貞操を守りぬけ!

四葉 翠花

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22.神殿と聖娼2

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 インプからもらった服は肌触りもよく、しっかりと丈夫そうな服だった。
 晴人は着替え、気持ちを入れ替えて町に向かう。

「さっきのインプ、神殿長に気をつけろって言っていたけれど……町の神殿って、どんなところ?」

「前にも少し言ったけれど、神殿っていうのは、聖娼が集まっている場所だよ。金を払えば、聖娼を抱けるのさ」

「聖娼って、魔素を浄化できるんだっけ?」

 魔素を浄化する方法はないのかと尋ねたとき、聖娼という言葉が出てきたことを晴人は思い出す。

「そのとおり。聖娼を抱くと、穢れを祓えるといわれている。つまり、金を払って魔素を浄化してもらうってこと。実際、魔素が体内に蓄積されていくとろくなことがない。普通なら聖娼はわりと良い扱いを受けるし、それなりに尊敬されている」

「そうなんだ。……ところで、聖娼っていうのも男?」

「当然だろ」

「……そうですか」

 あまりにあっさりと返ってきた答えに対し、もう言い返す気もならない。

「ただね、今は魔素が濃い時期だから聖娼の数が追いついていないかもしれない。いくら魔素を浄化できるとはいっても、許容量を超えれば身体を壊す。金儲け主義のところだと、体調に気遣いしないでこき使っているかもね」

「さっきのインプの言葉が本当だったら、この先の神殿長もそんな感じなのかな」

「その可能性はあると思うよ。あと、もうひとつ嫌な話がある」

「……何?」

 晴人は嫌な予感に眉をひそめる。

「魔素を浄化できるのは、聖娼もしくはその素質を持つ者だけだ。それでも魔物化した者はもう手遅れとなる。だから、人々は魔素を浴びすぎたと思ったり、不調を覚えたりすると、神殿に助けを求めに行く」

「うん」

 ここまでは大丈夫かというようなセイの視線を受け、晴人は頷く。医者に行くようなものだろう。

「ところが、魔素の浄化は神殿の専売特許だったのに、魔物化した者まで救える神子が現れた。さあ、神殿の上層部が金儲け主義だったなら、どう考える?」

「……神子が邪魔?」

 晴人は少し考えて答え、セイをうかがう。
 セイはよくできましたというように、ゆっくりと首を縦に振った。

「そうだね。実際、前回は神殿が神子の邪魔をしてきたよ。そんなことをしていたら結局、魔素がどんどん広がって、最後には神殿の手になど負えなくなるのにね」

「……身勝手だね」

 人を救うはずの神殿が、利益に目がくらんで人を犠牲にするのか。やりきれない怒りにも似た不快感がふつふつとわきあがってくる。

「うん、身勝手な奴はどこにでもいるものさ。この先の神殿長がそうかはわからないし、今回はどうなるかもわからないけどね。そもそも、神殿長がどうのっていうのはあのインプの言葉だ。魔物の言うことなんて信用できないよ」

「魔物の言うことなんて信用できない、か……」

 やや引っかかりを覚え、晴人はセイの言葉をなぞる。
 本当にそうなのか、この世界のことをよく知らない晴人には判断がつかない。だが、簡単に切り捨ててしまうことに漠然とした不安を覚えたのだ。
 セイは晴人の不安を見透かしたように、諭すような口調で語りだす。

「そもそも、魔物化すれば普通は理性や良心なんて消えてしまうものなんだ。あのインプは何か目的を持って行動しているようで怖いよ。とにかく、神殿長には気をつけるにこしたことはないけれど、考えすぎもよくない。少し注意しておくくらいにしておいたほうがいいんじゃないかな」
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