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34.ミゼアス
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脅迫したわけではなかったが、イーノスは非常に協力的だった。
現在の『風月花』の所有者は非常に高い地位にあり、残忍な性格をしているという。
そもそも、ミゼアスが倒れるきっかけとなったのも、元はといえば彼のせいだ。
領主主催の宴で余興として、ミゼアスのニセモノに花月琴を弾かせたのだという。
しかし、所詮はニセモノだ。まともな演奏などできるはずもなく、それならば腕を切り落とせと彼は言い出して、あわや大惨事となるところだった。
それをミゼアスが庇い、代わりに演奏することによって、ニセモノは難を逃れることができた。その際に弾いたのが『風月花』で、演奏直後にミゼアスは倒れてしまったのだ。
「……その、ミゼアス兄さんのニセモノっていうのもちょっと気になるんですけど」
単なる勘でしかなかったが、ヴァレンはミゼアスのニセモノに対して引っかかりを覚えた。
少し前に、ネヴィルからミゼアスに似た子がいたという話を聞いていたためかもしれない。
「それは、私も以前は気にかかっていました。伝え聞くところによると、不夜島と同じ作法を取り入れているそうでしたからね。ミゼアスと再会する前は、万が一ということもあるかもしれないと思っていました」
ゆっくりと、マリオンが答える。本物との再会という何よりの確証を得られる前は、疑いを持つ程度に似ていたようだ。
「不夜島と同じ作法……元白花だっていうことは、ありえますかね?」
ミゼアスと似た白花など、ヴァレンの知る限りでは該当者などいなかったが、念のために尋ねてみる。
「おそらく、それはないでしょう。宴で花月琴の演奏を聴きましたが、白花の基準を満たしているような演奏ではありませんでしたね。まったく心得がないということもないのでしょうが、少々触った程度の素人同然でしたよ」
「……不夜島出身者から、ある程度の教育を受けたというところですかね」
「そうですね、それが一番ありえるでしょう」
マリオンの答えを聞きながら、ヴァレンはもしかすると当たりかもしれないと唸る。
ネヴィルの娼館から逃げ出したというミゼアスに似た子が、そのミゼアスのニセモノなのかもしれない。
だが、今回の件にその子はさほど関係がない。
とりあえず頭の片隅に留めておくことにして、やはり重要なのは『風月花』だ。
現在の持ち主が見せた残忍さと、その場の思いつきで約束事をしつつ、いちおうは約束を守る律儀さから、ヴァレンはどうにかなるかもしれないと考えをまとめていく。
そして口を開きかけたところで、足音が聞こえてきてヴァレンは口をつぐんだ。
二人分の足音が、広間に近づいてきている。
ヴァレンだけではなく、マリオンも足音の方向に視線が吸い寄せられていく。
やがて、アデルジェスと寄り添うように、懐かしく馴染み深い姿が現れる。
「……マリオン兄さん、ご心配とお世話をおかけして申し訳ありません。それと……ヴァレン。わざわざ来てくれて、本当にありがとう……」
はにかむようなミゼアスの声は、ヴァレンの記憶と寸分たがわぬものだった。
現在の『風月花』の所有者は非常に高い地位にあり、残忍な性格をしているという。
そもそも、ミゼアスが倒れるきっかけとなったのも、元はといえば彼のせいだ。
領主主催の宴で余興として、ミゼアスのニセモノに花月琴を弾かせたのだという。
しかし、所詮はニセモノだ。まともな演奏などできるはずもなく、それならば腕を切り落とせと彼は言い出して、あわや大惨事となるところだった。
それをミゼアスが庇い、代わりに演奏することによって、ニセモノは難を逃れることができた。その際に弾いたのが『風月花』で、演奏直後にミゼアスは倒れてしまったのだ。
「……その、ミゼアス兄さんのニセモノっていうのもちょっと気になるんですけど」
単なる勘でしかなかったが、ヴァレンはミゼアスのニセモノに対して引っかかりを覚えた。
少し前に、ネヴィルからミゼアスに似た子がいたという話を聞いていたためかもしれない。
「それは、私も以前は気にかかっていました。伝え聞くところによると、不夜島と同じ作法を取り入れているそうでしたからね。ミゼアスと再会する前は、万が一ということもあるかもしれないと思っていました」
ゆっくりと、マリオンが答える。本物との再会という何よりの確証を得られる前は、疑いを持つ程度に似ていたようだ。
「不夜島と同じ作法……元白花だっていうことは、ありえますかね?」
ミゼアスと似た白花など、ヴァレンの知る限りでは該当者などいなかったが、念のために尋ねてみる。
「おそらく、それはないでしょう。宴で花月琴の演奏を聴きましたが、白花の基準を満たしているような演奏ではありませんでしたね。まったく心得がないということもないのでしょうが、少々触った程度の素人同然でしたよ」
「……不夜島出身者から、ある程度の教育を受けたというところですかね」
「そうですね、それが一番ありえるでしょう」
マリオンの答えを聞きながら、ヴァレンはもしかすると当たりかもしれないと唸る。
ネヴィルの娼館から逃げ出したというミゼアスに似た子が、そのミゼアスのニセモノなのかもしれない。
だが、今回の件にその子はさほど関係がない。
とりあえず頭の片隅に留めておくことにして、やはり重要なのは『風月花』だ。
現在の持ち主が見せた残忍さと、その場の思いつきで約束事をしつつ、いちおうは約束を守る律儀さから、ヴァレンはどうにかなるかもしれないと考えをまとめていく。
そして口を開きかけたところで、足音が聞こえてきてヴァレンは口をつぐんだ。
二人分の足音が、広間に近づいてきている。
ヴァレンだけではなく、マリオンも足音の方向に視線が吸い寄せられていく。
やがて、アデルジェスと寄り添うように、懐かしく馴染み深い姿が現れる。
「……マリオン兄さん、ご心配とお世話をおかけして申し訳ありません。それと……ヴァレン。わざわざ来てくれて、本当にありがとう……」
はにかむようなミゼアスの声は、ヴァレンの記憶と寸分たがわぬものだった。
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