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05.タコ
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「ミゼアス兄さんも、島を出てからまだそんなに日にちが経っていないからね。そのうち遊びに来るとは思うけれど、もう少し先じゃないかな。そうだね……何だったら、手紙を書いてみるといいよ。ミゼアス兄さんは風鳩を持ったまま島を出ているから、連絡がつくし。俺が出しておいてあげるよ」
「手紙……そうですね……!」
いったんは翳ったアルンの表情に、明るみが差す。
ヴァレンには、アルンの気持ちがよくわかった。アルンも島に売られる前は愛情をもらえなかったと聞いている。島にやってきてからも最初は苦労をし、引き上げてくれたミゼアスが初めての家族のようなものなのだ。
見習い時代どころか、店に出るようになってからもずっとミゼアスに見守られてきたヴァレンは、アルンよりもずっと恵まれていただろう。
ミゼアスに会いたいのは、ヴァレンも一緒だった。
しかし、今はもうヴァレンがアルンの上役なのだ。
弱音を吐かず、ミゼアスがヴァレンを見守ってくれたように、今度はヴァレンがアルンを見守っていくのだ。
「じゃあ、手紙を書いておきます。ブラムとコリンもきっとミゼアス兄さんに手紙を出したいだろうから、そろったらヴァレン兄さんにお渡ししますね」
うきうきとした様子で、アルンは去っていった。
ヴァレンはひとまず安心して、自室に向かう。タコはどうしているだろうかと水槽に近づけば、やはりアルンの言ったとおり、ぐったりとしていた。
「あー……やっぱり、大変そうだね」
声をかければ、タコはよろよろとヴァレンに近づいてくる。言葉が通じるわけではないのだが、意思の疎通ができているのではないかと思うことは、多々あった。
「……海に帰るかい? こんな水槽だと、暑いし窮屈だろう」
問いかけてみると、タコは何本もの触手で水槽をぺちぺちと叩き出す。まるで、抗議しているかのようだった。
「帰りたくないの?」
さらに問うと、タコはゆったりと頷くように体をゆらめかせる。
タコの意思は明らかだった。
「そっか……じゃあ、海岸に散歩に行こうか? 海で少し涼んだら、帰ってくるのはどうだろう?」
ヴァレンの提案にタコは乗り気のようで、手近にあった桶を差し出せば、速やかに移動を始める。
今日も夜は仕事だが、準備を始める時間までは少し間がある。
ヴァレンはタコと共に海岸に出かけ、夕方が近づいて涼しくなってきた海辺の散策を楽しんだ。いったんタコは海に放したのだが、ヴァレンの見える場所から離れようとはしない。
そろそろ時間かとヴァレンが帰ろうとすると、やはりタコは自分も連れて行けと抗議するようだった。ヴァレンは苦笑しながら、桶に新しい海水とタコを入れて持ち帰る。
タコはヴァレンの言葉をわかっているようだったが、ヴァレンにはタコの言葉がわからない。少しだけ寂しく思いながら、ヴァレンは仕事の準備に向かうのだった。
「手紙……そうですね……!」
いったんは翳ったアルンの表情に、明るみが差す。
ヴァレンには、アルンの気持ちがよくわかった。アルンも島に売られる前は愛情をもらえなかったと聞いている。島にやってきてからも最初は苦労をし、引き上げてくれたミゼアスが初めての家族のようなものなのだ。
見習い時代どころか、店に出るようになってからもずっとミゼアスに見守られてきたヴァレンは、アルンよりもずっと恵まれていただろう。
ミゼアスに会いたいのは、ヴァレンも一緒だった。
しかし、今はもうヴァレンがアルンの上役なのだ。
弱音を吐かず、ミゼアスがヴァレンを見守ってくれたように、今度はヴァレンがアルンを見守っていくのだ。
「じゃあ、手紙を書いておきます。ブラムとコリンもきっとミゼアス兄さんに手紙を出したいだろうから、そろったらヴァレン兄さんにお渡ししますね」
うきうきとした様子で、アルンは去っていった。
ヴァレンはひとまず安心して、自室に向かう。タコはどうしているだろうかと水槽に近づけば、やはりアルンの言ったとおり、ぐったりとしていた。
「あー……やっぱり、大変そうだね」
声をかければ、タコはよろよろとヴァレンに近づいてくる。言葉が通じるわけではないのだが、意思の疎通ができているのではないかと思うことは、多々あった。
「……海に帰るかい? こんな水槽だと、暑いし窮屈だろう」
問いかけてみると、タコは何本もの触手で水槽をぺちぺちと叩き出す。まるで、抗議しているかのようだった。
「帰りたくないの?」
さらに問うと、タコはゆったりと頷くように体をゆらめかせる。
タコの意思は明らかだった。
「そっか……じゃあ、海岸に散歩に行こうか? 海で少し涼んだら、帰ってくるのはどうだろう?」
ヴァレンの提案にタコは乗り気のようで、手近にあった桶を差し出せば、速やかに移動を始める。
今日も夜は仕事だが、準備を始める時間までは少し間がある。
ヴァレンはタコと共に海岸に出かけ、夕方が近づいて涼しくなってきた海辺の散策を楽しんだ。いったんタコは海に放したのだが、ヴァレンの見える場所から離れようとはしない。
そろそろ時間かとヴァレンが帰ろうとすると、やはりタコは自分も連れて行けと抗議するようだった。ヴァレンは苦笑しながら、桶に新しい海水とタコを入れて持ち帰る。
タコはヴァレンの言葉をわかっているようだったが、ヴァレンにはタコの言葉がわからない。少しだけ寂しく思いながら、ヴァレンは仕事の準備に向かうのだった。
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