カタキラ』っスかー」と加わってきた。
「行ってみたいんスけど。遠いんスよねー、あそこ」
「確かに。結構な速度で飛んで行ったんですが、二時間以上掛かりましたね」
「かなり遠いですよー。酒天さんは、現世にある新幹線に乗らないと日帰りは厳しいですねー」
「ワシらも、ハヤブサに変化して行ったからのお。まあまあ疲れる距離じゃった」
「ハヤブサっスか。やっぱりあたしは、新幹線で行くしか……、えっ?」
あまりにも自然な第三者の介入に、違和感を覚えるのに遅れた酒天が、目をきょとんとさせる。
その、すぐ真後ろから聞こえた声の主を探るべく、恐る恐る背後に振り向いてみれば。
持っていた狐火に怪しく照らされ、薄闇にほんのりと溶け込んでいた天狐の楓が居り。皆の注目を集めるや否や、口角をいやらしく吊り上げた。
「ほわっ!? か、楓さん!? ……ビックリしたぁ。いつの間に居たんスか?」
「たった今じゃ。お主も良い反応をするのお、良きかな良きかな。それに比べて……」
あまり馴染みの無い者を驚かせる事に成功し、ご満悦な表情になるも。すぐさま不服そうな顔にすり替わった楓が、花梨達の方へ顔をやる。
「花梨とゴーニャ、今回は反応が薄かったじゃないかえ。酒天を見習わんか」
「あっはははは……。すみません、流石に慣れてきちゃいました」
「私もっ。声を聞いて、居るのがすぐにわかったわっ」
「なんじゃ、慣れてしまったのか。……ふむ。ならば、新しい方法を考えておかないとのお」
やはり、妖怪としての性なのか。真面目に考え出した楓を見て、花梨の口元に苦いヒクつきが増していくも。
それよりも早く飯を食べさせろと、花梨の腹から『ぐぅ~』という重低音の腹の虫が、闇夜の雑木林に響き渡っていった。
「ほっほっほっ。どうやら、腹の方は準備が整っているようじゃな」
「は、はい。お恥ずかしながら、準備万端でございます……」
「ならば、このまま食事処へ案内しよう。付いてまいれ」
恐怖よりも食欲が勝る花梨の催促に、楓は妖狐寮にある食事処に先導するべく、皆の前を行く。
そして、初めて来た酒天に、妖狐寮の全容を説明しつつ、建物の中へと入っていった。
時刻は、夜の帳が出番だと意気込み、星が瞬く残紅を闇夜に塗り替え始めている、夕方の五時前。
妖狐寮に泊まる事もあり、既に妖狐の姿に変化している花梨、ゴーニャ、纏、茨木童子の酒天。
そして、一行の先頭を行く妖狐の雅は、楓が待つ妖狐寮を目指すべく、提灯の淡い光が灯り出した温泉街を歩いていた。
「妖狐になったのは『妖狐の日』以来っスけど、やっぱ尻尾が大きいっスねぇ」
歩くに連れ、夕闇が濃くなっていく大通りで、イマイチ妖狐の姿に慣れていない酒天が、己の体から生えた大きな狐の尻尾を横目で覗いたり。
頭に生えたピンと立つ狐の耳を触ったり、変化した際に消えた額の角が戻っていないか、何度も確認した。
「妖狐姿の酒天さんって、初めて見るから新鮮だなぁ」
最早、妖狐姿に箔がついてきた花梨が、酒天の珍しい姿を目に焼き付けようと、全身を隈無く見返していく。
「別の妖怪に変化する機会なんて、基本無いっスからね。わぁっ、尻尾がモフモフしてるっスぅ~」
「今度首輪を貸してあげるから猫又になって」
「あっ! 私も、猫又になった酒天を見てみたいわっ!」
この場で唯一、小柄な妖狐姿の纏が、大人の妖狐になったゴーニャに抱っこされながら、悪魔の囁きを言う。
「猫又っスかー……」
猫又と聞いて酒天が想像するは、花梨の太ももの上に寝っ転がり、撫でられながら甘えに甘える己の姿。
花梨に甘えられるのもいいが、甘える立場に回るのも悪くないと誘惑に負けた酒天は、表情がにんまりととろけ、「ああ~、いいかもしれないっスねぇ」と鼻の下を伸ばしていく。
「分かりました。今度お泊まりをした時にでも、猫又になってみるっス!」
「ええー、いいなー。ちょっと花梨ー、その時になったら私も呼んでよー?」
「当ったり前じゃん。またみんなで、夜更かししながら遊ぼうね」
「わーい、やったー。よーし、今度は色んなお菓子を持ってこっとー」
出会う度に次の予定が組み込まれ、お泊まりや遊ぶ約束をいくつも交わしていき、先々の日程が埋まっていく中。会話が絶えない一行は、残紅も消えて本格的な夜が訪れた事もあってか。
様々な光を放つ狐火が回遊する『妖狐神社』に到着し、多色の光が移った赤い鳥居をくぐり、まだ参拝客の活気に溢れる境内へ入っていく。
夜の帳が降りようとも、昼に勝るとも劣らない妖々しい灯りで照らされた境内は、妖怪の子供で大いに賑わっており。
十人十色の幼い歓声を浴びた花梨は、ふと何かを思い出したようで。「ねえ雅、雅!」と、周りの歓声に負けない声で呼び掛けた。
「何ー?」
「あのさー? 狐火を、また分けてくれない?」
「ああー、いいよー。そんじゃー、手の平を出してー」
「やったー!」
再び『キーちゃん』に会えると、境内で一番はしゃぎ出した花梨が、今か今かと両手を雅に差し出す。
その間に雅は、右手からオレンジ色の狐火を。左手からは、青みを帯びた狐火を交互に出現させ。
ちゃっかりと便乗したゴーニャ、纏。訳も分からず差し伸べた酒天の手の平に、指を滑らせながら各色の狐火を導いていった。
「おおっ! 手の平に、狐火が留まったっス! わあ~、温かいっスねぇ」
物珍しさが先行するも、ほんのりとした温かさに魅力された酒天が、ほっこりとした顔を狐火に近づけていく。
「んっふふ。久しぶりだねぇ、キーちゃん」
「花梨ってば、名前付けてたんだー。愛着湧きすぎじゃなーい?」
まるで数年振りの再会を分かち合うように、ニコニコ顔で寄り添っているも。雅の指摘に、花梨の顔が苦笑いにすり替わる。
「ほ、ほら、私は純粋な妖狐じゃないから出せないし。なんだか、妙に可愛く見えてきちゃうんだよね」
「だったら、純粋な妖狐になっちゃえばいいじゃーん。いつでも歓迎するよー」
「変化だけだったらまだしも。人間に戻れなくなるのは、流石にちょっと、ね?」
「むうー。やっぱそうなると、来世に期待するしかないかー」
ここぞとばかりに、花梨を純粋な妖狐にしようと勧めるも、生粋の人間である花梨のガードと意思は固く。
まだ諦められていない様子の雅は、口を尖らせながら両手を後頭部に回し、「ちぇーっ、いいと思うんだけどなー」と、緩くぶうたれた。
そこから狐火を引き連れる賑やかな一行は、夜闇を纏った本殿に差し掛かり、談笑を交えて右側の道に沿い進んで行く。
特に闇が濃い雑木林に着くも、一行には近づけまいと狐火が健気に払い、歩みを止めずに入っていった。
「そういえばさ、雅。妖狐寮の食事処には、どんな料理があるの?」
気になる質問を花梨が投げ掛けたと同時。早く何か食べたいと、花梨の腹から『くぅ』という子犬の鳴き声に似た音が追う。
「えっとねー、和食が中心かなー。中華や洋食は、ほとんどないよー」
「へえ~、和食料理かぁ。だとすれは、寿司、天ぷら、ウナギでしょ? あとは、うどんとか蕎麦だったかな?」
