上 下
130 / 138

130.ジャニス

しおりを挟む
 これから、ここの奥方ことジャニスとのお話だとミゼアスは言った。
 奥方はアデルジェスのことを始末しようとしていたのではなかっただろうか。不安を覚えたアデルジェスはミゼアスに質問しようと口を開きかけるが、扉を叩く音がしたので黙った。
 すると奥方の部屋に案内すると侍女がやってきた。アデルジェスはミゼアスに質問する機会を逃しながら、一緒についていく。
 案内されたのは寝室だった。

「男性の方はご遠慮くださいませ」

 侍女は、アデルジェスを制止する。当然のことだろう。

「奥には入りません。護衛として、部屋の入り口で立っていることをお許しください」

「……それだけでしたら」

 強引に入室を認めさせようとするミゼアスに対し、侍女は仕方がないといった様子ではあったが頷いた。
 アデルジェスは部屋の入り口で、じっと黙って立つ。
 中には豪華な天蓋付きの寝台がたたずんでいる。ミゼアスが寝台に近づくと、中で何かが動いたようだった。

「ジャニス……久しぶり。僕のこと、わかる?」

 ミゼアスが声をかける。

「……もしかして、ミゼアス?」

 アデルジェスから寝台の様子はよくわからないが、声だけは聞こえる。若い女性の声だ。声に張りはなく、やつれているようだった。

「あなた、どうしてここに?」

「うん、色々あって。聞きたいことがあるんだ。きみ、兵士を島に送り込んで殺そうとしたでしょう?」

 ミゼアスはいきなりそう切り出す。

「……殺そうとしたわけじゃないわ。追い払いたかっただけよ」

 しかし寝台の中から聞こえる声はそれを否定した。疲れきったような声だった。

「そう。じゃあそれは、きみが先妻の息子を殺そうとして邪魔されたから?」

 尚もミゼアスは続ける。

「あの子だって、別に殺そうとしたわけじゃないわよ。ただ、遠くに追い払いたかっただけ……」

「どうして?」

「だって……あの人、あの子と浮気しているんじゃないかって疑うのよ……」

 声に悲痛な響きが混ざる。寝台の中の影も動いたようだった。

「あの人って、グリンモルド伯爵?」

「そうよ……あの人、常に私の浮気を疑うの……そんなこと、していないのに……」

 鼻をすするような音がかすかに聞こえてきた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

次男は愛される

那野ユーリ
BL
ゴージャス美形の長男×自称平凡な次男 佐奈が小学三年の時に父親の再婚で出来た二人の兄弟。美しすぎる兄弟に挟まれながらも、佐奈は家族に愛され育つ。そんな佐奈が禁断の恋に悩む。 素敵すぎる表紙は〝fum☆様〟から頂きました♡ 無断転載は厳禁です。 【タイトル横の※印は性描写が入ります。18歳未満の方の閲覧はご遠慮下さい。】

誰よりも愛してるあなたのために

R(アール)
BL
公爵家の3男であるフィルは体にある痣のせいで生まれたときから家族に疎まれていた…。  ある日突然そんなフィルに騎士副団長ギルとの結婚話が舞い込む。 前に一度だけ会ったことがあり、彼だけが自分に優しくしてくれた。そのためフィルは嬉しく思っていた。 だが、彼との結婚生活初日に言われてしまったのだ。 「君と結婚したのは断れなかったからだ。好きにしていろ。俺には構うな」   それでも彼から愛される日を夢見ていたが、最後には殺害されてしまう。しかし、起きたら時間が巻き戻っていた!  すれ違いBLです。 ハッピーエンド保証! 初めて話を書くので、至らない点もあるとは思いますがよろしくお願いします。 (誤字脱字や話にズレがあってもまあ初心者だからなと温かい目で見ていただけると助かります) 11月9日~毎日21時更新。ストックが溜まったら毎日2話更新していきたいと思います。 ※…このマークは少しでもエッチなシーンがあるときにつけます。 自衛お願いします。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】

彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。 「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」

勇者の股間触ったらエライことになった

ベータヴィレッジ 現実沈殿村落
BL
勇者さんが町にやってきた。 町の人は道の両脇で壁を作って、通り過ぎる勇者さんに手を振っていた。 オレは何となく勇者さんの股間を触ってみたんだけど、なんかヤバイことになっちゃったみたい。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

イスティア

屑籠
BL
ゲームの世界から、ログインした途端異世界に落ちた大島和人。 平凡よりはブサイクよりな彼は、ONIの世界では中間クラスの錬金術師だと思っていて、それなりに薬を作ってそれなりに生きていければ良いや、と思っている。 とりあえず、息抜きに書いていく感じなので更新はまちまちで遅いです。月一更新が目安です。 10話毎に、ムーンライトノベルさんで更新することにしました。 こちらは、変わらず月一目安更新です。 壱話、8000〜10000字です。

処理中です...