120 / 138
120.衝撃の連続
しおりを挟む
ミゼアスがまたもとんでもないことを言った。
これからアデルジェスが兵士を辞めることになると言ったのだ。
どういうことかを問おうとすると、船が陸地に着いたとの知らせが船内に流れた。仕方なく保留にして船を下りる。
さすがに周囲は貴族や裕福な商人たちだ。かなりの数の馬車が待ち構えている。
アデルジェスは当然、このような立派な馬車に乗れるような身分ではない。もっと庶民向けの乗合馬車を利用することになる。それだって庶民にとっては高額なのだが。
するとミゼアスが手招きし、一つの馬車に向かう。二頭立ての立派な箱馬車だった。花のような紋章が刻まれているが、それが何を示すのかアデルジェスにはわからない。
「フェイミゼアス様とアデルジェス様でございますね。お待ちしておりました」
御者が恭しく頭を下げる。
ミゼアスが挨拶を返し、アデルジェスもそれにならってもごもごと何かを言う。そして馬車に乗り込んだ。
よくわからない状況のまま、馬車は走り出す。内装は簡素ではあったが座り心地も良く、揺れの少ない上等な造りのようだった。
「さっき、兵士を辞めることになるって言ったよね? どういうことだろう?」
現在の状況もよくわからないが、まずは先ほどのミゼアスの言葉だ。そちらから問いかけることにする。
「だって、きみ、これからグリンモルド伯爵のところに戻って、また普通に兵士を続けるつもりだったの? あんなことがあったのに?」
「そ、それは……」
「もう、きみはお人よしだねぇ。僕に任せなよ。きっちり伯爵と話をつけてあげるから」
にっこりと笑うミゼアスが頼もしい。
「ところで、きみは同僚の兵士たちにでも僕のことを話しているかい? 小さい頃売られていった子がいるとか」
「うん……小さい頃売られていった幼馴染の女の子がいるっていう話はしたことがあると思う……」
「そうか……じゃあ、やっぱり女装するか」
「はい!?」
「何が気に入らないんだい? 僕、似合うよ、女装」
軽く眉根を寄せ、胸を張るミゼアス。確かに似合うだろう。女の子にしか見えなくなりそうだ。
「い……いや、そういう問題じゃあ……何で女装なんか……」
「だって、『女の子』だって言ったんだろう? 仕方ないじゃないか」
「……そうかもしれないけれど……でも、どうして……」
「えっとね、設定はこう。僕はきみの幼馴染で島に売られていったフェイちゃん。そこで領主様に気に入られ、領主様の子として引き取られた。そして今回、きみと島で再会して一緒になりたいということになり、グリンモルド伯爵にご挨拶に向かうこととなった。……これは領主様が作った設定だから、書類なんかもきちんとあるよ」
「は……はあ……」
「ちなみに領主様はリーネイン伯爵ね。あの島、いちおう伯爵領なんだよ。しかも半独立国っぽい扱いらしい」
「そうなんだ……」
「で、きみはリーネイン伯爵家一族ということになるんだ」
「ええっ!?」
「だって、僕のお婿さんだから。……そういえばきみ、僕をおよめさんにしてくれるって昔言っていたよね。あの約束は守ってくれるの?」
「え!?」
確かに幼い頃、遊びの中で求婚したことはある。大きくなったらフェイちゃんをお嫁さんにするんだ、とも思っていた。
だが目の前の美しい少年の姿をしたミゼアスが、あの小さな女の子だと思っていたフェイちゃんと同一人物だとは、まだ実感がわかない。
これからアデルジェスが兵士を辞めることになると言ったのだ。
どういうことかを問おうとすると、船が陸地に着いたとの知らせが船内に流れた。仕方なく保留にして船を下りる。
さすがに周囲は貴族や裕福な商人たちだ。かなりの数の馬車が待ち構えている。
アデルジェスは当然、このような立派な馬車に乗れるような身分ではない。もっと庶民向けの乗合馬車を利用することになる。それだって庶民にとっては高額なのだが。
するとミゼアスが手招きし、一つの馬車に向かう。二頭立ての立派な箱馬車だった。花のような紋章が刻まれているが、それが何を示すのかアデルジェスにはわからない。
「フェイミゼアス様とアデルジェス様でございますね。お待ちしておりました」
御者が恭しく頭を下げる。
ミゼアスが挨拶を返し、アデルジェスもそれにならってもごもごと何かを言う。そして馬車に乗り込んだ。
よくわからない状況のまま、馬車は走り出す。内装は簡素ではあったが座り心地も良く、揺れの少ない上等な造りのようだった。
