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16.神子2
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「魔素を封じるため、神から遣わされた存在とか、いろいろ言われているからね」
「でも、どうして俺のことをそうだって言い始めたんだろう?」
「そりゃあ、実際に魔物化した人間を戻したからね。神殿の聖娼たちは魔素を浄化できるとはいっても、魔物化してしまっては手遅れだ。魔物化してしまった者を元に戻せるのは、神子だけなんだよ」
「そうなんだ……」
無我夢中で初めての魔物との対決を終えたわけだが、今頃になってどっと疲れが出てきてしまった。
間近で見た魔物の姿は恐ろしく、あのまま食われるのではないかと恐ろしかったが、セイの助言もあって無事に解決することができた。
晴人はゆっくりと息を吐き、自らの身に何も起こらなかったことに安堵する。
「村人たちはきみの容姿も褒めていただろう。それはきみがこの世界において神子という、唯一無二の存在だからだ。彼らの目には、特別な存在であるきみのことは輝かしく見えるんだよ」
「もしかして、俺ってこの世界だとイージーモード?」
崇め奉られるのはくすぐったく、どこか居心地が悪いものの、気分が良いのも確かだ。
就職活動で今後のご活躍をお祈り申し上げますという、上っ面だけの丁寧なお断りメールにため息を漏らす現実世界より、こちらの世界のほうがずっと活躍できるのではないだろうか。
「そうだね。変なのが暴走しなければ、楽だと思うよ」
「変なのが暴走?」
「前回は神殿が対抗相手で、組織的に邪魔をされた。ただ、神子本人を傷つけようとか捕らえようといったわけじゃなかったからね。神子本人への害としては、その前の神子のほうがすごいかな」
「……どんなの?」
おそるおそる晴人は尋ねてみる。すでに背筋には冷たいものが伝っていた。
「権力者が神子を捕えて、魔物を浄化させていたそうだよ。権力者は自らの力をひけらかすため、神子を鎖に繋いで、来る日も来る日も魔物に犯させていたっていうわけだ。それを見せびらかして、笑いものにしていたと聞く」
「うわ……」
晴人はぶるっと身を震わせ、当時の神子の境遇に思いを馳せる。自らの身に似たようなことが起こったらと考えるだけで恐ろしい。
「ところが、神子はそれらの魔物たちの力をすべて吸収していた。あるとき、鎖など粉々に砕いて脱出したそうだ」
何の感情もこめられないまま、セイの言葉は続けられる。
「……それでどうなったの?」
「権力者に復讐し、身につけた有り余る力で魔素を封じて元の世界に帰ったよ。歴代の神子でも随一の力の持ち主だったのではないかといわれている」
「……恐ろしい」
いくら強くなれたとしても、そのような境遇に陥るのはごめんだ。晴人は当時の神子に心からの同情を捧げる。
「うん、だから神子を我が物にしないようになど、いろいろな決め事が権力者たちの間で交わされたようだよ。前回も権力者から変な扱いは受けなかったし、今回も大丈夫じゃないかな」
のんきなセイの見解だが、安心はできない。権力者にはなるべく近づかないようにしようと晴人は決意する。
「あと気になるんだけど、その権力者に捕まった神子はともかくとして、他の神子たちは短剣でどうにか浄化して進もうとはしなかったの?」
過去に貞操を守りぬいたものはいないという。捕らえられたのは仕方がないとして、自由意思があったであろう他の神子たちは貞操に無頓着だったのだろうか。
「魔物がたいしたことのない相手だけだったら、短剣でどうにかなるだろう。ただ、短剣を突き刺したまま、手を離さずに数秒は保たなくてはならない。相手との力量差によっては、さらに時間がかかる。力の強い相手だったら、その前に払い飛ばされてしまうよ」
「そっか……」
先ほどの魔物を思い出し、晴人は唸る。短剣を刺している間、じっとしていてくれたから問題なく終わったが、あれで払いのけられていたら無事ではすまなかっただろう。
「でも、どうして俺のことをそうだって言い始めたんだろう?」
「そりゃあ、実際に魔物化した人間を戻したからね。神殿の聖娼たちは魔素を浄化できるとはいっても、魔物化してしまっては手遅れだ。魔物化してしまった者を元に戻せるのは、神子だけなんだよ」
「そうなんだ……」
無我夢中で初めての魔物との対決を終えたわけだが、今頃になってどっと疲れが出てきてしまった。
間近で見た魔物の姿は恐ろしく、あのまま食われるのではないかと恐ろしかったが、セイの助言もあって無事に解決することができた。
晴人はゆっくりと息を吐き、自らの身に何も起こらなかったことに安堵する。
「村人たちはきみの容姿も褒めていただろう。それはきみがこの世界において神子という、唯一無二の存在だからだ。彼らの目には、特別な存在であるきみのことは輝かしく見えるんだよ」
「もしかして、俺ってこの世界だとイージーモード?」
崇め奉られるのはくすぐったく、どこか居心地が悪いものの、気分が良いのも確かだ。
就職活動で今後のご活躍をお祈り申し上げますという、上っ面だけの丁寧なお断りメールにため息を漏らす現実世界より、こちらの世界のほうがずっと活躍できるのではないだろうか。
「そうだね。変なのが暴走しなければ、楽だと思うよ」
「変なのが暴走?」
「前回は神殿が対抗相手で、組織的に邪魔をされた。ただ、神子本人を傷つけようとか捕らえようといったわけじゃなかったからね。神子本人への害としては、その前の神子のほうがすごいかな」
「……どんなの?」
おそるおそる晴人は尋ねてみる。すでに背筋には冷たいものが伝っていた。
「権力者が神子を捕えて、魔物を浄化させていたそうだよ。権力者は自らの力をひけらかすため、神子を鎖に繋いで、来る日も来る日も魔物に犯させていたっていうわけだ。それを見せびらかして、笑いものにしていたと聞く」
「うわ……」
晴人はぶるっと身を震わせ、当時の神子の境遇に思いを馳せる。自らの身に似たようなことが起こったらと考えるだけで恐ろしい。
「ところが、神子はそれらの魔物たちの力をすべて吸収していた。あるとき、鎖など粉々に砕いて脱出したそうだ」
何の感情もこめられないまま、セイの言葉は続けられる。
「……それでどうなったの?」
「権力者に復讐し、身につけた有り余る力で魔素を封じて元の世界に帰ったよ。歴代の神子でも随一の力の持ち主だったのではないかといわれている」
「……恐ろしい」
いくら強くなれたとしても、そのような境遇に陥るのはごめんだ。晴人は当時の神子に心からの同情を捧げる。
「うん、だから神子を我が物にしないようになど、いろいろな決め事が権力者たちの間で交わされたようだよ。前回も権力者から変な扱いは受けなかったし、今回も大丈夫じゃないかな」
のんきなセイの見解だが、安心はできない。権力者にはなるべく近づかないようにしようと晴人は決意する。
「あと気になるんだけど、その権力者に捕まった神子はともかくとして、他の神子たちは短剣でどうにか浄化して進もうとはしなかったの?」
過去に貞操を守りぬいたものはいないという。捕らえられたのは仕方がないとして、自由意思があったであろう他の神子たちは貞操に無頓着だったのだろうか。
「魔物がたいしたことのない相手だけだったら、短剣でどうにかなるだろう。ただ、短剣を突き刺したまま、手を離さずに数秒は保たなくてはならない。相手との力量差によっては、さらに時間がかかる。力の強い相手だったら、その前に払い飛ばされてしまうよ」
「そっか……」
先ほどの魔物を思い出し、晴人は唸る。短剣を刺している間、じっとしていてくれたから問題なく終わったが、あれで払いのけられていたら無事ではすまなかっただろう。
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