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ハジメ視点
ケーキが食べたかった
しおりを挟む「結局、こうなっちゃったんだけどね」
寝起きで鈍く痛む頭を柔くさすりながら、カーテンの些細な隙間から差すまだ青い朝日を見つめる。外では小鳥の鳴く声が微かに響いてるようで、まだ時刻が早朝であることを告げていた。
ぬくぬくとしたベッドの中とは対照的に、陽光が転がるフローリングの上は寒そうで、出そうと思っていた爪先を布団の中に避難させる。溜め込んでいた有給を消化するように事務の人から言われていて、その通り数日休みを貰っていた俺は今日もゆっくりできる。
「また、一緒にケーキ食べたかったな」
ポロリとシーツの上に寂しい音が落ちた。
アイツが帰ってきただなんて嬉しいはずなのに悲しくなってしまう夢を見たからか、気分は朝からブルーだ。
夢のせいだとは思うが、昨日はあんなに薄いと感じたアイツの香りが鼻につく。
きっと、アイツは記念日のことなんか覚えてないだろう。男の癖にそんなものにすがりついてしまう俺が悪いのかもしれない。けれど、夢の中のアイツと同じ様になんとなくアイツは忘れている気がした。
一息だけ大きく息を吐いて、体育座りのような姿勢になる。
頭の中には、俺の大好きなアイツがずっと居座っていた。
アイツがキッチンで出来立てのクッキーを差し出す手、うたた寝しているアイツのソファに広がった髪色。
俺は口を開けて今か今かと待ち構え、俺はその暖かそうな隙間に潜り込む。
アイツが濡れたシーツを干す横顔、おやすみを告げるときに少し上がる口角。
俺はその隣で布団カバーを広げ、俺はその少し冷たい体に控えめながらも抱きつく。
それだけじゃない。
アイツとの選べないほど大切な思い出は沢山あって、それらが全部走馬灯のように走っては消えていく。
「フロランタン、焼いてこ」
ぐっと伸びをして、俺は床に足をつける決心をした。
甘いフロランタンを焼こう。想いを詰め込んだフロランタンを。
きっと、それを口にするときアイツは笑ってくれるはずなんだ。
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