「さっき、兵士を辞めることになるって言ったよね? どういうことだろう?」
現在の状況もよくわからないが、まずは先ほどのミゼアスの言葉だ。そちらから問いかけることにする。
「だって、きみ、これからグリンモルド伯爵のところに戻って、また普通に兵士を続けるつもりだったの? あんなことがあったのに?」
「そ、それは……」
「もう、きみはお人よしだねぇ。僕に任せなよ。きっちり伯爵と話をつけてあげるから」
にっこりと笑うミゼアスが頼もしい。
「ところで、きみは同僚の兵士たちにでも僕のことを話しているかい? 小さい頃売られていった子がいるとか」
「うん……小さい頃売られていった幼馴染の女の子がいるっていう話はしたことがあると思う……」
「そうか……じゃあ、やっぱり女装するか」
「はい!?」
「何が気に入らないんだい? 僕、似合うよ、女装」
軽く眉根を寄せ、胸を張るミゼアス。確かに似合うだろう。女の子にしか見えなくなりそうだ。
「い……いや、そういう問題じゃあ……何で女装なんか……」
「だって、『女の子』だって言ったんだろう? 仕方ないじゃないか」
「……そうかもしれないけれど……でも、どうして……」
「えっとね、設定はこう。僕はきみの幼馴染で島に売られていったフェイちゃん。そこで領主様に気に入られ、領主様の子として引き取られた。そして今回、きみと島で再会して一緒になりたいということになり、グリンモルド伯爵にご挨拶に向かうこととなった。……これは領主様が作った設定だから、書類なんかもきちんとあるよ」
「は……はあ……」
「ちなみに領主様はリーネイン伯爵ね。あの島、いちおう伯爵領なんだよ。しかも半独立国っぽい扱いらしい」
「そうなんだ……」
「で、きみはリーネイン伯爵家一族ということになるんだ」
「ええっ!?」
「だって、僕のお婿さんだから。……そういえばきみ、僕をおよめさんにしてくれるって昔言っていたよね。あの約束は守ってくれるの?」
「え!?」
確かに幼い頃、遊びの中で求婚したことはある。大きくなったらフェイちゃんをお嫁さんにするんだ、とも思っていた。
だが目の前の美しい少年の姿をしたミゼアスが、あの小さな女の子だと思っていたフェイちゃんと同一人物だとは、まだ実感がわかない。
3
お気に入りに追加
147
あなたにおすすめの小説
エロゲ世界のモブに転生したオレの一生のお願い!
たまむし
BL
大学受験に失敗して引きこもりニートになっていた湯島秋央は、二階の自室から転落して死んだ……はずが、直前までプレイしていたR18ゲームの世界に転移してしまった!
せっかくの異世界なのに、アキオは主人公のイケメン騎士でもヒロインでもなく、ゲーム序盤で退場するモブになっていて、いきなり投獄されてしまう。
失意の中、アキオは自分の身体から大事なもの(ち●ちん)がなくなっていることに気付く。
「オレは大事なものを取り戻して、エロゲの世界で女の子とエッチなことをする!」
アキオは固い決意を胸に、獄中で知り合った男と協力して牢を抜け出し、冒険の旅に出る。
でも、なぜかお色気イベントは全部男相手に発生するし、モブのはずが世界の命運を変えるアイテムを手にしてしまう。
ちん●んと世界、男と女、どっちを選ぶ? どうする、アキオ!?
完結済み番外編、連載中続編があります。「ファタリタ物語」でタグ検索していただければ出てきますので、そちらもどうぞ!
※同一内容をムーンライトノベルズにも投稿しています※
pixivリクエストボックスでイメージイラストを依頼して描いていただきました。
https://www.pixiv.net/artworks/105819552
虐げられ聖女(男)なので辺境に逃げたら溺愛系イケメン辺境伯が待ち構えていました【本編完結】(異世界恋愛オメガバース)
美咲アリス
BL
虐待を受けていたオメガ聖女のアレクシアは必死で辺境の地に逃げた。そこで出会ったのは逞しくてイケメンのアルファ辺境伯。「身バレしたら大変だ」と思ったアレクシアは芝居小屋で見た『悪役令息キャラ』の真似をしてみるが、どうやらそれが辺境伯の心を掴んでしまったようで、ものすごい溺愛がスタートしてしまう。けれども実は、辺境伯にはある考えがあるらしくて⋯⋯? オメガ聖女とアルファ辺境伯のキュンキュン異世界恋愛です、よろしくお願いします^_^ 本編完結しました、特別編を連載中です!
Please,Call My Name
叶けい
BL
アイドルグループ『star.b』最年長メンバーの桐谷大知はある日、同じグループのメンバーである櫻井悠貴の幼なじみの青年・雪村眞白と知り合う。眞白には難聴のハンディがあった。
何度も会ううちに、眞白に惹かれていく大知。
しかし、かつてアイドルに憧れた過去を持つ眞白の胸中は複雑だった。
大知の優しさに触れるうち、傷ついて頑なになっていた眞白の気持ちも少しずつ解けていく。
眞白もまた大知への想いを募らせるようになるが、素直に気持ちを伝えられない。
【完結・BL】DT騎士団員は、騎士団長様に告白したい!【騎士団員×騎士団長】
彩華
BL
とある平和な国。「ある日」を境に、この国を守る騎士団へ入団することを夢見ていたトーマは、無事にその夢を叶えた。それもこれも、あの日の初恋。騎士団長・アランに一目惚れしたため。年若いトーマの恋心は、日々募っていくばかり。自身の気持ちを、アランに伝えるべきか? そんな悶々とする騎士団員の話。
「好きだって言えるなら、言いたい。いや、でもやっぱ、言わなくても良いな……。ああ゛―!でも、アラン様が好きだって言いてぇよー!!」
その溺愛は伝わりづらい!気弱なスパダリ御曹司にノンケの僕は落とされました
海野幻創
BL
人好きのする端正な顔立ちを持ち、文武両道でなんでも無難にこなせることのできた生田雅紀(いくたまさき)は、小さい頃から多くの友人に囲まれていた。
しかし他人との付き合いは広く浅くの最小限に留めるタイプで、女性とも身体だけの付き合いしかしてこなかった。
偶然出会った久世透(くぜとおる)は、嫉妬を覚えるほどのスタイルと美貌をもち、引け目を感じるほどの高学歴で、議員の孫であり大企業役員の息子だった。
御曹司であることにふさわしく、スマートに大金を使ってみせるところがありながら、生田の前では捨てられた子犬のようにおどおどして気弱な様子を見せ、そのギャップを生田は面白がっていたのだが……。
これまで他人と深くは関わってこなかったはずなのに、会うたびに違う一面を見せる久世は、いつしか生田にとって離れがたい存在となっていく。
【7/27完結しました。読んでいただいてありがとうございました。】
【続編も8/17完結しました。】
「その溺愛は行き場を彷徨う……気弱なスパダリ御曹司は政略結婚を回避したい」
https://www.alphapolis.co.jp/novel/962473946/911896785
↑この続編は、R18の過激描写がありますので、苦手な方はご注意ください。
陰キャ系腐男子はキラキラ王子様とイケメン幼馴染に溺愛されています!
はやしかわともえ
BL
閲覧ありがとうございます。
まったり書いていきます。
2024.05.14
閲覧ありがとうございます。
午後4時に更新します。
よろしくお願いします。
栞、お気に入り嬉しいです。
いつもありがとうございます。
2024.05.29
閲覧ありがとうございます。
m(_ _)m
明日のおまけで完結します。
反応ありがとうございます。
とても嬉しいです。
明後日より新作が始まります。
良かったら覗いてみてください。
(^O^)
モフモフになった魔術師はエリート騎士の愛に困惑中
risashy
BL
魔術師団の落ちこぼれ魔術師、ローランド。
任務中にひょんなことからモフモフに変幻し、人間に戻れなくなってしまう。そんなところを騎士団の有望株アルヴィンに拾われ、命拾いしていた。
快適なペット生活を満喫する中、実はアルヴィンが自分を好きだと知る。
アルヴィンから語られる自分への愛に、ローランドは戸惑うものの——?
24000字程度の短編です。
※BL(ボーイズラブ)作品です。
この作品は小説家になろうさんでも公開します。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる