林檎を並べても、

ロウバイ

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主治医

祈り

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初めて彼からその話をされたのは、二年ほど前だった。

「…と言う訳なんですが、驚かせましたかね…?」
「…っいえ!そんなことも、よくあることですよ。」

気軽に投げた質問だった。今お付き合いされているパートナーはいらっしゃるのか。命に関わる病に侵されている患者さんにはよく聞く質問で、いつものように習慣的に口にしていた。
家庭環境が複雑で、両親とは離別して暮らしているという彼。
ギシリと彼の座る回転椅子が音をたてる。平日のお昼下がりはいい天気で、外からは病院の前に位置する公園で遊ぶ子供の元気な声がぼんやりと聞こえていた。

例え、男性同士だとしても。何もおかしなところはない。

「その方にはお伝えしましたか…?」

でも本当のことを言ってしまえば、驚いたのは事実だった。
パートナーの有無に驚いたわけでも、パートナーの方が男性だったことに驚いたわけでもない。彼がこの病に対して、治す治療ではなく苦しまずに終える治療を選んでいたからだった。
大体の患者さんは、もちろんそうでない方もいるとはいえ延命治療を希望される方が多い。
なのに、目の前の彼はその選択肢を拒んでいた。

「いや…それが言い出しにくくて…。」
「そうですか…。」

くしゃりと苦笑いしながら頬を掻く彼の姿が、ひどく儚く見えた。
 
 いわゆる緩和ケアと言われるものを選んだ彼には、残されている時間があまりにも少なかった。若さゆえ進行が早く、すでに病原を発見したときも手遅れスレスレ。医者という立場上、彼には少しでも長く生きる道を選んでほしかったのが本心だ。でも、彼は断固として意見を変える様子を見せない。それならば、私は彼を最期までサポートするのみだ。

「いつか、伝えられるといいですね。」

考え抜いてかけれた言葉は、これぐらいしかなかった。きっと、これが正解と決まった言葉はないんだろうけど、不正解に限りなく近いのは分かる。心のなかで反省していると、彼はふわりと穏やかな顔で笑ってくれたのだ。

それから少しして、彼の通う病院に彼の恋人が運び込まれた。
なんでも、交通事故に遭ったのだと。奇遇にも、入院中の診察は私が担当することになった。幸い大きな怪我はなかったが、頭の打ちどころが悪く記憶に障害が残ってしまう可能性が大きい。まるで、どこかにある後味の悪い少女漫画かなにかのテンプレのようだと思う。

そんな話をすると、ボロボロと涙を流しながら昏睡状態の恋人に寄り添う彼は、どこかほっとしたような顔をしていた。
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