林檎を並べても、

ロウバイ

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それから少しして

本当は

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俺たちが案内されたのは大きな窓の横にある二人がけの席だ
った。窓からは林檎の木だという可愛らしい白い花をつけた木が見えたが、俺の気分は沈んでいく一方だった。
まるで、林檎にでも取り憑かれているのだろうか。自然と脳内に浮かんできた平凡な真っ赤な果実が、まるで送り込まれた不幸の象徴のようで、綺麗だと笑うソウの言葉に頷くことができなかった。
席に着き、俺は抹茶のカップケーキを頼んだが、ソウは林檎タルトを頼んでいた。なんだか、嫌な予感がしたのを覚えている。

「そう?なんか、疲れて見えるけど…ちゃんと寝てるよね?」
「もちろん!当たり前だろ」

疲れて見えるほど、病は進行しているのだろうか。

俺には詳しくわからないが、ソウは俺の言葉に相変わらず疑い深そうな視線を寄越したが、笑って誤魔化してしまった。
しばらくじーっと俺を見つめるが、笑い続ける俺に見切りをつけたのかソウは「ならいいけど」と話を切り替える。
その反応にホッとしたのが本心だったが、心のどこかでふつりと湧いた寂しさも確かに俺は感じていた。
記憶を失う前のソウだったら。
もっと心配してくれたのかな、なんて酷いことを考えてしまう。

「そういえば、トキにはまだ言ってなかったよね…」
「? なんのことだ?」
「実は…彼女が出来たんだ!」

視界が、大きく揺れる。チリッと頭のどこかが焦げたような音がした。

「………」
「結婚も考えててね…」

そう照れ臭そうに笑うソウに、色々なぐちゃぐちゃとした感情が膨れ上がっていく。嫉妬、憎しみ、嫌悪。そういう醜いものを煮詰めたような、めっちゃくちゃで、ドロドロとした汚い感情が、抑えられない。

「同じ高校の教師なんだけど、ずっと入院中もお見舞いに来てくれてた子で…トキも会ったことあるかな?」

その人なら、多分知っている。
俺がソウの病院に行くと、何度か病室の前でお見舞いの品だというリンゴのパックを手にしながら佇んでいた控えめそうな女性だ。あまり回数は多くなかったけど顔見知り程度にはなっていて、言葉を交わすことも少なくなかった。

「ある…かもな」
「そうなんだ!なんか彼女もリンゴが好きらしくてね、運命なのかなって笑ったりしたんだけど…あ、これ画像ね!」
「っ……」

『僕、リンゴとか硬めの果実嫌いなんだよね…トキもなの?そっか、なんか嬉しいね!』

違う、その人じゃない。ソウが愛してたのは、ソウの隣で誰よりもお前を幸せにしたいと思ってたのは、ソウをこの世界で一番愛していたのは、

『本当は俺、ソウの恋人だったんだ』

そう言って、なにか変わるんだろうか。

開いた口は、何も紡がないままはくりと無駄な息をこぼす。腹の奥から湧き上がっていた、身勝手な憎しみはシュルシュルと治っていく。
ソウの幸せそうな笑顔と、愛おしいそうに写真を見つめる目を見てしまえば、言いたかったはずの言葉は喉の奥に引っ込んでしまった。
無理に飲み込んだから、喉の奥が痛い。目頭がジリジリ熱くて、鼻がツンとした。
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