57 / 90
57.提案1
しおりを挟む
「ん……」
ぼんやりと晴人が目を覚ますと、ほのかな光を放つ岩壁に囲まれていた。
通路のようだが、大人一人がどうにか通れそうな程度の広さしかない。
何故自分はここにいるのだろうと首をひねりながら、晴人は身を起こす。
「気がついた?」
大きな瞳が晴人を見つめていた。濃い茶色の瞳だ。
まだ覚醒しきらないまま晴人はその瞳を見つめ返し、濃い茶色というよりはむしろ、金色に黒を混ぜたらこうなるのだろうかと考える。
「まだ意識がはっきりしないのかな」
目の前で首を傾げる姿を眺めながら、晴人の意識がようやく浮上してきた。
愛らしい美少女にしか見えないインプが目の前にいる。
「俺は……いったい……」
何故、インプが晴人の側にいるのだろう。そもそも、ここはいったどこなのだろう。晴人は自分の置かれている状況がつかめなかった。
「すごかったね、あんたの魔法。あれだけ大勢の人間を一気になぎたおしちゃうんだもん」
「なぎたおした……?」
ようやく晴人の意識がはっきりと覚醒し、先ほどまでの出来事が思い出された。
わきあがってくる怒りにまかせ、力を解き放ったのだ。最後に覚えているのは、次々と倒れていく人々の姿である。
背筋に冷たいものが走り、晴人は我が身を両腕でかき抱く。
「まさか……俺が殺した……?」
「えー、別にいいじゃん。あんな連中」
呆然と晴人が呟けば、インプはケラケラと笑った。
「俺は悪くない、悪いのは魔素、だから俺のためにおまえが身を投げ出すのは当然なんていう連中だよ。知ってる? 魔素ってね、清廉潔白な生活をしている人にはたまりにくいんだよ。魔素の濃い場所に行って影響を受けたっていうのでもなきゃ、たいていはろくでもない奴さ。そんな奴ら、死んで当然だよね」
小躍りするような調子でインプが言葉を紡ぐ。しかし、晴人の気が晴れることはなかった。
「でも……俺が殺すなんて……」
身を震わせながら、晴人はふるふると力なく首を振る。晴人の様子を見て、小ばかにしたような笑みを浮かべたインプはさらに口を開こうとした。
「いいかげんにしなよ。きみは殺しちゃいないよ。一時的に麻痺させただけで、連中もしばらくすれば動けるようになるよ」
しかしセイの声がインプをさえぎった。
殺していないという言葉に、晴人は全身の力が抜けていくような安堵を覚える。
いくら嫌な連中とはいっても、殺してしまうのは気がとがめたのだ。自分が殺人者にならなかったことは、大きな救いだった。
「あー、つまんなーい。教えちゃうんだー」
インプはすねたように唇を尖らせる。
「……きみ、僕の言っていることがわかるのか。魔物にしては理性が働きすぎていると思っていたけれど、きみは何者だ?」
「えー、オレはしがない魔物ですよ。インプっていう、弱っちい魔物。そんなに怖い顔しないでよ」
わずかに眉根を寄せてセイが問いかければ、インプはおどけたように答える。
セイの姿はよほど力の強い者でなければ見えず、声も聞こえないという。
シオンもセイの姿を見ることはできたが、はっきりとは見えないようだった。さらに意思の疎通こそできたものの、声そのものは聞こえないという話でもあった。
ところが、インプはセイの姿をはっきりと見ることができて、声も聞き取れているようである。
魔物ならばそういうことも可能なのだろうか。
晴人は今までに見た魔物たちのことを思い起こすが、セイの姿が見えるかどうか以前に、そもそも会話すら不可能だった。
いきなり襲い掛かってこられた記憶しかない。
襲い掛かってくることなく、会話も可能な魔物はインプだけだった。
やはり、このインプが何か特別なのだろう。
ぼんやりと晴人が目を覚ますと、ほのかな光を放つ岩壁に囲まれていた。
通路のようだが、大人一人がどうにか通れそうな程度の広さしかない。
何故自分はここにいるのだろうと首をひねりながら、晴人は身を起こす。
「気がついた?」
大きな瞳が晴人を見つめていた。濃い茶色の瞳だ。
まだ覚醒しきらないまま晴人はその瞳を見つめ返し、濃い茶色というよりはむしろ、金色に黒を混ぜたらこうなるのだろうかと考える。
「まだ意識がはっきりしないのかな」
目の前で首を傾げる姿を眺めながら、晴人の意識がようやく浮上してきた。
愛らしい美少女にしか見えないインプが目の前にいる。
「俺は……いったい……」
何故、インプが晴人の側にいるのだろう。そもそも、ここはいったどこなのだろう。晴人は自分の置かれている状況がつかめなかった。
「すごかったね、あんたの魔法。あれだけ大勢の人間を一気になぎたおしちゃうんだもん」
「なぎたおした……?」
ようやく晴人の意識がはっきりと覚醒し、先ほどまでの出来事が思い出された。
