128 / 158
126話、ビュッフェの布陣、意味を成さず
しおりを挟む
「それじゃあ、軟骨の唐揚げをっと」
ハルと出会ってから、まだ間もない頃にリクエストを出した、軟骨の唐揚げよ。一ヶ月以上の時を経て、ようやく食べられる時がきた。
一粒一粒がコロコロとしていて小さく、見た目は、正に唐揚げの子供って感じね。一緒にレモンが添えられているけど、半分ぐらい食べてからかけてみよっと。
「んふっ、食感が楽しいわね~」
軟骨を揚げているともあり、何回噛んでもコリッとした食感が止まらない。小さい割に、油をたんまり含んでいるようで。
新しい軟骨の唐揚げを、口の中に入れて噛んでみれば。中に閉じ込められていた油が、弾けんばかりに飛び出し、醤油を感じる風味と共にぶわっと広がっていく。
味付けは、普通の唐揚げとあまり変わりなさそうね。後を引くスパイスがちょっと目立っていて、ついもう一つと口に運びたくなってしまうわ。
「これも一回食べると、止まらなくなるわねぇ~」
「居酒屋って、結構危険だね。ビュッフェの布陣にしたけど、一つの料理に集中したくなっちゃうや」
「そうなのよ。お陰でレモンをかける前に、軟骨の唐揚げが無くなっちゃったわ」
「げっ、マジじゃん。塩ダレキャベツよりも、鮮やかな食べっぷりっスね」
言い訳をするつもりじゃないけど、本当に無意識だった。塩ダレキャベツ然り、軟骨の唐揚げ然り、盛り付けの量が絶妙なのよ。
一皿だけじゃ全然物足りず、二皿三皿と欲しくなってくる。ここに居る間、食欲の歯止めが効かなくなりそうだわ。
「よかったー、軟骨の唐揚げも追加で注文しといて」
「え? 軟骨の唐揚げも、追加してくれたの?」
「まあね。これからどんどん料理が運ばれてくるから、いっぱい食べちゃってちょうだい」
なんとも頼り甲斐のあるハルが、カルビステーキを頬張る。もしかして、私がやらかすと先読みして頼んでくれたのかしら? だとすれば、先見の明が鋭いわね。
「そう、ありがとう。なら、遠慮する必要は無いわね。そっちの餃子を貰うわよ」
「じゃあ、私もホッケを食べようかなー」
活力が漲ってきた箸を伸ばし、一枚に連なった焦げ目がおいしそうな羽を割き、餃子を掴む。鉄板の上にあった事もあり、冷めていなさそうだ。
ならば、外側をいくら冷ましても、中は熱々なままのはず。火傷しないよう、気を付けて食べなければ。腹の部分に醤油を付けて、何回か息を吹きかけて冷まし、いざ!
「アチチっ……、んん~! ハルの言う通り、ご飯が進みそうな味をしてるわぁ~」
カリッカリの皮を齧ると、内側に留まっていた熱い肉汁と共に、馴染み深いニンニクの風味がガツンと襲ってきた。餃子といえば、やっぱりニンニクよね。
具も豊富でギッシリ詰まっているから、肉肉しい食べ応えが十分あり。合間合間に顔をひょっこり出す、各野菜の甘さも良いアクセントになっている。
しかし、醤油の香ばしさにも負けない、しっかり味付けされた濃厚なタネよ。もう、醤油もいらない。餃子単体だけで、ご飯がグイグイ進みそうだ。
「お待たせしました! 塩ダレキャベツと生ハムの切り落とし、やみつきガーリックシュリンプとポテトフライ、ライスになります」
「きたっ!」
「わあっ、ありがとうございます」
待ち侘びていたライスの他に、私とハルで追加した物や、新たに注文された料理が怒涛の如く来て、次々とテーブルに並べられていく。
これで、ライスを入れて食べられる料理は八品に増加。なんとも賑やかになってきた。もう、テーブルがお祭り騒ぎだわ。
「これだけ料理が増えると、圧巻ね」
「しかもさ? 結構多いように見えるけど、余裕で全部食べられちゃいそうなんだよね」
「そうなのよ。不思議だわ」
出来立てのポテトフライを手で掴み、そのまま口に運ぶ。うん。出来立てだからカリッとしていて、芋の素朴な甘さを引き立てる、やや強めの塩味がたまらない。
やっぱり揚げ物系は、出来立てが一番おいしいわね。油がしつこくなってきても、ケチャップがあるから、旨味を兼ね揃えた酸味が油のクドさを、綺麗サッパリ消してくれるわ。
「どうしよう。この空間が、だんだん好きになってきたかも」
「めっちゃ分かる。なんか、今がすごく楽しいよね」
「そう、楽しさもあるのよ。おいしい料理が、沢山あるせいかしら?」
何度も頷きたくなる、私達共通の疑問に相槌を打ちつつ、カルビステーキを別皿に移す。こちらも餃子同様、鉄板に乗っていたから、冷めていなさそうだ。
「ちょっとこれ、ハマりそうだよね。値段も、まあまあリーズナブルだし、週一で来たいや」
「流石にそのペースは、ちょっと早過ぎじゃない? せめて梅雨明けみたいに、何かを祝う時に来たいわね」
「ああ、そうだ。梅雨明けを祝す為に、ここに来たんだっけ」
ここに来た理由を、すっかり忘れていたハルが、苦笑いしながらポテトフライに手を伸ばす。
「あんた、そこ大事よ? そういう特別な気持ちになりながら来ないと、楽しさが半減しちゃうじゃない」
「あっははは、そうだね。だったら私、今からもっと楽しめるじゃん。やったー」
「確かに、そうなるわね」
それ、なんだか一人だけずるくない? いや、そうでもないかしら? ハルの言い分だと、今まで私よりも、この場を楽しめていなかった事になる。
そして今、当初の目的を思い出せたから、私と同じぐらい楽しめるようになった。つまり、ハルはようやく対等の位置に立てたのよ。そう考えると、別にずるくもなんともないわね。
「ちょっと、私を置いてけぼりにしないでよ? 楽しむなら、一緒に楽しみましょ」
「オッケー! さあ、ライスも来た事だし、ここからが本番ですぜ。どんどん食べるぞー」
「ふふっ、思う存分食べるわよ」
テーブルの上は、正にビュッフェ状態。しかも、まだまだ料理が運ばれて来る。心強い味方のライスも来たので、準備は万端。ハルに遅れを取らないよう、私もエンジン全開で行くわよ!
ハルと出会ってから、まだ間もない頃にリクエストを出した、軟骨の唐揚げよ。一ヶ月以上の時を経て、ようやく食べられる時がきた。
一粒一粒がコロコロとしていて小さく、見た目は、正に唐揚げの子供って感じね。一緒にレモンが添えられているけど、半分ぐらい食べてからかけてみよっと。
「んふっ、食感が楽しいわね~」
軟骨を揚げているともあり、何回噛んでもコリッとした食感が止まらない。小さい割に、油をたんまり含んでいるようで。
新しい軟骨の唐揚げを、口の中に入れて噛んでみれば。中に閉じ込められていた油が、弾けんばかりに飛び出し、醤油を感じる風味と共にぶわっと広がっていく。
味付けは、普通の唐揚げとあまり変わりなさそうね。後を引くスパイスがちょっと目立っていて、ついもう一つと口に運びたくなってしまうわ。
「これも一回食べると、止まらなくなるわねぇ~」
「居酒屋って、結構危険だね。ビュッフェの布陣にしたけど、一つの料理に集中したくなっちゃうや」
「そうなのよ。お陰でレモンをかける前に、軟骨の唐揚げが無くなっちゃったわ」
「げっ、マジじゃん。塩ダレキャベツよりも、鮮やかな食べっぷりっスね」
言い訳をするつもりじゃないけど、本当に無意識だった。塩ダレキャベツ然り、軟骨の唐揚げ然り、盛り付けの量が絶妙なのよ。
一皿だけじゃ全然物足りず、二皿三皿と欲しくなってくる。ここに居る間、食欲の歯止めが効かなくなりそうだわ。
「よかったー、軟骨の唐揚げも追加で注文しといて」
「え? 軟骨の唐揚げも、追加してくれたの?」
「まあね。これからどんどん料理が運ばれてくるから、いっぱい食べちゃってちょうだい」
なんとも頼り甲斐のあるハルが、カルビステーキを頬張る。もしかして、私がやらかすと先読みして頼んでくれたのかしら? だとすれば、先見の明が鋭いわね。
「そう、ありがとう。なら、遠慮する必要は無いわね。そっちの餃子を貰うわよ」
「じゃあ、私もホッケを食べようかなー」
活力が漲ってきた箸を伸ばし、一枚に連なった焦げ目がおいしそうな羽を割き、餃子を掴む。鉄板の上にあった事もあり、冷めていなさそうだ。
ならば、外側をいくら冷ましても、中は熱々なままのはず。火傷しないよう、気を付けて食べなければ。腹の部分に醤油を付けて、何回か息を吹きかけて冷まし、いざ!
