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24.神殿長2
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神殿長に連れられ、晴人は神殿に案内される。
晴人が最初に現れた聖神殿と造りは似ているようだが、聖神殿のように空っぽではなく、人々の行き交う姿が見受けられた。質素ながらも清潔で、落ち着く場所だった。
「先ほどの飲み物に使われている果汁は、引退した聖娼たちが農園で作った果実を絞ったものなのです。神子様のお口にあったようで、嬉しく思います」
道すがら、神殿長は柔和な顔をほころばせて穏やかに話す。
「そうなんですか。美味しかったです」
「後ほど、またお出ししますね。普段はわたくしも農作業をしているのですよ」
「え? 神殿長さんも?」
意外さを感じながら、晴人は神殿長を失礼にならない程度に眺める。
優しそうな印象から線が細いのかと思えば、よく見てみると身体はしっかりと引き締まっていてなかなかたくましい。
「ここのところは神殿内の仕事が忙しくてなかなかできずにおりますが……本当は皆と一緒に汗を流して働くほうがわたくしには向いているようでして、早くまた農作業に戻りたいものです」
和やかに会話を続けながら、神殿内を奥へと進んでいく。
「神子様だって」
「神子様?」
わらわらと少年たちが集まってきた。十代半ば程度の少年たちばかり五人が物珍しそうな表情を顔に貼り付け、すぐに晴人を囲む。
「これ、失礼でしょう。ご挨拶はどうしたのですか」
神殿長がやんわりとたしなめると、少年たちはあわててひざまずいた。
「神子様をお迎えすることができて、光栄にございます。私ども聖娼一同、喜びに打ち震えております」
少年たちの一人が堂々とした声で挨拶を述べる。
「えっと、その……こんにちは」
どことなく決まりの悪い思いを抱えながら、晴人はぼそぼそと答える。
「神子様、この者たちは神殿内でも年若い聖娼たちです。まだまだ至らぬところも多く、ご無礼があるかとは思いますが、どうかお許しください」
「いえ、そんな……」
「もしよろしければ、この者たちと少し話をしてやってくださいませんか? 神子様とお話しすることによって、この者たちも癒されることでしょう」
晴人はちらりとセイを伺うが、セイはおかしなところはないから好きにしなよとしか言わない。またも自分で判断しなくてはならないようだ。
決断を迫られるというのは苦手だ。セイは導いてくれる精霊なのだから、判断して指示を出してくれればよいのにと恨みがましく思いながら、晴人はどうするべきか考える。
とはいえ、断ることは受け入れることよりも難しい。
「俺でよかったら……」
結局、晴人は受諾の返事をするしかなかった。
晴人が最初に現れた聖神殿と造りは似ているようだが、聖神殿のように空っぽではなく、人々の行き交う姿が見受けられた。質素ながらも清潔で、落ち着く場所だった。
「先ほどの飲み物に使われている果汁は、引退した聖娼たちが農園で作った果実を絞ったものなのです。神子様のお口にあったようで、嬉しく思います」
道すがら、神殿長は柔和な顔をほころばせて穏やかに話す。
「そうなんですか。美味しかったです」
「後ほど、またお出ししますね。普段はわたくしも農作業をしているのですよ」
「え? 神殿長さんも?」
意外さを感じながら、晴人は神殿長を失礼にならない程度に眺める。
優しそうな印象から線が細いのかと思えば、よく見てみると身体はしっかりと引き締まっていてなかなかたくましい。
「ここのところは神殿内の仕事が忙しくてなかなかできずにおりますが……本当は皆と一緒に汗を流して働くほうがわたくしには向いているようでして、早くまた農作業に戻りたいものです」
和やかに会話を続けながら、神殿内を奥へと進んでいく。
「神子様だって」
「神子様?」
わらわらと少年たちが集まってきた。十代半ば程度の少年たちばかり五人が物珍しそうな表情を顔に貼り付け、すぐに晴人を囲む。
「これ、失礼でしょう。ご挨拶はどうしたのですか」
神殿長がやんわりとたしなめると、少年たちはあわててひざまずいた。
「神子様をお迎えすることができて、光栄にございます。私ども聖娼一同、喜びに打ち震えております」
少年たちの一人が堂々とした声で挨拶を述べる。
「えっと、その……こんにちは」
どことなく決まりの悪い思いを抱えながら、晴人はぼそぼそと答える。
「神子様、この者たちは神殿内でも年若い聖娼たちです。まだまだ至らぬところも多く、ご無礼があるかとは思いますが、どうかお許しください」
「いえ、そんな……」
「もしよろしければ、この者たちと少し話をしてやってくださいませんか? 神子様とお話しすることによって、この者たちも癒されることでしょう」
晴人はちらりとセイを伺うが、セイはおかしなところはないから好きにしなよとしか言わない。またも自分で判断しなくてはならないようだ。
決断を迫られるというのは苦手だ。セイは導いてくれる精霊なのだから、判断して指示を出してくれればよいのにと恨みがましく思いながら、晴人はどうするべきか考える。
とはいえ、断ることは受け入れることよりも難しい。
「俺でよかったら……」
結局、晴人は受諾の返事をするしかなかった。
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