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79.願い3
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淡々とした答えに、晴人は鈍器で頭を殴られたような衝撃を覚える。
セイが帰ってしまった。晴人を置いて、帰ってしまったのだ。
まだ晴人からはセイに対する想いを口にしていないのに、伝えることができなくなってしまった。
「そんな……」
呆然と呟きながら、晴人は俯いて拳を握り締める。
奈落の底に落とされたような孤独を覚えながら、胸には次々と後悔が広がっていく。
勢いに流されて結ばれてしまったようなものではあったが、その場限りの戯れとして捉えていたわけではない。
それまで晴人の中にくすぶりつつ、まともに目を向けようとはしなかった想いがあるのだ。
その想いに目を向け、自覚できたというのに、もうセイはいない。何故、もっと早くに伝えなかったのだろう。
晴人の頬に一筋の涙が伝う。
「これから、あなたを元の世界に帰します。その前にあなたの願いを叶えましょう」
晴人に対する配慮など一切感じられない声だったが、その内容に晴人ははっとする。願いを叶えてもらえるというのだ。
願いなど、決まっている。晴人は涙をぬぐい、顔をあげた。
「……セイにもう一度会いたい」
心からの願いだった。これ以上の願いなど、晴人には考えられない。
きっぱりと宣言すれば、白い世界がやわらかく揺らいだようだった。
「わかりました。その願い、叶えましょう。さらに真なる解放を成し遂げたあなたは、もうひとつ願いを言う権利があります」
一番の願いはすでに吐き出した。
次に何かを考えたとき、晴人の腕の中で消えていった愛らしい姿が思い浮かんだ。
「インプが安らかに眠れるように。もし生まれ変わることができるのなら、今度こそ幸せになってもらいたい」
「それでよいのですか? あなたが元の世界で苦労していた就職活動というものを成功させることも、大金を得ることもできますよ」
何の感情もないまま、声は問いかけてくる。しかし、晴人は首を横に振った。
就職活動は自分の力でどうにかしてみせる。奇跡に頼る必要などない。
大金は少し魅力的だったが、この先絶対に不可能というわけではないだろう。どちらも自分で目標を見据えて行動できることだ。
「インプのほうをお願いします。そっちは、俺の力じゃどうにもならないから……」
この先、この世界がどうなるのか晴人にはわからない。
しかし、晴人が救えなかったインプを幸せにする手段があるというのなら、すがりたかった。
「わかりました。その願いも叶えましょう。……では、元の世界への扉を開きましょう。お疲れ様でした」
あくまでも淡々とした声が響き、晴人は再び意識が薄れていった。
セイが帰ってしまった。晴人を置いて、帰ってしまったのだ。
まだ晴人からはセイに対する想いを口にしていないのに、伝えることができなくなってしまった。
「そんな……」
呆然と呟きながら、晴人は俯いて拳を握り締める。
奈落の底に落とされたような孤独を覚えながら、胸には次々と後悔が広がっていく。
勢いに流されて結ばれてしまったようなものではあったが、その場限りの戯れとして捉えていたわけではない。
それまで晴人の中にくすぶりつつ、まともに目を向けようとはしなかった想いがあるのだ。
その想いに目を向け、自覚できたというのに、もうセイはいない。何故、もっと早くに伝えなかったのだろう。
晴人の頬に一筋の涙が伝う。
「これから、あなたを元の世界に帰します。その前にあなたの願いを叶えましょう」
晴人に対する配慮など一切感じられない声だったが、その内容に晴人ははっとする。願いを叶えてもらえるというのだ。
願いなど、決まっている。晴人は涙をぬぐい、顔をあげた。
「……セイにもう一度会いたい」
心からの願いだった。これ以上の願いなど、晴人には考えられない。
きっぱりと宣言すれば、白い世界がやわらかく揺らいだようだった。
「わかりました。その願い、叶えましょう。さらに真なる解放を成し遂げたあなたは、もうひとつ願いを言う権利があります」
一番の願いはすでに吐き出した。
次に何かを考えたとき、晴人の腕の中で消えていった愛らしい姿が思い浮かんだ。
「インプが安らかに眠れるように。もし生まれ変わることができるのなら、今度こそ幸せになってもらいたい」
「それでよいのですか? あなたが元の世界で苦労していた就職活動というものを成功させることも、大金を得ることもできますよ」
何の感情もないまま、声は問いかけてくる。しかし、晴人は首を横に振った。
就職活動は自分の力でどうにかしてみせる。奇跡に頼る必要などない。
大金は少し魅力的だったが、この先絶対に不可能というわけではないだろう。どちらも自分で目標を見据えて行動できることだ。
「インプのほうをお願いします。そっちは、俺の力じゃどうにもならないから……」
この先、この世界がどうなるのか晴人にはわからない。
しかし、晴人が救えなかったインプを幸せにする手段があるというのなら、すがりたかった。
「わかりました。その願いも叶えましょう。……では、元の世界への扉を開きましょう。お疲れ様でした」
あくまでも淡々とした声が響き、晴人は再び意識が薄れていった。
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