「他にも、肉じゃがとかすき焼き、しゃぶしゃぶや山菜料理とかねー」
「すき焼き! 食事処で出る肉じゃがとかすき焼きなんて、絶対美味しいに決まってるじゃん」
魅力的なラインナップの名に、花梨は出てきた料理を瞬く間に頭の中に浮かべ、「へっへへへっ……」とニヤけながら想像の料理をかき込んでいく。
「しゃぶしゃぶって聞くと『カタキラ』を思い出す」
「クロと一緒に行った、高級しゃぶしゃぶ専門店よねっ。あのお肉、本当においひ……」
どうやら、思い出している途中で意識が遠のいたらしく。ヨダレをダラッと垂らしたゴーニャも、花梨に続いて仰いだ顔がニヤけていった。
「『カタキラ』かー。私も近くを通ったがてらに、行った事があるよー」
「あっ、雅も行った事があるんだ」
「楓様達と一緒にねー。妖怪によって色んな席が設けられてるから、居心地が良かったよー」
「そうそう! 私達も天狗に変化したまま入店して、『翼席』っていう席に案内されてさ。独特な背もたれをしてたけど、妙に座りやすかったんだよね」
纏の口から出てきた店名に、雅が反応して共通の話題に花が咲き始めた最中。視線で会話を追っていた酒天が、「『カタキラ』っスかー」と加わってきた。
「行ってみたいんスけど。遠いんスよねー、あそこ」
「確かに。結構な速度で飛んで行ったんですが、二時間以上掛かりましたね」
「かなり遠いですよー。酒天さんは、現世にある新幹線に乗らないと日帰りは厳しいですねー」
「ワシらも、ハヤブサに変化して行ったからのお。まあまあ疲れる距離じゃった」
「ハヤブサっスか。やっぱりあたしは、新幹線で行くしか……、えっ?」
あまりにも自然な第三者の介入に、違和感を覚えるのに遅れた酒天が、目をきょとんとさせる。
その、すぐ真後ろから聞こえた声の主を探るべく、恐る恐る背後に振り向いてみれば。
持っていた狐火に怪しく照らされ、薄闇にほんのりと溶け込んでいた天狐の楓が居り。皆の注目を集めるや否や、口角をいやらしく吊り上げた。
「ほわっ!? か、楓さん!? ……ビックリしたぁ。いつの間に居たんスか?」
「たった今じゃ。お主も良い反応をするのお、良きかな良きかな。それに比べて……」
あまり馴染みの無い者を驚かせる事に成功し、ご満悦な表情になるも。すぐさま不服そうな顔にすり替わった楓が、花梨達の方へ顔をやる。
「花梨とゴーニャ、今回は反応が薄かったじゃないかえ。酒天を見習わんか」
「あっはははは……。すみません、流石に慣れてきちゃいました」
「私もっ。声を聞いて、居るのがすぐにわかったわっ」
「なんじゃ、慣れてしまったのか。……ふむ。ならば、新しい方法を考えておかないとのお」
やはり、妖怪としての性なのか。真面目に考え出した楓を見て、花梨の口元に苦いヒクつきが増していくも。
それよりも早く飯を食べさせろと、花梨の腹から『ぐぅ~』という重低音の腹の虫が、闇夜の雑木林に響き渡っていった。
「ほっほっほっ。どうやら、腹の方は準備が整っているようじゃな」
「は、はい。お恥ずかしながら、準備万端でございます……」
「ならば、このまま食事処へ案内しよう。付いてまいれ」
恐怖よりも食欲が勝る花梨の催促に、楓は妖狐寮にある食事処に先導するべく、皆の前を行く。
そして、初めて来た酒天に、妖狐寮の全容を説明しつつ、建物の中へと入っていった。
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