55 / 90
55.逃走2
しおりを挟む
「身勝手な考えを押し付けるなよ! 俺がどうして身を投げ出さないといけないんだよ! 自分たちで努力しようとは思わないのか!」
あまりに他力本願な考え方に吐き気がした。すべて晴人に押し付けようなど、冗談ではない。
「魔素が悪いのです。私たちにはどうすることもできません。どうしろというのですか。父だとて、魔素のせいで危ないところだったのです。父を救ってくださったように、早くここでもお力をお見せください」
「あんたの父さん、魔物化なんてしていなかったよ!」
「……どういうことですか」
ルイスが動揺した一瞬の隙をついて、晴人はルイスを振り払って走り出した。
「助けてくれ!」
「逃げるなんて、それでも神子か!」
「ニセモノだ! 捕まえろ!」
後ろから男たちの叫びが浴びせられるが、晴人は振り返ることもなく、ひたすら走った。
男たちは全裸姿で追うことにはためらいがあったのか、すぐに追いかけてくる様子も感じられず、晴人はひたすら遠くを目指す。
都の中を駆けていくが、晴人には土地勘がない。気がつけば城のすぐ近くまで戻ってきてしまっていた。
こうなったら、領主に助けを請うしかない。
しかし城に繋がる跳ね橋は上がったままで、道がふさがれている。
「助けて!」
晴人は城に向かって叫ぶ。後ろを振り返れば、まだ追っ手の姿は見えないが、安心はできない。
誰か出てきてくれと祈りながら、晴人は城を見つめる。ほんのわずかな時間が長く感じられ、自らの吐き出す息すら小刻みなはずなのにゆっくりと聞こえる。
「おお、神子様。どうされましたかな」
祈りが通じたのか、城から領主が出てきた。
地下牢でのくたびれた姿ではなく、豪華な衣服に身を包んだ、堂々とした姿だった。
「ルイスさんが……! 俺、逃げて……!」
息を整えようとしながら、晴人は細切れの叫びをあげる。
ほとんど内容などわからないような叫びだったが、領主はゆったりと頷いた。
「それはそれは……大変でしたな。さて神子様、あなたには幾重にも礼を述べなくてはなりません」
「それよりも、橋を!」
悠長な領主に向け、晴人は懇願する。
跳ね橋は上がったままで、これでは城の中には入れない。
「それはできませんな。もう少し息子と遊んでやってください。できれば、息子には神子殺しの罪を背負ってもらいたいのですよ。せめて、暴行まではしてもらわないと」
「え……?」
言われたことが理解できず、晴人は呆然と立ち尽くす。
領主は今、いったい何と言ったのだろう。晴人の聞き間違いだろうか。
あまりに他力本願な考え方に吐き気がした。すべて晴人に押し付けようなど、冗談ではない。
「魔素が悪いのです。私たちにはどうすることもできません。どうしろというのですか。父だとて、魔素のせいで危ないところだったのです。父を救ってくださったように、早くここでもお力をお見せください」
「あんたの父さん、魔物化なんてしていなかったよ!」
「……どういうことですか」
ルイスが動揺した一瞬の隙をついて、晴人はルイスを振り払って走り出した。
「助けてくれ!」
「逃げるなんて、それでも神子か!」
「ニセモノだ! 捕まえろ!」
後ろから男たちの叫びが浴びせられるが、晴人は振り返ることもなく、ひたすら走った。
男たちは全裸姿で追うことにはためらいがあったのか、すぐに追いかけてくる様子も感じられず、晴人はひたすら遠くを目指す。
都の中を駆けていくが、晴人には土地勘がない。気がつけば城のすぐ近くまで戻ってきてしまっていた。
こうなったら、領主に助けを請うしかない。
しかし城に繋がる跳ね橋は上がったままで、道がふさがれている。
「助けて!」
晴人は城に向かって叫ぶ。後ろを振り返れば、まだ追っ手の姿は見えないが、安心はできない。
誰か出てきてくれと祈りながら、晴人は城を見つめる。ほんのわずかな時間が長く感じられ、自らの吐き出す息すら小刻みなはずなのにゆっくりと聞こえる。
