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44.四花のヴァレン
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盛り上がった客たちに、しばし背中を叩かれるなど揉みくちゃにされていたヴァレンだが、ようやく落ち着いてくると尊大な男を中心とした一団が近づいてきた。
「なかなか面白い輩がいるようだな。おまえはどこぞの賭博師か?」
お付きに守られた男が、横柄に声をかけてくる。
高慢な物言いは不快感を芽生えさせるのに十分だったが、むしろヴァレンは望みどおりの展開に喜びがわきあがってくる。
「いえいえ、俺はただふらふらと遊び歩いているだけのろくでなしです。旦那様、俺と遊びますか?」
軽く誘いをかけてみれば、男は値踏みするように無遠慮な視線をヴァレンの全身に走らせた。その目に好色なものを感じ取ったヴァレンは、これはいけると内心でほくそ笑む。
「……実は俺、不夜島の花なんですよ」
ヴァレンは声をひそめ、男だけに聞こえるようにそっと囁く。
男は一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐにこらえきれないといったように笑い出した。
「ふっ、どうもここには不夜島の花が多いようだな。この短い期間にこれで三人……あれを含めれば四人か」
「ほら、これをご覧ください」
不夜島の花であることを証明するように、ヴァレンは手の甲を男に見せる。そこにあるのは正真正銘、不夜島の四花の証だ。
「四つの花……ほう、四花か。ずいぶんと凝っているな。わざわざ刺青まで入れるとは、ご苦労なことだな」
面白がるように男は呟く。
実は刺青ではなく本物なのだが、このような賭博場に不夜島の花がいるはずがないと、男は最初からニセモノとして扱っているようだ。そして、その上で楽しんでいる。
「賭博……酒……まさか、四花のヴァレンだとでもいうつもりか?」
「あー、はいはい、それです。俺は四花のヴァレンです」
まさか島の外にまで自分の名前が知られているとは思わなかったが、正解を導き出した男に対してヴァレンは調子よく頷く。
「そうかそうか、四花のヴァレンか。それは面白い。よし……私を楽しませてみろ。うまくいけば、褒美を取らせるぞ」
ニヤニヤと笑いながら、男が誘いかけてくる。ヴァレンが本当に四花のヴァレンであるなど、かけらも信じていないのは間違いない。
「はいっ、頑張りますー」
とんとん拍子にヴァレンの思惑どおりとなった。ちらりとお付きたちに視線を向ければ、また始まったといったようにやや呆れ顔が並ぶなか、心配そうなイーノスが目に入る。
見知らぬ赤の他人という設定なので、ここで声をかけることはできないが、とりあえずヴァレンは満面の笑みを浮かべて大丈夫だと伝えようとする。
「さあ、期待しているぞ。『四花のヴァレン』?」
わざわざ『四花のヴァレン』を強調して、男が酷薄な笑みを浮かべる。あまり、よからぬことを考えているのは間違いないだろう。
この男は、領主主催の宴でミゼアスのニセモノを晒し者にして、さらに罰を与えようとしたのだ。ヴァレンのこともニセモノと思っている以上、似たようなことを考えている可能性は高い。
だが、ヴァレンはそれよりも、自分のニセモノを自分で演じることになった現状に、噴き出してしまいそうだった。
本物なんだけどなー、などと思いつつ、ヴァレンは男の誘いに乗って導かれるままに賭博場を出た。
「なかなか面白い輩がいるようだな。おまえはどこぞの賭博師か?」
お付きに守られた男が、横柄に声をかけてくる。
高慢な物言いは不快感を芽生えさせるのに十分だったが、むしろヴァレンは望みどおりの展開に喜びがわきあがってくる。
「いえいえ、俺はただふらふらと遊び歩いているだけのろくでなしです。旦那様、俺と遊びますか?」
軽く誘いをかけてみれば、男は値踏みするように無遠慮な視線をヴァレンの全身に走らせた。その目に好色なものを感じ取ったヴァレンは、これはいけると内心でほくそ笑む。
「……実は俺、不夜島の花なんですよ」
ヴァレンは声をひそめ、男だけに聞こえるようにそっと囁く。
男は一瞬、驚いたように目を見開いたが、すぐにこらえきれないといったように笑い出した。
「ふっ、どうもここには不夜島の花が多いようだな。この短い期間にこれで三人……あれを含めれば四人か」
「ほら、これをご覧ください」
不夜島の花であることを証明するように、ヴァレンは手の甲を男に見せる。そこにあるのは正真正銘、不夜島の四花の証だ。
「四つの花……ほう、四花か。ずいぶんと凝っているな。わざわざ刺青まで入れるとは、ご苦労なことだな」
面白がるように男は呟く。
実は刺青ではなく本物なのだが、このような賭博場に不夜島の花がいるはずがないと、男は最初からニセモノとして扱っているようだ。そして、その上で楽しんでいる。
「賭博……酒……まさか、四花のヴァレンだとでもいうつもりか?」
「あー、はいはい、それです。俺は四花のヴァレンです」
まさか島の外にまで自分の名前が知られているとは思わなかったが、正解を導き出した男に対してヴァレンは調子よく頷く。
「そうかそうか、四花のヴァレンか。それは面白い。よし……私を楽しませてみろ。うまくいけば、褒美を取らせるぞ」
ニヤニヤと笑いながら、男が誘いかけてくる。ヴァレンが本当に四花のヴァレンであるなど、かけらも信じていないのは間違いない。
「はいっ、頑張りますー」
とんとん拍子にヴァレンの思惑どおりとなった。ちらりとお付きたちに視線を向ければ、また始まったといったようにやや呆れ顔が並ぶなか、心配そうなイーノスが目に入る。
見知らぬ赤の他人という設定なので、ここで声をかけることはできないが、とりあえずヴァレンは満面の笑みを浮かべて大丈夫だと伝えようとする。
「さあ、期待しているぞ。『四花のヴァレン』?」
わざわざ『四花のヴァレン』を強調して、男が酷薄な笑みを浮かべる。あまり、よからぬことを考えているのは間違いないだろう。
この男は、領主主催の宴でミゼアスのニセモノを晒し者にして、さらに罰を与えようとしたのだ。ヴァレンのこともニセモノと思っている以上、似たようなことを考えている可能性は高い。
だが、ヴァレンはそれよりも、自分のニセモノを自分で演じることになった現状に、噴き出してしまいそうだった。
本物なんだけどなー、などと思いつつ、ヴァレンは男の誘いに乗って導かれるままに賭博場を出た。
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