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97.ウインシェルド侯爵

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「は……はい。アデルジェスと申します……」

 堂々とした相手の雰囲気に呑まれかけながらアデルジェスは答える。

「そう堅くならないでくれ。気楽に、少しばかりこの老人の話し相手を務めてほしい」

 優しげにウインシェルド侯爵は言い、アデルジェスに椅子をすすめる。

「は……はい……」

 アデルジェスは緊張しながらも椅子に座り、ウインシェルド侯爵と向き合った。

「それじゃあ、俺は失礼しますね。ごゆっくりご歓談ください」

「ああ、ありがとう、ヴァレン。もう四花のきみにお使いなど頼んでしまって悪かったね」

「いえいえ、お気になさらず。ウインシェルド侯爵閣下のためでしたら、いつでも喜んで使い走りをお引き受けいたしますよ」

 微笑んで優雅に一礼すると、ヴァレンは去っていった。
 バタバタとした印象の強いヴァレンだったが、今の動作はまるで流れるようで品があった。アデルジェスは何となく面食らってしまう。

「さて……アデルジェス君。きみのことはミゼアスからの手紙で知っているよ」

「え……」

 いったいどういうことを書かれたのだろうか。アデルジェスの背筋に冷や汗が流れる。

「災難だったようだね。殺されそうになったとは、大変だっただろう」

 ウインシェルド侯爵の言葉にアデルジェスは胸を撫で下ろす。そちらのことか。
 だが、ウインシェルド侯爵はミゼアスに大変目をかけているという話だ。恋愛感情なんてないとヴァレンは言っていたが、実際はどうかわからない。例え恋愛感情ではなかったにせよ、特別な感情はあるはずだ。

 もしかしたら恋敵、あるいは先ほどヴァレンが冗談だとは言っていたが、娘をさらわれる親の気分にも似たものがあるのかもしれない。
 となれば、ここで弱々しい態度を取ってはならないだろう。出来る限り堂々と振る舞わなくてはならない。
 アデルジェスは気を引き締める。

「グリンモルド伯爵家のお家騒動と、ニドムレン男爵の野心に巻き込まれたのだよ、きみは」

 アデルジェスが決意を秘めるのを待っていたかのように、ウインシェルド侯爵の声が穏やかに響いた。
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