「おお、神子様。どうされましたかな」
祈りが通じたのか、城から領主が出てきた。
地下牢でのくたびれた姿ではなく、豪華な衣服に身を包んだ、堂々とした姿だった。
「ルイスさんが……! 俺、逃げて……!」
息を整えようとしながら、晴人は細切れの叫びをあげる。
ほとんど内容などわからないような叫びだったが、領主はゆったりと頷いた。
「それはそれは……大変でしたな。さて神子様、あなたには幾重にも礼を述べなくてはなりません」
「それよりも、橋を!」
悠長な領主に向け、晴人は懇願する。
跳ね橋は上がったままで、これでは城の中には入れない。
「それはできませんな。もう少し息子と遊んでやってください。できれば、息子には神子殺しの罪を背負ってもらいたいのですよ。せめて、暴行まではしてもらわないと」
「え……?」
言われたことが理解できず、晴人は呆然と立ち尽くす。
領主は今、いったい何と言ったのだろう。晴人の聞き間違いだろうか。
0
お気に入りに追加
47
あなたにおすすめの小説
「今夜は、ずっと繋がっていたい」というから頷いた結果。
猫宮乾
BL
異世界転移(転生)したワタルが現地の魔術師ユーグと恋人になって、致しているお話です。9割性描写です。※自サイトからの転載です。サイトにこの二人が付き合うまでが置いてありますが、こちら単独でご覧頂けます。
宰相閣下の絢爛たる日常
猫宮乾
BL
クロックストーン王国の若き宰相フェルは、眉目秀麗で卓越した頭脳を持っている――と評判だったが、それは全て努力の結果だった! 完璧主義である僕は、魔術の腕も超一流。ということでそれなりに平穏だったはずが、王道勇者が召喚されたことで、大変な事態に……というファンタジーで、宰相総受け方向です。
異世界転移してΩになった俺(アラフォーリーマン)、庇護欲高めα騎士に身も心も溶かされる
ヨドミ
BL
もし生まれ変わったら、俺は思う存分甘やかされたい――。
アラフォーリーマン(社畜)である福沢裕介は、通勤途中、事故により異世界へ転移してしまう。
異世界ローリア王国皇太子の花嫁として召喚されたが、転移して早々、【災厄のΩ】と告げられ殺されそうになる。
【災厄のΩ】、それは複数のαを番にすることができるΩのことだった――。
αがハーレムを築くのが常識とされる異世界では、【災厄のΩ】は忌むべき存在。
負の烙印を押された裕介は、間一髪、銀髪のα騎士ジェイドに助けられ、彼の庇護のもと、騎士団施設で居候することに。
「αがΩを守るのは当然だ」とジェイドは裕介の世話を焼くようになって――。
庇護欲高め騎士(α)と甘やかされたいけどプライドが邪魔をして素直になれない中年リーマン(Ω)のすれ違いラブファンタジー。
※Rシーンには♡マークをつけます。
屈強な男が借金のカタに後宮に入れられたら
信号六
BL
後宮のどの美女にも美少年にも手を出さなかった美青年王アズと、その対策にダメ元で連れてこられた屈強男性妃イルドルの短いお話です。屈強男性受け!以前Twitterで載せた作品の短編小説版です。
(ムーンライトノベルズ、pixivにも載せています)
完結・虐げられオメガ側妃なので敵国に売られたら激甘ボイスのイケメン溺愛王が甘やかしてくれました
美咲アリス
BL
虐げられオメガ側妃のシャルルは敵国への貢ぎ物にされた。敵国のアルベルト王は『人間を食べる』という恐ろしい噂があるアルファだ。けれども実際に会ったアルベルト王はものすごいイケメン。しかも「今日からそなたは国宝だ」とシャルルに激甘ボイスで囁いてくる。「もしかして僕は国宝級の『食材』ということ?」シャルルは恐怖に怯えるが、もちろんそれは大きな勘違いで⋯⋯? 虐げられオメガと敵国のイケメン王、ふたりのキュン&ハッピーな異世界恋愛オメガバースです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる