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「よかった。どうかしたのかと思った」
「……まあ、ここはあまり居心地のいい場所じゃないけれどね」
「え? もしかして、魔素の影響でもあるの?」
「そうだね。思っていたよりもあまり状況はよくないようだ。でも、それ以上に何だか淀んでいるような……」
「淀んでいる? どういうことだろう。ああ……さっきのルイスさんなんかは丁寧で、いかにも好青年って感じだったけれど、使用人っぽい人は暗かったような気もするかな」
言われてみれば、ルイス以外の人間たちはろくに口もきかず、表情も暗かったような気がする。廊下もどことなく冷たく沈んだ印象を受けたが、歩いているときは石造りの城だからこういうものだろうと気にしなかった。
「……気に入らないな」
「え?」
ぼそり、とセイが呟いた言葉の意味がよくわからず、晴人は首を傾げる。
セイはしばし晴人をじっと見ていたが、ややあって諦めたような吐息をもらした。
「ところできみ、このまま最終目的地まで行っても大丈夫だっていうようなこと、言っていたよね」
「うっ……」
痛いところを突かれ、晴人は怯む。
「どう? 今でもそう思える?」
「……無理です」
「そうだね。黙っていてくれる人間相手ならともかく、襲ってくる魔物は無理があるね。この程度で最終目的地に行ってしまうと、魔物たちによる輪姦陵辱の宴が待っているよ」
「それはイヤだ……」
晴人はぶるぶると身を震わせる。
「だったら、もっとしっかり力をつけたほうがいい。あと、きみが言っていた魔法っていうのは、案外いい方法かもしれない。どうもきみはいかにもっていう魔物を見ると、まず恐怖で身がすくむみたいだからね。離れた場所からどうにかする方法があれば、まだどうにかなるのかも」
「……確かに」
大きな狼に似た魔物は、見た瞬間に恐怖で動けなくなってしまった。
平和な日本で育った晴人にとっては、日常で感じる範囲の恐怖を大きく逸脱しており、身体が言うことをきかなくなってしまうのだ。
「魔法を身につける方法を考えたほうがいいのかな。今までの神子っていうのは、どうだったの?」
「先代は魔法使いの隠れ里で魔法を身につけている。その前は、魔物たちに犯されまくっているうちに覚えたようだね。それよりも前になると、僕にはよくわからない」
「そうなの? セイって、今までの神子たちをどれくらい知っているの?」
何気なく尋ねただけだったが、セイの表情が一瞬、固まった。
「……先代と、その前だけだよ」
「じゃあ、何回か一緒に旅をしているの?」
セイの様子がどうもおかしいようだったが、何か変なことを聞いてしまったのだろうか。不思議に思いながらも、晴人は続いて質問を投げかける。
「僕が旅をしたのは、前回と今回だけだよ」
「その前にも神子って代々いたんだよね。もしかして、セイってわりと新米?」
何度繰り返してきたのかはわからないが、神子の召還はずいぶんと昔から続いているような話だった。
しかし、思えばセイが詳しく話すのは前回のことと、せいぜいその前くらいだ。
「そうだね。精霊としては古くはないだろうね。でも、みんなこんなものだよ」
「神子が二代くらいの期間で入れ替わるの?」
「まあ、そんなところ。それよりも、きみが気持ちよくヤられて強くなるための方法を話し合おうじゃないか」
「どうしてそうなるわけ!?」
晴人が悲鳴のような叫びをあげて、絶対に貞操は守ると言い張るのをセイは鼻で笑いながら聞いていた。
その態度が腹立たしく、さらに言い募ればセイははいはいと子供をなだめるようにあしらう。
すっかり元の話を忘れて怒り続ける晴人を眺めながら、セイの口元にはほっとしたような安堵の笑みが浮かんでいた。
「……まあ、ここはあまり居心地のいい場所じゃないけれどね」
「え? もしかして、魔素の影響でもあるの?」
「そうだね。思っていたよりもあまり状況はよくないようだ。でも、それ以上に何だか淀んでいるような……」
「淀んでいる? どういうことだろう。ああ……さっきのルイスさんなんかは丁寧で、いかにも好青年って感じだったけれど、使用人っぽい人は暗かったような気もするかな」
言われてみれば、ルイス以外の人間たちはろくに口もきかず、表情も暗かったような気がする。廊下もどことなく冷たく沈んだ印象を受けたが、歩いているときは石造りの城だからこういうものだろうと気にしなかった。
「……気に入らないな」
「え?」
ぼそり、とセイが呟いた言葉の意味がよくわからず、晴人は首を傾げる。
セイはしばし晴人をじっと見ていたが、ややあって諦めたような吐息をもらした。
「ところできみ、このまま最終目的地まで行っても大丈夫だっていうようなこと、言っていたよね」
「うっ……」
痛いところを突かれ、晴人は怯む。
「どう? 今でもそう思える?」
「……無理です」
「そうだね。黙っていてくれる人間相手ならともかく、襲ってくる魔物は無理があるね。この程度で最終目的地に行ってしまうと、魔物たちによる輪姦陵辱の宴が待っているよ」
「それはイヤだ……」
晴人はぶるぶると身を震わせる。
「だったら、もっとしっかり力をつけたほうがいい。あと、きみが言っていた魔法っていうのは、案外いい方法かもしれない。どうもきみはいかにもっていう魔物を見ると、まず恐怖で身がすくむみたいだからね。離れた場所からどうにかする方法があれば、まだどうにかなるのかも」
「……確かに」
大きな狼に似た魔物は、見た瞬間に恐怖で動けなくなってしまった。
平和な日本で育った晴人にとっては、日常で感じる範囲の恐怖を大きく逸脱しており、身体が言うことをきかなくなってしまうのだ。
「魔法を身につける方法を考えたほうがいいのかな。今までの神子っていうのは、どうだったの?」
「先代は魔法使いの隠れ里で魔法を身につけている。その前は、魔物たちに犯されまくっているうちに覚えたようだね。それよりも前になると、僕にはよくわからない」
「そうなの? セイって、今までの神子たちをどれくらい知っているの?」
何気なく尋ねただけだったが、セイの表情が一瞬、固まった。
「……先代と、その前だけだよ」
「じゃあ、何回か一緒に旅をしているの?」
セイの様子がどうもおかしいようだったが、何か変なことを聞いてしまったのだろうか。不思議に思いながらも、晴人は続いて質問を投げかける。
「僕が旅をしたのは、前回と今回だけだよ」
「その前にも神子って代々いたんだよね。もしかして、セイってわりと新米?」
何度繰り返してきたのかはわからないが、神子の召還はずいぶんと昔から続いているような話だった。
しかし、思えばセイが詳しく話すのは前回のことと、せいぜいその前くらいだ。
「そうだね。精霊としては古くはないだろうね。でも、みんなこんなものだよ」
「神子が二代くらいの期間で入れ替わるの?」
「まあ、そんなところ。それよりも、きみが気持ちよくヤられて強くなるための方法を話し合おうじゃないか」
「どうしてそうなるわけ!?」
晴人が悲鳴のような叫びをあげて、絶対に貞操は守ると言い張るのをセイは鼻で笑いながら聞いていた。
その態度が腹立たしく、さらに言い募ればセイははいはいと子供をなだめるようにあしらう。
すっかり元の話を忘れて怒り続ける晴人を眺めながら、セイの口元にはほっとしたような安堵の笑みが浮かんでいた。
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