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 午後の授業を終えて、寮に戻った。
 部屋に入ってすぐに前を歩いていたユーリが振り返り、僕の顔を覗き込むように見てきたので驚いて後退りする。とん、と背に扉が当たり、逃げ場を失ってしまった。

「な、なに……?」
「イネス」

 突然の距離感に胸をドキドキしていると、ユーリの指が僕の顎を掬い上げ……唇が重なる。
 ちゅっとリップ音を立ててすぐに離れてくれたけれど、二回目のキスに息を飲んだ。

「なんで……また、僕にキスしたの?」
「したいと思っていたからだ。お前が初めて俺の部屋に入った日に、愛してると告げたのを覚えていないのか?」
「あ……」

 そうだった、確かに告白されていた。でも記憶を失くした直後だし、昔の想いに引きずられているだけじゃないかな。返事も聞かれなかったから、本気にせず忘れようとしたんだ。

「好きだから離れず傍にいて欲しいと、他の奴らと共にいるのを強制するのはやめろとも告げた。それなのに、イネスはすぐ俺から離れようとするな。今日だってわざと先に訓練所に行かせて、クラスの連中と交流でもさせたかったんだろ?」
「うぅっ。ごめん、なさい……」
「だから、身体で覚えさせることに決めた。俺がイネスをどれだけ愛しているのかを」
「えっ、んっ」

 言うや否や再びキスをされてしまう。何度も、何度も優しく唇を押し付けられて。

 ユーリの気持ち、本当はすごく嬉しい。でも、受け取れないよ。もう僕には資格がないから。キスなんてしないでほしい、早く離れて告白を断らなければ。

 ぐっとユーリの肩を押して拒絶する意思をみせた。息苦しいのだと勘違いされてしまい、穏やかな声で「鼻で息をするんだ」とアドバイスをもらうことになったけれど。

「違うよ、キスの仕方は覚えている。そうじゃなくて……ごめん、僕はユーリのことを……」
「いーちゃん、口を開けてくれ」
「……えっ。えっと、急にどうしたの?」
「いいから早く」

 途中で口を挟まれてしまった上に微笑を浮かべてユーリが急かしてくるので、不思議に思いながらも小さく口を開ける。
 なんだろう、またチョコレートでもくれるのかな。もう、今はお話し中なのに。変なタイミングで食べ物を渡してくるから、ちょっと困ってるんだよね。

 目を細めたユーリの顔が近づいて、ぬるりとした物が口の中に入ってきた。
 あ、これ、ユーリの舌だ。キスを断ろうとしたら、大人のキスになっちゃうなんて……。

 ゆっくりと舌を舐められ、少しずつ絡まされる。じゅるっとした水音が時折響き、恥ずかしくて目をぎゅっと閉じた。
 逃げようと舌を奥に引けば裏側を舐められ、顎下へと避難させようとすると上顎を擽られて背筋がゾクゾクしてしまう。そして逃げようとした罰だとばかりに、口付けは深くなりわざと卑猥な水音を響かせてくる。鼻で息をするけれど、酸素不足で頭がぼんやり──いや、とろとろに溶けてしまいそう?
 こんなの……普通のキスより気持ちが良くて、おかしくなっちゃうよ。

「んっ……ふぅ。やっ……ユーリ……」

 力が抜けて崩れそうになる体は、脚の間に差し込まれたユーリの右脚と、腰に回された左腕にしっかりと支えられている。
 僕が息をハフハフと整えている間、ちゅっと額にもキスが落とされ、口の端から垂れていた涎をぺろりと舐め取られた。

「今度は息継ぎがうまくできて偉いな。ああ、その顔すごく可愛いよ……」
「ぼ、僕……もう……立って、られな……」
「そうか。なら移動しよう」



 ユーリの肩にもたれながら瞬きをすると、既に寝室へ移動していた。ぼんやりする頭で自分がベッドに座るユーリの膝の上で向かい合うような体勢をしていることに気付くと、狼狽える。
 これはまずい! だって、これだと気付かれちゃうよ。早く膝から降りないといけないのに、ユーリの手がガッチリと僕の腰を掴んでいて逃げられない。

「いーちゃんの勃っているな。俺とのキスはそんなに気持ち良かったか?」
「い、言わないで……」

 うぅっ、すぐにバレてしまうなんて。素早く動いていれば誤魔化せたんだろうか……。
 真っ赤になった顔を隠そうと、ユーリの肩口に頭を乗せる。

「そんなに恥ずかしがらなくても良いだろ。俺も勃っているしな」
「ひゃっ」

 耳元で囁かれながら腰を押し付けられて、びくっと肩が跳ね上がる。お尻に当たるモノでユーリも僕とのキスで気持ち良くなれたんだと実感した。でもこの方法はえっちだから止めてほしいな……。

「わ、分かったから……離して……。キスも終わり!」
「また離れたがるなんて……ダメだろ、イネス。お前が理解するまでキスはやめない」
「わあっ!」

 どさりとベッドに押し倒されて、驚いている隙に唇が重なった。開けてくれと舌で舐められても、拒否するためにぎゅっと目と口をきつく閉じる。それなのに僕の両脚の間にいるユーリがぐいぐいと腰を押し付けるように動かしてきたので、つい声が漏れてしまった。
 舌が潜り込んできて、段々とキスは深くなる。わざとなのか無意識なのか。お尻のズボン越しに前後に擦り付けられるのが、とある行為を彷彿させられて、すごく恥ずかしい。

