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85話-4、お前さん、日向ぼっこは好きかニャ?
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「全員集まったニャ。ではでは。先にも言ったように、わっちが取り扱う骨董品は、主に趣味で集めた物。詰めて言うと、様々ニャ効果をもたらす呪いが掛かった、曰く付きの逸品ニャ」
「呪い……?」
「そう。例えばー」
物騒な出だしで語り始めた莱鈴が、ちょうど背後にあった大きめの桐箱を引っ張り出し、床に置いて箱を開ける。
その中には、白薄紙で包まれた何かが入っており。丁寧に捲っていくと、青藍色をした壺が姿を現した。
「この壺は特定の条件を満たすと、水が際限ニャく湧き出してくるんだニャ。ニャので、陸地に住む濡れ女や河童、水を必要とする妖怪達に需要があるニャ」
「へぇ~。見た目は、ただの壺にしか見えないや」
「特定の条件って、なんなのかしらっ?」
「陽の光を浴びてニャい露、それが付着した新芽。または、それらが凍った物を入れればいいニャ」
説明が終わると、僅かな出番が終わった壺を、桐箱の中に戻していく莱鈴。
「水を止めるにはどうするの?」
「壺をひっくり返して、中の水を全部出せばいいニャ。条件はちと面倒くさいが、とても扱いやすい代物だニャ」
纏の質問に答えた莱鈴が、隣にある小さめの桐箱を取り出し、蓋に薄っすらと溜まったホコリを前足で払う。
「比較的安全だし、なんだか魔法の道具みたいですね」
「見方を変えると、そうとも取れるニャ。次はっと」
花梨の感想を肯定すると、莱鈴は桐箱の蓋を開け。中から艶やかな光沢を走らせた、小紫色のとかし櫛を持ち上げる。
「このとかし櫛は、とかした箇所の髪が数ミリ伸びるニャ。ただし、とかす度に、寿命が数分ずつ櫛に吸い取られるニャ」
「おっ。寿命を吸い取られるのが、いかにも曰く付きっぽい。けど数分だけなら、リスクは少ないかも?」
「自分で髪の毛を切って、失敗した時に使いたい」
「良い例の使い方だニャ。しかも不死が使うと、ノーリスクで髪を伸ばせるニャ」
光に当てると、虹色の煌めきを放つとかし櫛を顔横まで持ってきた莱鈴が、その櫛をユラユラと揺らす。
「ちなみに、この櫛。いくらだと思うニャ?」
「いくら? う~ん……」
「まったくわからないわっ」
「曰く付きだし、安いかも」
曰く付きに足を引っ張れ、値段の想像がまったく付かず、目を細めてとかし櫛を凝視する姉妹達。一般的な櫛であれば、安くて数百円。が、とかし櫛になると数千円に膨れ上がるものの。
相場を知らない三人は、ただ唸り声を出す事しか出来ず、皆してとかし櫛に顔を寄せていった。
「いくらだろう? 二万円ぐらいかな?」
「それじゃあ、私は七千円っ」
「五百円」
当てずっぽうながらも、値段の幅を利かせてきた三人の答えに、莱鈴「チッチッチッ」と舌を鳴らし、とかし櫛を桐箱にしまう。
「こういった曰く付きの物は、末端価格の変動が激しいんだニャ。現在は~、そうだニャ。百万円前後といった所かニャ」
「ひゃ、百万円っ!?」
「百万円って、一万円札が百枚ってことよね? すごく高いわっ」
「莱鈴。さっきの壺はいくら?」
花梨が理想的な驚きをし、ゴーニャがぽやっと計算している中。新たな桐箱に手を掛けている莱鈴に、纏が好奇心の強い質問を投げかける。
「あー、おおよそ一千万ぐらいかニャ?」
「とんでもなく高い」
「作りたくとも作れニャいから、需要と供給がまったく釣り合わニャいんだニャ。更に安全性も高く、条件が緩くニャってくると、あっという間に億を超えるニャ」
「お、億……? はぇ~……」
曰く付きの脅威よりも、目に見える莫大な値段のせいで思考が止まった花梨の肩が、なで肩になる勢いで下がっていく。
そんな花梨をよそに、莱鈴はとかし櫛が入っていた物と、同程度の大きさをした桐箱を持ち、蓋を開けた。
「次は~……。っと、これはいかんニャ」
中身を確認した矢先。莱鈴は蓋をパタンと閉じ、流れるように桐箱を棚へ戻した。
「莱鈴さん。今の桐箱には、何が入ってるんですか?」
「曰く付きでもニャんでもニャい、ただの腕輪だニャ」
素っ気なく、これ以上の詮索を許さない莱鈴の返しに、花梨達は互いに顔を合わせ、首を傾げる。
先の桐箱には、かつて雪女の雹華が莱鈴に無理をしてお願いした、雪女に変化出来る予備のブレスレットが入っており。
それを見られると、後々ばつが悪いと危機感を抱いた莱鈴は、早急に話題を変えるべく。天狗に変化出来る兜巾が入った桐箱も飛ばし、更に隣の桐箱を選択した。
「こいつは~……。ああ、これかニャ。廃棄するのをすっかり……、ん? 待てニャ?」
一旦は、小言でボソボソと呟いていた莱鈴であったが。何か悪巧みでも思い付いたのか。
桐箱を凝視したまま、楓は、妖狐神社で働くという名目で。雹華は、己の欲に赴くむままに。クロは、皆に感化されて、花梨を同種族の姿へ変えたニャ。
ニャら、わっちも一回ぐらい花梨の姿を変えたとしても、バチは当たらんだろうニャ。と、欲が生まれてしまい。
モフモフの口角をいやらしく吊り上げた後、営業スマイルにすり替えた顔を、花梨達へ向けた。
「そういえば、花梨。お前さん、妖怪に変化出来る道具を、沢山持ってるらしいじゃニャいか」
「妖怪に変化出来る道具、ですか? はい、持ってます」
「ちニャみに、どんニャ道具を持ってるんだニャ?」
花梨の持っている道具は、事前に全て把握しているのにも関わらず、莱鈴は軽く耳に聞いた程度の体で質問を続ける。
その質問に対し、花梨「え~っと」と言いながら視線を右上へ持っていき、指を折り始めた。
「妖狐になれる、葉っぱの髪飾り。茨木童子になれるお酒。座敷童子になれる首飾り。天狗になれる兜巾。雪女になれるブレスレット。これぐらいですね」
「ふむふむ。改めて聞くと、すごい数だニャ。時に、花梨よ。お前さん、日向ぼっこは好きかニャ?」
「はい、好きです。暖かい陽の光をボーッとしながら浴びてると、すごく気持ちよく眠れるんですよね~」
唐突に始まった話題ながらも、花梨は思った事をそのまま答え。纏も「いいよね、日向ぼっこ」と話に加わる。
「縁側で熱いお茶をすすって、空を見ながら黄昏れるのが好き」
「私もっ。花梨にギュッとされながらすると、お布団よりも暖かくて心地がいいのよねっ」
「分かる。けど、一つだけ欠点がある。本当に心地がいいから、すぐ寝落ちしちゃう」
「ねっ。どんなに眠くなくても、一分もしたらウトウトしてきちゃうわっ」
互いに、数え切れないほど経験してきた事もあってか。些細な不満を明かし合う二人に、花梨は「あっははは」と苦笑いをした。
「けど、莱鈴さん。どうして急に、日向ぼっこの話なんかを?」
「ちょいと、日向ぼっこが格段に気持ちよくニャる物を見つけてニャ」
「へぇ~、そんな物が。どんな物なんですか?」
「それはだニャ~、これニャ」
日向ぼっこの話題に持ち込んだ理由を明かすと、莱鈴は四角い桐箱の蓋を開け直し、中に入っていた物を『チリン』と音を立たせながら持ち上げた。
その掲げた右前足には、小さな鈴が付いたカーキ色の首輪があり。皆の注目を集めると、花梨の元へずいっと寄せていく。
「レザーの首輪だ。まさか、これを身に付けると、日向ぼっこが更に快適になると?」
「そうだニャー。フリーサイズだし、お前さんでも難なく身に付けられるニャ」
早く付けろと遠回しに感じる莱鈴の催促に、花梨は確信すら持てる嫌な予感を抱いてしまい、口元を引きつらせていった。
既に花梨は、妖怪から貰った物を身に付けるイコール、その妖怪と同じ姿になると学んでいて。今回も、予想せずとも当たってしまうだろうと半ば諦めつつも、話を続ける。
「あのー……、莱鈴さん? これを身に付けると、私は一体、どんな姿になってしまうんですかねぇ?」
「ニャんだ、やはり察しはついてたかニャ。それは、身に付けてからのお楽しみだニャー」
やはり当たってしまった嫌な予感に、花梨は莱鈴に合わせていた視線を首輪に持っていき、嫌そうに細めて莱鈴に戻す。
「……身に付けないという、選択肢は?」
「無いニャ」
「あっ、やっぱり……?」
キッパリと即答されてしまい、元から無かった逃げ場を完全に失うと、花梨は急激に重くなった手で首輪を受け取り、短いため息をついた。
「……なんだか久々だなぁ、この感じ。せめて、小さな姿にはなりませんようにっと」
最早、変化する姿まで分かり切っている様子の花梨は、おぼつかない手で留め具を外し、首に当てる。
そのまま、ある程度のゆとりを持たせて首輪を身に付けた途端、『ポンッ』という軽い音が鳴り、全員の視界から花梨が消え失せてしまった。
「呪い……?」
「そう。例えばー」
物騒な出だしで語り始めた莱鈴が、ちょうど背後にあった大きめの桐箱を引っ張り出し、床に置いて箱を開ける。
その中には、白薄紙で包まれた何かが入っており。丁寧に捲っていくと、青藍色をした壺が姿を現した。
「この壺は特定の条件を満たすと、水が際限ニャく湧き出してくるんだニャ。ニャので、陸地に住む濡れ女や河童、水を必要とする妖怪達に需要があるニャ」
「へぇ~。見た目は、ただの壺にしか見えないや」
「特定の条件って、なんなのかしらっ?」
「陽の光を浴びてニャい露、それが付着した新芽。または、それらが凍った物を入れればいいニャ」
説明が終わると、僅かな出番が終わった壺を、桐箱の中に戻していく莱鈴。
「水を止めるにはどうするの?」
「壺をひっくり返して、中の水を全部出せばいいニャ。条件はちと面倒くさいが、とても扱いやすい代物だニャ」
纏の質問に答えた莱鈴が、隣にある小さめの桐箱を取り出し、蓋に薄っすらと溜まったホコリを前足で払う。
「比較的安全だし、なんだか魔法の道具みたいですね」
「見方を変えると、そうとも取れるニャ。次はっと」
花梨の感想を肯定すると、莱鈴は桐箱の蓋を開け。中から艶やかな光沢を走らせた、小紫色のとかし櫛を持ち上げる。
「このとかし櫛は、とかした箇所の髪が数ミリ伸びるニャ。ただし、とかす度に、寿命が数分ずつ櫛に吸い取られるニャ」
「おっ。寿命を吸い取られるのが、いかにも曰く付きっぽい。けど数分だけなら、リスクは少ないかも?」
「自分で髪の毛を切って、失敗した時に使いたい」
「良い例の使い方だニャ。しかも不死が使うと、ノーリスクで髪を伸ばせるニャ」
光に当てると、虹色の煌めきを放つとかし櫛を顔横まで持ってきた莱鈴が、その櫛をユラユラと揺らす。
「ちなみに、この櫛。いくらだと思うニャ?」
「いくら? う~ん……」
「まったくわからないわっ」
「曰く付きだし、安いかも」
曰く付きに足を引っ張れ、値段の想像がまったく付かず、目を細めてとかし櫛を凝視する姉妹達。一般的な櫛であれば、安くて数百円。が、とかし櫛になると数千円に膨れ上がるものの。
相場を知らない三人は、ただ唸り声を出す事しか出来ず、皆してとかし櫛に顔を寄せていった。
「いくらだろう? 二万円ぐらいかな?」
「それじゃあ、私は七千円っ」
「五百円」
当てずっぽうながらも、値段の幅を利かせてきた三人の答えに、莱鈴「チッチッチッ」と舌を鳴らし、とかし櫛を桐箱にしまう。
「こういった曰く付きの物は、末端価格の変動が激しいんだニャ。現在は~、そうだニャ。百万円前後といった所かニャ」
「ひゃ、百万円っ!?」
「百万円って、一万円札が百枚ってことよね? すごく高いわっ」
「莱鈴。さっきの壺はいくら?」
花梨が理想的な驚きをし、ゴーニャがぽやっと計算している中。新たな桐箱に手を掛けている莱鈴に、纏が好奇心の強い質問を投げかける。
「あー、おおよそ一千万ぐらいかニャ?」
「とんでもなく高い」
「作りたくとも作れニャいから、需要と供給がまったく釣り合わニャいんだニャ。更に安全性も高く、条件が緩くニャってくると、あっという間に億を超えるニャ」
「お、億……? はぇ~……」
曰く付きの脅威よりも、目に見える莫大な値段のせいで思考が止まった花梨の肩が、なで肩になる勢いで下がっていく。
そんな花梨をよそに、莱鈴はとかし櫛が入っていた物と、同程度の大きさをした桐箱を持ち、蓋を開けた。
「次は~……。っと、これはいかんニャ」
中身を確認した矢先。莱鈴は蓋をパタンと閉じ、流れるように桐箱を棚へ戻した。
「莱鈴さん。今の桐箱には、何が入ってるんですか?」
「曰く付きでもニャんでもニャい、ただの腕輪だニャ」
素っ気なく、これ以上の詮索を許さない莱鈴の返しに、花梨達は互いに顔を合わせ、首を傾げる。
先の桐箱には、かつて雪女の雹華が莱鈴に無理をしてお願いした、雪女に変化出来る予備のブレスレットが入っており。
それを見られると、後々ばつが悪いと危機感を抱いた莱鈴は、早急に話題を変えるべく。天狗に変化出来る兜巾が入った桐箱も飛ばし、更に隣の桐箱を選択した。