「アチチっ……、んん~! ハルの言う通り、ご飯が進みそうな味をしてるわぁ~」
カリッカリの皮を齧ると、内側に留まっていた熱い肉汁と共に、馴染み深いニンニクの風味がガツンと襲ってきた。餃子といえば、やっぱりニンニクよね。
具も豊富でギッシリ詰まっているから、肉肉しい食べ応えが十分あり。合間合間に顔をひょっこり出す、各野菜の甘さも良いアクセントになっている。
しかし、醤油の香ばしさにも負けない、しっかり味付けされた濃厚なタネよ。もう、醤油もいらない。餃子単体だけで、ご飯がグイグイ進みそうだ。
「お待たせしました! 塩ダレキャベツと生ハムの切り落とし、やみつきガーリックシュリンプとポテトフライ、ライスになります」
「きたっ!」
「わあっ、ありがとうございます」
待ち侘びていたライスの他に、私とハルで追加した物や、新たに注文された料理が怒涛の如く来て、次々とテーブルに並べられていく。
これで、ライスを入れて食べられる料理は八品に増加。なんとも賑やかになってきた。もう、テーブルがお祭り騒ぎだわ。
「これだけ料理が増えると、圧巻ね」
「しかもさ? 結構多いように見えるけど、余裕で全部食べられちゃいそうなんだよね」
「そうなのよ。不思議だわ」
出来立てのポテトフライを手で掴み、そのまま口に運ぶ。うん。出来立てだからカリッとしていて、芋の素朴な甘さを引き立てる、やや強めの塩味がたまらない。
やっぱり揚げ物系は、出来立てが一番おいしいわね。油がしつこくなってきても、ケチャップがあるから、旨味を兼ね揃えた酸味が油のクドさを、綺麗サッパリ消してくれるわ。
「どうしよう。この空間が、だんだん好きになってきたかも」
「めっちゃ分かる。なんか、今がすごく楽しいよね」
「そう、楽しさもあるのよ。おいしい料理が、沢山あるせいかしら?」
何度も頷きたくなる、私達共通の疑問に相槌を打ちつつ、カルビステーキを別皿に移す。こちらも餃子同様、鉄板に乗っていたから、冷めていなさそうだ。
「ちょっとこれ、ハマりそうだよね。値段も、まあまあリーズナブルだし、週一で来たいや」
「流石にそのペースは、ちょっと早過ぎじゃない? せめて梅雨明けみたいに、何かを祝う時に来たいわね」
「ああ、そうだ。梅雨明けを祝す為に、ここに来たんだっけ」
ここに来た理由を、すっかり忘れていたハルが、苦笑いしながらポテトフライに手を伸ばす。
「あんた、そこ大事よ? そういう特別な気持ちになりながら来ないと、楽しさが半減しちゃうじゃない」
「あっははは、そうだね。だったら私、今からもっと楽しめるじゃん。やったー」
「確かに、そうなるわね」
それ、なんだか一人だけずるくない? いや、そうでもないかしら? ハルの言い分だと、今まで私よりも、この場を楽しめていなかった事になる。
そして今、当初の目的を思い出せたから、私と同じぐらい楽しめるようになった。つまり、ハルはようやく対等の位置に立てたのよ。そう考えると、別にずるくもなんともないわね。
「ちょっと、私を置いてけぼりにしないでよ? 楽しむなら、一緒に楽しみましょ」
「オッケー! さあ、ライスも来た事だし、ここからが本番ですぜ。どんどん食べるぞー」
「ふふっ、思う存分食べるわよ」
テーブルの上は、正にビュッフェ状態。しかも、まだまだ料理が運ばれて来る。心強い味方のライスも来たので、準備は万端。ハルに遅れを取らないよう、私もエンジン全開で行くわよ!
0
お気に入りに追加
19
あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
赤い部屋
山根利広
ホラー
YouTubeの動画広告の中に、「決してスキップしてはいけない」広告があるという。
真っ赤な背景に「あなたは好きですか?」と書かれたその広告をスキップすると、死ぬと言われている。
東京都内のある高校でも、「赤い部屋」の噂がひとり歩きしていた。
そんな中、2年生の天根凛花は「赤い部屋」の内容が自分のみた夢の内容そっくりであることに気づく。
が、クラスメイトの黒河内莉子は、噂話を一蹴し、誰かの作り話だと言う。
だが、「呪い」は実在した。
「赤い部屋」の手によって残酷な死に方をする犠牲者が、続々現れる。
凛花と莉子は、死の連鎖に歯止めをかけるため、「解決策」を見出そうとする。
そんな中、凛花のスマートフォンにも「あなたは好きですか?」という広告が表示されてしまう。
「赤い部屋」から逃れる方法はあるのか?
誰がこの「呪い」を生み出したのか?
そして彼らはなぜ、呪われたのか?
徐々に明かされる「赤い部屋」の真相。
その先にふたりが見たものは——。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
ナマズの器
螢宮よう
キャラ文芸
時は、多種多様な文化が溶け合いはじめた時代の赤い髪の少女の物語。
不遇な赤い髪の女の子が過去、神様、因縁に巻き込まれながらも前向きに頑張り大好きな人たちを守ろうと奔走する和風ファンタジー。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる