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58.本当の目的
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「さすがにエアイールも、こんな早朝までは目が届かなかったけれどね。僕も島にいた頃は寝ていたような時間だし。島を出てからは、すっかり早起きになっちゃったよ」
「それで、こんな早朝にどうしたの? 一人でぼんやり座り込んで」
「ん、ちょっと散歩をしていただけだよ。懐かしいこの広場で、いろいろと考え事をしていたんだ」
ネヴィルは目を細めて広場を見回す。
その瞳に映っているのは、現在のがらんとした光景ではなく、幼い頃にヴァレンやエアイールと共に祭り見物をしたときのように、活気にあふれた懐かしい思い出のようだった。
「ネヴィル……何か隠していない?」
静かに切り出すと、ネヴィルがはっと息を呑んだ。
懐かしい幻を映していたかのような瞳が現実に引き戻され、ヴァレンを捉える。
しかし、すぐにネヴィルの視線は気まずそうにヴァレンからそらされた。
「……い、いや、別に……それよりも、ヴァレンはずいぶんと大きな荷物を抱えているけれど、どうしたの?」
ごまかすように、ネヴィルはヴァレンの持つ包みに視線を向ける。
やはり、そう簡単に話してはくれないかと、ヴァレンはそっと息を吐く。
変なところで意地っ張りなのは、昔から変わっていない。
仕方がない、とヴァレンは抱えている『風月花』の包みを取った。
中から表れた、白く、細やかな花の装飾がいたるところに施された花月琴を見て、ネヴィルは言葉を失う。
「これ、あげるよ」
ヴァレンは、呆然と立ち尽くすネヴィルの前に『風月花』を差し出し、にっこりと笑った。
「ちょっ……これって、『雪月花』……? いや、そんなわけがないよね……じゃあ、『風月花』……? いや、でも、そっちはもっと……」
「そう、『風月花』だよ。いちおう、褒美としてもらったものだから、盗品じゃないよ。安心して」
目を見開いてぶつぶつと呟くネヴィルの疑問を封じるように、ヴァレンは答える。
もっとも、あの男はヴァレンが盗んで逃げ出したと判断するだろうが、そこは置いておく。実際には、現時点で安心できるような品ではないのだが、ひとまずそこはどうでもよい。
本題は、これからだ。
「安心って……もしかして、『風月花』の所有者から……? いや、でも確か、あの男はひどい嗜虐嗜好の持ち主だったし、そもそも島には出入り禁止のはずだし……」
信じられないといった様子で、ネヴィルはヴァレンと『風月花』を交互に見比べる。
まだ現実を受け入れ切れていないネヴィルの姿を眺めながら、ヴァレンは今までのネヴィルの行動と、『風月花』を所有していた男の漏らした言葉を思い出す。
そこから導き出されるのは、やはりこの答えだけだった。ヴァレンは一瞬だけ目を伏せると、すぐにネヴィルをまっすぐに見つめて口を開く。
「あのさ、ひとつ聞きたいことがあるんだ。ネヴィルがこの島までやってきた本当の理由は、『風月花』に代わる花月琴ではなく、アルン君の『雪月花』そのものを手に入れるためだったんじゃない?」
「それで、こんな早朝にどうしたの? 一人でぼんやり座り込んで」
「ん、ちょっと散歩をしていただけだよ。懐かしいこの広場で、いろいろと考え事をしていたんだ」
ネヴィルは目を細めて広場を見回す。
その瞳に映っているのは、現在のがらんとした光景ではなく、幼い頃にヴァレンやエアイールと共に祭り見物をしたときのように、活気にあふれた懐かしい思い出のようだった。
「ネヴィル……何か隠していない?」
静かに切り出すと、ネヴィルがはっと息を呑んだ。
懐かしい幻を映していたかのような瞳が現実に引き戻され、ヴァレンを捉える。
しかし、すぐにネヴィルの視線は気まずそうにヴァレンからそらされた。
「……い、いや、別に……それよりも、ヴァレンはずいぶんと大きな荷物を抱えているけれど、どうしたの?」
ごまかすように、ネヴィルはヴァレンの持つ包みに視線を向ける。
やはり、そう簡単に話してはくれないかと、ヴァレンはそっと息を吐く。
変なところで意地っ張りなのは、昔から変わっていない。
仕方がない、とヴァレンは抱えている『風月花』の包みを取った。
中から表れた、白く、細やかな花の装飾がいたるところに施された花月琴を見て、ネヴィルは言葉を失う。
「これ、あげるよ」
ヴァレンは、呆然と立ち尽くすネヴィルの前に『風月花』を差し出し、にっこりと笑った。
「ちょっ……これって、『雪月花』……? いや、そんなわけがないよね……じゃあ、『風月花』……? いや、でも、そっちはもっと……」
「そう、『風月花』だよ。いちおう、褒美としてもらったものだから、盗品じゃないよ。安心して」
目を見開いてぶつぶつと呟くネヴィルの疑問を封じるように、ヴァレンは答える。
もっとも、あの男はヴァレンが盗んで逃げ出したと判断するだろうが、そこは置いておく。実際には、現時点で安心できるような品ではないのだが、ひとまずそこはどうでもよい。
本題は、これからだ。
「安心って……もしかして、『風月花』の所有者から……? いや、でも確か、あの男はひどい嗜虐嗜好の持ち主だったし、そもそも島には出入り禁止のはずだし……」
信じられないといった様子で、ネヴィルはヴァレンと『風月花』を交互に見比べる。
まだ現実を受け入れ切れていないネヴィルの姿を眺めながら、ヴァレンは今までのネヴィルの行動と、『風月花』を所有していた男の漏らした言葉を思い出す。
そこから導き出されるのは、やはりこの答えだけだった。ヴァレンは一瞬だけ目を伏せると、すぐにネヴィルをまっすぐに見つめて口を開く。
「あのさ、ひとつ聞きたいことがあるんだ。ネヴィルがこの島までやってきた本当の理由は、『風月花』に代わる花月琴ではなく、アルン君の『雪月花』そのものを手に入れるためだったんじゃない?」
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