「やっ、やめぇ……んんっ。あっ……ダメ。これぇ」
「ふっ……はぁ。ダメじゃない。逃げるなイネス」
「やだぁ……んっ、ちゅっ……」

 本当にダメだってこんなの。気持ち良くてたまらない。やめて、ダメだよ。頭の中がふわふわでぐちゃぐちゃだ。
 じんわりと下着の一部分が濡れているのに気付き、堪えきれず涙がぽろぽろと零れた。

「……泣くほど嫌なのか? くそっ。ムカツクな……」

 眉間に皺を寄せて不機嫌そうに呟いたけれど、キスと腰の動きを止めて僕の涙を親指で優しく拭ってくれた。すんすんと鼻をすすりながら、僕は首を横に振る。

「嫌じゃないよ、でもダメ。だってこんなの……セックスになっちゃう」
「は?」
「こういうのは好き同士じゃないとダメだから、僕達がしちゃいけないんだ」
「俺はお前が好きだが、イネスはどう思ってるんだ?」
「ユーリが記憶を失っている間はダメ」

 ユーリは青と緑の二色の瞳を見開いた後、ふにゃっとした笑顔を浮かべた。ダメだって言ったのに嬉しそう。

「イネス……お前、それはもう……! あーもう、くそ可愛いな。どうしてくれよう」
「ん?」
「……取り敢えず、いーちゃんのことイかせてあげるか」
「へっ?」

 ユーリは口の端を上げると、手をパンツの中に潜り込ませて、直接僕のモノを握ってきた。
 えっ、なんで急にそうなったの?
 先端を撫で回されてじわりと濡れてくると、上下に擦られる。せっかく収まりつつあったのに、刺激を受けて緩やかに勃ち上がっていく。

「やめ……んっ、はぁ。ダメだってば。ユーリ……あっ、僕の話を…………んんっ」
「聞いてるさ。ただ、いーちゃんが真面目すぎて本音をすぐに隠してしまうから、快楽を与えて頭をバカにする方法が最善だと分かった。やはり身体で覚えさせるのが正解という訳だな」
「んっ、え……? なに。どういう、こと?」

 ダメだ。頭が働かない。ユーリは何て言ってるの?
 最初はゆっくりとした動きだったのに、だんだんと早く上下に往復され、息が上がっていく。

「俺の記憶が戻れば、セックスをしても良いんだよな?」
「はっ……ふぅ、ダメ……。好きじゃなきゃ……」
「戻ってもお前のことが好きなままだとしたら?」
「んんっ」

 そんなことあり得ない。戻ったらユーリは僕のことが嫌いになるからセックスは出来ない。なんでそんなこと聞くんだろう。ヤりたくて仕方がないの? もしかして溜まっているのかな。一週間ずっと一人の時間がなかったし、あり得るかも。気を利かせて部屋を出なきゃ……。
 快楽により蕩けた思考でぼんやりしていると、僕のモノをぎゅっと強く握られて悲鳴を上げた。

「ひぃっ!」
「余計なことは考えない」
「やっ、ユーリ……痛いから離してっ、うっ……」
「ほら答えろって。俺の記憶が戻ってもイネスのことを好きなら、セックスするんだよな?」
「うぅっ。す、好きなら……」
「俺とセックスを?」

 握る力はそのままなのに、かりかりと爪で先端を弄ってくると堪らなくなる。痛きもちいい……。
 焦れたように僕の名前を呼ぶユーリに、あぁ……早く答えなければ。
 好きなら、良いかもしれない。ないとは思うけれど、ユーリが僕のことを好きでいてくれるならセックスを──

「する…………」
「ははっ、じゃあ約束だ。指を出して。小さい頃に教えた儀式は覚えているか?」

 こくりと無言で頷いて、左の小指を震えながら差し出す。
 あぁもう、先っぽをかりかりなでなでしないで。気持ち良い。このままじゃ出ちゃうから。でも握られてて無理だ……。早く出したい。出して楽になりたいよ。

「はうっ。ゆーりぃ…………イきたいよぉ……」
「ちゃんと約束できたらイかせてあげるからな。さあ俺の後に続けて」

 約束の儀式をするために、小指が絡む。早く楽になりたくて、深く考えもせずにユーリの言葉を真似して続ける。

『僕、イネスはユリウスの記憶が戻っても両想い同士だったら、セックスをします』

 うぅ、なんて酷い内容。儀式の最中、ユーリの片手はずっと僕のモノを弄んでいて、その所為で息も絶え絶えで。ちょっとだけ喘いでしまったけれど……ちゃんと最後まで言えた。

 結婚の約束をした時みたいに、絡めた小指と心がほんのりと熱を帯びている。こんな状況じゃなきゃ、懐かしさを噛みしめれたのに。
 もう! こんなえっちな約束させてユーリのバカバカえっち!



「いい子だイネス」

 満足そうに笑みを浮かべながら、ユーリは僕のモノを握る力を緩めて、先端を責めてくる。くちゅくちゅと上下に扱く手が早くなり、腰ががくがくと震えだす。

「イけ」

 そうユーリが囁いた後に耳にキスをされたのがトドメになったのか、快楽の波に呑まれる。絶頂の感覚が全身を駆け抜けて、頭が真っ白になり──そして僕は意識を失った。
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