「こいつは~……。ああ、これかニャ。廃棄するのをすっかり……、ん? 待てニャ?」
一旦は、小言でボソボソと呟いていた莱鈴であったが。何か悪巧みでも思い付いたのか。
桐箱を凝視したまま、楓は、妖狐神社で働くという名目で。雹華は、己の欲に赴くむままに。クロは、皆に感化されて、花梨を同種族の姿へ変えたニャ。
ニャら、わっちも一回ぐらい花梨の姿を変えたとしても、バチは当たらんだろうニャ。と、欲が生まれてしまい。
モフモフの口角をいやらしく吊り上げた後、営業スマイルにすり替えた顔を、花梨達へ向けた。
「そういえば、花梨。お前さん、妖怪に変化出来る道具を、沢山持ってるらしいじゃニャいか」
「妖怪に変化出来る道具、ですか? はい、持ってます」
「ちニャみに、どんニャ道具を持ってるんだニャ?」
花梨の持っている道具は、事前に全て把握しているのにも関わらず、莱鈴は軽く耳に聞いた程度の体で質問を続ける。
その質問に対し、花梨「え~っと」と言いながら視線を右上へ持っていき、指を折り始めた。
「妖狐になれる、葉っぱの髪飾り。茨木童子になれるお酒。座敷童子になれる首飾り。天狗になれる兜巾。雪女になれるブレスレット。これぐらいですね」
「ふむふむ。改めて聞くと、すごい数だニャ。時に、花梨よ。お前さん、日向ぼっこは好きかニャ?」
「はい、好きです。暖かい陽の光をボーッとしながら浴びてると、すごく気持ちよく眠れるんですよね~」
唐突に始まった話題ながらも、花梨は思った事をそのまま答え。纏も「いいよね、日向ぼっこ」と話に加わる。
「縁側で熱いお茶をすすって、空を見ながら黄昏れるのが好き」
「私もっ。花梨にギュッとされながらすると、お布団よりも暖かくて心地がいいのよねっ」
「分かる。けど、一つだけ欠点がある。本当に心地がいいから、すぐ寝落ちしちゃう」
「ねっ。どんなに眠くなくても、一分もしたらウトウトしてきちゃうわっ」
互いに、数え切れないほど経験してきた事もあってか。些細な不満を明かし合う二人に、花梨は「あっははは」と苦笑いをした。
「けど、莱鈴さん。どうして急に、日向ぼっこの話なんかを?」
「ちょいと、日向ぼっこが格段に気持ちよくニャる物を見つけてニャ」
「へぇ~、そんな物が。どんな物なんですか?」
「それはだニャ~、これニャ」
日向ぼっこの話題に持ち込んだ理由を明かすと、莱鈴は四角い桐箱の蓋を開け直し、中に入っていた物を『チリン』と音を立たせながら持ち上げた。
その掲げた右前足には、小さな鈴が付いたカーキ色の首輪があり。皆の注目を集めると、花梨の元へずいっと寄せていく。
「レザーの首輪だ。まさか、これを身に付けると、日向ぼっこが更に快適になると?」
「そうだニャー。フリーサイズだし、お前さんでも難なく身に付けられるニャ」
早く付けろと遠回しに感じる莱鈴の催促に、花梨は確信すら持てる嫌な予感を抱いてしまい、口元を引きつらせていった。
既に花梨は、妖怪から貰った物を身に付けるイコール、その妖怪と同じ姿になると学んでいて。今回も、予想せずとも当たってしまうだろうと半ば諦めつつも、話を続ける。
「あのー……、莱鈴さん? これを身に付けると、私は一体、どんな姿になってしまうんですかねぇ?」
「ニャんだ、やはり察しはついてたかニャ。それは、身に付けてからのお楽しみだニャー」
やはり当たってしまった嫌な予感に、花梨は莱鈴に合わせていた視線を首輪に持っていき、嫌そうに細めて莱鈴に戻す。
「……身に付けないという、選択肢は?」
「無いニャ」
「あっ、やっぱり……?」
キッパリと即答されてしまい、元から無かった逃げ場を完全に失うと、花梨は急激に重くなった手で首輪を受け取り、短いため息をついた。
「……なんだか久々だなぁ、この感じ。せめて、小さな姿にはなりませんようにっと」
最早、変化する姿まで分かり切っている様子の花梨は、おぼつかない手で留め具を外し、首に当てる。
そのまま、ある程度のゆとりを持たせて首輪を身に付けた途端、『ポンッ』という軽い音が鳴り、全員の視界から花梨が消え失せてしまった。
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