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37.良い伴侶

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 ヴァレンは畳み掛けるように、ミゼアスとアデルジェスとの繋がりについて説明する。
 領主の術によってアデルジェスの一部を分けてもらったミゼアスは、アデルジェス以外の精気を受け付けず、他人の精気を取り込めば排出するために睡眠を必要とするのだ。
 今回、寝込んでしまったのも仕組みとしては似たようなものである。

「……僕はついこの間、寿命が残り一ヶ月だと言われたんだけれど、それはどうなんだろう」

 ミゼアスがぼそりと呟くように問いかけてきた言葉に、ヴァレンはまずいことを言う奴がいるものだと、内心で舌打ちしたくなってしまう。

「術によって抑えられている病気は、発症寸前状態に留まっているらしいので、寿命を見ることができたとしたら、そう見えるんじゃないかと思います。でも、ジェスさんが生きている限り、発症することはないって言っていましたよ」

 しかし、ヴァレンは最初からミゼアスの病因について詳しいことを知らないという設定を自分に組み込んでいる。
 その設定どおりに答えれば、ミゼアスも納得したようだった。

「えっとですね、『雪月花』や『風月花』は、弾き手の命を吸い取って花を咲かせるわけじゃないそうです。命の炎が尽きかけている者に反応して、はなむけとして花吹雪を舞わせるそうです。だから、花吹雪を出したから命が尽きるのではなく、命が尽きかけているから花吹雪を出せるのだと」

 こうなったら、『雪月花』と『風月花』の仕組みも説明したほうがよいだろうと、ヴァレンは語る。
 やや危険ではあるが、むしろ病気そのものからは意識をそらせるかもしれない。

「……正直に言って、驚きが深すぎて飲み込みきれていない。でも……僕はジェスのおかげで生きていられるんだっていうことはわかったよ。何て言っていいのか、よくわからない……」

「別に気にしなければいいじゃないですか。ちょっと変わった体質だけれど、ジェスさんと一緒にいれば問題はないんですし。……ねえ、ジェスさん? ミゼアス兄さんと一緒にいることに、問題なんてありませんよね?」

 とりあえず、ヴァレンが危惧した方向にミゼアスが悩んでいるわけではないようなので、少しだけ安心する。そして、ここぞとばかりにアデルジェスに水を向けた。

「え? あ……うん、もちろん。俺がミゼアスの助けになれるのなら、こんな嬉しいことはないよ。何だか俺にはよく理解できない事情だけれど……俺はいつでもミゼアスの力になるから」

 十二分に期待以上の答えをアデルジェスが返してくれ、ミゼアスは本当に良い伴侶を得たものだと、ヴァレンは感じ入る。
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