わきあがってくる怒りにまかせ、力を解き放ったのだ。最後に覚えているのは、次々と倒れていく人々の姿である。
背筋に冷たいものが走り、晴人は我が身を両腕でかき抱く。
「まさか……俺が殺した……?」
「えー、別にいいじゃん。あんな連中」
呆然と晴人が呟けば、インプはケラケラと笑った。
「俺は悪くない、悪いのは魔素、だから俺のためにおまえが身を投げ出すのは当然なんていう連中だよ。知ってる? 魔素ってね、清廉潔白な生活をしている人にはたまりにくいんだよ。魔素の濃い場所に行って影響を受けたっていうのでもなきゃ、たいていはろくでもない奴さ。そんな奴ら、死んで当然だよね」
小躍りするような調子でインプが言葉を紡ぐ。しかし、晴人の気が晴れることはなかった。
「でも……俺が殺すなんて……」
身を震わせながら、晴人はふるふると力なく首を振る。晴人の様子を見て、小ばかにしたような笑みを浮かべたインプはさらに口を開こうとした。
「いいかげんにしなよ。きみは殺しちゃいないよ。一時的に麻痺させただけで、連中もしばらくすれば動けるようになるよ」
しかしセイの声がインプをさえぎった。
殺していないという言葉に、晴人は全身の力が抜けていくような安堵を覚える。
いくら嫌な連中とはいっても、殺してしまうのは気がとがめたのだ。自分が殺人者にならなかったことは、大きな救いだった。
「あー、つまんなーい。教えちゃうんだー」
インプはすねたように唇を尖らせる。
「……きみ、僕の言っていることがわかるのか。魔物にしては理性が働きすぎていると思っていたけれど、きみは何者だ?」
「えー、オレはしがない魔物ですよ。インプっていう、弱っちい魔物。そんなに怖い顔しないでよ」
わずかに眉根を寄せてセイが問いかければ、インプはおどけたように答える。
セイの姿はよほど力の強い者でなければ見えず、声も聞こえないという。
シオンもセイの姿を見ることはできたが、はっきりとは見えないようだった。さらに意思の疎通こそできたものの、声そのものは聞こえないという話でもあった。
ところが、インプはセイの姿をはっきりと見ることができて、声も聞き取れているようである。
魔物ならばそういうことも可能なのだろうか。
晴人は今までに見た魔物たちのことを思い起こすが、セイの姿が見えるかどうか以前に、そもそも会話すら不可能だった。
いきなり襲い掛かってこられた記憶しかない。
襲い掛かってくることなく、会話も可能な魔物はインプだけだった。
やはり、このインプが何か特別なのだろう。
0
お気に入りに追加
46
あなたにおすすめの小説
運命の番が解体業者のおっさんだった僕の話
いんげん
BL
僕の運命の番は一見もっさりしたガテンのおっさんだった。嘘でしょ!?……でも好きになっちゃったから仕方ない。僕がおっさんを幸せにする! 実はスパダリだったけど…。
おっさんα✕お馬鹿主人公Ω
おふざけラブコメBL小説です。
話が進むほどふざけてます。
ゆりりこ様の番外編漫画が公開されていますので、ぜひご覧ください♡
ムーンライトノベルさんでも公開してます。
嫌われ者の悪役令息に転生したのに、なぜか周りが放っておいてくれない
AteRa
ファンタジー
エロゲの太ったかませ役に転生した。
かませ役――クラウスには処刑される未来が待っている。
俺は死にたくないので、痩せて死亡フラグを回避する。
*書籍化に際してタイトルを変更いたしました!
【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい
白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。
村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。
攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。
魔界最強に転生した社畜は、イケメン王子に奪い合われることになりました
タタミ
BL
ブラック企業に務める社畜・佐藤流嘉。
クリスマスも残業確定の非リア人生は、トラックの激突により突然終了する。
死後目覚めると、目の前で見目麗しい天使が微笑んでいた。
「ここは天国ではなく魔界です」
天使に会えたと喜んだのもつかの間、そこは天国などではなく魔法が当たり前にある世界・魔界だと知らされる。そして流嘉は、魔界に君臨する最強の支配者『至上様』に転生していたのだった。
「至上様、私に接吻を」
「あっ。ああ、接吻か……って、接吻!?なんだそれ、まさかキスですか!?」
何が起こっているのかわからないうちに、流嘉の前に現れたのは美しい4人の王子。この4王子にキスをして、結婚相手を選ばなければならないと言われて──!?
