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101.年上

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「あ……あの……ミゼアスって、今いくつなんでしょうか?」

 ミゼアスの年齢が出てきたところで、アデルジェスははっとした。そういえば正確な年齢は教えてもらっていないのだ。

「確か、今年で二十一だよ」

「にっ、にじゅういち……!?」

 ついアデルジェスは驚きの声をあげてしまう。
 見かけよりかなり年上だというのは知っていた。しかし、自分よりも年上だとは思わなかったのだ。まさか二十代だったとは、考えもしなかった。
 見かけどおりの年齢ではないと知ったとき、十七歳と推定した。アデルジェスが十九歳だから二歳差でちょうどよいとも思ったのだ。しかし実際は二歳差に違いはなかったが、ミゼアスのほうが年上だった。

「知らなかったのかね?」

「見かけより年上だっていうのは聞いていましたが、実際の年齢は初めて聞きました……」

「あの子が大病を患ったことは知っているかね?」

「はい、それは聞きました。その後遺症で成長が止まったと……」

「そうだね。あれはあの子が十五歳のときだった。十五歳の誕生祝いに『雪月花』を贈ったのだよ。名手が奏でれば花びらが舞うという花月琴だ。ミゼアスならできるだろうと思ったが、予想を超えて花吹雪にまでなったのだよ。驚いて、私は文献を調べた」

 花吹雪を出せた弾き手はその後まもなく亡くなっていると、ミゼアスは言っていたような気がする。

「すると、今まで花吹雪を出した者はその後間もなく亡くなっているという。『雪月花』に見初められて命を吸い取られたと。弾き手の命を吸い取って花を咲かせる妖かしの花月琴、それが『雪月花』だというではないか。恥ずかしながら、私はそこまで調べずに贈ってしまってね。とても恐ろしくなってしまった。ミゼアスは花吹雪まで出してしまったしね」

 アデルジェスも花吹雪は見せてもらった。あの不思議な花びらは今も忘れられない。

「私の恐れたとおり、その後間もなくミゼアスは倒れた。医者もさじを投げる状態にまでなってしまったのだ。私は愕然としたよ。私のせいだと思い、名医を連れて行った。しかし誰もがもう手の施しようがないと言ったのだ」

 ウインシェルド侯爵の顔が苦しげに歪む。

「そこで私はある方に頼み込んだ。とても強力な魔術師だ。本来、表舞台に出てくる方ではないのだが、どうにか説得してミゼアスを診てもらった」

 先ほどヴァレンから、ウインシェルド侯爵は魔術医を連れてきたと聞いた。魔術医とは医術を扱う魔術師のことである。
 本当の魔術師というのは庶民には縁がない存在だ。王家の庇護の下で囲われている正当な魔術師のほかは、山や森の奥など人里離れた場所にひっそりと存在しているという噂があるくらいだ。

 街中で魔術師を名乗っている者もいるが、簡単な一つか二つの術を使えるのならまだ良いほうで、ほとんどはいかさまである。体系立てた知識がないために『魔術師』の域に達することができないのだという。
 正当な魔術師は王家に囲われ、その知識を外部に持ち出すことを禁じられているのだ。
 もしかしたら、この島と似たようなものかもしれないとアデルジェスはふと思った。

「ミゼアスの病は『雪月花』のせいではないと言われたよ。『雪月花』はただある条件を持った弾き手に反応して花吹雪を出すだけで、それ自体に命をどうこうということはないそうだ。それを聞いて少し安心はしたが、ミゼアスが良くなるわけではない。ミゼアスを治してくれと私は頼んだ」

 ウインシェルド侯爵はそっと宙を仰ぐ。

「代償を伴う、と言われたよ。完全に治すのは無理だとね。それでもお願いしますと私は頼み込んだ。ミゼアスの考えも聞かず、勝手だったけれどね。でも、私はミゼアスに生きていてほしかったのだよ。あの子のためではない、私の身勝手なのだ」

「……侯爵……」
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