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65.未来への足がかり

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「実は、ローダンデリアには良い温泉地があるそうなんだよ。今までは近場の人がひっそりと利用する程度だったけれど、そこを娯楽施設も併設した保養地にしようっていうことになってるんだ」

「へえ……面白そうだね。それで、何が問題なの?」

 ヴァレンが首を傾げると、ロシュは大きなため息を漏らした。

「あまり、娯楽に長けているような人材がいないんだよ。ローダンデリアって、最近まで貧しかったし。だから、遊びを心得ていて、かつ接客を教えられ、さらに経営も……っていうような人が欲しいんだけれど……」

「……難しいですね。それくらいできるようなら、花であれば少なくとも四花でしょうし」

 軽く眉根を寄せて、エアイールが考え込む。

「うん……都合よく引退するような花がいれば……って思ったんだけど……なかなかね。最近立ち寄った町に、部屋から演劇を眺められる宿があったんだけど、それを作ったのが不夜島出身者だっていう噂を聞いたんだ。だから、この島に来ればそういうことができる人も……って思ったけど、そううまくはいかないみたいだ」

 さらに深くため息をつくロシュをよそに、ヴァレンとエアイールは顔を見合わせる。

「ロシュさん……俺、すっごい心当たりがある。その宿を作ったっていう不夜島出身者。今、この島に来ているから、会ってみない?」

 おそらく、その不夜島出身者とはネヴィルのことだろう。ヴァレンも、その宿の案内をもらったことがあり、アデルジェスに贈ったのだ。

「えっ!? ……本当に?」

 驚きの叫びをあげると、ロシュは食い入るようにヴァレンを見つめる。

「うん、俺、呼んでくるよ!」

 ヴァレンが立ち上がると、はっとしたようにエアイールが窓へと視線を走らせた。

「……いや、もう窓からは飛び降りないって」

 苦笑しながら、ヴァレンはおとなしく扉から出て行く。
 昨日のような緊急性はないので、飛び降りる必要はない。今回ヴァレンを包むのは、不安と焦りではなく、期待と希望だ。
 ロシュだけではなく、これから独立するというネヴィルにとっても、良い話となるかもしれない。
 ヴァレンは足取り軽く、門の外の休憩所へと走っていった。
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