異世界に転移したショタは森でスローライフ中
ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。
ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。
仲良しの二人のほのぼのストーリーです。
大好きなBLゲームの世界に転生したので、最推しの隣に居座り続けます。 〜名も無き君への献身〜
7ズ
BL
異世界BLゲーム『救済のマリアージュ』。通称:Qマリには、普通のBLゲームには無い闇堕ちルートと言うものが存在していた。
攻略対象の為に手を汚す事さえ厭わない主人公闇堕ちルートは、闇の腐女子の心を掴み、大ヒットした。
そして、そのゲームにハートを打ち抜かれた光の腐女子の中にも闇堕ちルートに最推しを持つ者が居た。
しかし、大規模なファンコミュニティであっても彼女の推しについて好意的に話す者は居ない。
彼女の推しは、攻略対象の養父。ろくでなしで飲んだくれ。表ルートでは事故で命を落とし、闇堕ちルートで主人公によって殺されてしまう。
どのルートでも死の運命が確約されている名も無きキャラクターへ異常な執着と愛情をたった一人で注いでいる孤独な彼女。
ある日、眠りから目覚めたら、彼女はQマリの世界へ幼い少年の姿で転生してしまった。
異常な執着と愛情を現実へと持ち出した彼女は、最推しである養父の設定に秘められた真実を知る事となった。
果たして彼女は、死の運命から彼を救い出す事が出来るのか──?
ーーーーーーーーーーーー
狂気的なまでに一途な男(in腐女子)×名無しの訳あり飲兵衛
魔憑きの神子に最強聖騎士の純愛を
瀬々らぎ凛
BL
- - -あらすじ- - -
エルドラード王国の神子ユアン・ルシェルツは、大いにワケアリの自他ともに認める役立たず神子だ。魔力が枯渇して治癒魔法は使えないし、コミュ力が壊滅的ゆえ人間関係には難しかない。神子の仕事を全うして周囲に認められたくても、肝心の魔力はなんと魔物との契約により《他人から愛されないと溜まらない》という条件付きだ。完全に詰んでいる。今日も絶賛、嫌われ、疎まれ、悪口を言われ、友だちもなく孤独な中ひとり、それでも彼なりに足掻いていた。
さて、ここに王国最強の聖騎士が現れたらどうなるだろう? その名はヴィクト・シュトラーゼ。聖騎士というのは魔物を倒すことのできる聖属性魔法を扱う騎士のことで、この男、魔物殲滅を優先するあまり仲間に迷惑をかけ、謹慎処分としてユアンの近衛騎士をするよう命じられたのだった。
ヴィクトが一日でも早く隊に復帰するには、ユアンがきっちり仕事をこなすようにならなくてはならない。だからヴィクトはユアンに協力を申し出た。そしてユアンはヴィクトに人付き合いというものを教えてもらいながら、魔力を溜めるために奔走を始める。
やがて二人は互いに惹かれ合った。ユアンはヴィクトの頼もしさや誠実さに、ヴィクトはユアンの素直さやひた向きさに。だけれどもユアンは気付いてしまった。この体の中には魔物が棲んでいる。ヴィクトは魔物を心の底から憎み、一匹残らず殲滅したいと願って生きている。
――あぁ、僕が初めて好きになった人は、僕を殺す運命にある人だった。
------------
攻め ヴィクト・シュトラーゼ (23)
【魔物殲滅に命を懸ける王国最強花形聖騎士 / チャラく見えて一途 / 男前美形 】
×
受け ユアン・ルシェルツ (19)
【自身に憑いた魔物の力を借りて治癒魔法を施す神子 / かわいい系美少年 / とにかく健気 】
◆愛に始まり愛に終わる、ドラマチックな純ファンタジーラブストーリーです!
◆ありがたいことに 2022年角川ルビー小説大賞、B評価(最終選考)をいただきました。
どうか皆さま、ユアンとヴィクトの二人を、愛してやってください。
よろしくお願いいたします。
ゲーム世界の悪役令息に転生した俺は、腹黒策士な義弟に溺愛される
魚谷
BL
【光と闇のファンタジア】というゲームの悪役令息オルティスに転生した会社員の主人公。
このままいけば破滅は確定。
破滅の運命から逃れるため、主人公でもあり、義理の弟でもあるアルバートとの友好度をあげまくる!
そして晴れて大人になり、無事に断罪回避に成功――かと思いきや……事態は予想外の方向へ。
※他のサイトにも投稿しております
※R18シーンがある場合には『※』をつけさせていただきます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる