貞操を守りぬけ!

四葉 翠花

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80.会えない日々1

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 気がつくと晴人は、パソコンの前に突っ伏していた。
 夢うつつのまま顔を上げる。
 長い、とても長い夢を見ていたような気がする。ぼんやりとしながら、自分はいったい何をしていたのだろうと記憶を探っていく。
 今日は就職活動から帰ってきて、気晴らしにゲームをしようとして……と考えたところで、はっとした。

 そうだ、晴人は今までゲーム世界の中に引き込まれていたのだ。
 セイやインプ、聖娼たちなどの姿がよみがえってくる。
 時計を見ると、帰宅からたいした時間は経っていないようだった。外も明るい。
 まさか今までの出来事は夢だったのだろうか。セイとのことも、晴人が作り出した妄想だったとでもいうのだろうか。

 呆然としながらパソコンの画面に目を向ければ、『True End』の文字が浮かんでいて、消えた。



 晴人はそれから異世界に渡るきっかけとなったゲームを探したが、結局見つけることはできなかった。どれもごく普通のいやらしいゲームの体験版ばかりだ。
 インターネットで記憶を頼りに検索もしてみたが、やはり見つけられない。
 もっと広範囲にと男同士、エロ、ゲームなどの単語を並べてみたところ、とんでもない結果にぞっとして晴人はあわててブラウザを閉じた。
 晴人のいる世界は、ある意味では異世界よりも魔境だったらしい。

 日常に戻り、就職活動の日々が再開したのだが、それまでのお祈りメールはいったい何だったのだろうというほど、とんとん拍子に進んでいった。
 ある会社では、きみの凛とした態度とまっすぐな目に惚れた、ぜひ我が社に来てほしいとまで言われ、これは口説かれているのだろうかと首を傾げた。
 晴人の尻に触れるわけでもなく、身体をじろじろ眺めてもいなかったので、性的な意味ではないだろうが。
 いくつかの内定をもらい、その中から晴人はあるIT会社を選んだ。卒論もめどが立っているので、春からは社会人になれるだろう。

 月日を重ねていく中で、晴人はあの世界の夢を何度も見た。
 あるときはインプが笑って手を振り、光の中に消えていった。きっと、あの無機質な声が晴人の願いを聞き届けてくれたのだと思った。

「またどこかで会ったら、よろしくねー」

 最後にインプはこう言っていたようだ。
 おそらく、本来は明るい性格だったのだろう。今度こそ、屈託なく笑っていられる人生を送ってほしい。

 あるときは都の出来事が映し出された。
 少年は無事に装置を破壊することに成功したらしい。都の淀みは消え去り、人々にも正気が戻ってきた。
 都の人々の後押しもあり、少年は簒奪者である叔父から領主の座を奪い返したようだ。
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