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11.三百年の孤独3
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「いや……返事があるなって思って。俺、ずっと一人暮らしだったから」
晴人は大学に入ってからずっと一人暮らしだった。実家にいた頃は、今のような独り言を言う癖もなかったように思う。
「そっか。一人で暮らしていたのか。僕と似たようなものだね」
「セイも? もしかして、あの神殿にずっといたの?」
意外な答えに晴人は空中に浮かぶ姿を見つめる。あの何もない神殿にずっといたというのなら、さぞ寂しかったことだろう。たまに巡礼が訪れることはあるようだが、それもごく稀なようだ。
「ずっと同じ場所にだけいたわけじゃないけれど、普通の人間に僕の姿は見えないからね。どこに行っても、僕は一人だったよ」
「……それって、つらいね。同じ精霊の仲間って、いないの?」
相手に認識してもらえないというのなら、本当に一人ぼっちだったということか。
晴人は一人暮らしとはいえ、いちおう少ないながらも友達はいるし、学校に行けば挨拶を交わすくらいの相手はそれなりにいる。
セイの孤独を思うと、胸が痛かった。
「僕の前に精霊はいたけれど、同じ代に精霊は一人だけなんだ。入れ替わりで誕生するから、精霊同士で会うことはない。前回の魔素封じが終わってから、僕はずっと一人だったよ」
「……セイも大変なんだね。前回って、三百年前って言ってたっけ?」
突然こんな異世界に引き込まれて尻を狙われる羽目になった晴人は自らを大変だと思っていたが、長い間孤独だったセイも大変そうだ。
「うん、三百年。だから、僕は久しぶりに話し相手ができて嬉しい」
「そうなんだ……俺でよかったら、いくらでも話し相手になるよ」
少しでも孤独を埋めてあげたいという衝動に突き動かされて晴人が申し出ると、セイは嬉しそうに微笑んだ。野の花が穏やかに咲くような、ふわりとした微笑みに晴人もつられて笑みを浮かべる。
本当に嬉しそうなセイの様子に、晴人の胸の奥はかすかに疼いた。
二人で他愛もない話をしていると、やがて控えめに扉を叩く音が響く。
「あの……お祈り中、失礼いたします。お食事の準備が整いましたので、どうぞ食堂にいらしてください」
先ほど受付をしていた少年らしき声が、扉の向こう側から聞こえてくる。
「あ、はい。今、行きます」
晴人は返事をしながら、お祈り中とは何のことだろうと首を傾げる。
「僕と話しているのが聞こえたんだろう。もしこれからも、僕と話しているのを不審そうに見られたら、お祈りだとでもごまかすといいよ」
晴人は大学に入ってからずっと一人暮らしだった。実家にいた頃は、今のような独り言を言う癖もなかったように思う。
「そっか。一人で暮らしていたのか。僕と似たようなものだね」
「セイも? もしかして、あの神殿にずっといたの?」
意外な答えに晴人は空中に浮かぶ姿を見つめる。あの何もない神殿にずっといたというのなら、さぞ寂しかったことだろう。たまに巡礼が訪れることはあるようだが、それもごく稀なようだ。
「ずっと同じ場所にだけいたわけじゃないけれど、普通の人間に僕の姿は見えないからね。どこに行っても、僕は一人だったよ」
「……それって、つらいね。同じ精霊の仲間って、いないの?」
相手に認識してもらえないというのなら、本当に一人ぼっちだったということか。
晴人は一人暮らしとはいえ、いちおう少ないながらも友達はいるし、学校に行けば挨拶を交わすくらいの相手はそれなりにいる。
セイの孤独を思うと、胸が痛かった。
「僕の前に精霊はいたけれど、同じ代に精霊は一人だけなんだ。入れ替わりで誕生するから、精霊同士で会うことはない。前回の魔素封じが終わってから、僕はずっと一人だったよ」
「……セイも大変なんだね。前回って、三百年前って言ってたっけ?」
突然こんな異世界に引き込まれて尻を狙われる羽目になった晴人は自らを大変だと思っていたが、長い間孤独だったセイも大変そうだ。
「うん、三百年。だから、僕は久しぶりに話し相手ができて嬉しい」
「そうなんだ……俺でよかったら、いくらでも話し相手になるよ」
少しでも孤独を埋めてあげたいという衝動に突き動かされて晴人が申し出ると、セイは嬉しそうに微笑んだ。野の花が穏やかに咲くような、ふわりとした微笑みに晴人もつられて笑みを浮かべる。
本当に嬉しそうなセイの様子に、晴人の胸の奥はかすかに疼いた。
二人で他愛もない話をしていると、やがて控えめに扉を叩く音が響く。
「あの……お祈り中、失礼いたします。お食事の準備が整いましたので、どうぞ食堂にいらしてください」
先ほど受付をしていた少年らしき声が、扉の向こう側から聞こえてくる。
「あ、はい。今、行きます」
晴人は返事をしながら、お祈り中とは何のことだろうと首を傾げる。
「僕と話しているのが聞こえたんだろう。もしこれからも、僕と話しているのを不審そうに見られたら、お祈りだとでもごまかすといいよ」
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