貞操を守りぬけ!

四葉 翠花

文字の大きさ
上 下
44 / 90

44.都へ3

しおりを挟む
「よかった。どうかしたのかと思った」

「……まあ、ここはあまり居心地のいい場所じゃないけれどね」

「え? もしかして、魔素の影響でもあるの?」

「そうだね。思っていたよりもあまり状況はよくないようだ。でも、それ以上に何だか淀んでいるような……」

「淀んでいる? どういうことだろう。ああ……さっきのルイスさんなんかは丁寧で、いかにも好青年って感じだったけれど、使用人っぽい人は暗かったような気もするかな」

 言われてみれば、ルイス以外の人間たちはろくに口もきかず、表情も暗かったような気がする。廊下もどことなく冷たく沈んだ印象を受けたが、歩いているときは石造りの城だからこういうものだろうと気にしなかった。

「……気に入らないな」

「え?」

 ぼそり、とセイが呟いた言葉の意味がよくわからず、晴人は首を傾げる。
 セイはしばし晴人をじっと見ていたが、ややあって諦めたような吐息をもらした。

「ところできみ、このまま最終目的地まで行っても大丈夫だっていうようなこと、言っていたよね」

「うっ……」

 痛いところを突かれ、晴人は怯む。

「どう? 今でもそう思える?」

「……無理です」

「そうだね。黙っていてくれる人間相手ならともかく、襲ってくる魔物は無理があるね。この程度で最終目的地に行ってしまうと、魔物たちによる輪姦陵辱の宴が待っているよ」

「それはイヤだ……」

 晴人はぶるぶると身を震わせる。

「だったら、もっとしっかり力をつけたほうがいい。あと、きみが言っていた魔法っていうのは、案外いい方法かもしれない。どうもきみはいかにもっていう魔物を見ると、まず恐怖で身がすくむみたいだからね。離れた場所からどうにかする方法があれば、まだどうにかなるのかも」

「……確かに」

 大きな狼に似た魔物は、見た瞬間に恐怖で動けなくなってしまった。
 平和な日本で育った晴人にとっては、日常で感じる範囲の恐怖を大きく逸脱しており、身体が言うことをきかなくなってしまうのだ。

「魔法を身につける方法を考えたほうがいいのかな。今までの神子っていうのは、どうだったの?」

「先代は魔法使いの隠れ里で魔法を身につけている。その前は、魔物たちに犯されまくっているうちに覚えたようだね。それよりも前になると、僕にはよくわからない」

「そうなの? セイって、今までの神子たちをどれくらい知っているの?」

 何気なく尋ねただけだったが、セイの表情が一瞬、固まった。

「……先代と、その前だけだよ」

「じゃあ、何回か一緒に旅をしているの?」

 セイの様子がどうもおかしいようだったが、何か変なことを聞いてしまったのだろうか。不思議に思いながらも、晴人は続いて質問を投げかける。

「僕が旅をしたのは、前回と今回だけだよ」

「その前にも神子って代々いたんだよね。もしかして、セイってわりと新米?」

 何度繰り返してきたのかはわからないが、神子の召還はずいぶんと昔から続いているような話だった。
 しかし、思えばセイが詳しく話すのは前回のことと、せいぜいその前くらいだ。

「そうだね。精霊としては古くはないだろうね。でも、みんなこんなものだよ」

「神子が二代くらいの期間で入れ替わるの?」

「まあ、そんなところ。それよりも、きみが気持ちよくヤられて強くなるための方法を話し合おうじゃないか」

「どうしてそうなるわけ!?」

 晴人が悲鳴のような叫びをあげて、絶対に貞操は守ると言い張るのをセイは鼻で笑いながら聞いていた。
 その態度が腹立たしく、さらに言い募ればセイははいはいと子供をなだめるようにあしらう。
 すっかり元の話を忘れて怒り続ける晴人を眺めながら、セイの口元にはほっとしたような安堵の笑みが浮かんでいた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

ちっちゃくなった俺の異世界攻略

鮨海
ファンタジー
あるとき神の采配により異世界へ行くことを決意した高校生の大輝は……ちっちゃくなってしまっていた! 精霊と神様からの贈り物、そして大輝の力が試される異世界の大冒険?が幕を開ける!

エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!

たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった! せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。 失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。 「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」 アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。 でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。 ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!? 完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ! ※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※ pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。 https://www.pixiv.net/artworks/105819552

キャンピングカーで往く異世界徒然紀行

タジリユウ
ファンタジー
《第4回次世代ファンタジーカップ 面白スキル賞》 【書籍化!】 コツコツとお金を貯めて念願のキャンピングカーを手に入れた主人公。 早速キャンピングカーで初めてのキャンプをしたのだが、次の日目が覚めるとそこは異世界であった。 そしていつの間にかキャンピングカーにはナビゲーション機能、自動修復機能、燃料補給機能など様々な機能を拡張できるようになっていた。 道中で出会ったもふもふの魔物やちょっと残念なエルフを仲間に加えて、キャンピングカーで異世界をのんびりと旅したいのだが… ※旧題)チートなキャンピングカーで旅する異世界徒然紀行〜もふもふと愉快な仲間を添えて〜 ※カクヨム様でも投稿をしております

異世界に転移したショタは森でスローライフ中

ミクリ21
BL
異世界に転移した小学生のヤマト。 ヤマトに一目惚れした森の主のハーメルンは、ヤマトを溺愛して求愛しての毎日です。 仲良しの二人のほのぼのストーリーです。

チート魔王はつまらない。

碧月 晶
BL
お人好し真面目勇者×やる気皆無のチート魔王 ─────────── ~あらすじ~ 優秀過ぎて毎日をつまらなく生きてきた雨(アメ)は卒業を目前に控えた高校三年の冬、突然異世界に召喚された。 その世界は勇者、魔王、魔法、魔族に魔物やモンスターが普通に存在する異世界ファンタジーRPGっぽい要素が盛り沢山な世界だった。 そんな世界にやって来たアメは、実は自分は数十年前勇者に敗れた先代魔王の息子だと聞かされる。 しかし取りあえず魔王になってみたものの、アメのつまらない日常は変わらなかった。 そんな日々を送っていたある日、やって来た勇者がアメに言った言葉とは──? ─────────── 何だかんだで様々な事件(クエスト)をチートな魔王の力で(ちょいちょい腹黒もはさみながら)勇者と攻略していくお話(*´▽`*) 最終的にいちゃいちゃゴールデンコンビ?いやカップルにしたいなと思ってます( ´艸`) ※BLove様でも掲載中の作品です。 ※感想、質問大歓迎です!!

虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)

美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!

【完結】マジで滅びるんで、俺の為に怒らないで下さい

白井のわ
BL
人外✕人間(人外攻め)体格差有り、人外溺愛もの、基本受け視点です。 村長一家に奴隷扱いされていた受けが、村の為に生贄に捧げられたのをきっかけに、双子の龍の神様に見初められ結婚するお話です。 攻めの二人はひたすら受けを可愛がり、受けは二人の為に立派なお嫁さんになろうと奮闘します。全編全年齢、少し受けが可哀想な描写がありますが基本的にはほのぼのイチャイチャしています。

35歳からの楽しいホストクラブ

綺沙きさき(きさきさき)
BL
『35歳、職業ホスト。指名はまだ、ありません――』 35歳で会社を辞めさせられた青葉幸助は、学生時代の後輩の紹介でホストクラブで働くことになったが……――。 慣れないホスト業界や若者たちに戸惑いつつも、35歳のおじさんが新米ホストとして奮闘する物語。 ・売れっ子ホスト(22)×リストラされた元リーマン(35) ・のんびり平凡総受け ・攻めは俺様ホストやエリート親友、変人コック、オタク王子、溺愛兄など ※本編では性描写はありません。 (総受けのため、番外編のパラレル設定で性描写ありの小話をのせる予定です)

処理中です...